お月見する了遊(付き合ってない)。本編後なんだかんだ慣れあってる次元のほんのり。17日に間に合わなかったけど月が出てるからセーフ
@d9_bond
「月がきれいだな」
空を見上げて出た言葉は我ながら簡潔だった。さすがにそのまますぎて、遊作は何か気の利いたことを付け加えようか考えたが結局何も思い浮かばずそのまま口を閉じた。
鴻上邸のリビングの窓は南側に大きな窓があり、開け放つと海と空が一望できる。
今日は良く晴れており、深藍の空に真円に近い月の形がくっきりと刻まれている様は改めて美しかった。水面に映る月影は白々と輝いていて、明かりを落としたリビングに射す月光は影ができるほどに強く、明るい。
「そうだな」
短く返る言葉に隣を見ると了見はこちらを見ていて、目が合うと微笑した。
月明かりが淡い色の目に映っている。
ひと頃のごたごたが何とか落ち着き遊作が戻った後、了見はカフェナギに顔を出すようになった。
幾度もやり取りするうちに連絡先を交換し、互いの家に行くようにもなった。今日もカフェナギのバイトが終わる頃に了見がやってきて、誘われるまま家に上がり込んだ。
今日は中秋の名月──平たく言うと月見の日なのだと、バイト中の雑談で草薙が言っていた。
その話をしたところ、せっかくならばとリビングの明かりを落とし月見と相成った。普段はデュエルをしたりデッキ構築をしたりデュエル談義をしたりデュエル動画を見たりたまに遊作の課題をやったりといった具合なので、季節の行事は珍しい。ことに遊作はそういったことに興味を持ってこなかっただけに。
とはいえ、ただ月を見るだけで何が楽しいのか疑問だったが、実際にやってみた今は改めてゆったりと空を眺めるというのはなかなか良いと感じていた。会話がなくとも了見となら何とも思わない、その気安さも良かったのかもしれない。
「そういえば子供の頃は月でウサギが餅つきしているなんて言われたが、全然そんな風に見えないな」
月の影がそう見えると言われていくら眺めてもよく分からなかった。
「言い伝えなどそんなものだ。そもそも国によっても見えるものは変わっている。カニやロバなどと言われているところもある」
「どれにしても分からないな……」
しげしげと月を見るが、影は影にしか見えない。そう思い込んでしまっているせいもあるだろうが。
「おまえは──」
と、了見を見やって遊作は、ぱちりと目を瞬いた。やはり了見はこちらを見ていて、目が合う。ひどく機嫌が良さそうだった。
「なんだ?」
「いや……おまえは月に何か見た事はあるかと」
歯切れ悪く言いながら、遊作は月へ目線を戻した。
「私もよく分からなかった。それで図鑑で月の写真を見て、余計に分からなくなったな」
ふ、と了見が小さな笑いを漏らす。
「分からずとも、今日の月はきれいだ」
「……ああ」
頷いて、遊作はそろりと了見を見た。
やはり了見は遊作を見ていて、目が合う。
「どうかしたか」
問われて、少しの逡巡のあと尋ねる。
「了見、おまえ本当に月を見ているか……?」
「無論だ」
ちょっと目を細めて、了見は楽しげに言った。
「とてもきれいだ」
「……そう、か」
腑に落ちないが、本人がそこまではっきり言うなら自分の勘違いなのだろう。遊作はまた空を見上げた。月は変わらず輝いている。