続きもので書いている、人魚姫ドラヒナのお話です。
この話(『魔女達の執念が、実るまで』https://privatter.net/p/11075853)から、少し時間が経っています。
病気が進行して寝たきりとなり、ロナルド王子の説得にも応じなかった魔女を救う為、サンズ姫に頼んで作って貰った『生き人形の手』も完成し、あとは、魔女の手記や書籍から『人魚の肉を使った、例の薬』のレシピを探し出すだけとなった。
それと同時に、『陸と海を繋げる計画』は、抽選者の移動を待つだけとなり、契約完遂も目前となった。
親友の苦悩を見ておれず、弟子を案じる『北海の氷笑卿』のモノローグを追加しました。
2024/02/26 に上げました
@kw42431393
俺には、妹のヒマリ姫がいる。
だから、知っていたつもりなんだけど…やっぱり、女ってのは強いもんだ。つくづくそう思う。
「なぁ、メビヤツもそう思うだろ?」
「ビビッ!」
俺は長年愛用している帽子掛けのメビヤツを撫でながら、ヒナイチ達を見る。
俺達4人と1匹の願いを叶える為に、俺達は諦めるつもりはないんだ。
「どうです?」
「うまいものだ。見た目じゃ、全く分からないだろうな、それに動かしやすい。」
「祖国には、生き人形というのがありましてね。使う時の為に、ちゃんと隠しておくですよ?」
少し前まで、ヒナイチは俺達と陸を歩けば、「今日は、あれを食べたい!」しか言わなかった。
ドラルクの家に行けば、「魔女!今日のおやつは、何だ?」しか言わなかった。
サンズ姫に至っては…これ、俺の前だけなのかな?
釣り上げたアリゲーターガーみたいに飛び跳ねて、すぐテンパっちゃって、年上の俺が守ってやらなきゃな…そう思ってたんだけど。
ヒナイチが持っている、カラクリ細工を見る。
それを、確認する彼女たちの目は、無邪気な人魚姫と慌てん坊のくノ一ではなく…
「魔女から魔法を習っておいてよかった。お前達も予備を作っておいたらどうだ?いつでも、私が魔法で動かせる様にしてやるからな!」
「こええ!!そういう事を、しれっと言うなよ。」
あ~、見直してやろうと思ってたのに。こういう所、ヒナイチも人外なんだって思う。
そりゃ助かるけどよ、あってたまるもんか。
「あ~、ヒナイチ。ドラルクは、相変わらずか?」
「ロナルド王子が言ってくれる前から、私も言ってるが…聞き入れない。あいつは魔女として、名前が売れ過ぎた。しがらみが強いんだ。今や、私も魔女の一人だからな…分かるんだ。」
その後に続けた言葉。確かに、頑固では片づけられない内容だった。
『私は、魔女達の協会に属している身なのだよ。そして、先日ヒナイチ姫にも登録させた…何かあっても、協会に守って貰える様に。』
『あぁ、あの胡散臭い連中な。陸にもいるぜ、それがどうした?』
『おそらく、陸の魔女達もそうだろう。私達には私達のルールがあり、それを破る事は相当な覚悟がいるのだ。粛清される者も珍しくない。病気になった、状況が変わった、臨機応変に対応した…それは、免罪符にならない。』
病気で死ぬか、契約違反で制裁を受けるか、属する世界から放逐されるか…。
いずれにしても、結末は変わらないからだ、とか言いやがる。
『じゃあ、イナ海国かシンヨコ王国に来い!俺達が守ってやるから。体が治るまで、そうしろよ!』
『分かってないね…我々を舐めないで貰いたい。仮に、地下牢に閉じ込めておいても、対象を消す方法なんていくらでもあるのさ。私はこの世界に染まり過ぎたから、ちょっとやそっとじゃ、足を洗わせて貰えないのだよ。』
シンヨコ王国は、元々人ならざる者達にも開放的な国だ。
他の地域で受け入れられない異端者、排斥された者、争いを嫌って逃げた者達が流れ着く…ま、最後のたまり場っていうか。
そんな奴らだから、住んでいる国民達と揉め事なんてザラだ。
その反面、俺もそうだけど国民達も慣れてしまって、命に関わらない限り、「あ~、いつものかな?」で済ませてくれてる。
ご多分に漏れず、俺も慣れてるからな。サンズ姫からドラルクがやってきた悪事を聞いても、さほど驚きはしなかった。
彼らにとって普通が、俺達には異常なんて、ザラだからだ。
元々、あいつとは、腐れ縁みたいなもんでな。
兄貴を通じて、料理に使う食材や、調剤に使うサンプルを調達するのに、シンヨコ王国第2王子である俺を、あいつが指名してきてからだっけ。
体力がないので、退治仕事に同行させると邪魔な所もあるが、あいつの魔法は便利なもんだ。野宿や移動、その他諸々…あいつの魔法に、助けて貰ってた所も多いんだよ。
人魚もあるのかな?人外ってのは、その属してる種族だの、組織だの、国だので面倒くさいルールがあったりする。俺達には、理解出来ねえよ。
あんなクソみたいな生態で、どうやって存続してきたんだろう、ってのもあるんだ。
確実なのは、連中と約束…特に書面にした契約。これは、彼らとつき合う上で、かなりの比重を占めている。
『仮に、私達が何者であったとしても、これまでと変わらないつき合いを望んでいる。』
ヒナイチと初めて会った日に、ドラルクが、ウミガラスにつけて寄越した手紙の内容。
それに同意したから、俺とサンズ姫は、こうしてここにいる。
陸と海を繋げるこの計画に当たって、色々議論もしたし、お互い実験台にもなったし、必要な物を揃えてきたり…途中で、息抜きに遊びに行ったりもしたよな。
4人と1匹でいる時間は、楽しかった。
しかも、これが成功すると、両国で困っている奴らの望みが叶う。祖国の経済が潤う。
やる気出ない訳が、ないだろ?
きっと、この時間が、一番充実してたんじゃねえかな。
ドラルクがいつも飲んでいた…あの人魚の肉で作った薬がなくなって、具合が悪くなるまで…だがな。
「そこまで知っても、絶交しないんだ。優しいな、ロナルド王子は。」
「そりゃ、そうですよ!結婚する前から、サンズちゃんが憧れていた人です!!今だって、ずっと素敵な人です!」
この前、俺が乗り込んでから、またさらに時間が経って…とうとうあいつは、深海でもベッドから起き上がれなくなった。
だから、今回もジョンは来てない。ドラルクの身の回りの世話をしているんだ。
今日、最初に移動する希望者の抽選が済んだ。後は、彼らがこの国と、イナ海国に集まるのを待つだけだ。
契約は絶対に完遂させる、今までの悪事を清算する、対価にヒナイチを嫁に迎え入れる…一番の立役者で、それを望んでいた奴が、それを見る事も出来ない。
…辛いよな。
「そうでもない、納得はしてねえ。治療薬出来たら、遠慮なく、ぶん殴ってやる…あれ?ヒナイチ。それは?」
あいつが取り出したのは、ドラルクが作ったクッキーだ。
あいつは、寝たきりなのに…?
「契約は、絶対だからな。魔法はまだ使えるから、遠隔操作で、お菓子は焼いてくれてるんだ。ロナルド王子、サンズニャン、一緒に食べよう。」
ヒナイチが差し出したクッキーを、俺も一つ摘まむ。味は、いつもと変わらなかった。
こういう所は、さすがだと思う。
だから、『バシッと言ってやる!』と乗り込んだ所で、覆す事は出来なかったんだ。
「最近、魔女は塩クッキーにハマってるのかな?時々、しょっぱいのが混ざってるんだ。でも、美味しいぞ。」
こんな時でも、目の前のヒナイチのアンテナが、くるりとハートマークを描く。それでも…
俺は、サンズ姫と顔を見合わせる。
『魔女として一人前になったら…二つ名に、『太陽の魔女』なんてどうかね?』
ドラ公がそう言ったはずの笑顔は、やはり暗かった。
あのバカ…あのクソ野郎。
「そうだな。いつも通り、うめえ。」
無理すんな、バカ。このクッキー、しょっぱくねえよ。
時々、しょっぱいのは…俺達がいない日に、泣いてんだろ?
「あのタコ。やっぱり、治ったら本気でボコボコにしてやるぜ。」
「ロナルド王子、そう言うな。でも、ありがとう。お前も諦めてないんだな。」
「諦めねえよ。ドラルクと違って、俺達は動けるんだ。あいつだって、せめて契約完遂だけは見届けるって、足掻いてる。だから、諦めねえ。」
これから、新しい面倒事が増えるんだよ。お前にだって、働いて貰うぜ。
丸投げなんて、許さねえ。
「…ところで、ヒナイチ。」
サンズ姫が、威儀を正してヒナイチに向き直る。
サンズ姫は、最初ヒナイチに懐かれて困っていたが、最近、照れながら『親友』と言ってる事がある。会わせてよかったな…俺は、本当にそう思う。
それに、彼女は、少し前にサンガ国が疫病に襲われた時、精鋭を連れて蓬莱島に赴き、目的の仙人と会えた…たった一人の人物だ。彼の指示に従って、万能薬の材料を集めた人物でもある。
そして、祖国を救った英雄でもあるんだ。
その万能薬は、長年ドラルクが探していたものだ。サンズ姫は、それを手にした事がある。
それが、大きな強みになるはずだ。
「ドラルクが、人魚の肉で作った薬の配合…それを記したメモや手記は、まだ見つかりませんか?」
「うん…最近、寝込んでいる事が多いから、探しているんだけど。」
「おそらく、ロナルド王子に調達させていたサブの材料は、人魚の肉の効果を増幅させる為に、使っていたはずです。お前の肉でも、あいつを治す事はできねーです。でも、『健康体でいる時間』を伸ばすのに、こした事はありません。」
「分かった…そろそろ、私は深海に戻る。あと、これ…。」
そう言って、ヒナイチは封筒から何枚か洋紙皮を取り出した。
『武芸一辺倒だったから、魔法の細かい所はどうも苦手だ。』
ついこの間まで、そう言っていたあいつが、たいしたもんだよな。
「明日までに、解読してやりますよ。いつも、世話を焼かせてくれますね。」
「すまないな。じゃあ、また明日!」
「おう、明日はイナ海国だったな。じゃあな!」
俺達はヒナイチを見送ると、サンズ姫の手元の書類を覗き込んだ。
「すごいもんだな。目で見た物を、紙に転写する魔法だっけか。」
ドラルクの私室で見つけた、重要そうなメモや手記は、難しいものが多いらしい。
だから、ヒナイチが紙に転写して、サンズ姫に解析して貰っているんだ。
「あいつは悪事も多く働いていますが、多くの者に恩も売ってるです。有事の際は協力する様、指示されていた者も、いたみたいですね。蓬莱島は、あのガリヒョロが上陸出来る場所ではありません。が、彼らの協力を得れば、自身の魔力と併せて不可能でない…と、踏んだのでしょう。」
オレンジ色に輝く洋紙皮に書かれていたのは、ドラルクの筆跡で書かれた計画書だ。
蓬莱島の地図、上陸方法、目的の人物のいる地形、集める材料、予想日数…本気で、自分が行くつもりだったのが分かる。
「何よりすげえのは、さ…あいつ。この間まで、本気でガキだったんスよ。それが、惚れた男を助ける為に、ここまでする様になったんだ。信じられなくって、ですね。」
「男の趣味は、ひでーとしか言えませんけどね。あの魔女がどうなろうと、サンズちゃんには、ど、どーでもいいですけど!ヒナイチは、サンズちゃんの大事な友人です。それに…実は、ちょっと約束したですよ。」
『なぁ、サンズ。この計画が終わってからも、皆で遊びに行ったりしような?』
『簡単に言うなです、この能天気女。頭、お花畑かよ。』
『ロナルド王子との子供達も連れて、ドラルクの作ったお弁当持って、山に行ったり、サンゴ礁でピクニックしてもいいな!』
『に゛ゃ~!!勝手に決めるなで…あれ?お前は、どうなんですか?あのタコと…その。』
『ん…私もドラルクも、長命種だからな。私の繁殖期は、もうすぐ来るんだけど…間に合わないと思う。次のチャンスは、何十年後かも…本当は、サンズとママ友になりたかったんだけど、無理だろうなって。』
『は、繁殖期とか言うなです!!これだから、てめーら人外は、デリカシーってもんが!!…い、いいですよ、約束してやっても!いつか、お前とあいつの子供達も連れて、遊びに行きましょう。』
「…ヒナイチと、そういう約束をしたんです。だから、魔女には元気になって貰わないと、困りますです。」
「ですね、サンズ姫。ヒナイチに燕の子安貝を、あげたんでしたっけ?」
燕の子安貝は、例の万能薬を作る為に必要なもんだ。だけど、全部使う訳じゃない。
一部を砕いて、二人が煎じて飲めば…あ、うん。そういう効果が、あるんだってよ。
赤ちゃんは必ず健康に生まれてくるし、長命種のドラルク達は子供が出来にくいらしいんだけど、それも確実になる…わ、訳で。
「そ、そうです…あいつにあげた、子安貝の使い方を、教えてやったです!」
「あ、アハハハ。は、恥ずかしいっスね、俺達も頑張らないと!ドラルクに、先を越されたくないなぁ。」
「だ、大丈夫…ですよ。サンズちゃん達も、二人とタイミングを合わせて飲めば…。」
猫みたいに、縮こまった彼女を抱き寄せる。
サンズ姫とヒナイチの描いた未来予想図…それは、俺とドラルクの望んだ未来でもあるはず。
未来のビジョンが固まると、俄然やる気が出るもんだ。
「ヒナイチ。絶対、そうしようぜ。物語と現実は、違うもんな。」
物語の人魚姫は、恋が叶わず儚い泡になる。
でも、俺達が知っている人魚姫は…自分の身を削ってでも、相手を苦しめる事になっても、欲しい者を手に入れる…強い少女なんだから。
「よく来てくれたね、私の可愛い人。」
「…ノースディン様、お会いしとうございました。」
「こちらこそ、どんなに貴女の顔を見たかった事か。やむを得ないとはいえ、こんな狭い所に押し込めた、無礼を許して頂きたい。」
「…貴方にお会いする為なら、私は命をも厭いません。」
使いにやったヨロイザメが、持ち帰った木箱を開ける。
中で妖艶に笑っているのは…いつだったか舞踏会で声をかけた事のある、さる貴族令嬢。
僅かながら、ヒナイチ姫同様、王族の血を引いている人魚だ。
弟子の延命に少しでも役立つ様にと、選びに選んだ『薬剤』だ。
過去の思い出したくもない経験から、私自身は、陸の者達と関わりの深い表層の者達と…何より、陸の人間共に吐き気を催す様な、嫌悪感を持っている。
近頃、弟子は表層や陸の王族の者達と、『陸と海を繋げる計画』とやらに勤しんでいるが、私には理解できない。現に、目の前のこの令嬢とて…
「フフフ…いい子だ。貴女は、たった今、私に会う為に命をも厭わないと、おっしゃいましたね?その言葉を覆す事は、決して出来ない。どんな惨い運命が待っていたとしても、その美しい笑顔を崩す事も決してない。その決意があるのなら、この契約書にサインをしておくれ。」
「…はい。」
目の前の女性も、姿形は美しい。知性も教養も申し分ない。
しかし、少し魅了をかけて愛を囁いただけで、簡単に堕ちた女性だ。
目に付く様に、『竜の血族の嫡孫であるドラルクの命を救う為に、この骨肉全てを捧げる事を了承します。』と書いている契約書に、躊躇いなくサインをした。
愚かな女だ…だから、期待の眼差しで見上げる令嬢を引き寄せる。
彼女は『私への純粋な愛』の為に、命を捧げてくれたのだ。感謝の念と、この世の名残に…ささやかな夢を与えても、罰は当たらないだろう。
「ありがとう、愛しい人。それでは…ご褒美をあげよう。永遠の眠りを迎える前に…。」
深く口づけながら、手を滑らせて鱗の下を探る。
本来、卵を産む時にしか使わないはずの、その場所を…
「あっ…ふぅ…ん。」
グチュッと、淫らな音が鳴る。艶めかし気に、尾鰭がくねる。
貞淑を売りにしているはずの、品性も礼節もある姫君達とて、一皮剥けばただの…
「…くっ、うぅ…の、ノースデ…あっあいして…い!!」
吐き気がする…愚かな弟子よ。
貴様は、『命を捨ててでも手に入れたい女性』と、イナ海国の姫君に入れ揚げている様だが…そのヒナイチ姫を、私の前に連れてきてみろ。
「…っあぁぁ…ん!!」
どうせ、こんなものだ。だから、私にヒナイチ姫を紹介しないのだろう?
『太陽の様なお姫様』が、ただの『淫乱な雌』に成り下がる姿を、見たくないから…だ。
「さて…もう、満足しただろう?さようなら…貴女の骨肉は、少しでも長く、大切に使わせて頂くとしよう。」
この程度の者達など、何人切り刻もうと、どうという事はない。
私にとって、この世で大切な者達は、私を地獄から救ってくれたドラウスと竜大公様、その息子であるお前だ。私の肉でお前を助けられるなら…と、何度悩んだ事だろう。
「さて、そろそろ行くか。死に損ないの不肖の弟子を、ここに連れて来なければ…な。」
果てて気を失った彼女を、再び木箱に戻す。その箱ごと、氷漬けにする。。
他にこれを解除できるのは、私から教えを受け、私と近い魔力を持つドラルクしかいない。
倉庫や牢に、入れるほどの事もあるまい。仮に、取り戻しに来た者がいたとしても、何も出来まい。
私は木箱を調剤室の片隅に置いて、自分の居城を後にした。