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ニュー・トウキョウ・ランデヴ

全体公開 銀魂二次創作 2 36 5186文字
2024-09-06 20:16:38

二年後の土方十四郎と沖田総悟/土方への殺意が薄れてしまって大人になったことを実感した沖田が、土方に新しい街を案内する話

Posted by @bbbcde519

「ちっと留守にした間に随分町並みが変わったもんだな」
 土方の呟きを耳にした沖田はちらりとバックミラーに視線を走らせた。男は後部座席で頬杖をついたまま窓越しに流れる景色に目線を据えている。松平の屋敷から屯所までの通い慣れた道は、沖田にとって何も考えず運転できるルートの一つだったが、通るのは随分久しぶりだ。真選組が解体されている間は当然屯所には入れず、この道にも用がなかった。その間に背の高いビルヂングも増えて確かに様変わりしている。助手席の近藤は「トシがいない間に復興も進んだからなあ」と相槌を打った。
「道もちょいちょい変わってるよな」
「そーですね、区画整備で新しい道ができたり古い道がなくなったりしてんで。そうだ、この前かぶき町駅にでかいデッキができて、東口と西口が繋がりやしたぜ」
「マジか。戦前から一生工事してたじゃねえか。終わったのかアレ」
「いや駅の工事自体は……まあいいや。直接見てみなせえ。きっと驚きやすぜ」
 土方は鼻を鳴らした。
「なるほど、時が経ちゃ変わるモンだな。道を覚え直さねえと捕物の時困らァ。明日行って見てくるか」
「案内してあげやしょうか」
 何気ない一言だったが、二人の空気が揺らいだのが沖田にはよく分かった。近藤がチラリと沖田の横顔を見た。バックミラー越しの土方は目を見開いて驚いた顔を隠そうともしない。しかし言った当人の沖田が一番驚いていたかもしれない。ただ二人には自分の動揺を悟られたくなかった。軽い調子で言葉を続ける。
「マフィアやってた時は品川の方にいることも多かったから、これを機に確認しとくのも悪くねェでしょ。土方さんがびっくりこく顔も見られるし」
「いいじゃねえか」近藤は妙に楽しそうだった。「最近の街のことは総悟が一等詳しいし、教えてもらえよトシ」
「おう」土方は一言応じて、素っ気な過ぎると思ったのかややあって「頼む」と付け加えた。
「ふふ、さあて、何奢ってもらいやしょうかね」
 バックミラー越しに土方の視線を感じながら沖田はハンドルを左に切った。



 翌日、二人は連れ立って屯所を出た。ぶらぶらとかぶき町方面に向かって歩く。こうして並んで歩くのは随分久しぶりのことだった。
「車のが早えが、細けェ道覚えんなら歩きの方がいいでしょ。チャリでもいいんですがね。男二人で連れ立ってサイクリングなんざ馬鹿ほど目立ちまさァ」
 沖田は自分がいつもより饒舌であると自覚していた。沖田の様子に気づいているのかいないのか、土方は真昼の陽の眩しさに目を細めながら頷く。
「違ェねえな。昔より自転車が走ってないのは治安が悪くなったせいか?」
「まあそうでしょう。まだ警察もまともに機能してねえこの街じゃあちょっと置いてたら盗られちまう」
「そうだな」土方は煙を吐き出した。「自転車放置しても大丈夫なように勤めんのがこっからの俺らの仕事だ」
「なりますかね、日の本一危険な街って言われるあそこが」
「なるさ」
 土方は驚くほどに柔らかい笑みを浮かべた。二年前の彼だったら絶対に持ち合わせないような表情だった。沖田の口から言葉がまろび出た。
「あんた変わりましたね」
 言ってから違うな、と思う。土方が変わり始めたのは今に始まったことではない。気づいたのは万事屋を探しに萩に行くと決めたあたりから。だがきっとその前からずっと、彼は昔の彼ではなかった。近藤と真選組のことだけを考えて動く、昔の彼では。
 土方は何ともないような顔をして首を傾げた。
「そーかァ?」
……あ、この道」
 土方から目を逸らすように暗がりを指さす。
「前は四方をビルに囲まれて行き止まりでしたけど、ビルの一個がなくなったもんで風俗街の途中に出られるようになってんですぜ。あそこは治安も悪ィし逃げ場も多いだろうから厄介で」
「マジか」土方は懐から紙を取り出して何か書きつけた。紙をちらりと見たところ戦前の地図で、印刷の上から土方が書き込んだらしい赤ボールペンがいくつも書かれている。
「湾岸署の刑事みてえなことしますね。やっぱ古いタイプのデカだったんだ。撃たれながら犯人確保とかしそうですもんねアンタ」
「なんでだよ立場的に現場で走り回んのはオメーだろ」
「俺ァ沖田だから事件は会議室で起きてる方でさァ」
「似合わないこと言ってんじゃねーよ」
 くだらないことをぐちゃぐちゃと話しながらその後も二人で歩き、街や道を眺め、何か変化があるたびに土方は手元の地図に書き込んだ。話題は仕事に役立ちそうな街の話から最近できたうまい定食屋に至るまで多岐に渡った。中でも一番土方が驚いたのはかぶき町駅の地下が以前よりもずっと広くなっており、惣菜屋や服屋が何軒も立ち並んでいたことだった。ただし活気があるのは一部の区間だけで、少し行くと工事中の殺風景な通路に行き着く。ここもいずれ店ができて大きな商店街のようになるらしい。確かに工事中の通路がどこまでも細く伸びていって終わりが見えない。殺風景な通路を歩きながら土方は呟いた。
「まるで蟻の巣だな」
「戦時中、旧吉原の地下施設が避難所として役に立ったでしょう。あれがきっかけになっていざという時に避難できるように、ってんで始まった開発らしいんで。まァここら辺は激戦区でしたからね、あんまり進んでないようですが」
 土方はそうか、と言った。短い返答でも沖田はこの男のうれしげな様子を察した。この街の住民が避難する場所が作られつつあることは、土方にとって喜ぶべきことなのだろう。
 土方はこの街の住民のためにできることを考えている。
 土方は万事屋の解散を止めるべく萩へ行った。
 土方が真選組の解散を一時でも受け入れた。
 胸の内が針を突き刺したように鋭く痛んで、ただしすぐにおさまる。血も滲まない。
 以前は、と沖田は思う。まだ姉が生きていた頃や彼女が彼岸へ渡った直後の自分は違っていた。姉を不幸にしたと男を憎んで、それでいて近藤と真選組以外に目を向けない土方にどこか安堵した。真選組のために姉を振ったのだから、それを違えるのは不実と思ったはずだ。
 しかし今、沖田の胸にはあの頃の煮えたぎった感情はない。心の輪郭をなぞるように土方に殺意を向けていた衝動はとうに失われた。残っているものの名前を、沖田は判じかねている。
 右を向く。土方は工事現場を眺めながらペンを弄んでいる。怖いくらい優しい声が出た。
「そろそろ休憩しましょうか、アンタ煙吸いてえんでしょ」
 流石に地下では煙草に火をつけなかった土方である。

 昔もよく使った、食い物の量が多くて有名な喫茶店は雑居ビルの二階にあった。席につくと早速土方は煙草に火をつけた。
「どうです? 新しい街のご感想は」
「武州から上ってきたときを思い出した」土方は煙を吐き出した。
「萩が武州とおっつかっつの田舎風景だったからかもな。相変わらずこの街は、己の持ってる物差しじゃあ測れねェことが山程あると思い知らされるよ」
 意外な感想だった。プライドの高い土方が自分の驚きや少しの畏怖を口にするとは思わなかった。へえと沖田は言って、少し黙した後、「田舎でお山の大将やるのは楽しかったですかィ」と訊ねた。土方は「お山の大将とはなんだよ」と口先だけむっとした後、少しだけ口角を上げた。
「萩の警官どもは素直で気のいい奴らでな、ぽっと出の俺の言うこともよく聞いてくれて助かったよ。あっちは犯罪者も少ねェし」
「のんびり派出所ライフですか。退屈そうにも聞こえますが」
「まァな」あっさりと首肯する。「俺は上にも下にもめちゃくちゃな奴らに迷惑かけられて頭抱える中間管理職が合っているらしい」
「ふゥん。生まれついてのドMですね。大体アンタだって大概喧嘩ばっかしてたじゃねーですか」
「へっ」
 しばらく二人は運ばれてきた飯を食べることに専念した。沖田は海老カツサンド、土方はポテサラサンド。四切れ中の二切れ食べたところで沖田がふと顔を上げると、土方がこちらを見ていた。いつの間にか煙草に火をつけている。
「相変わらずよく食うな」
「そうでもねェですぜ、昔よかぜんぜん食えねえや。もう俺も二十歳ですからね」
「ああ」
 体の何処かが痛んでいるかのように目を細めた土方を見て、沖田は何を考えてたのか分かった。
「この前近藤さんに謝られやしたぜ。二十歳の誕生日祝えなくて悪かったって。んなこと言ったら近藤さんだって会わねえうちに三十路だし、土方さんだっていつの間にかほぼ三十路のオッサンになってるのに」
 土方は煙草を咥えたまま、歯の間から息を吐くようにして笑った。
「そういう人だよ、あの人は。変わんねェな」
「そーですねィ」
「どーだ、二十歳になった感想は。ちったあ大人になったか」
「どうも、なったようですぜ」
 土方の目を正面から見る。土方は何も言わずに沖田の顔を見返す。視線を合わせたまま、沖田は静かに吐き出した。
「どうやら最近アンタへの殺意が薄れちまったようで。これが大人になるってことなら、なりやした」
 目を逸すまいと決めていた。この男の表情を絶対に見逃したくなかった。瞬きもせずにひたと視線を据えた沖田の前で、土方はほんの刹那の間だけ、道がわからなくなって途方に暮れた子どものような顔をした。それは確かに初めて見る土方の顔だった。その眼差しは土方が短くなった煙草を掬い上げ灰皿に押し付けるその一瞬のうちに幻のごとく掻き消える。
「そりゃ結構。俺にとっちゃ万々歳だ」
「実は昔ね、アンタのことが憎くて、もうぜってー死んでほしくていろんな外法に手ェ出してた時期もありやしたけど、どれも効きゃしねえし」
「どんな告白?」
「計画殺人の方法を考えて眠れなくなった夜もあったし、いい感じの人気のない廃墟を何軒もストックしていた時期もあったし」
「どんな趣味してんの!?」
「最近はそーいう、痛えくらいの衝動ってのはなくなったみてーで」
 きっと真選組がなくなったり戦やなんやらで土方さん殺るどころじゃねーからだなって思ってたんですけど、まあまあ落ち着いてきた今でも、あの時の殺意は戻ってこないんでさァ。口に出してしまうと、ここ最近自分の中で抱えていた靄が晴れた気がして、沖田は勢いよく三切れ目の海老カツサンドにかぶりついた。
 対して土方は煙草に火をつけることもなくぼんやりと沖田の顔を眺めている。沖田は満足感が声に出るのを隠せなかった。
「土方さん、寂しいんでしょう」 
「バカ言え、清々すらァ」
「まァでも安心しててくだせェよ。俺ァ殺意が減ったと言っただけでィ。生きてるアンタを部下として辱めた方が殺しちまうよりも楽しいかもと気づいたんでね。副長の座はいつでも狙ってやすぜ。それにアンタの命が必要だってんならいつだって宗旨替えしまさァ」
「ああ。わかってるよ」
 土方の声は低く優しく響いた。全てを包み込むように。アンタは何にも分かっちゃいないくせに、まるで小さい子どもを宥めるような声を出す。昔の自分だったら猛烈に苛ついていただろうと思ったが、沖田はもう大人なのでいちいち腹は立てない。だがほんの少し嫌味を言うくらいは許されるだろうと思った。
「土方さんは老けやしたね、それ、食い切れないなら貰いやしょうか。オッサンの胃にはきつい量でしょ」
 途端にふやけたサンドウィッチを食べ始める土方のムキになった横顔を見て、沖田は珍しく、声を出して笑った。笑うことしかできなかった。沖田はもう子どもではないから早死にしろ土方とは言えなかったし、年下らしく長生きしてくだせェよ、とはもっと言えなかった。代わりにこう言った。
「新生真選組のために、精々働いてくだせェよ、副長」
「わかってるよ」
 と土方はまた言った。今度は少しは分かっていそうだったので、沖田は溜飲を下げて、やっぱり土方が持て余していたポテサラサンドの最後の一切れを食べてやることにした。大人なので。




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後書き

 友人との会話で二年後の土方さんと沖田くんって可能性無限大じゃない?と気づいて書き始めた話でした。
 幼い時からずっと一緒だった二人が一時期離れた後、距離感を掴み兼ねたりお互いの変化を感じたりするんだろうな、それを寂しく思ったりうれしく思ったりしてほしいな〜という夢を詰め込みました。
 二年後の世界で真選組は再建されたけど浪士も少なくなるだろうし仕事内容は変わるのかな、治安はどうかな、とかいろんなことを考えられて楽しかったです。
 タイトルは「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」のもじりです。新しい東京の街で生きていく真選組を見たいものです。
以上です。読んでくださりありがとうございました。


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