喫茶店でデートする甘くてほのぼのなカルみとです。全年齢。
ネタバレはおそらくないはずです。
@rikka_trpg801
美味しい宝石
二段のスタンドに白い皿が乗り、その上に様々なスイーツが飾られていた。小さなパフェにクレープ、アイスクリーム、クッキー、プリン――単品でも嬉しい顔ぶれが一堂に会する様は、食べる前から胸を幸福感で満たしてくれる。
目を輝かせる神無の前に紅茶がサーブされ、店員が会釈をしてテーブルから離れた。
「食べないの?」
スタンドをいろんな角度から眺めては溜息を吐く神無を見て、縞斑が少し呆れ交じりに声をかける。こちらは手元にコーヒーと茶請け程度の焼き菓子があるだけだ。
神無は拗ねたような視線を向けながら、「もちろん、食べるに決まってる」と拳を握る。
「その前に目で堪能してるの! 見てよ、マスカットとブドウが宝石みたいにキラキラしてて、クリームの白やプリンの黄色と調和して芸術作品みたいじゃん」
季節のアフタヌーンティーはマスカットとブドウがテーマになっており、緑と紫の果実が様々なスイーツにあしらわれていた。丸みを帯びた艶やかな姿は、確かに宝石のように美しい。
「そりゃ、まあ、綺麗だとは思うよ? でも、そろそろアイスが融け始めるんじゃない?」
店内は空調が効いていて快適だが、人間にとっての適温はアイスクリームには暑すぎる。実際、バニラアイスの縁が緩やかに融け広がり出していた。
神無も縞斑の指差したアイスクリームの様子を見て、目での堪能はここまでにしたようだ。グラス型の端末に写真を保存し、カトラリーを手に取る。
「いただきます!」
いくつもの種類のスイーツを、神無はしっかりと味わいながらも冷たさや温かさが失われないペースで口へと運んでいく。
縞斑はあっという間に消えていくそれらと、幸せそうな神無を眺めながら香ばしい焼き菓子を齧った。別に甘い物が苦手なわけではないが、自分が同じものを食べたらおそらく胸やけを起こすだろう。
甘いもの好きと若さのなせるわざだなぁとしみじみ思いつつ、ブラックのコーヒーを啜る。そんな縞斑の眼前に、不意に鮮やかな黄緑の果実が差し出された。
「折角だし、だらだら先輩にもお裾分け」
繊細なフォークの先に、半分に切られたマスカット。早く食べろとばかりに突き出されるそれに、縞斑は苦笑しつつ口を開けた。
薄い皮が小気味よく弾け、甘い果汁が口の中に広がる。食べやすく美味しいその果物に品種改良の成果と農家の努力を感じながら、「ありがとう、美味しいね」と返す。
「だろ!? あとこれ、ちょっとだらだら先輩の目の色に似てるよな? 先輩の目の方がもうちょっと濃い緑だけど」
そう言って見つめていたマスカットを頬張る神無に、そうだろうかと縞斑はまだ皿にいくつか残っている果実を見やる。
自分の目が緑色だという自覚はあるが、その濃淡まではあまり意識したことが無い。元々身だしなみは最低限で良いというタイプであり、鏡をまじまじと見ることも少ない。
「まあ確かに、緑ではあるけどこんなに明るい色ではないかな?」
「だよな~。ほら、こっちもどうぞ」
次に差し出されたのはブドウで、同じく半分にカットされている。
それを見つめて、縞斑はふと気が付いた。
「こっちは神無ちゃんの目と似てるね?」
「そうか? 俺の目はもうちょっと青よりの紫だと思うけど……」
神無は首を傾げて自らが差し出しているブドウを見つめる。色付きのグラス越しでわかり難いが、その目の紫はブドウとは少し色合いが違う。
そんな神無を見つめ、縞斑は口元に少々意地の悪い笑みを浮かべた。フォークを持つ神無の手首を握り、二人の視線が絡む位置にブドウを持って来る。
「今はそうかもね。でも、紫の目って青い色素と血の色が混じってそう見えてるでしょう? だから、興奮して血流が増えると赤味が増すわけだ」
「ああ、そう、だけど……」
自分の目のことだし、神無もそのくらい知っている。だが、まだ縞斑が何を言いたいかぴんと来ていない。
そんな神無に、縞斑は他のテーブルに聞こえないよう囁いた。
「俺の前で神無ちゃんは、このブドウみたいな目をしてる時があるってこと」
「……――――なっ!?」
ようやく縞斑の意図を察した神無の顔が、ぶわりと赤くなる。それこそ、グラスの向こうで紫の目が赤みを増した。
その様子を満足げに眺めながら、縞斑がゆっくりとフォークの先のそれ――赤味を帯びた紫色のブドウを口の中に入れる。甘酸っぱさを舌で感じつつ、「さっきのよりこっちの方が好みだな~」と笑って見せた。
「こ、こんな公共の場で、何考えてるんだ!?」
声を潜めつつ抗議する神無に、縞斑は何のことだかわかりませんといった態度で首を傾げる。
「俺は別に変な事言ってないよ? 戦闘で興奮状態の時とかにこんな色してるよね~ってだけ」
「あっ、えっ?」
「それとも、神無ちゃんは別のシチュエーションを想像しちゃったのかな?」
顔を赤くしたまま焦りだす神無に顔を近づけ、耳元で囁く。
「神無ちゃんのえっち♡」
「ち、ちがっ!? 俺っ、そんな……!」
落ち着きなく視線を彷徨わせる神無が零さないよう、さりげなくティーカップをテーブルの真ん中へ避難させてやる。
少しの間慌てふためく神無の姿を楽しんだ縞斑は、ぼちぼちフォローしないとこの後の予定に響くと判断し「わかってるよ」とコーヒーを啜る。
「ちょっと揶揄っただけ。でも、公安の仕事で駆け引きとかも増えると思うから、もうちょっと動揺を隠せるようになっておいた方がいいかもね?」
「別に、仕事の時はちゃんとできてるから」
まだ赤いままの顔をした神無が、冷めかけた紅茶を飲みながらむすっと縞斑を睨む。
「ほほう、つまり俺相手だから安心しちゃってた、と?」
「うっ、だって、その、だらだら先輩は敵じゃないし? それに、今は仕事じゃないし……悪い?」
開き直り切れてないその返事に、先輩であり恋人である縞斑は心の一部が満たされるのを感じた。
時折心底憎たらしいこともあるが、本当にこの後輩兼恋人は可愛らしい。
「いや、上出来だね。ところで、今夜はこのブドウみたいな目を見せてくれるのかな?」
更に残った赤紫色の果実を指さして尋ねれば、少し引きかけていた頬の赤味がぶり返した。
「……夕飯後のデザートに、ケーキ買って帰っていいなら考えてもいいけど?」
こんなに色んな種類を食べておいて、夜にも甘い物を食べるのかという内心の呆れは隠しつつ、縞斑は自身にとっても美味しい甘い夜のために「お安い御用だ」と微笑むのだった。
(あとがき)
当社比めちゃくちゃ甘いカルみとが書き上がりました。書きながらこっちも甘くて幸せな気分になれる☺
ちなみにキハチのシャインマスカットと巨峰のアフタヌーンティーを食べに行ったときに思い付いたネタです。他にもカルみとカラーのスイーツが色々出ているので、興味のある方は調べてみてください。