続きもので書いていた、反転ドラヒナの最終話になります。
このお話から、直接続いています→ 嵐の前夜(https://privatter.net/p/11061585)
以前書いていた、夜と昼を彷徨う者(https://privatter.net/p/9909493)の、棺桶の外で何をしていたか…という、ドラルクさんサイドのお話でもあります。
これで、反転ドラヒナの馴れ初めから、お嬢ルドくんとの合流を拾い直してきたシリーズも終わりになります。
ここの話に出て来るヒナイチくんの夢は、『夜と昼を彷徨う者』のシリーズを書き始めた当初、考えていたバッドエンドルートでした。ですが、書いている間にハッピーエンドを望む感想もありまして、お嬢ルドくんという第三者をかました…という経緯があります。
捏造しかない、反転ドラヒナのお話にお付き合い頂きまして、ありがとうございました。
2024/04/20に上げました。
@kw42431393
ギャアッ!!
ピギィ!!
あぁ。やはり、戦いとはこうあるべきだ。
考えもなく、闇雲に向かってくる下等吸血鬼である事だけが、残念だ。
だが、今回の案件は、とにかく数が多い。
そして、人界に放つ目的で養殖された者共だ。凶暴性とて、半端ではない。
自分が危機に晒されてこそ、戦いとは楽しいものなのだ。
「アハハ、アッハハハハ!!」
「ギギッギ―!!」
細切れにされて藻掻いている、ムカデ型の下等吸血鬼を踏みつける。
グリグリと頭を押しこくると、足元で、それはザラリ…と塵になっていった。
カチカチと、後ろで巨大な吸血ハサミムシも、音を鳴らしながら藻掻いている。
地面に氷で縫い留められた体を、引き剥がそうと必死なのだ。
だが、それも僅かな間。
バキッ!!
義眼に、意識を集中させる。奴も氷で串刺しにされて、塵となる。
「はあ…はあ…まだ、いるな。ヒナイチくんを閉じ込めてきて、よかった。食い殺されていたかもしれん。」
少し、息切れがする。ここにいる下等吸血鬼共を、一匹でも逃す訳にはいかない。
逃がせば、彼女の仕事になる。ヒナイチくんが、危険に晒される。
だから、この工場ごと氷漬けにして、封鎖しているのだ。
少し前だったら、造作もなかったものを…。
「はぁ、はぁ。ハンデと考えれば、丁度、よかろう。」
彼女への執着心を拗らせた私は、近頃、他の者の血液を飲めなくなった。
だから、彼女から月に200㏄貰う以外に、生存に必要な最低限の量しか、摂取していない。
さすがに、肉体の弱体化を、自覚するしかなかった。
「今頃、ロナルドくんは、ここの協力者とお話合いをしている頃…だろうな。」
私が渡したティーセットを持って、上品に、交渉相手へ笑いかけているのだろう。
元々、ここを停止させるのに、強硬手段を使うつもりはなかった。
ロナルドくんが協力者とお話合いをし、資金援助を絶って、この工場に圧力をかける予定だったのに。
『指名手配犯が、この街に潜伏しているらしくてな。聞き込みと調査する必要が、出たんだ。』
昨夜、君はそう言った。自分がこの工場の潜入調査をする事に、決まったのだろう。
『無事でいて欲しい。毎晩、私の元に来て欲しい。』…それだけが、私の行動理念だった。
ヒナイチくんが、ここの潜入調査に指名されたと聞いては、黙っておれる訳がない。
だから、彼女を棺桶に閉じ込めた後、ロナルドくんに連絡を取ってから、私はここに来た。
『こちらが動いている事に、向こうも気づいたらしい。近々、工場の下等吸血鬼共を一気に解放するつもりだ、という情報が入った。ロナルドくんは、協力者を説得してきてくれないだろうか?一人でも多く、罪を犯す前に止める…それこそ、君の望む所だろう?』
『そうですわね。もう少し、証拠を集めたかったのですけど。ドラルクさんは、ご一緒しませんの?』
ヒナイチくんより先に、工場内の下等吸血鬼共を殲滅してくる…そう言えば、彼は私を止めるだろう。
というより、実力行使のお説教が、待っているかもしれない。
だから、『満更、嘘でもない』嘘をついた。
『向こうが、いつ動くか分からん。先に、下見をしてくる。動きがあったら、外部に被害が出る前に抑え込もうと思う。』
下見をしていて、『うっかり』見つかり、乱闘騒ぎになった。
彼と同伴する予定の仕事中に、起こった出来事だ。
武器を持ってここにいても『契約違反』には、ならない…バレたらお説教を喰らう前に、それで押し通そうと思う。
「管理室まで、あともう少しか。手を焼かせてくれるな。」
ロナルドくんが来てから、こういう戦いは、あまりしていなかったな。そんな事を考える。
最近は、吸対と退治人の連携が取りやすくなり、私が回した情報で先手を取った彼が、首謀者にお話合いをしてくれる。罪を犯す前に断念させたり、自首に持ち込めた。
以前の様に、ヒナイチくんに内緒で、敵性吸血鬼を暗殺して回る事も少なかったのだ。
「し、侵入者!!止ま…ギャア!?」
銃を向けた作業員に、氷の矢を打ち込む。
その心臓に…ではなく、銃を持った右手に。
「…ッ!!危ない、危ない。契約違反になる所だった。」
我々人ならざる者達は、執着心が強い。そして、契約や約束事に縛られる性質がある。
「破ったから、何だ?」と、人間達は言うが…その事実を気にするあまり、衰弱する者もいるのだ。
私がロナルドくんと交わした契約には、『お話合いの前に、あるいは、お正当防衛でなければ、無闇に攻撃してはなりません』ともある。
さらに、『お話合いが通じる相手であれば、殺害はお極力避ける様に』とも。
「ひっ、お、お前…は?」
圧倒した相手の目に浮かぶのは、恐怖。それが、とても心地よい。
レイピアを持つ手に、力が籠る。
その顔を見ながら命を奪う高揚感が、たまら…あぁ、契約は契約だ。仕方がない。
「ぐぇっ!!」
彼の鳩尾に、蹴りを喰らわせる。
運がいい奴だ。せいぜいロナルドくんに、感謝するがいい…
「…あれ?おじさん、だあれ?」
その時、背後から、あどない子供の声が、聞こえてきた。
振り返ると、手錠を嵌められた子供が立っている。
虚ろな表情で、腕や首筋に注射痕や歯型が目立つ、8歳程度の少年だ。
大方、催眠術をかけられて誘拐され、ここで餌として飼われていた子供か。
…やはり、ちゃんと契約書を見てから、サインするんだった。
「小僧!こっちへ来い!」
「…なあに?」
「早く来い!クソッ!間に合わん!」
子供に追いすがって来た、ヤスデ型の下等吸血鬼を斬り殺すと、私は子供を抱えて駆けだした。
今までだったら、その子供が食い殺されるのを、黙って見ていただろう。
集まって来た連中を一掃する為の、撒き餌として利用する方法もあったのに。
『出会ったご一般人を見たら、必ず救助する事』
この一文が、私にこの行動を取らせた。
邪魔をする雑魚共を蹴散らしながら、脳内に叩き込んだ図面を掘り起こす。
この近くに、休憩場所があったはず。
「おじさん、こっちじゃないよ。ぼくのろうやは…」
「黙れ、クソ餓鬼!いいな!?赤毛の女性が来るまで、ここを動くな!」
私は扉を開けると、彼を放り込んだ。
そして、扉を厚い氷で封鎖する。
「ぜえっ!ぜえっ!」
あぁ、本当に。
あの時、契約書を最後まで読んでから、契約すべきだった。
交渉次第では、こちらにも有利に出来たのに。
なけなしの力を、こんな所で、何の関係もない餓鬼の為に、使う羽目になろうとは…
棺桶に閉じ込めてきたヒナイチくんの為に、ジョンを置いてきたが…今回ばかりは私の盾として、彼を連れてくるべきだった。
何故なら…
ブチッ!!ドブッ!!ボキ!!
嫌な音が、耳元で、腹部で、足元で、鳴ったからだ。
首元に、吸血蝙蝠の陰湿な顔と噴出した血が、見えた。
脇腹に、吸血狼の鋭利な牙と飛び出した腸が、見えた。
吸血アナコンダに絡みつかれた足からは、骨の軋む音がする。
「がっ!!あぁぁあ!!」
地面に引きずり倒されると、狂騒状態になった、下等吸血鬼共が食いついてくる。
必死に抵抗していると、壁にかかっている時計が目に入った。
このままでは、夜が明ける。
もうこれ以上、時間はかけられない。
義眼に、意識を集中させる。
絡みついた連中の体に、次々霜がおりて…
ギギギィィ!!バチバチ!!
黒い義眼が軋み、電線がショートする様な…これまで聞いた事もない、耳障りな音を立てて…
『ギィィ!!』
『ガァアアア!!』
『キキキ!!』
私を中心として、有象無象共が、小気味よい悲鳴を上げる。
ただの、冷たい物体と化していくのが、愉快で愉快で堪らなかった。
「フフ、ハハハハ…」
自分でも、惚れ惚れする。全身に喰らいついていた雑魚共は、もう影も形もない。
全て氷像にした上で、粉々に砕いてやったからだ。
師匠に『護身用に』と貰ったこの義眼が、今までで、一番役に立った瞬間だろう。
癪だが、彼に礼を言わなければならないな。
「あ、ぐぐ…」
白い息を吐きながら、腸を腹に詰め込むと、全身の傷口を氷で塞ぐ。止血をする。骨折した所は、氷で添え木を作る。まったくもって、便利な代物だ。
「ハハハ。我ながら、派手にやったな。この光景をヒナイチくんに、見せてやりたいぐらいだ。」
ヒナイチくん…か。ふと、棺桶で眠っているであろう…彼女を、思い出す。
出かける前に、私に『帰りが、また遅くなるのか?』と言っていた。私が夜な夜な行っていた梅雨払いに、勘づいたのだと思う。帰ったら、どう言い訳すべきか…いや、その前にやる事がある。
「…ジョンに連絡をして、鍵を開けて貰わねば。」
いつもは私自身で棺桶の鍵を開けて、彼女を出してやっているのだが…まだ、ここの犯人を確保していない。
私がいたという、証拠も消さねばならん、奴に術をかけて、自白する様に指示も出さねばならん。
もう少し、時間がかかるだろう。
この深手だ。途中で死なないとは、限らん。私が死ねば、ジョンも死んでしまう。
そうなると、棺桶に閉じ込めたヒナイチくんも、そのまま餓死してしまうはず。
「…っ!?け、携帯が、ない!?」
あの乱戦のどこかで、落としてきたか。どうする?探しに戻るか、撤退するか…それとも。
管理室は、もうそこだ。下等吸血鬼共は、今ので全て殲滅させた。
今回の犯人は知能犯であって、腕の方は大した事はない。
ここまで、きたのだ…
「ひっ、き、貴様は…竜の血族の!!」
「その台詞は…聞き飽きたよ、同胞。私は、急いでいるのだ。」
キィィィ…
よくもまぁ…ここまで、あの重傷でやったと思う。
あの後、私は犯人を拘束し、術をかけて、これまでの犯罪の証拠を目に付く所に置いて…そこで、時間も体力も限界に近い事を悟った。
私がいたという痕跡があれば、「監視を怠った」彼女のミスになる。勤務査定に、響くだろう。
彼女が責任を取らされて、監視任務から外されてしまうかもしれない。
君の顔を見られなくなるのは、耐えられない。
これまで私がやっていた、露払いも告白せねばなるまい。
十分の一も生きていない小娘に入れ揚げて、そんなつまらない理由で、同胞狩りをしていたのだ。
憎悪ならともかく、侮蔑の眼差しで見られるのは、耐えられない。
分かってはいるのだが…君が死んでしまうのは、もっと耐えられない。
だから…
「はぁ…はぁ…い、いま…かえるよ。わたしの、たいせつな…。」
氷が融け始めた窓を、こじ開ける。
地面に落ちた蝙蝠の様に、情けない姿で這い上がると、私は白み始めた空へと飛び出した。
どうしよう、どうしよう。
ヒヨシ隊長から来たRINEを、何度も確認する。
どういう目的かは不明だが、ドラルクは私を眠らせた後、私が潜入する予定だった工場に行ったのだ。
その区画だけが、氷漬けになったらしい。
そんな真似が出来る者は、シンヨコでは、あいつしかいないのだ。
私は、あいつの監視員だ。
肉体的にも精神的にも虜になってしまったが、使命はまだ明け渡していない。
蓋のパネルに手をやる。ボンヤリした光が、『早く、パスワードを押せ』と、急かしてくる。
本当は、知っているんだ。眠っているふりをしていたんだ。
私の誕生日を、押せば…
『0…3…0…』
最後の3を押そうとした時、急にパネルの表示が、『open』になった。
ならば、ドラルクかジョンがいるはず…いや、『君の寝顔を見ていいのは、私だけだ』と言っていたから、ドラルクの可能性が高い。
慌てて、シーツに潜る。プシュッと空気が抜ける音がして、光が差してきた。蓋が開いたのだ。
じゃあ、いつも通り、彼が、安心した様なため息を漏らすはずだ。
駕籠に入れたリスが、今日もいい子にしていた事に、安心して…。
『…?』
いや?違和感があった、静か過ぎる。そっと、薄目を開けて外を窺う。
…そこには、誰もいなかった。
『…ドラルク?』
裸身にシーツを巻き付けて、起き上がる。そこにあったのは…
チチチチチ…
塵に埋もれた、ズタズタになった血塗れのマントと、衣類。
その中で、存在を主張している、黒い義眼。
無機質な深紅の瞳が、迷いなく、私の方を向いている。
『キキッ!』
あぁ、あいつと過ごした時間が長くって…私はこの義眼の音で、だいたいの彼の感情が、分かる様になってしまったんだ。これは、嬉しい時に鳴っている音だ。
『遅くなって、すまないね。少しの間だけ、昼の世界へおかえり。』
そう言う彼を、掌に乗せる。
いつも見上げていたあいつは、こんなに小さくなってしまったんだ。
小憎たらしかったあいつが、こんなに可愛くて…愛おしい。
『今日は、遅かったな。お蔭で、私が遅刻してしまうじゃないか。』
聞きたい事がある。これから、署に一緒に同行して貰うぞ?
何をしていたのか話せ、私はお前の監視員だ。
そう言うべき?返す言葉が、ぐるぐると頭を巡る。
ただ、涙が頬を伝っている事だけは、辛うじて認識している。
『なぁ、今日から一緒に署に行こう。日に当たっても、もう問題ないだろう?少しの間だけでなく、ずっと一緒にいてやるぞ?お前も、嬉しいよな?』
『キキキ…』
義眼を掌で弄びながら、階段を昇る。
外に出ると…そこには、私をいつも慰めてくれた、可愛いマジロが転がっていた。
「アハハ、ジョンまで。こんな所で、寝ちゃ駄目じゃないか。」
冷たくて硬くなった、一人と一匹を抱えて…私は、昼の世界に戻る。
もう、悩まなくていいんだ。怯えなくていいんだ。
どちらの世界も、選ばなくていいんだ。
『ギギッ!!』
そんなに怒るな。大きな音を出さなくて、いいじゃないか。
最後まで、お前達の面倒は、私がみてやる…か、ら。
「…イチくん?ヒナイチくん、泣いているのかね?」
ツン…としたお香の匂いと、優しいドラルクの声に、目を覚ます。
今の私が安心する、棺桶の中。
すっかり慣れた闇の中で…深紅の瞳が、心配そうに揺れている。
夢…か。
夢というより、もう1つ起こり得た、私達の結末とも言える。
あの当時の私は…命からがら帰ってきた彼を殺して、昼の世界に戻る結末を、選ぼうとしていたんだ。
それを…お互いの気持ちを打ち明け合って、お互い納得する契約を交わして…いつか心残りなく、『私がドラルクを選べる』世界にする為に、私達は奮闘している。
今あるこの幸せは、友人達のおかげで引けた、数ある選択の1つだったんだ。
「…?こ、これっ!ヒナイチくん。」
私は、手探りでクラバットに手を伸ばす。
それを解きながら、キッチリ着込んだドレスシャツのボタンを外して…
「ごめんな…。」
隙間から、そっと手を侵入させる。
「…はっ!?そ、それは…。」
「…うん。」
あぁ、これだ。心臓の少し上にある、新しい傷跡を撫でる…私があの夜、鋏で刺した傷跡を。
意地を張りながらも、楽しかった疑似父娘の関係から、最低な関係に変えてしまった…その発端となった傷跡を。
「…っ!!」
「…無理しなくていい。ほら、震えてるじゃないか。思い出すのは、辛いだろう?」
「ううん、無理じゃない。こんなにキッチリ着込んで…ずっと寝苦しい真似をさせて、悪かったな。」
この傷跡を見ると、私がフラッシュバックを起こして、泣き出してしまうから…彼は、いつもマントまで着込んで寝ていたのだ。行為にしても極力脱がずに、見えない様にしていたのだ。
「…うっ!?」
知ってるぞ。その服の下には、若い頃から戦場でついた、たくさんの古傷がある。
そこが弱い事も…1つ1つ、口づける。
その度に上がる、艶やかなお前の声。どんな顔をしているのか、よく見たい。
だから…
「はぁ…はぁ…ひ、ヒナイチくん?だい…じょうぶなのかね?よ、よか…った。」
パネルに触れて、灯りをつける。
灯りの下で、その傷痕を見ても…もう、心は騒ぐことはなかった。
「うん…心配させたな。」
その傷痕に頬擦りをしながら…やっと、私はあの夜を乗り越えられた気がした。
ほっとして、その傷の上に顔を伏せる。
「よかった…泣いていたから、心配したのだ。さっきのは、いい夢だったのかね?」
「…。」
見当違いも甚だしくて、軽く睨んでみせる。
氷笑卿の様に女遊びはして欲しくないが、そっちの面の察しの良さというか、気遣いというか…少しは見習ってくれれば、よかったのに。
「お前には、そう見えたのか?」
「いいや…だから、起こしたのだ。吹っ切れた様で、安心したよ。その夢とやらに興味がある。一体、どんな夢を…?」
こういうのは、聞くものではないだろう。野暮な奴だ、本当に。
「…恐ろしい夢だ。そうなっていたかもしれない、最悪の結末…といえば、分かってくれるか?」
さっきみた夢の結末に比べたら、あの夜の恐怖だって、何でもない。
本当に、ジョンとロナルドには…感謝している。
「だから…私達みっぴきの悲願を、少しでも早く、叶えよう。そして…」
「…ありがとう。」
改めて、彼の冷たい唇にキスをする。
いつか、私もこんな風に、冷たくなるのだろう…でも。
もう…私は、夜の世界の住人になる事も怖くない。
その時が来たら間違いなく、お前の隣で笑っていると、断言しよう。
「ハロー、ドラルク。彼女と仲良ししてる?」
『…お祖父様。』
少し、困った様な孫の声。
先日、ドラウスから連絡があった。ドラルクが今度の血族の集まりに、監視員のお嬢さん…もとい、将来を契約し合った女性を連れてくる…という連絡を。
『これまで、どんなに会いたいと言っていても、『忙しい、迷惑だ』の一点張りだったのに。彼女の為に、プライドの塊だったあの子が、ノースにも頭を下げたらしいのです。あぁ、今から緊張する~!!そうだ!!もっと大きな新居に立て替えた方が、いいでしょうか?子供部屋も必要だし、あのお嬢さんの為なら、パパもミラさんも頑張っちゃう!!』
そりゃ、嬉しいよね。
そして、ジョンとお嬢さんも頑張ったけど、孫をそこまで変えた青年。
『竜大公様…貴方と奥様のお苦しみは、そのお二人にさせたり致しませんわ。お契約書に書いても、よろしくてよ?』
祖国に帰る飛行機に乗る前の、ロナルドくんの上品な笑顔を思い出す。
私はアルミニウスに出会うまで、ミナと一人になってからも…他に選択があったのかどうかさえ、考えた事がなかった。彼と出会うのが、遅かった。
だから、手遅れになる前に、孫に彼を紹介出来てよかった…そう、思う。
私がアルミニウスに、頭が上がらなかったのと同様、孫も彼に頭が上がらないらしいが…それさえも、楽しんでいる様に見える…と、同胞の間でも評判だ。
「今度三人と一匹に会うの、楽しみにしてる。ミナも、会いたいって。『僕に、よく似てる』って。ほんとは、僕がそうしたかった生き方をして欲しい、って。」
上機嫌で、ついつい素の喋り方になる。
電話の向こうの孫は、動揺しているのか、無言だった。
『はぁ…それが、貴方の本当の姿なんですね。』
「そ、もうしなくていいかな、って。人間達が、吸血鬼を恐れなくなる世界になってくれるなら…もう、無理しなくていいかなって。」
だから、お前も好きにしていいよ。
今までみたいな、ヤンチャはもうしないだろうから。安心して、好き勝手させてやれる。
『そうしなくてもいい世の中に出来れば、私達の悲願は叶う。彼女も心置きなく、こちらに来れる。それが、今の私の望み。仰る通り、私も好きにさせて頂きます。ところで…。』
そこで、孫は言葉を切る。少し、電話の向こうで躊躇っている様に思えた。
「何?言ってみて?」
『覚えておられますか?実は、私…幼い頃、貴方の棺桶の中を見たのです。あの方は…。』
あったね。気づいてたよ、怒ってゴメン。
アルミニウスに会う前だったから…ミナを見られたと思うと、キレちゃって。
私も中二だったよね、ほんとメンゴ。
「そ、血を吸って、一人になっても…私は彼女への執着からは逃れられない。これからも永遠に…おかしいよね?」
『おかしくはないです。契約を結ばなければ、私もおそらく…。』
だよね。ロナルドくんに、お前を頼んでよかった。そうでなければ、どんな姿でも…お前はそのお嬢さんを棺桶に入れて、自分だけ満足な永遠を過ごしていたはず。
私がアルミニウスに諭されるまで、その遺体を抱いて満足していた様に…。
『何から何まで、ご心配をおかけしました。』
「どーいたしまして…なんちゃって。そう言うのは、まだ早い。」
『?』
ばいばい…そう言って、一方的に電話を切る。
答えを言うのは、簡単だ。でも、それでは意味がない。自分で気づかなければ、意味がない。
昼の子の世界も心も、移ろいやすい。契約や約束に縛られる我々とは、違う。
これからも、ドラルクは…自分の力で彼女を繋ぎ留め、そして、永遠に彼女に想われ続ける…一吸血鬼にならないといけないから。
「これからが、大変。覚悟してて…そうでしょ?ミナ?」
『残念な事に、彼女も僕に似てるらしい。所帯を持つとなると、ますます、種族間の認識の壁が立ちはだかって来る。まだまだ、ゴールインじゃないんだ。』
君のため息が聞こえた、その時…一陣の風が吹いて、墓に供えた花達を無残に散らして過ぎて行った。