みずいこお題部第十三回より「おめでとう」【ゴールド(金色)】
関西弁非ネイティブのため口調は勘頼り
@a_yuuzora
「俺、もしかして水上のこと好きなんちゃう?」って気付いたのは突然やった。
今までもその気配みたいなんはちょいちょいあったんやけど、それがまさか恋だとか思っとらんくて、モテたいって気持ちはありつつも別にカノジョが欲しいとかそういうのはなくって、人間関係には満足しとるっちゅーか楽しくておもろい友達がいっぱいおるだけで毎日楽しいし一番傍に水上がおったらめっちゃええな、他になんもいらんな、って思ったら、「それって好きってことやない?」って思ってもーたんよな。
もうこの気づきは俺にとっては世紀の大発見!って感じで、ぶわーって顔が熱くなって視界がきらきらして胸がどきどきして「これが、恋!」ってなった。俺の初恋は幼稚園の先生だったんやけど、本気でガチの恋は水上に捧げることになった。
そんで、もしかしたら水上も俺のこと好きなんやないかなとも思っとる。というのも、俺が思う水上の印象と、周りのやつらが言う水上の印象って結構ちゃうねんな。俺から見たら賢くて頼りになってめっちゃ優しくてノリ良くてよぉ笑う楽しい奴やねんけど、みんなから見たら「悪い奴ではないけど別に優しくはない」らしいねん。確かに後輩らにちょっと意地悪言うのはちょいちょい見る気ぃはする。けど俺には全然言わん。ほんで、他所ではそんな笑わんらしいねん。でも俺の前ではよぉ笑う。水上の金色の瞳が笑うときらきらして綺麗やなって思うし可愛いなって思っとるんやけど、これを間近で見れとるのって俺だけなんやろか。ほんなら、やっぱ水上俺のこと好きなんちゃう?
でもちょっと勘違いやったら怖いから相談してみた。誰って、隠岐に。
ウチで一番のモテ男……というのはあんま関係なくて、俺と水上のことを一番よぉわかってる奴やから。あと、俺の知る限り水上と一番親しいっちゅーかダル絡みする仲っちゅーか距離が近いっちゅーか……なんか、時々阿吽の呼吸で通じ合っとる男なので。そういうのなんかズルない? これってもしかして嫉妬? 水上が隠岐の名前呼んだら、隠岐がはいはいって言って具体的な指示する前に動くの、なんか羨ましいねん。俺にもそういうことしてほしい。察せるか分からんけど。でも俺が水上呼んだら、水上は俺の頼み事先回りして「〇〇手伝えばええんですか」ってぴったり言い当てんねん。ほんま凄いやつやで。あ、話逸れた。とりあえず隠岐にこっそり打ち明けてみた。
「なあなあ、俺、水上のこと好きになってもーた」
もしかして隠岐と水上が付き合っとったらどうしよってちょっとだけ思っとったから、結構ドキドキの打ち明け話やったんやけど、隠岐はぱっと目を丸くして拍手した。
「わ、ほんまですか! おめでとうございます」
「おめでとう? 何が?」
「あっ、まだお付き合い報告やなかったわ。先走ってすいません」
「俺が水上のこと好きになったらお前的にはおめでとうな出来事なん?」
「そりゃそうですよ。だって先輩イコさんのことずっと前から好きですもん。……あっ、これ言ってええことやったんかな」
隠岐はぱっと口を覆って目ぇ逸らしたけど、俺はちゃんと聞き逃さんかった。
「やっぱそうやんな! なあ俺あいつに告ってええと思う?」
「もちろん、ええと思いますよ。先輩のリアクション想像もつかないですけど、少なくとも嫌がられることはないんちゃいます?」
「せやんな! ありがと!」
そんなこんなで太鼓判をもらって自信満々で水上に告白しにいったわけなんやけど、水上の反応はどうにも鈍かった。少なくとも嬉しいって感情ではない感じ。なんでや。
「え、俺好きとか言ったらあかん顔やった? もしかしてこれパワハラになる?」
「パワハラにはなりませんね、ハラスメントとは思っとらんので」
「せ、せやんな? ほんでお前も俺のこと好きやって聞いたんやけど」
「ええ、大好きですよ。イコさんに出会えたのは俺の人生で一番の幸運やと思っとるし運命の出会いやって確信してます」
「ほんなら俺とお前、両想いやんな?」
「そういうことになりますねえ」
「なんでそんな不満そうな顔しとるん」
「うーん……俺の夢、聞いてもらってええですか」
「夢? 将来の夢的な? ええよ」
「あのですね、俺、イコさんの結婚式に参列するのが夢なんです」
参列? 参列言うたコイツ? 両想いなのに結婚せえへんの? いや男同士ではできんこと重々承知やけど。
水上は俺の方を見ながら、俺ではない何かを見てるような遠い目でつらつらと『夢』を語りだした。
「披露宴でね、イコさんが可愛いお嫁さんと高砂に座っとんのを、隠岐たちと一緒にちょい遠めの新郎友人席から見たいんです。一番近い友人席に居んのは嵐山さんらです。友人スピーチも嵐山さんかな、弓場さんかもしれへん。なんかおもろくてエエ感じのスピーチ聞いて、笑いどころで一緒に笑ったりして、新婦さんとの出会いのビデオなんかみたりして、一緒に写真とれる時間なったら適当な頃合い見てちょっと写真とったりして、二次会もあったら行って。ほんで夜になったら俺は多分ボーダーで働いてると思うんで『明日仕事やから帰るわ』言うて三次会まではいかずに新幹線乗って三門まで帰るんです。その車内で引き出物ん中にある、バウムクーヘンだか紅白饅頭だかを食いながら『ええお式やったなあ』って言いながら泣くんです。そんだけできたら俺の人生は充分満足なんです」
淀みなく語られる未来予想図がいやに現実的なのになんだか不思議で、俺はぽかんとするしかない。『夢』の話の中に出てくる水上がなんか俺と妙に距離が遠いのがすごい違和感あんねんけど、水上はそういうものやって確信した口振りやから違和感持ってる俺の方がおかしいんかな、って思う。ってか、俺確かにタメのやつらと仲ええけど、一緒に過ごしとる時間は水上とのほうが圧倒的に長いねん。なのに、そんなに距離あるん? なんで? お前、友人スピーチもしてくれへんの? 新幹線乗って帰るって、俺地元戻っててお前は三門残っとるん? ほんまになんで?
水上と話しとると頭の回転速すぎて時々何言っとるかわからんことがあって、ビックリ箱みたいやなあって、そういうとこが水上と話してて好きなとこでもあるんやけど、今日の話はいつも以上にわからん。ビックリ箱通り越してミミックみたいになっとる。ワクワクのドキドキやなくてヒヤヒヤのドキドキをお出しされとるみたい。
「お前は、そんなんが夢なん……?」
恐る恐る聞いてみると、水上は当然でしょって顔をする。
「好きな人が人生で一番幸せな瞬間目に焼き付けられるんやから、最高に幸せな夢っすよ」
そう言われるとそうかな、って思う。いややっぱおかしない?
「やからイコさん、いつか俺の夢、叶えてくださいね。じゃ、お先に失礼します」
違和感を言語化できないまま考え込んでたら、いつも通りの柔らかい声音と穏やかな笑顔を残して水上は自分の家に帰っていった。
……あれ、これフラれた?
水上が考えや判断を間違うことなんて滅多にないから、水上の夢の話を頭の中で繰り返して理解しようとしとったら、その晩夢をみた。寝るときに見る夢。
夢の中で、大人の水上が「じゃあまた」と手を振って、大きな駅に向かって歩いていく。夜なのに照明の光で明るくて人も多くて、その雑踏に紛れていくスーツ姿の背中を見送りながら、「じゃあまた」の「また」がずっと来ないことを俺はなんとなく悟ってた。三年後か五年後か十年後か、ひょっとしたらもうこれっきり。
そう思うとたまらなくなって、あの背中を追いかけたいのに俺の腕には何かがしがみついていて動けなくて、その何かを見た一瞬の隙に水上の姿を見失ってて、人混みの中を目を凝らしても見つからなくて、呆然とする。そんな夢。
起きた瞬間それが夢だったことにほっとして、そんで夢があんまり怖くて寂しいものだったからめちゃくちゃに号泣して、散々泣いて涙が引いたあと子供みたいに泣いてもーたことにちょっと恥ずかしくなった。怖い夢見て泣くなんて、ほんまにいつ以来やろ。
とりあえず目元冷やして赤みとってから、特に理由もなく作戦室に向かうと丁度隠岐がおったから、もっかい相談してみた。水上に告ったらフラれたっぽいんやけど、って。経緯も説明した。
「いやいやいやイコさん、何言いくるめられてんすか。彼女もいないのに誰と結婚するって言うんです?」
「……確かに!」
水上があまりにも『いる』前提で話すからそういう相手がもう存在しとるみたいに思っとったけど、そんな子影も形もあらへんねん。生まれてこのかたいたことないねん。ちょっと自分で言ってて悲しくなってきたな。でも事実やし。
「先輩がイコさんファーストなのは前からですけど、なんか思ったよりこじらせてんなぁ……」
「俺ファーストで考えたらなんで両想いなのにフラれることになんのかさっぱり分からへんわ。頭ええやつの考えてることってほんま謎や」
「おれは先輩が考えてたことなんとなく分かるんで、多分こう言ったら上手くいくんちゃうかなーって思いついたことありますけど、聞きます? どう転がるかの責任まではとれませんけど……」
「聞く聞く!」
隠岐がこそっと教えてくれた言い回しは、なんか意地悪な言い方やなって思った。けど、隠岐は「先に意地悪いこと言うたのはあちらなんですからイコさんもちょっと意地悪なくらいでええんですよ」って笑った。
ちょうどええ感じに水上も作戦室に来たから(別にシフト入ってない完全オフの日なのに暇だとここに集まるのはウチの隊のええとこやなって思う)、さっそく伝授された方法を実行してみることにした。
「水上、昨日の話の続きなんやけどな」
「イコさんの結婚式の話っすか」
「まあ、そうやけどそうやない、みたいな。えっとな、結婚式が『人生で一番幸せな瞬間』ってお前言っとったやろ」
「言いましたねえ」
「あれから考えてみたんやけどな、どうにもそれが『人生で一番幸せな瞬間』になる気がせえへんねん」
「え……? は? なんでですか?」
うわ、水上がこんなに疑問符でいっぱいみたいな顔すんの初めて見た。おもろ。
てかコイツん中で結婚式が幸せの象徴として強固なのなんでやろな。子供の頃にめっちゃええ式にお呼ばれしたんかな。俺はああいう場でじっとしてられへん子供やったから親戚の結婚式は全部お留守番で、結婚式って見たことないねん。あれ、また思考が逸れた。
「昨日、お前が俺のこと好きやっていうのを聞いたやんか。でな、その事実がある前提で俺が誰かと結婚するとするやろ? そうすると、俺は愛情深い男やから『水上を俺の手で幸せにしたる道ってなかったんかな』って思うで。ずーっと。一生。それってあんまり幸せな人生とは言えへんのやないかな」
「一生!? いやいや、俺のことなんてそんな引きずらんでくださいよ」
「引きずるに決まっとるやろ。俺のこと好きって言ってくれた初めての人なんやからそう簡単に忘れられへんて」
「忘れて隣におる子大事にしたってくださいよ」
「今俺の隣におる子がお前やねん」
「でもイコさん女の子好きでしょ」
「どの女の子よりもお前が好きやで」
「こんなつまらん男のどこにそこまで好きになる要素あるんすか」
「え、水上の好きなとこいっぱいあるけど、一から全部挙げてこか?」
「いや結構です」
おもろそうだと思ったのに、水上の好きなとこプレゼン大会。
「そんなわけでお前が言ってた通りの夢は叶えられそうにはないんやけど、なんと今なら! ここだけの話! お前が俺とお付き合いするだけで『人生で一番幸せな瞬間』を特等席で継続して見る権利が得られます! どうや!」
通販番組か実演販売のノリでぐいぐいアピールしていくと、水上は少し迷ったような顔をしてからふっと笑った。昨日はずっと遠いところをみていた瞳が、ちゃんと俺を見てきらきらちかちか光ってる。俺だけが見られる、いっとう綺麗な金色。
「それは、なんとしてもゲットせなあきませんね」
「せやろ! ほな商談成立ってことでええかな?」
「これって商談やったんすか」
「あ、ちゃうな。セールストークに熱入りすぎてもーた。えっと、お付き合い成立ってことでええかな」
「ええですよ。イコさんの幸せがそこにあるなら」
「よっしゃ! じゃあこれからよろしくな!」
水上の手を両手で握りこんで嬉しさのままぶんぶん振ると一層商談成立とか同盟締結とかそんな感じになった。なんかいまいちロマンがないな? まあええか、嬉しいし。
「――そんで、衝立の裏に隠れとる隠岐くんは何をしとんのかな?」
「あっ、バレとる」
あ、こっそり陰で見守ってもらっとるの忘れとった。また俺が知らんうちに言いくるめられそうになったら助け舟出してって言っておいてあったんやった。
「狙撃手がそんなに隠蔽下手くそでええんかぁ?」
「いやいや、この距離は流石に隠れるのに限界ありますって。――イコさん、今度こそおめでとうございます」
「おん、協力ありがとな」
「いえいえ」
「イコさんが珍しい物言いすると思ったらお前の入れ知恵かい」
「先輩には一番効くやつやったでしょ」
「図星やから腹立つわぁ」
隠岐はへらっと笑い水上はしっぶい顔をしとる。仲ええのはええことやけど、二人でなんか通じ合っとるのはやっぱ羨ましい。これって嫉妬してええやつ?
すると隠岐は何かを察したのか会釈しながらそそくさと出口に向かった。
「そんじゃおれはお先に失礼します。今度は痴話喧嘩におれ挟まんでくださいね」
ごめん、また挟むかも。だって俺の知らん水上情報いっぱい握ってそうなんやもん。