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thunbergia

全体公開 us. 7931文字
2024-09-05 17:57:40

ホテルオーナーの悪魔アジラフェル × 植物園経営の天使クロウリーの逆転AU

【微注意】
クロウリーの顔に傷跡があり、それを眼帯で隠して生活しています
天使が時々メンタルに不調を来すも悪魔が上手くやるので問題なく仲良くやっています

Posted by @otohitoe_



ソーホーの一角にある老舗のホテルがいつからそこにあったのかは誰も知らない。知らないが、老舗と言われているからにはそれなりの歴史があるのだろうということはこの街に暮らす人々にとって共通の認識であった。
堂々としたジョージアン様式の佇まいのそのホテルは五階建てで、一階はロビーとラウンジ、二階は宿泊者のみが利用できるレストラン、二階の一部と三階より上は客室となっており、エレベーターは二台。特に料理の評判が良く、レストランでの食事を目当てに宿泊する客も少なくない。変わった特色としては、一階と二階にある広い広い図書室。愛書家で蔵書家でもあるオーナーの趣味で設けられたここには、大衆向けの雑誌から専門書に近い分厚い本までジャンルを問わず様々な書籍が置かれており、これも趣のひとつとして人気の種であった。
そしてどこからどう見ても五階建てのこのホテルだが、実はその上にもうひとつフロアがある。ここが本当の最上階で、オーナーであるアジラフェルのみ立ち入ることができる居住階の扱いだった。
しかし誰もこの最上階の存在を知らない。認識していないという表現が正しい。このホテルは五階建てであるという認識は置いておいて、アジラフェルが乗ったときにだけ現れるどこを指しているのかわからないエレベーターのボタンのことを誰も変に思わないし、アジラフェルが“最上階”に消えることも、時折夕暮れ時のホテルに現れる、オーナーと特別親交の深い友人が一人勝手に出入りしていることを気に留める者もいなかった。

「やあ、早かったね」

存在さえこの世で二人しか知らないドアを抜けて部屋へ踏み入れたクロウリーを、ちょうどワインボトルとグラスをふたつ用意していたアジラフェルが迎えた。

「エントランスでお出迎えするつもりだったのに」
「目立つからやめろと言ったはずだ」

クロウリーは眉尻を下げた柔らかい微笑みを湛えてアジラフェルに寄り、挨拶のキスを交わす。アジラフェルの少し伸びた髭が頬をくすぐる感触にクロウリーはまた小さく笑った。

「大したものじゃないが、手土産だ」
「いつもありがとう。今日はえっ、チーズ?わたし、今夜はきみにとびっきりのワインを用意してるってこと話してたっけ?」
「たまたまだよ」
「ふふ。きみの手土産はいつだって最高だ」

アジラフェルはすこぶる機嫌の良い様子でクロウリーを奥の書斎へ招いた。
二人は天使と悪魔である。ただし、お互いが唯一無二の友達でもあった。そして二人の間には人智では計り知れないほどの深い情愛があった。親交が始まった日から数えれば、もう何千年にもなる。
ハルマゲドンという大きな危機に面したこともあったが、二人で協力し合うことで難なく地球を救い、それによって天国からも地獄からも睨まれる立場となってしまったことも、アジラフェルとクロウリーにとってはどうでもいいことだった。お互いの間にあるあたたかい絆が永遠であることを二人は知っていた。
破滅を免れたこの星で、共に平和な日常を変わらず送っている。アジラフェルは老舗ホテルを、クロウリーは静かな植物園を。共にオーナーとして人間社会の営みに溶け込んでいる。
そうしながら数日に一度はこうして夜を過ごす。約束していたりしていなかったり、連日入り浸ることもあれば数週間顔を合わさないことも時にはある。永遠を生きる二人にとって時間はそれほど頓着するようなものではなかった。
とはいえ、とにかく二人は長い時間を共有した。アジラフェルもクロウリーも、二人で過ごす時間が何より好きだったから。

「また増えたんじゃないか?本」
「ちょっとね」
「おれの目にもわかるってことは“ちょっと”って数ではないな」
「んふ」

書斎と言っても一般的な愛書家が想像するような部屋ではない。その数十倍は広く、蔵書の数も多いだろう。何ならホテルにある図書館よりもよっぽど図書館らしいとも言える。ここは悪魔の建造物だ。部屋の高さや広さは“実際”に囚われない。

「でも、きみも人のことは言えないだろう」
「おれは自宅の植物は管理している。むやみに増やすことはない」
「ぐぬ
「別に責めてやしないだろ?いいじゃないか好きなだけ集めれば。埋もれて死んだりするなよ」
「そんなヘマはしないけどさ」

クロウリーはいつもの定位置である柔らかい二人掛けのソファに腰を下ろす。いつ来ても心地好い音楽の流れているレコードからは少し距離があるが、クロウリーはここに届く音が好きだった。
栓を開けたばかりのワインボトルとふたつのグラスはすぐにクロウリーに手渡されることはなく、まず目の前のローテーブルに置かれた。
アジラフェルは空になった手でそっとクロウリーの眼帯に触れる。

「外してもいい?」
「ああ」

頬骨の下まですっかり覆う黒い眼帯は、瞳を縦に裂くような大きな切り傷の痕と、その上に重なるような火傷痕を隠している。どちらの傷ももうずっと昔にクロウリーが自ら付けたものだった。
こんなふうに心安く見せてもらえるのはアジラフェルただ一人だけだろう。つまり、そこに口づけができるのも。

「こら、おれが痕を消してからにしろっていつも言ってるだろ」
「消さなくてもいいのに」

それが悪魔だからなのか、単にクロウリーの全てを愛おしく思っているからなのかはわからないが、アジラフェルの目には痛々しい痕の中にある金色に変色した瞳はいっそう美しく見えていた。
そんなアジラフェルの言葉を気にも留めず、クロウリーは右手で顔の半分を覆ってひと撫でして、古い火傷と切り傷の痕を綺麗さっぱり消してしまった。ただ瞳の色だけは金色のままだった。これだけはどうやってももう元に戻らないらしい。
この痕を見るのはアジラフェルのみで、そのアジラフェルがどれだけ気にしていなくともクロウリーは必ず痕を消してしまう。自傷の理由を知っていればそれもなおいじらしい。
金色の瞳を閉じ込めた瞼の上に、アジラフェルはもう一度キスをした。

「うーん」
「なんだ?」
「どうしたって綺麗だ」

大真面目に唸るアジラフェルにクロウリーは苦く笑った。それを見てアジラフェルは妙な違和感を確信に変えた。
今日のクロウリーはどこかおかしい。
ワインを何本も開けても握った手にキスをしても髪を撫でてもやはり確信は揺らぐことはなく、夜もとっぷりと更けた頃、アジラフェルは徐にクロウリーの前に跪いた。両手で細く小さい膝を包み、アルコールでいつも以上に潤んでいるように見える二色の瞳を見上げる。

「アジラフェル?どうし
「どうしたの?」
おれが訊いてるんだが」
「何かあった?」
………、」

返事が無いのはある意味で答えでもあった。
アジラフェルはそれ以上追求せず、手に持っていたグラスをゆっくりと置いて何かを言いかけては辞めるクロウリーの言葉をじっと待つ。
そうしているうちに何の前触れもなくクロウリーの瞳からぼろっと大粒の涙が落ち、アジラフェルは驚いて思わず「えっ」と声を上げた。

「あ、」
「クロウリー」

拭っても拭ってもぼたぼたと止め処なく零れる涙にアジラフェルはどうしようもない無力感を覚えさせられ、考えた挙句ソファの肘掛けに座って薄い肩を抱き寄せることしかできない。こんなことでどうにかなるものではないことも、これがただの自己満足だということもわかっている。そんな役立たずに、何の応えもなくともクロウリーがただ身を委ねてくれているだけで充分だった。

「言いたくなければ何も言わなくていい。何時間こうしてたっていい。きみが傍にいてくれるのはわたしの望むところでもあるわけだし」

深いブラウンのやわらかい髪を撫でながら冗談めかして言うアジラフェルの上質な手触りのシャツが、涙でじんわりとあたたかく濡れては冷えてゆく。普段の量と比べてもそれほど飲んでいるわけでもないが、ただ酔っているだけならそれでもいい。神にさえ疑念を持ったアジラフェルだがクロウリーの向けてくれる信頼を疑ったことは一度もない。涙の理由を打ち明けてくれるか否か程度で揺らぐ愛情でもない。勿論、その苦悩を分けてくれるに越したこともないが。

外の世界が深夜の折り返しにまで差し掛かる頃、このまま泣き疲れて眠ってくれることも期待したがどうもそんな気配もなさそうで、アジラフェルは「一人になりたい?」と尋ねてみた。たっぷり時間を置いて待ったが返事はなく、決して急かさないよう、何も必ずしも答えを求めているわけではないと伝わるようにゆっくりと穏やかに言葉を続ける。

「そうなら部屋の外にいるから、きみはここにいて。誰にも見せたくない。きみは泣いている姿でさえ美しすぎる。人間には目に毒だ」
「おれを、」

突然はっきりと声を発したクロウリーにアジラフェルは多少驚いたものの、髪を撫でる手は全くたじろぎはしなかった。
クロウリーが大きく吸い込む息が震える。

「おれを美しいと言うのはやめてくれ」

そのひと言で、ああとアジラフェルは得心した。クロウリーの今夜の涙の理由がわかった。
その半顔に自ら創った傷跡と同じものがクロウリーの心の奥深くにもある。それをまた抉られたのだとアジラフェルは覚った。いつものことと言ってしまえるほど非情にもなれないが、とにかく一度や二度のことではない。アジラフェルが長い年月をかけて大事にしてきたものなのに、よく知りもしない人間風情のたったひと言、些細な行いで簡単に崩れてしまう。
アジラフェルが堕天するに至ったのは人間を愛し傾倒しすぎたためであったし、悪魔となっては当然彼らの悪事をも愛している。ただしそれは人間間の話であって、クロウリーに向けられるのであれば排除すべき対象でしかない。天使の頃には存在さえ知らなかった憎しみという感情が心を満たすほど腹立たしい。
クロウリーは天使だ。万物を愛し、愛される天使。ただ、彼の不幸は美しさだった。かつて人間を地獄行きに貶めてしまったことがある。
勿論アジラフェルはそれをクロウリーのせいだとは思っていない。単なる偶然が重なった結果そうなっただけで、クロウリーに落ち度はひとつも無い。天使も人も堕ちるときは堕ちるのだ。

「天使なのに、天使のくせに、おれはきっと人を誘惑してるんだ。顔に傷を付けたってなにも変わらない、悪いのはおれ自身なんだ」
「人を惹きつける魅力を持っている人はみんなそうだよ。きみが天使の道に背くようなことをしているわけじゃない」
「おれは人を愛してるけど、そうじゃないなにも求めてはいないのに
「人がきみに求めてしまうんだね」
「誰でも構わないってやつならいいんだ。そうなら、別におれを求めているんじゃないんだからけど、本心でおれを求めているのなら求めさせているのなら、
「きみは悪くない。勝手にきみに言い寄っているだけだ」
「でも求められるのはうれしい。そうだろ?」
「わたし以外からでも?」

その問いにクロウリーははっとして、アジラフェルの胸に頬を寄せたまま縋るような眼差しで見上げた。

「わたしがきみの心を望んでいるのが嬉しいからつらい?」
「おれは、おまえにけど、おまえには愛されたい
「愛しているよ」
「どうしておれは堕天しないんだ」
「クロウリー」
「おれを愛してると言わないでくれ

絞り出すような声で言いながら、クロウリーは大きな瞳からぼろぼろと涙を溢れさせてアジラフェルの胸元に縋った。言っていることとはまるっきり正反対に、指先が白くなるほど強くシャツを握る手。クロウリーは天使のくせに嘘ばかり吐く。アジラフェルに言わせてみれば、それもクロウリーの数えきれないほどある美点のひとつに過ぎないが。
小さな頭を抱き込んで、ただ安らぎを与えたい一心のみでやわらかい髪を撫でる。救いを求める子羊を愛で包み赦す聖職者のように。お互いの立場がなければ全く違いはなかった。アジラフェルだってできることならいつでもクロウリーのことを救いたかった。
この世界に創られたときから既に愛を知っていた天使。愛を持っていた天使。愛するよりも先に愛されていた天使。

きみの苦悩の原因にわたしも一枚噛んでいる。
そのひと言だけは飲み込んで、アジラフェルはできるだけ優しく、深く伝わるように「きみを愛してる」と囁いた。

「わたしがきみに唆されてこう言ってると思ってる?わたしの愛は偽物だと」
、ちちがう、アジラフェル違う、そうじゃ、」
「クロウリー」
「う、」

体を丸めて目頭と目尻が湛える涙をキスで拭い、それから本命の薄い唇にも重ねる。どんな言葉を連ねても口づければ拒まないどころか待ち望んでいたように受け入れる唇のやわらかさ、その素直さがやっぱり天使らしい。

「きみは正真正銘、とびっきりの天使だよ」
「とびっきり、?」
「人を唆して善良ではない道に引きずり込むのは悪魔の仕事だ。きみにできるはずがない。わたしがきみを唆していると考えるほうがよっぽど自然じゃないか?」
………、」

もちろん宥める意味で発した言葉だったが、クロウリーはアジラフェルを見つめたまま時が止まったようにぴたりと動かなくなった。当然アジラフェルは少し焦った。が、焦って取り繕ったことでもっと別の失言を招くことになるのは一番避けたいところで、微笑みを作った口の端が崩れないようきゅっと力を込める。

「おまえが
「クロウリー、わかってると思うけど」
「考えたこともなかった」

感情のこもっていないあっさりとした声色で、アジラフェルの言葉を遮ったことにも気付いていないであろう純粋な呟きだった。

「考えたこともなかったそんなこと

クロウリーは同じ調子でそう続けた。
見開いた鳶色の瞳のほうからつうっとひとすじだけ頬を伝って流れた涙があったが、それが最後のようだった。

っふ、」
「え」
「あはっ、あははは!」

アジラフェルはクロウリーの顔を掴むようにして両手で捉え、たじろぐのもお構いなしに唇を重ねた。アジラフェルの曲げた肘に手を掛けたのがせめてもの抗議なのかもしれないが、顔を捕まえられているとはいえ喉を反らしてキスを受け入れる姿では説得力には欠ける。

「あははああ、きみは最高だ、クロウリー」

額同士を当てて二様の瞳を覗き込む。困惑に揺れるのがなお愛おしくて堪らない。

「嬉しくて泣きそうだ」
「な、なんで」
「きみがわたしを愛してくれてるから」

クロウリーの戸惑いこそがここに偽りの無い証だった。
何か言われるよりも先にアジラフェルはソファの肘掛けから降り、クロウリーを抱きかかえて奥のベッドルームを目指す。部屋にはムードづくりの一環として夕方買ってきたばかりの花の香りが漂っている。クロウリーへ贈りたかったがもはや今夜出る幕はない。
部屋に鎮座するのは今時王族でもこれほど広いベッドは使っていないだろうという大きな代物で、アジラフェルはその中心まで進んでようやくクロウリーの体を下ろした。

「きみが好きだよ、クロウリー」

できる限り優しく慈愛を込めて、アジラフェルは腕の中のクロウリーに語り掛けた。
きみはまるで親にあやされている子供のようだと感じるかもしれないけれど、この愛情が真摯に伝わっていますように。そう願った。
天使は愛の存在を肌で感知すると言う。わたしの愛だけはどうか他のとは違う唯一無二の特別なものとして伝わりますように。上も下もなく、ただ祈った。
アジラフェルは悪魔だが、平気で願いも祈りもした。彼が信じる唯一の存在に。

「きみがわたしを拒んだって、わたしはきみを愛することをやめられないと思う」

涙は収まったものの、まだしっとりと濡れている冷たい頬を撫でる。クロウリーは大人しく受け入れていた。無防備なそんな姿も可愛くて仕方がない。

「受け入れてくれる?」

声はなかったが、クロウリーは小さく頷いて応えた。

「おっと、それ以外のことはちゃんとやめるからね。嫌なときは言ってくれ」
「それ以外?」
「ハグとかキスとか」
「時と場所を選んでくれれば拒まない
「セックスとか」
「時と場所を選んでくれれば」
「そんなこと言っていいの?あまり軽率に無責任なことを言わないほうがいい」
「軽率でも無責任でもない」
「じゃ、いつか嘘を吐いたことになるかも。きみが嘘を吐く天使なのは知ってるけど」
「そうだな

少し考えるように目を伏せたクロウリーはアジラフェルの胸元に擦り寄り、それから大きくゆっくりと息を吸った。
クロウリーはそこが何処よりも安らぎを与えてくれる場所だと知っている。アジラフェルが目尻を指の背で撫でるのは寝かしつけようとしているのだということも。それに乗ってもいいと思い始めていた。難しいことは明日の自分に任せてしまって、このまま体の内側を縛り付けるような痛みから解放されてもいいのかもしれないと。

「おれは特別だから嘘も吐く。時々は」
「そうだね」
「今言ったことを翻すこともたまにはあるかもしれないが、おまえを好きってことが嘘になることはない。それだけわかってくれてるなら、もう、いい

声の末尾は吐息と一緒に消え入りかけていた。
甘えるようにしてその胸に顔を押し当てるクロウリーを、アジラフェルが抱きしめない理由はなかった。

「きみは何にも求めていないふうでわたしのすべてを持っていってしまうんだから
「なんの話だ
「人は愛の奴隷って表現をするだろう?わたしもそうだって話さ。きみへの愛無くしてわたしは存在できない」
ふ」

クロウリーはアジラフェルの胸にぐりぐりと額を押し当てる。笑っているらしかった。

「悪魔が言いそうにない台詞だ
「ふふ」
「なぜ笑う?」
「きみが笑ってくれたから」
アジラフェル」

呆れの混じったクロウリーの声色には蕩けるような眠気の甘さがあり、アジラフェルはともかく安堵した。今夜のことは数日もすれば甘い戯れの種になる。きっと二人にとって必要な夜だったのだ。

「おれにはおまえのほうが、よっぽど
「それはきみがわたしのことを好きだからだ」

アジラフェルはクロウリーのためなら善良にだってなれた。もしかしたら、望まれさえすれば天使に戻ることだって拒めないかもしれない。クロウリーが望むわけがないのはわかりきったことではあるが。

「わたしは誰にでもこんなふうに優しいわけじゃない。知ってるだろ?」
「うん」
「それを知っていてもそんなふうに思うのは、きみに欲目ってものがあるからだ。わたしを好きだっていうね」
「うん

鼻腔を甘く抜ける、胸の奥をくすぐるような声。

「クロウリー。きみを戸惑わせたり困らせたいわけじゃないんだけど

「きみは美しいよ。本当に」

「何かと比べてだとか、理由があるわけじゃない。わたしはきみと会って初めて美しさがどういうものなのか知ったんだ。わたしにとってきみがすべての基準なんだよ。始まりなんだ」

「きみは綺麗だ、クロウリー。きみに勝るものなど無い」

「きみはわたしが初めて知った綺麗なものなんだ

アジラフェルは体を丸め、豊かな髪に鼻先を埋めながら旋毛にそっと口づけた。
最後のひと言まで夢の中に届いていることを願う。









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