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炎に焼かれて終わるはずの物語

全体公開 反転ドラヒナ 9 10448文字
2024-09-12 22:14:05

ピクスク様のドラヒナ童話パロイベント、『オカシなどら×ひな寓話集』に参加した2作目です。
反転ドラヒナに、グリム童話版の『青髭』と『人殺し城』を混ぜたお話を演じて貰いました。
個人的に、幼い頃『アニメ グリム名作劇場』で見た青髭の、ドクドクと鍵から血が湧き出て来るシーンが印象的で、怖かったのを覚えております。
人殺し城は、ほぼ青髭と同じ話ですが、
・入ってはいけない地下室に、死体の腑分けをしているお婆さんがいる。
・逃げる手助けをしてくれる。「もう捌いたから、問題ない」と、虚偽の報告をしてくれる。
・隠れた馬車は、他の貴族の元に辿り着き、そこで事実を訴え、犯人は法的に裁かれる。
点で違います。
そのままだと、バッドエンドルートになりそうだったので、お婆さんに活躍して貰っております。
言葉遣いで、正体はバレバレだと思いますが(笑)
三人目が、頑張るのでハッピーエンドです。話を2つ繋いだので、ものすごく長くなってしまいましたが、安心してお楽しみください。

これまでの反転ドラヒナのお話は、こちらから読めます→ https://privatter.net/category/50931

Posted by @kw42431393

 むかし、むかしのお話です。
 ある国に、氷の様に冷たい風貌とは裏腹に、評判のいい領主がいました。
 彼が治める国は平和で、戦場に立てば百戦百勝、立ち振る舞いは優雅で何より、全ての女性に敬意を表する事を信条としておりました。
 気になる所と言えば、彼は夜しか人前に姿を見せず、近づけば鳥肌が立つぐらい寒気がし、見事な青い髭が目立つ事ぐらいでした。
 領民達は彼を信頼し、文句を言う者はだれ一人として、『いなかった』ものでした。

 いつからでしたか元々、彼が女性好きであったのは間違いありません。
 それが、度を超す様になったのです。
 初めに声がかかったのは、由緒ある血筋の、適齢期である令嬢達ばかりでした。
 それがいつしか、領民の少女達にも手が伸びていきました。
 彼に声をかけられた少女達は、驚き、感激し、幸せな公爵夫人を夢みながら、豪奢な黒壇の馬車に乗せられて行きます。
 家族には膨大な身代金、あるいは地位が約束され、誰一人として文句を言う者は、いなかったのです。
 
 その後の少女達を、『誰一人として、見た者がいない』という、事実が知れ渡るまでは
 そして、今宵も

「こんばんは美しいお嬢さん。今宵の月の様に清らかな瞳をもって、私の恩人家族を救う為に、ある男の心を縛る、金の枷となってはくれないだろうか?」
「ひっ、貴方様はッ!?喜んで、公爵様どんなお言いつけにも従います。」

 月が明るい夜に、青髭の公爵様に目をつけられたら、もう二度と戻れない
 いつしか、そんな戯れ唄が隠れて流行るほどに。

 「人間共との抗争は、ますます激しくなってくる。人間同士の争いにも、巻き込まれざるを得ない我々の身は、安寧ではない。竜の血族を絶やしてはならない竜の血族の末は、あの馬鹿弟子だけだ。今度の娘ならば今度こそ。」



 「暇なんですか、師匠?私は、忙しいのです。帰って貰えませんかね?」
 「忙しい?忙しくしているだけだろう?不出来な弟子よ。」
 
 灯りのない暗闇で、コトリコトリと音がします。
 夜目が利く夜の者達には、不機嫌な顔をしている青髭公爵の前で、白髪の男性が地図の上にボードゲームの駒を並べている風景が、見えたはずです。
 見た目は30代と言ったところでしょうか、暗闇に目立つ白髪と、不自然に黒い右目が、不気味な雰囲気を醸し出していました。眉から頬にかけて走る傷痕から察するに、義眼を嵌めている様でした。
 「今度のオスマン軍にしたって、本来攻めて来る予定はなかった。わざわざ、情勢の悪い方につきおって。援軍要請してきた方は命を繋いだが、オスマン軍は、報復にこちらに向かってきたではないか。」
 「それは、結構。勝てると分かっている戦なんて、つまらない。盤面をひっくり返すからこそ、面白い。愚かな領民共は、私の事を異教徒共を追い払った英雄だとか、ぬかしているそうで。度し難い。」
 白髪の男性は、山岳を示す場所に白い弓兵の姿をした駒を並べます。
 「うむ川から回ってくる可能性もある。ここにもしかし、そうするとこちらの村が手薄になる。」
 「聞いておるのか!ドラルク!?」
 怒声に、ため息をつきながら『ドラルク』と呼ばれた男性は、やっと青髭公爵に顔を向けました。
 「お小言は、聞き飽きました。私に再生能力がないから、危険な戦場暮らしをやめ、家庭を築いて、本家を継ぐ用意をしろ、とおっしゃるのでしょう?保険として世継ぎを確保せよ、とも。」
 「そうだ。現時点で、我々が吸血鬼である事は、人間共に知られておらぬ。だが、知れば手のひらを反して、粛清しに来るだろう。その上、好き好んで戦場にしゃしゃり出て来る愚か者が、我らが血族の次期当主とあっては、黙っておれん。オスマン軍は、私とドラウスで和平交渉をしてやる。大人しく、この城に籠っておれ。」
 「次期当主は、お父様ですよ。それで、終わりです。ご存じの通り、私は不死身ではない。世継ぎを確保したいなら、お父様達に頑張って頂くか、直系に拘らずに、ご自身でされてはいかが?囲ってる女性達の誰かに産ませた男児に、お父様の血を。」
 「貴様!!言って、いい事と悪い事があるぞ!!」

 その瞬間、周囲の調度品が全て凍り付きました。これが、この青髭公爵の側に寄ると寒気がする原因なのです。
 特に、彼が持つ氷化能力には精神状態が影響するらしく、かなり気が高ぶっているのが見てとれました。
 「月が明るい夜に、青髭の公爵様に目をつけられたら、もう二度と戻れないアハハ。」
 パキッと、足元で氷が割れる音がしました。
 ドラルクが、立ち上がったのです。暗闇に緊迫した空気が流れます。
 「夜な夜なご苦労な事ですな、師匠。弟子の『好みは知っているつもり』で、領地内でそれらしい娘を見繕っては、ここへ連れて来る。おかげで、名君だった貴方の評判は散々。甲斐なく、貴方が連れて来た小娘共は、どいつもこいつも約束の一つも守れぬ、綺麗なだけの人形ばかり。」
 「どこの貴族も政略の為に、我慢しておるぞ。見た目だけでも、合せてやった事を感謝しろ。」 
 嫌悪感を露わにしたドラルクは、ポケットから取り出した物を、青髭公爵に投げつけました。
 怪訝そうに彼は、手の中に受け止めた物を確認します。それは、小さな金色の鍵なのでした。
 「手狭になってきたので、連れ帰って頂きたい。弟子の使い古しは失礼と思い、指一本触れておりません。貴方も見たのでしょう?その鍵が合う、金の扉を。私が席を外している間に。」
 そうこうしている間に、青髭公爵が嵌めている白い手袋が、ジクジクと赤く染まっていきます。
 金色の鍵から、とめどなく血が湧き出て来るのです。約束を破った証として
 「『その鍵が合う金の扉は、絶対開けてはならない』と、伝えてあったのに最後の娘は、なかなか頑張りましたが、2週間が限度でしたな。湧き出て来る血を吸わせようと、干し草の中に隠して言うに事欠いて、『私じゃない、ジョンがやった』と泣き喚き、無様な姿を晒してくれましたよ。」

 空気が凍り付くパキパキという音に、キキキと何かが軋む様な音が、混ざります。
 それは、彼の義眼から鳴っているのでした。そして、カシャっと腰に下げたレイピアが音を立てて

 ドラルク様、忙しい所をごめんヌ。国境警備隊から、応援要請が来てるヌ。早く、支度を

 突然、扉が開いてアルマジロが、顔を出しました。
 こんなに可愛らしい姿でありながら、ドラルクの使い魔で、魂を共有した『半身』で、『主の盾』として幾多の戦場を駆けてきた、戦士でもあるのです。
 「おやおや。派手に師弟喧嘩と、洒落こもうと思っていたのにねえ?師匠?」
 「。」
 青髭公爵はため息をついて、件の鍵を机に置きました。国境警備隊と衝突が始まったのであれば、今更、和平交渉などと悠長な事は言ってられません。「説教は終わってない」と拘れる程、オスマン軍は悠長にしておれる相手ではありません。
 それこそ、強大な力を両親から受け継いだドラルクが、前線に立たないと敵うべくもないでしょう。情勢が悪くなった時の為に、青髭公爵も準備しておく必要があります。
 今回は、大人しく領地へ戻る事にしたのです。

 「ジョン、敵兵は?」

 報告によると、5万ヌ。

 「フン、我が軍の倍か。まぁ、構わん。」
 使い魔と共に、部屋を出ていく弟子を見送ると、青髭公爵は上を見上げました。
 屋根裏で、微かにカサと、音がしたのです。

 『ああ、これですか?ククク近頃、屋根裏にリスがいるんですよ。懐いてきたと思って、クッキーを食べている所を撫でてやったら、引っ掻かれまして。え?元の場所に返せ?あれは、もう私のものです。どこにもいかせるつもりは、ありません。』

 いつだったか弟子から血の匂いがした時に、そう言っていたのを思い出しました。
 再生能力を持たないばかりに、両親に甘やかされたドラルクは、幼い頃、気に入った生き物を持ち帰り、一方的に可愛がる悪癖がありました。最終的に、構い過ぎて死なせてしまうのです。
 大人になってから、そういった行動は鳴りを潜め、気にもしていなかったのですが
 「まぁ、よい。思ったより続いているらしいが、そのリスもその内。」

 窓を開けると、念動力を駆使して、青髭公爵は飛び立ちました。
 そのリスが本物のリスではなく、弟子が寵愛している、秘蔵の少女だと気づきもせずに。

 

 「ヒナイチさん、ヒナイチさん。お目覚めですの?」
 「はっ!?すまない、おヒデさん!寝過ごしてしまって!」

 下から控え目に鳴るノックの音に、その『リス』は飛び起きます。
 ここは、その件の屋根裏部屋でした。窓から差し込む日差しから察するに、10時頃の様です。
 普段は吸血鬼の棺桶で床を共にしているので、棺桶特有の閉塞感と、仇に抱かれている緊張感から、解放されたせいでしょう。
 「あいつが戦に行ってから、もう3週間か。すっかり、痕も消えてしまった。」
 着替えながら、彼女は鏡に映った自身を見て、ため息をつきました。
 喉、胸、手首、腰回り、首筋に少し前まで、ここの主が付けた、吸血痕と情事の痕跡が付いていたのです。色白な肌に目立つそれらがなくなった事は、彼女に何故か喪失感を与えたのでした。
 人ならざる者は、自分の所有物に対する執着が強いものです。両親から、濃い血を受け継いだドラルクは、その習性をかなり強く残していたのでしょう。
 「少しでも薄くなると、すぐにつけ直すんだもんな。他に、一体誰が見るというんだ。」
 
 『君が私と永遠を共にし、『約束を守れる、いい子』でいてくれるなら、他の者達は見逃してやっても構わない。これからも、無辜の者達は襲わないと約束しよう。心配は要らない。我々にとって、契約は絶対だ。』

 半年前の事でした。
 白い羊膜を被って生まれてきたヒナイチは、『神の祝福を受けた、吸血鬼殺し』として、市民を守る戦士として期待され、鍛練に勤しみながら育ってきました。
 若輩ながら、吸血鬼と人間達の抗争に、毎度実戦投入され、数々の戦歴を上げ、大勢の人々を守ってきたのです。
 白馬に乗った彼女が凱旋する度、人々は、彼女を『救世主』と呼び、尊敬と憧れの眼差しで見上げていたものでした。

 『わかった!なんでもする!なんでもするからたのむ、やめてくれ。』
 『ほう何でも、と言ったね?お嬢さん?』
  
 気紛れに、ある都市を凍り漬けにし、多数の市民を虐殺した、白髪の悪魔に敗北を喫するまでは

 彼が、ヒナイチのどこを気に入ったのかは、分かりません。
 『幼い頃から、誰か『会わなければいけない人がいる』と思っていた。ヒナイチくんと刃を交えている時に、その時の感覚を思い出したのだ。』
 色々言ってますが、結局、一目惚れというものだったのでしょう。

 確実な事は、『神の祝福を受けた、吸血鬼殺し』が、守ってきた者達の前で『悪魔に蹂躙され、堕落の啼き声を上げる魔女』となる過程を披露させられた、という事だけでした。
 ドラルクは、『悪魔と交わった魔女』の烙印を押されたヒナイチを自分の居城に連れ帰り、屋根裏に鍵をかけて、閉じ込めました。構いたい時だけ部屋から出して、一方的な愛情を注ぎました。
 幼い頃に、ペット達にやっていた様にただ違うのは、ヒナイチが人間で、鍛え上げられたトップクラスの戦士だった事です。
 欲望をぶつけても壊れず、かつての使命感にしがみつく玩具に、ドラルクはますますのめり込み、執着心を募らせていきました。
 以降、白髪の悪魔による被害者は、『戦場』以外では、出ていないのです。
 ヒナイチが、ここに留まっている経緯は、そういう事だったのです。
 
 「もう、昼の世界には帰れない。帰っても待っているのは、異端審問と火炙りだ。もう、ここしか居場所がない。たとえ、ここで何が行われていようとも。」
 だから、青髭公爵に連れて来られた少女達が、『タブー』を犯し、泣き叫びながら『あの部屋』に連れて行かれるのも、彼と青髭公爵との会話も、彼女はこの屋根裏で聞いていました。
 正義感から、そして、自分でも度しがたい感情から、出陣前の彼に意見すると、彼は笑いながらこう言いました。

 『あの髭め。連れて帰れと、言ったのに。じゃあ、この鍵も君に預けておこう。ヒナイチくん、君はこれをどうするのだろうね?』

 力なくため息をつく彼女の首元で、件の金色の鍵が不穏に揺れていました。



 「ヒナイチさん。お味の方はいかがです?」
 「んおいしい、ぞ。」
 「申し訳ございません。お坊ちゃまのお手料理に慣れてしまうとあの方に敵う腕前は、お同胞達にもあまりございませんもの。」

 着替えて、食堂に姿を現したヒナイチを、今日も上品な吸血鬼の婦人が、出迎えてくれました。
 『さあ、どうぞどうぞ。お食べになって、お元気を出して下さいまし。』
 引かれた椅子に座ります。前に並べられた料理の見た目も香りも、美味しそうです。

 「分かる。ドラルクの料理クッキーが、特に好きなんだ。」
 なのに、目の前の料理は、『味だけ不味い』のです。
 『君の身の回りの世話に、私の乳母だった女性を呼んでおく。比較的、私と料理の味が近いし、元々人間から転化した同胞だ。昼間でも、君の世話をしてくれるだろう。』
 彼は、出陣前にそう言っていたはずでした。さりとて、残すのは失礼です。
 彼女とて、戦場で野営経験はあります。全て綺麗に食べ終えて、ペコリと頭を下げました。
 「ごちそうさま。おヒデさん。」
 「いえいえ、どういたしまして。今日は、どこを回られますの?」
 「う~ん、そうだなぁ。」
 ヒナイチは、テーブルに置いてある鍵束を手に取ります。

 『今回は、少し時間がかかりそうだ。屋根裏の鍵は、開けておく。いい子で留守番しておくれ。』
 『ああ、さっさと行け。ゆっくり、眠れてせいせいする。』
 『ジョンも連れて行く。正直、私だけでなんとかなるか、怪しいのでね。まぁ、そうこなくてはつまら
 そこまで言って、ドラルクは、彼女の顔を覗き込みます。
 人と会う事を禁じられた彼女が、心を許していた唯一の相手が、ジョンだったのです。不安が顔に出ていたのでしょう。
 『べ別に、何でもない。』
 『ふむ寂しい思いをするかもしれんな。これを預けておく。』

 そう言って、預けられたのが、この鍵束でした。この城にある全ての部屋の鍵が、そこにあります。
 招かれないと入れない吸血鬼にとって、鍵を預けるという行為は、かなり重要な事のはずです。
 その頃、既にドラルクの中で、彼女を愛贋物ではなく、伴侶として迎えたいという想いが、芽生え始めていたのでしょう。
 この3週間の間に、ほとんどの部屋は見てしまいました。
 中には、世界中の美術品や宝石、高価な装飾品やドレス、様々な分野と言語の書籍が並んでいます。
 しかし、なにより彼女の目を引いたのは
 「また、武器庫に行こうかな。トレーニングもしたいし。」
 「ウフフヒナイチさんらしいですわ。」
 彼女に笑いかけながら、ヒナイチは、食堂を後にしました。

 「優しい人だな。吸血鬼だからってのもあるけど、見た目も若い。あの人が乳母だったのに、どうして、あいつはひねくれ者になったんだ?」
 人恋しさもあって、3週間の間に、ヒナイチは彼女に対して親近感を感じておりました。
 仕事を手伝おうかとも思いましたが、元々家事は得意ではなく、彼女に迷惑をかける可能性も考えて、そのまま、武器庫に向かう事にしたのです。



 「いつ通っても、ここだけ寒いな。」
 武器庫に向かう、道すがら。件の金の鍵が合う、扉の前を通ります。
 青髭公爵によって、弟子の妃候補として連れて来られた娘達が、必ず最後に犯すタブー。
 今も持っている鍵束と、首に下げている金の鍵を見比べます。その周辺にある扉とも、見比べます。
 材質も細工も見事な、件の扉を見るとそこに、最も素晴らしい財宝が入っていると考えても、仕方がありません。ヒナイチも、ここで立ち止まりました。
 彼女も、禁を犯すのでしょうか。
 中に何が入っているのかを、知っていても

 『君が、約束を守るいい子でいてくれるなら
 この言葉と、初めて刃を交えた時に見た、血に狂ったドラルクへの根強い恐怖が、決定的な行動を止めていたのです。
 そして
 「ここを開ければ、終わりになる。凍らされた者達を解放し、この半年間集めていた、あいつが吸血鬼だという証拠を持って、教会に駆け込めば。」

 『自分は、吸血鬼と戦う為に生まれて来た者』肉体的には負けてしまったけれども、使命はまだ捨てていない。 
 『自分は、悪魔と何度も交わった魔女』不本意だったとはいえ、共に暮らした半年間、ドラルクを間近で見ていた彼女には、また違う感情が芽生えつつあったのです。

 「異端審問にかけられるだろうなそして、私もあいつも、火刑に処せられる。」
 審問官は、手を抜かないでしょう。何故なら、悪名高い『白髪の悪魔』を罰した名声と、これだけの財産を没収出来るのですから。
 魔女として焼かれ、灰となった彼女は、天国に行けません。地獄で、また彼と会えるはずです。
 そう考えると、火刑も悪くない気がしてきました。
 「やらなきゃこれが、最後の。」
 金の鍵を、首から外します。鍵穴にそれを差して

 「それは、本当に貴女のご意志ですの?」
 冷静な声に、飛び上がります。
 後ろに、乳母のおヒデさんが、立っていたのです。
 「あこれ、こわたし
 「お大丈夫です。お咎めているのでは、ございません。」
 そっと、彼女は手を頬に当ててくれました。温かい手に包まれて、彼女の心も落ち着いていきます。
 「この中にいる者達の家族も、心配している。やらなきゃあいつに殺された者達の無念も晴らさなければ
 「私が聞いているのは、貴女の『ご意志』です。お使命では、ありませんの。」
 その瞳には、迷いがありませんでした。よく見ると、その瞳には綺麗な青色が透けて見えました。彼女が転化する前の

 「わたしは、あいつを
 もう一度、金の鍵を見ます。
 憎まなければ自分から誇りも自由も奪った吸血鬼を。
 殺さなければ仲間と守ってきた者達を、嬲り殺しにした悪魔を。
 「お憎しみとは、お心から涌いて出てくるもの。お奮い立たせて出すものでは、ありませんの。」

 「わ、わたしは、あいつに」 
 会いたい時々見せてくれる、あの優しい笑顔に。
 帰りたいあの安心する、マントの中に。
 「ご愛情も、お心から涌いて出てくるもの。お理屈では、ありませんの。」

 幼子の様に泣き出したヒナイチを、おヒデさんは抱き締めました。母親が噛んで含める様に、囁きます。 
 「夜と昼のお世界の私達。今はお争いあっておりますけれども、貴女も選んでいいのです。私達は
 そこで、彼女は誇らしげな笑顔で、こう締めました。
 「お友達になっても、いいのです。お愛し合っても、いいのです。まずは、ドラルクさんが帰ってきてから、お話合いをなさいませ。」


 
 ヒナイチくん、ただいまヌ。

 「ジョン、おかえり!怪我はないか?」

 ヌフフ伊達に鍛えてないヌよ。

 さらに、1週間が経ちました。
 オスマン軍を追い返したドラルクは、ジョンと共に居城へ凱旋してきたのです。
 「しばらく留守にしていて、悪かったね。」
 低いドラルクの声に、ヒナイチの背に緊張感が走ります。
 その深紅の瞳に浮かぶ色は、疑心?それとも
 「あ、ああ。なあジョン。」
 「ヌ?」
 「ふ、二人っきりにしてくれないか?ドラルクと、話さなきゃ。」
 
 ヒナイチくん?

 「た、たのむ。」
 「ジョン、席を外しておくれ。」

 忠実な使い魔は、心配そうに何度も振り返りながら、部屋を後にします。ガチャッという音が、妙に重く感じられました。
 「ヒナイチくん、留守番ご苦労様。寂しかっただろう?」
 「別に。」
 そう言いながら、ヒナイチは、ドラルクから預かった鍵束を手にします。この一ヶ月間、退屈を紛らわせてくれた鍵束を。
 「部屋は見て回ったかね?珍しいものばかりに、しておいたが。」
 「ああ。特に世界中の武器を集めた部屋は、凄かったな。」
 その答えに、彼はニヤリと笑いました。他の少女達と、明らかに答えが違ったからです。
 「ハハハ。宝石より、そっちかね。君らしい。」
 「鍵を返す。」
 ヒナイチが差し出した鍵束を、ドラルクは押し返します。
 「その鍵束は、君にあげよう。部屋の中の物は、全て君のものだ。しかし
 「ああ。」
 その視線は、首元に揺れる金の鍵を捉えます。不穏な色を帯びた、深紅の瞳で
 「わ、わかった。」
 ヒナイチは、首から金の鍵を外します。その手は、微かに震えていました。

 「どうしたのかね?顔色が悪いじゃないか?さあ、出し給え。君が約束を守る『いい子』でいたという、その証を。」
 「。」
 荒々しく差し出された手に乗せられた、金の鍵には微かに、血がついていたのです。
 ドラルクは、ヒナイチをどうするのでしょうか?
 一番寵愛していた少女も、あの部屋に入れてしまうのでしょうか?



 「取れなかったんだ。何度拭いても。」
 事情を説明しようとする彼女をよそに、ドラルクは、鍵をひねくり回して確認しています。
 「ドラルク。は、話を
 「やはりこれは、君の血だね?」
 軽く鍵を舐めると、彼は彼女の右手を取りました。そして、小さな傷痕が残る手のひらにキスをしました。
 「何度も、あの扉の前で迷ったのだ。血が出る程、握りしめて違うかね?」
 疑惑の晴れたその顔は、彼女が初めて見るものでした。無邪気な子供の様に、晴れやかな笑顔をしていたのです。
 「違わないだ、だからうわっ!?」
 「アハハハ!あの髭め!だから、自分で探すと言ったのだ!ここにいたじゃないか!君だ、君だったのだ!」
 ドラルクは、ヒナイチを強く強く抱き締めました。それこそ、折れるのではないかと思うほど強く。
 「あぁっ!ドラルク、く、くるし!」
 「ああ、すまないね。フフ、あの部屋を見なかったのは、君だけだ。本当は、あそこを開けて娘達を解放したかったろうに。」
 そう言って、彼女に深く口づけます。本人は、『会いたい相手に会えた』事が、嬉しくてたまらないのでしょう。
 「そそれ、はあ、あう!?ま、まっへ!」
 彼女は、説明しようとしました。
 このまま解放すれば、教会に訴えた娘達によって、審問官がここに来るだろう事を。
 当初は、市民を守る使命感と、彼への憎しみ、厭世感から、法的処置を借りた心中を考えていた事を。
 しかし、今は他の選択肢を模索する決意をしたのだ、と。
 ドラルクと話し合って、さらに、青髭公爵の被害も最小限に済む、解決策を探そうとしているのだ、と。
 「ああ。溜めていると、そういう事もあるのか。一気に解放すると、混乱も起きる最初の娘達に至っては、浦島状態かもしれんな。」
 「の、呑気な事を言ってないで、真剣にこら!その顔!また、つまらない事を考えてるだろ!?」
 しかし、本人はそこまで危機感がない様でした。元々、スリルを求めて問題行動を繰り返す吸血鬼です。
 教会の追っ手達との戦闘に、ジョンとヒナイチを連れての逃亡生活も楽しいかもしれない、そんな事を考えていたぐらいでした。
 「バレたかそれにしても、少し痩せたようだ。ばあやの料理が、口に合わなかったのかね?」
 見当違いな返答に呆れて、ため息をつきました。
 彼女の事は好きでしたが、料理の腕に閉口するものがあったのは、事実でした。実際、少し痩せていたのです。
 「別に、そんなこと。おヒデさんは、私によくしてくれ
 「おヒデさん誰かね?それは?」
 予期しなかった言葉に、ヒナイチは顔を上げます。ドラルクの顔は、瞬時に険しいものへと変わっていたのです。
 「だ、誰って?お、お前の乳母だった女性だろう?」

 その時、コンコンと遠慮がちに扉がノックされました。おずおずと、アルマジロのジョンが顔を出します。
 
 あの、ドラルク様。お客様だヌ。
 
 「取り込み中だ、断っておくれ。」

 それがご真祖様の紹介ヌってあ!?応接室で待ってて欲しいヌ!

 自分の祖父の紹介ともなれば、無下にする訳にもいきません。
 ドラルクはヒナイチをソファに座らせると、不機嫌そうな顔で、応接室に向かいました。
 ただ運命に流されて生きてきた、彼ら二人と一匹にとって、大転換期が起こるとも知らずに。

 「君かね?お祖父様の紹介で来た、というのは。」
 「お初にお目にかかります。私は、吸血鬼退治人のロナルドと申しますわ。青髭公爵様が、ここに連れてきたお方々について、そして、ご友人であるヒナイチさんについてお話合いをしたくて参りました。」
 
 
 
 


 
  
 
 
 
 
 

 
 
 
 


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