【必読】五夏/ロ兄専/単身任務に向かったイ桀が友人と協力して集落の呪いに立ち向かう話
ロ兄専五夏×民間伝承アンソロジーにおいて「まれびと」をテーマにした作品で参加させていただきました! 頒布後、半年を過ぎましたのでweb公開します。
企画も、参加者の皆さまの作品も最高で、幸せでした。
こんな機会をいただけて光栄です、ありがとうございました!
@itou_888
山間の集落だった。移動に時間がかかるため、現場に到着した頃には日が傾いていた。山に入るのは明日にして、今日は泊まって行きなさい、と言ったのは集落のまとめ役のような人物で、その提案に周囲も同意している様子だった。
しかし、呪いが本領を発揮するのは夜だ。どちらかというと、これからの時間帯に祓除をする方が都合がいい。そのことを隠しつつ、どうにか説明しようとするが、夜は危ないからと宿を勧められてしまった。その危険の一因と戦っているのが夏油なのである。住人を言いくるめようとした夏油の脳内に、ふと、あることがよみがえり口をつぐんだ。ちなみに、夏油は彼らに、ここへは長期休暇の課題として出されたフィールドワークをこなすために来ていると話してある。
「では、お言葉に甘えて一晩お世話になります。明日の早朝に山へ向かおうと思います」
得意の笑顔を浮かべてそう言えば、住人達も歓迎の色を濃くした。
ここに、補助監督が居れば、無理矢理にでも理由をつけ、祓除を行い帰還しただろう。けれど、既に一級術師として任務にあたっている夏油は、人手不足を考慮して補助監督を連れない単独での任務を行っていた。スケジュールを変更しても自分にしか影響がないのであれば、住人の厚意を無下にする必要もないだろう。
加えて。これが最たる理由であったが、先ほど脳内によみがえった内容のことだ。夏油は昨日、友人の五条と喧嘩をしていた。今朝、寮を出るまで一度も顔を合わせなかったし、声も聞かなかった。夏油自身、少し頭を冷やしたいと思っていたので、ここで一泊するという選択肢は渡りに船でもあったのだ。
こうして、集落で一晩を過ごすことになった夏油は、住人に案内されて木造三階建ての宿に到着した。念のために偵察兼囮の呪霊を山の中へと放っておく。もし、これに呪いが引っかかれば、明日を待つことなく祓除へ向かうつもりだ。
さて、宿の方はというと、古いわりにあまり使われていないような印象を受けた。山間にある宿だ。利用客は少ないのだろう。一階部分には玄関帳場と広間、公衆浴場があり、二階から三階にかけては宿泊部屋になっている。夏油が案内されたのは三階にある一室だった。そこそこに広く、快適そうな部屋だ。荷解きをして階段を下り、食事が提供されるという広間へと向かう。広間で食事をするのは夏油一人であるらしく、座卓の上には既に山菜を中心とした料理が並べられていた。
食事を続ける傍ら、夏油は広間の隅に神棚のようなものがあることに気づいた。ようなもの、と称したのは、その造りがあまりにも質素だったからだ。まず、神鏡が無い。榊立てが無い。その他、飾り物の一切が無く、中央の戸のみが、ぴっちりと閉められている。
世の中には様々な信仰があり、それぞれが独自の発展を遂げているため、宗派によってはこのような神棚を設置するのかもしれない。そんなことを考えながら食事を終え、部屋に戻った。
入浴を済ませ、放っている呪霊がまだ漂い続けていることを把握した夏油は、この地域で発生した呪いの被害について書かれた資料に改めて目を通した。
呪術高専がこの地域で起きた呪いの被害を認知したのは、つい先日のことだった。ある登山家の捜索願が出されたことがきっかけだ。集落に近い山を登っていた登山家は、予定よりも順調な進行に手応えを感じていたという。親族にそのような内容の連絡が届いていたのだ。そして、この集落を見つけた。暗くなってきたので、ここで一泊してからもう一つの山を越えると告げてから、行方が分からなくなった。登山家の荷物が集落を挟んだ向こうの山中より発見されたため、警察は遭難したものとして処理するつもりだったが、それに待ったをかける人物がいた。登山家の親族である。
親族は、登山家が山に対して慎重な姿勢を見せていたこと、無理なスケジュールの登山は行わないこと、三十年以上山に登り続けている熟練者であることを挙げると、こんな小さな山での遭難はありえないと主張したのだ。では、なんなのか。
「神隠しです」
その一言で、警察は積極的な捜索を中止し、代わりに呪術高専へと情報がもたらされることになった。
年間、一万人を超える行方不明者が出ているこの国において、被害のほとんどが呪いによるものだと知っているのは、ごく一部の人間だけだ。呪いが関わっている可能性のある案件は、全てが呪術高専に集約される。
さて、集落を囲む山々はどれもなだらかで、そう高くはないものばかりだ。夏油は、公共交通機関で可能な限り近くまで移動してから、残りを徒歩でここまで来たわけであるが、呪力で身体を強化しているとはいえ、そう険しくはない道のりだった。道はある程度舗装されていて歩きやすかったし、道順を示す看板が立てられていたことから、管理されている山道であることがうかがえる。住人の生活道でもあるのだろう。
対して、登山家が登ろうとしていた山は道の舗装がなされていないらしい。それ故に、警察は遭難したものと判断したが、親族はそのくらいの山ならば登り慣れていると言って譲らなかった。
どちらにせよ、明日行けばなんらかの手がかりが見つかるはずだ。ひと気の少ない山中で呪いがどれほど育っているかは不明であるものの、人ひとりを跡形もなく消してしまえるほどには力を蓄えている。術式を使えるかもしれないな、などと考えながら整えた布団に身を横たえた。
そして、すぐに起き上がった。
違和感を覚えたのだ。この宿には至る所に神棚が設置されていた。先ほどの広間はもちろん、浴場の脱衣所にも玄関帳場にも小さな休息所にも神棚はあった。便所にも、だ。あらゆる場所にこれでもかと設置されている神棚は、夏油が使っている客室にはない。そのことが、気になった。客室に神棚を置いてある宿泊施設が、全国にどれほどあるかは知らない。置いていない方が多いかもしれない。しかし、夏油の術師としての勘は警鐘を鳴らしていた。
部屋を抜け出し、そのまま玄関から外に出る。この間、ただの一人ともすれ違わなかった。思えば、夏油は宿を案内され受付を済ませて以降、誰にも会っていない。食事も事前に配膳されていた。言い知れぬ違和感だけが膨れていく。
備品として置かれていた浴衣姿のまま、夜の集落を歩いた。やけに静かだ。家々の明かりは全て落とされており、街灯のない集落では、月明かりと自身の端末が放つライトだけが光源だ。田んぼが多いからか、蛙や虫の鳴き声は聞こえる。けれど、人の気配はない。他に不審な点はないかと、周囲に目を凝らした夏油はあることに気づいた。
道祖神の数がやけに多い。道祖神は、通常、守り神として村の中心や、道の辻などに配置されるのだが、この集落では、それ以外の場所にも散見される。仮に、悪しきものがこの集落を訪れたとして、道祖神を避けて通れば、自然と宿に導かれるかのような、そんな祀り方だった。
山中へ放った呪霊に、まだ変化はない。ひとまず、警戒しながら宿に戻った夏油は、呪術高専関係者へ連絡をとることにした。登録されている連絡先は、担任と、友人達のものだ。担任に連絡をとろうと思い、手を止める。現時点では違和感を覚えただけであり、大袈裟に騒ぐようなことではないかもしれない、と考えたからだ。なにより、一人で問題ないと言っておきながら、結局、担任に頼ったのでは、みっともないような、情けないような気がしたのだ。
では、友人か。真っ先に思い浮かんだ姿を打ち消す。五条とは喧嘩をしている。連絡など、もってのほかだ。そうなると頼みの綱は、もう一人の友人である家入だけだった。
簡単にこれまでの経緯をまとめた内容をメールで送る。少し経ってから、家入から返信がきた。
「他の階に神棚はあるのか、ねえ。確かめてみるか」
部屋を出て階段を下り、二階の宿泊部屋へと向かう。三階と比べて西洋風に作り替えられているそこは、部屋の一つ一つの戸に鍵がかかっていた。けれど、夏油にとって、そのようなことは問題にならない。壁抜けができる呪霊を放つと、内側から鍵を開けさせた。
果たして、神棚はあった。その隣、その隣と順番に部屋を確認していったが、どの部屋にも神棚は置かれていた。三階へ戻り、夏油が宿泊している部屋以外を同様に確認する。やはり、神棚はあった。
「私の部屋にだけ神棚は無いみたいだよ、と」
そんな報告に対して、返信は早かった。
『神棚を開けてみろ』
「ええ」
信仰していないとはいえ、無遠慮に神棚を開くという行為には抵抗がある。そうはいっても情報は多い方が良いため、渋々隣の部屋へと侵入し神棚を開いた。中に入っていたのは、呪物だった。封印されているようで、呪文のようなものが書かれた布に包まれている。これが、信仰対象なのだろうか。
『呪物を呪霊避けに使うのは、よくあることだ。道祖神の件もあるしな。でも、そうなると傑の泊まっている部屋にだけ神棚が無いのはおかしい』
「……そうだね」
神棚の件に関しては、意図的であると考えて間違いないだろう。
『報告の内容と違うし、どうも胡散臭い。いったん戻って来いよ』
「それはちょっと」
『なんで』
「悟と喧嘩しちゃって帰りづらいんだよね」
そう送信した途端、静かな部屋に着信音が鳴り響いた。慌てて止め、小声で電話に出る。
「隠密行動をしているんだぞ」
「うるせえ! もう怒ってないから帰ってこい!」
「夜なんだから叫ぶなよ。硝子に迷惑だろう」
「はあ? 硝子なんかとっくに自分の、部屋に」
「そんなことだろうと思ったよ。硝子は文面上でだって私のことを名前で呼ばないし」
ため息をつきながら返すと、五条は通話先で押し黙ってしまったようだった。
「どちらにしろ、帰らないから」
「なんだよ、まだ怒ってんの」
拗ねたような声色に、思わず笑いが漏れそうになる。それを押し殺して口を開いた。
「明らかに何かしらの呪物と呪いが関わっていそうな場所を、放ってはおけないだろう」
「放っておけって! いちいち気にしてたらキリねえよ」
「それに、私、売られた喧嘩は買うタイプなんだ」
宿へと案内するかのような配置をされた道祖神。用意された部屋にだけ呪霊避けの呪物を置かないという態度。夏油は宣戦布告であると、そう捉えた。
「ああ、もう」
苛立たし気な声をあげた五条だが、夏油がこの件を解決するまで協力するつもりのようだった。
*
「状況を整理しよう」
今回の目的は、山中で失踪した登山家が、呪いの被害を受けた可能性があるという報告から始まっている。つまり、呪いは山の中にいるはずなのだ。けれど、登山家が宿泊したと思われる宿、ひいては集落自体にも、不可解な点がある。執拗に配置される呪物。一室だけ神棚が設置されていない客室。ひと気のない宿と集落。数の多い道祖神。
「そもそも、ソイツは本当に山の中で消えたのかよ」
ややノイズ交じりの声が疑問を投げかけた。はて。情報では登山家は山中に荷物を残して消えたとされている。その前提が覆されるとするならば、つまりは。
「この宿で消えたってことか」
「その可能性は高いだろ」
夏油は部屋を見まわす。呪霊のものと思しき残穢は見当たらない。もしも、ここに五条が居たならば。彼自身が持つ稀有な瞳で、僅かな残穢さえも見逃しはしなかったのだろうか。
「悟がここに居てくれたらなあ」
「ああっ?」
通話先からひっくり返った声と、ひときわ大きな物音が聞こえた。そのことを指摘する暇もなく、夏油は呪いの気配を察知した。何かがこちらへ来ている。
「どうやら、お出ましのようだね」
放っていた呪霊を呼び戻す。その途中で、呪霊が消されたことが分かった。仕方がない。宿から出た夏油は玄関前に立つと、暗闇の先をじっと見つめた。あれほど煩かった蛙や虫の鳴き声も全く聞こえない本物の静寂の奥に、それは居た。
動物で例えるならば、鹿だろうか。立派な角が生えている頭部は、鹿を模してはいたが、けれどもやはり呪いなのだ。無数の触手が胴体部分から生えており、先端には、それぞれ人間の顔と思しきものが付いていた。そのうちの一つに見覚えがある。失踪した登山家のものだった。
「悪趣味なことだ」
呪霊はお膳立てされた道を、真っすぐ宿に向かって進む。悠々と動く様子は、この状況を当然だと思っているかのようだった。まるで自身が歓迎されていると認識しているようにも見える。もてなしを受けるべき、神であると。そこで、はっと閃くものがあった。
「なるほど。〝まれびと〟にでもなったつもりかい」
まれびと。稀人、客人とも表記されるそれは、とある学問上では神であると考えられている。外から来た神は、村に富と齢とその他若干の幸福とをもたらす、とされた。この集落の住人はこれを信じ、まれびと信仰へと繋がったのだろう。豊かさを与える神を彼らは歓待した。もてなしを以って、丁重に迎え入れたのである。
今回の場合、この〝もてなし〟は夏油の存在をさすのだろう。一室だけ神棚のない部屋は、いわば大皿のようなもので、中に居る人間が捧げものなのだ。住人が姿を現わさないのは、被害を受けることを恐れているから。彼らはここに来るモノの姿こそ見えねど、悪しきものだと勘づいている。勘づいていてなお、信仰を続けているのだ。
そうして夏油を、件の登山家を、差し出した。
「まあ、でも相手が悪かったね」
夏油の背後からズルリと這い出てきたのは、自身が使役する呪霊だ。偵察や囮用の呪霊とは違う。準一級以上、すなわち術式を持つ呪霊である。信仰から生まれた呪いと、使役する呪霊とがぶつかり合う。角や触手で攻撃を加える呪いに対し、夏油は次々と他の呪霊をけしかけていった。初めは抵抗していた呪いも、取り囲む呪霊の数が増え、多彩な方法で追い詰められていくにつれて徐々に動きを鈍くし、ついには動かなくなった。
「完全には祓うなよ。後で取り込むから」
従順な呪霊は主の命令に従い、大きく道を開ける。その先で横たわる呪いに手をかざした。すると徐々に形がブレ、黒いモヤのような姿になった呪いは、夏油の手中で玉となった。
えずく声と共に呪いを飲み下す。気づけば、集落には音が戻ってきていた。蛙や虫だけではない。人の気配も、だ。
「何を、何をなさった」
片手に松明、片手に鍬を持った男がにじり寄ってくる。赤い炎に舐めるように照らされている顔には血走った目がついており、夏油を睨みつけている。その男だけではない。今までどこに潜んでいたのかと首を傾げたくなるほど大勢の人間が、松明や農具を持って夏油を取り囲んでいた。
「まろうど様が来るはずだった」
「まろうど様が来たのに、〝もてなし〟が済んでいないのはおかしい」
「何をした」
「まろうど様に何をした」
夏油にとっては、ただの呪いであっても、彼らにとっては長年、共にあり続けた信仰だ。それが壊されようとしている。いや、たった今、夏油が壊した。どのように説明したらいいものか。説明したとて理解されるだろうか。眉間を親指でかいたその時だった。
「オマエらが何やってんだよ」
上空から、聞き馴染みのある声が振ってきたかと思うと、その本人も降りてきた。いつの間にか空は曇り、遠くでは雷鳴が轟いている。
「なあ」
色のない髪が強風にさらされて踊り、稲妻に照らされては輝く。
「何やってんだって、聞いてるだろ」
常のサングラスはない。稀有な瞳、五条家の特異体質である六眼がむき出しになっている。爛々と燃える青い瞳が、鋭く住人の一人一人を射抜いていた。
「悟」
夏油の呼びかけが音になるか、ならないかのうちに冷たいものが頬に当たった。大粒の雨が降り注いできたのだ。山の天気は移ろいやすい。呆気にとられているうちにずぶ濡れになった夏油を見て、五条は目を丸くすると、速足で近づき、冷えた両肩に手を置いた。
「なんで、こんな薄着してんだよ!」
「風呂に入って寝るつもりだったからね」
「生贄にされかけてたのに?」
「その時はまだ確証がなかった」
いいからこれを着ろ、と乱暴にかけられたのは五条の私服だった。濡れるからと遠慮しても、頑なに譲らない姿勢を見せるので大人しく受け取っておく。まあ、冷えるものは、冷えるのである。
「……さまだ」
雨にさらされ、鎮火した松明を持った男が、濡れ鼠のような姿で呆然と呟く声が耳に届く。
「まろうど様がいらっしゃったんだ」
今まで殺気立っていた住人のほとんどが、同じことを呟いていた。呪いの姿は見えないが、人である五条の姿は非術師の目に映る。珍しい見目をした五条は、空から現れたことや、偶然とはいえ、登場とほぼ同時に天候が変化したことから、まれびと判定を受けたらしい。
信仰は自由だ。けれど、五条はこの集落の住人にとっての神などではなく、夏油の大切な友人なのである。湧き上がる不愉快さを隠さないまま五条の手を引き、宿に入る。荷物をまとめて、さっさとこの集落から離れたかった。
「すぐる」
部屋に入る寸前、五条が夏油を呼んだ。引いていた手は固く結ばれ、いつの間にか指同士が絡み合っている。
「悟?」
「俺、来たけど」
少し尖らせた唇で五条は言う。交わった視線は、逸らされない。
「ここに居るけど」
「ああ」
きっと、先刻の通話内容について言っているのだろう。ようやく察しのついた夏油は、繋がっていない方の手を伸ばして五条の後頭部に触れた。そのまま、柔らかく髪をかき混ぜる。なすがままに頭が揺れ、心地よさそうに目が細められる。
「ありがとう。ここまで来てくれて」
「おう」
手を下ろすと、今度は五条が手を伸ばして夏油の髪を解いた。櫛代わりのつもりなのか、指で髪を梳いては戻っていく。満足げで、どこか優しい表情をしたまま夏油を見るものだから、どうにも恥ずかしくなってきた。
「わざわざここまで来てくれたお礼、と言ってはなんだけど、呪霊に乗って帰らないかい」
「いいな!」
照れ隠しの提案はすんなりと受け入れられた。繋いでいた手を解いて素早く制服に着替えると、窓の外に呪霊を呼び出す。夏油の手持ちの中では最高硬度を誇る、虹龍と名付けられた呪霊だ。夏油が先に跨り、その後ろに五条が続く。
「なあ、もう怒ってない?」
ぴたりと背中にくっつき、腹に手をまわした五条が囁く。その殊勝な態度が面白かったので、笑いをこらえながら返事をしないでいると、まわされた手に込められる力が強くなった。さらには、頭をぐりぐりと肩口に押しつけてくるので、今度こそ我慢できずに笑ってしまった。
「怒ってないよ!」
しかして、担任は怒っていた。
集落ぐるみで行われていた凶行に関しては、警察や呪術高専関係者が処理するという。お怒りのポイントは、そこではなかった。悪天候が一転し、朝日が昇り始めた山間で虹龍に乗った二人の姿が目撃されていたのだ。
「呪術規定、八条ッ!」
「……非術師に呪術の存在を明かしてはならない、ただ脅威が迫ってる場合はよしとする」
正座をした五条と夏油が規定を諳んじると、厳めしい顔つきで担任は頷いた。
「今回は、呪霊の祓除が行われた後のことだった。脅威が迫っているとは判断されない」
「はい」
「よって、二人には反省期間として、今から四十八時間の間、任務に出ることを禁ずる」
「それって」
顔を見合わせた夏油達に、担任はようやく表情を緩めると力強く頭を撫でた。
「よく無事に戻ってきたな」
そこで反省期間の真意を理解した二人は、正座を解くと、廊下を抜け、寮に向かって勢いよく走り出した。
「ゲームの続きやろうぜ! 傑の部屋な」
「いいよ。かかってきな」
夏油の言葉に、好戦的な表情を浮かべた五条の頬は赤い。気分が高揚しているのだろう。きっと、夏油だって同じような顔をしている。
「ちょっと、五条! いい加減私の携帯返して」
「あ、やべ」
大雨にさらされた家入の端末は無事なのだろうか。慌てて確認をしながら駆ける五条を、家入が追いかける。その背中を、夏油も笑いながら追った。
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