診断メーカー『あなたに書いて欲しい物語』
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アジラフェルさんには「空を飛ぶ夢を見た」で始まり、「ただそれだけだったのにね」で終わる物語を書いて欲しいです。
できれば8ツイート(1120字)以内でお願いします。
@otohitoe_
空を飛ぶ夢を見た。
「翼も出さずに?」
「翼なんてただの飾りだろ。天使」
まあ、そうなんだけれど。
どんな気持ちなんだろうとアジラフェルは思った。もちろん空を飛ぶことではない。夢を見ることだ。過去に起こったことならまだしも、経験したことのない、あるいは絶対にありえない世界だって体験することができるなんてとっても素敵だと思う。
でも、もしも自分が眠るかどうかして夢を見れたとしても、きっとクロウリーほどバリエーションは無いだろうなとも思う。せいぜい過去の思い出が再現される、のんびりとした走馬灯のようなものになるだろう。ただの記憶ならわざわざ夢で見ずともいつでも自分で思い出せる。見るなら未経験の、空想の世界のほうがいい。
「たまには、いつも頭の上にある雲を踏んで散歩するのもいいもんだろ」
「それは飛ぶって言えるのか?」
「正確には歩く“ふり”なんだから同じことさ」
そう言われて、ふとアジラフェルは「その心地よさなら知ってる」と気付いた。そうだ、確かにクロウリーと歩いた…歩くふりをしたことがある。
あれはいつだったか、二人で旅をしたことがあった。ずいぶんと昔のことだ。最果てに行きたいと提案されて…いや、したのはわたしだったかもしれない。 だって悪魔にしてはちょっとロマンチックな言い回しだ。この丸い世界に最果てなんて存在しないのに、あのときは何と言って始めて、何をきっかけに終えたんだっけ。
暖かい陽気や爽やかな風の中を歩くばかりの旅ではなかった。炎天下の砂漠で上からも下からも熱気を浴びながら、大粒の雪がちくちくと顔を刺す吹雪の中も前のめりになりながら、前が見えないほどの嵐をずぶ濡れになりながら、二人でただひたすら歩いた。
雨のあとのぬかるんだ道で泥まみれになった足を川に浸したときの心地好さ。ばたばたと服の裾を騒がせる潮風。微かに聞こえる遠い町の誰かの歌声。いつの間にか度々変わる、隣で揺れる赤い髪の長さや様相。
あとからあとから思い出す。 きみとふたり、並んで歩いて、並んで笑って、また歩いて――…
(…ああ、そうだ)
あの旅は終わってなんかいなかった。今もまだその途中だったはずだ。曖昧なまま切り上げて、ずっとそのままにしていたんだった。わたしも、そしてきっときみも、同じ気持ちだったんだろう。わたし達ふたりとも、ずっと並んで歩いていたかったから。
どうして今まで忘れていたんだろう。いや、どうして今頃になって思い出したんだろう。全部過去になってしまった今になって。
クロウリーは、わたしのもとから去ってしまった。わたしの手の届く箱庭ではなく、危険を伴うその外へ。
(わたしは間違ってしまったんだろうか)
その問いに答えてくれる優しい悪魔はもういない。わたしはただ、きみと一緒にいたかった。けれどその望みは叶わなかった。それが答えなのだ。
きみがいてくれる限り、わたしは間違えなかったのに。
いいや違う、わたしは本当は、本当は、知っていたのに。
(なにが正しいのかなんて、本当は、誰も…)
きみとずっと一緒にいたかった。ただそれだけだったのにね。