カルみと(+☕️🐸)
シナリオネタバレぼいどあり
drmy匂わせあり
@popo_trpg_ss
色とりどりのケーキたちがちょこんと可愛らしく並んでいるテーブルを眺めた神無は、きらきらと目を輝かせて感嘆のため息を吐いた。
「ひ、聖先輩、ほんとに食べていいの…?」
ここはひよこ宿舎のリビングだ。
本日非番の刑事は神無と帰代と聖、そして神無の付き添い兼事件の調査協力者としてやってきている縞斑だった。
神無の言葉を聞いて顔を上げた聖は、シャワーを浴びてわずかに湿った髪を拭いながら明るい声を掛ける。
「いいよ、今いる人数分しか買ってないからみんなには内緒な?」
「うんっ!ありがとう!!」
ジムに出掛けて軽い運動を済ませた聖は、帰り道に見かけたケーキ屋で人数分のケーキを選んで帰ったのである。
聖の言葉を聞いて小躍りした無類の甘いもの好きである神無三十一は、悩むようにまじまじとケーキと睨めっこを始めた。
「んー…チョコ……いや、生クリーム…モンブラン……モンブランある…」
「三十一ちゃんが最初に選びな」
「いいの……?!んんん……じゃあ、モンブランがいい!」
先輩三人に一番手を譲ってもらった甘いもの好きの最年少は、長考の末にモンブランを選ぶことにした。
その後縞斑がいちごショートケーキを選び、帰代がチョコケーキ、聖がチーズケーキと続く。聖の淹れたコーヒーをお供にして、四人の内緒のお茶会が始まった。
神無はてっぺんに盛られたつやつやの栗にフォークを突き刺すと、ほっこりと甘く煮た優しい味に頬を押さえて身悶えする。
「美味いか?」
「ん!おいしい!聖先輩ありがとー!!」
「あはは、ケーキひとつでここまで喜んでくれると買い甲斐があるなぁ」
大事なケーキを一口一口大切に食べる神無の姿をふたりが微笑ましく見守っていれば、唐突に隣に座る縞斑が自分のケーキのてっぺんを陣取るいちごをフォークに刺した。
彼はそれを自分の口に運ぶことなく持ち上げると、帰代の作ったミルクと砂糖たっぷりのコーヒー牛乳で喉を潤した神無の口先に持っていく。
「はい、神無ちゃん」
「ん!いただきます!!」
差し出されたいちごを神無は躊躇いなく頬張った。コーヒーを持ったまま沈黙する聖と帰代の前で、しゃく、とみずみずしい爽やかな音が部屋に響く。
「ん〜!いちご甘くておいしい!」
「こっちは旬だからね」
「買って帰りたい〜!」
「たしかに生鮮食料品の時間移動は試したことないな……今度やってみようか」
「やった!!」
満足そうに頷いた神無は、その後ももふもふと美味しそうにケーキを頬張る。
しかし、そんな彼らの姿を帰代と聖は微笑ましく見守れずにいた。
何かがおかしい気がする。けれどその違和感の正体が分からない。そんなふたりの放つ曖昧な空気などつゆも知らずに、縞斑はふと手を伸ばして神無の頬についたクリームを指で掬った。
まさかと身構える聖の前で、彼は躊躇うことなく指に乗せたクリームを口に含む。
「へぇ、クリーム美味しいな」
「でしょ!スポンジも美味しいよ!」
濃厚なのに甘さが控えめであるからか、しつこさを感じないマロンクリームに縞斑がしみじみと感想を漏らすと、嬉しそうに頷いた神無がケーキを一口掬って縞斑に差し出す。
長い髪の頃の癖が抜けないのか、彼は切り揃えられた黒髪を耳に掛けると差し出されたフォークを口に運んだ。
「ん、美味しい」
「でしょー?」
「ふたりは、その……付き合ってんの?」
ふたりのやり取りを見ていた聖は、ついに耐えかねてそう口にする。
隣の帰代は苦い顔で視線を逸らしているが、生憎聖はそういった状況に配慮より興味を優先するタイプだ。
ところが、一回り近く年下の可愛い後輩に訪れた春の気配にわくわくと目を輝かせる聖に向けて、顔を上げた神無と縞斑は揃って怪訝な表情を返す。
「えぇ、そんなわけないじゃん」
「えっ」
「すぐにそういう話に繋げないでくれる?」
「いやっ」
「つーか聖先輩は俺たちが男なの知ってるだろ?この前お風呂被ったじゃん」
「でも、」
「聖、コーヒーおかわりしたいから来てくれ」
懸命に食い下がろうとした聖の口を咄嗟に塞いだ帰代は、適当な理由を作って聖の腕を引いてその場を立たせた。
不思議そうな顔を見合わせる神無たちに気にせず食べていてくれと声を掛けた帰代は、聖をキッチンの奥まで連れて行く。
「ぷは…っなんで止めるんだよ変ちゃん!」
「本人たちが否定してるなら踏み込むなよ」
帰代としても付き合っていないという神無たちの言葉を信じるのならば、ふたりのふれあいは明らかに同僚の域を超えたものだと分かっている。
今どき家族や友人相手でも限られた人間しかやらないようなスキンシップを、ふたりはそれが当たり前であるかのように平然とやってのけたのだ。
物を申したい気持ちは帰代も山々だが、縞斑との付き合いを反対している彼にとっては都合がいい。
「そういう友情や付き合い方もあるんだろ」
「…変ちゃんと嘉羽みたいな?」
「死にたいらしいな??????」
「ごめんごめんごめん地雷踏んでごめん」
聖の顔を掴んで力を込める帰代に平謝りした聖は、どうにか彼から解放されて痛む頭を押さえて唸った。
そんな彼に深く息を吐いた帰代は彼を連れ出した手前手ぶらで戻ることもできず、カップにコーヒーを注ぎながら言葉を続ける。
「複雑な関係なんだろ、色々と」
「えー……未来の多様性?」
「そういうことだ。いつまでも女子高生みたいに他人の色恋に口を挟むのはやめなさい」
「納得いかねー……」
不服そうに唇を尖らせる聖を連れた帰代は、何事もなかったかのようにリビングへ戻るのだった。
※
その一件から数日後、聖と帰代は深夜のリビングに足を踏み入れるか否かを悩んでいる。
彼らの視線の先には、リビングのソファで眠るふたりの人影があったのだ。
「変ちゃん行ってこいって…!」
「嫌に決まってるだろあんなの…!」
ひそひそと攻防を繰り広げる彼らが見つめるソファには、背もたれに体を預けてすやすやと穏やかな寝息を立てる神無と、そんな彼の膝に頭を乗せて眠る縞斑の姿があった。
「膝枕って…!膝枕だよ変ちゃん…!!えっ俺がおかしいの?!膝枕ってひょっとしてあと20年で誰にでもするような代物になるの?!やったね日本の未来は明るい!!」
「落ち着けバカ!声がでかい!!」
動揺して声を上げる聖の頭を叩いて黙らせた帰代は、まじまじと彼らを眺める。
おそらく風呂上がりに話をするうちに眠ってしまったのだろう。神無は湯冷めしないように肩から毛布を羽織っており、その端は縞斑の腹にも掛けられていた。
「あれは…………」
「あんなの付き合ってなきゃおかしいじゃん!」
「聖うるさい」
「セックス以外はしてるだろ絶対!!」
「やかましいなお前は!!むしろあれでセックスしてないのも異常だろうが!!!」
熟年夫婦のような雰囲気を醸す彼らにたまらず本音が漏れた帰代が慌てて口を塞げば、部屋の中から小さな呻き声が聞こえる。
ふたりが息を潜めて様子を伺えば、神無が声を聞いて目を覚ましたらしく目を擦りながら辺りを見回していた。
「…なんかいま……きじろせんぱいとひじりせんぱいのこえした……?」
まだ回らない舌でぼんやりと呟く神無だが、先輩刑事たちによる本気の隠密を探り当てることは寝起きの頭では難しかったらしい。
気のせいだろうと首を横に振った神無はふと、膝の上で眠る縞斑を見下ろす。
ふにふにと頬を突いてみても起きる気配のない彼を見て、神無はふにゃりと嬉しそうに笑った。
「ふふ、」
隙のない彼が気の抜けた寝顔を晒してくれたことが嬉しいのか、くすくすと楽しげに笑った神無は縞斑の髪を柔らかく撫でる。
そうして再び眠気に身を任せた彼の姿を黙って見守っていた聖は、ついに耐えきれなくなった様子で物陰から立ち上がった。
「くそっじれってーな…まってて変ちゃん、今から俺がアイツらのことちょっとえっちな感じにしてくるから」
「やめなさい」
駆けて行こうとする聖の肩を掴んで止めた帰代は、そっとリビングから離れると私室の並ぶ二階への階段を慎重に登る。
彼らを咎めないことにしたらしい帰代に対して、聖は相変わらず不満げに眉を寄せて抗議した。
「なんで止めるの変ちゃん、宿舎の風紀が乱れるし、いい加減ハッキリさせないと」
「お前が介入したら更に風紀が乱れるでしょうが!さては眠たいんだろお前!とっとと寝ろよ!!」
普段は自身が風紀を乱しているという自覚のないらしい聖は首を傾げるが、そんな彼を部屋に押し込んでため息を吐いた帰代はうんざりとした様子で言葉を続ける。
「…今度、縞斑だけのタイミングを見計らえ」
風紀について物を申すのならば、保護者である彼に優先して伝えるべきだ。
そんな意図を込めて呟いた帰代だが、部屋に閉じ込められて扉越しにその言葉を聞いた聖の受け止め方は違った。
「…なるほど?」
『縞斑が実のところ神無のことをどう思っているか聞き出せ』という都合の良い解釈をした聖が顎に手を当ててさながら名探偵の如く頷いたことを、疲れ果てた帰代は知らない。
※
「そんなわけで、実際どうなの?」
「……いや、どういうわけ?」
神無が流石とアキラと三人でゲーム合宿という名のお泊まり会を開催するその日、聖は暇を持て余す縞斑を誘って酒を開けた。
グラスに注がれたウイスキーを見つめていた縞斑は呼び出された経緯を聞くと、怪訝な表情のまま中身を傾ける。
「……違うって言ったはずだけど」
「でもあっちの世界で色々あったんでしょ?」
「君の考える“色々”なことは無いよ」
「一夜の過ちで抱いたりしなかったわけ?」
「無いつってんだろ」
「冷たいなぁもう」
酒は美味いが非常に面倒臭い。縞斑は顔を顰めて露骨に感情を露わにするが、それを汲み取った上で聖はにこにこと話を続ける始末である。
「情が芽生えたりしないわけ?あんなに可愛い後輩なんだし」
「しつこいな……何も話すつもりはないし、そもそも話すこともないって言ってるだろ」
縞斑は刑事たちの中でも特に聖のことが苦手だ。帰代も神無との関係に何かと口出しをして面倒臭いが、感情が分かりやすいため扱いが簡単である。
それに比べて聖は他者の心理を読み解くことに長けており、自分の感情や真意を隠すことも上手い。巧みな話術と距離感で欲しい情報を抜き取るという点において、彼はこの上なくやりずらい相手だ。
こういう相手には何も情報を出さないに限る。酒だけ堪能して面倒な話は全て躱してしまおうと切り替える縞斑に、唇を尖らせていた聖は何かを思いついた様子でにやりと笑った。
「じゃあさ、俺が三十一ちゃんのこともらっていい?」
「……は?」
「素直でとにかく顔が良いし、将来有望な優秀刑事だ、ちょっと若いけど10年なんて成人してたら誤差だし……なにより俺好みに育てられると思うと、」
ぱしん、振り下ろされた縞斑の拳を笑顔の聖が手のひらで受け止める。
無表情のまま力で強引に押そうとした縞斑だったが、真正面の力勝負は部が悪いと思い直して手を解いた。
「なんで俺、殴られそうになったんだろうね?」
「……さぁ?なんとなくじゃない?」
おそらくこれも聖の計算のうちだったのだろう。まんまと煽られてしまったことを恥じた縞斑は、平然を装い酒で唇を湿らせて言葉を続けた。
「何度も言うけど、そういう情はないよ。一回り以上も年下にそんな感情抱くわけないだろ」
「でも三十一ちゃんがどう思ってるかはわからないし、」
「いいや、ないね。ありえない」
「……その根拠は?」
どうしてこうも頑なに否定するのかと言いたげな不満げな瞳を前に、薄く瞳を開いた縞斑は分かりやすく怒りを滲ませた翡翠に聖を映して見せる。
「……あの子が俺に隠しごとなんてできるはずがない」
「…………、」
「腐っても十数年刑事やってた俺が、あの子の嘘を見抜けないとでも?」
「まぁ……確かにね、三十一ちゃん嘘が下手だし……でも自覚がないだけかも……」
何か知っているのか納得した様子で頷く聖にまで苛立ちが募った縞斑は、とにかく、と呟いて会話を区切った。
飲み干したグラスをたんとカウンターに置いた彼は、正しくその苛立ちを汲み取って口をつぐむ聖に念を押す。
「これ以上うちの神無ちゃんに吹き込むのはやめてもらえるかな?」
「……、」
「次やったら帰代ちゃんにも言うから、そのつもりでよろしく」
帰代に叱られた方が身に染みるだろうと考えて聖を脅した縞斑は、黙りこくる彼を無視してリビングを出て行った。
キッチンの蛍光灯の下、歩き去った背中を唖然と見送った聖は、丸く目を見開いてグラスを手にしたまま固まっている。
「………………うち……の……?」
“うちの”という意味とは、果たして。
首を捻っていた聖はやがて、考えることを止めるとグラスを空に掲げて一息に煽った。
終