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スモークミルクキャンディ

全体公開 神無三十一受け 19 42 3244文字
2024-09-18 16:52:54

カルみと(+☀️🎐☕️🐸)
シナリオネタバレ(ぼいどのみ)あり

 

 「神無ちゃん、これ持って行ってくれる?」

 過去へつながっているゲートの前で神無を引き留めた縞斑は、そういって彼の手に小さな箱を握らせた。

 「ん……煙草?」
 「そう、俺の吸ってるやつ」

 神無が開いた手の中には、彼の言う通り愛用している煙草の箱が置かれている。
 開封済みのそれは中身がまだ半分程度残っており、神無はこてりと首を傾げて縞斑の顔を見上げた。

 「なんで?」
 「なんでときたかぁ。うーん俺が忘れたときの保険、みたいな?」
 「え……ならなおさら、これから離れる俺が持ってていいの?」
 「離れるから持っててほしいんだよ」
 「ふーん……?」

 本当の理由をはぐらかして笑う縞斑の顔と手の中の煙草を交互に見つめた神無は、不思議ではあるものの彼が自分に害のあることをするはずがないと思い直して頷く。

 「いいけどさ、会う時までに俺の匂い移っちゃったらごめんな」
 「あぁ、いいねそれ、むしろよろしく」
 「えー……先輩が何考えてるかまじでわかんない……

 その発想はなかったとでも良いだけな神妙な顔で頷く縞斑にますます困惑する神無だが、彼が良いならと納得して飲み込むことにした。
 まだ半分以上中身の入っている煙草を神無は落とさないようにポケットの中に大切にしまう。その仕草をじっと見届けた縞斑は手を伸ばすと、彼の頭を撫でて笑った。

 「誰かに欲しいって言われたら俺のだからって断ってね」
 「さすがに人から預かってるもの誰かに渡したりしないって!」
 「そう、ならよかった」

 最近は共に時間を渡る機会も多い縞斑だが、今回はスパローの仕事が立て込んでいるため神無に任せることになったのだ。
 神無をひとりで行かせることが心配なのか、名残惜しそうに金色の髪をもてあそんでいる縞斑を見上げた神無は、彼が安心するようにいつも通りの笑顔を向ける。

 「大丈夫!俺ひとりでもばっちり仕事してくるから!」
 「……そうだね、気をつけていってらっしゃい」
 「うん!じゃあみんな、いってきまーす!!」

 見送りに来ていたディーノやアサギリたちにも手を振った神無は、笑顔で時空ゲートの光の中へと消えていく。
 その背を見送る縞斑は、何か言いたげな視線を向けるアサギリには気がつかないふりをすることにしたのだった。

 ※

 「かーみなぁ、甘いものちょーだい」

 臨時で作られた事務所内のデスクに腰を下ろして慣れない書類作業に勤しんでいた神無は、隣から聞こえたそんな流石鈴風の声に顔を上げる。

 「流石先輩またぁ?」
 「小腹空いたんだもん、なんかよこせ」
 「それが人にものを頼む態度かっての……

 同じように書類仕事に追われる流石にねだられた神無は、ジャケットのポケットの中をごそごそと探って山ほどのお菓子を出した。
 神無は以前から、ポケットの中に一口サイズの様々なお菓子を常備しているのだ。その行動はただの甘いもの好きという理由に限らず、人よりもよく回る頭脳に栄養が多く必要なのだと周囲の人間は理解している。
 向かいの席で日本語訳に悩まされていたアキラは、神無の小さな両手からこぼれ落ちるほどの量のお菓子を見て目を丸くした。

 「なんだなんだ、神無のポケットは四次元なのか?」
 「そんなんじゃないけど、帰代先輩がこの前たくさん買ってくれたんだよね。ほら流石先輩、どれ食べたいの?」
 「んー……じゃあこれ!」

 神無がお菓子を欲する理由を正しく理解しているらしい帰代は、それを娯楽品だと一蹴することなく備品として仕入れて神無に持たせている。
 そのためこちらの世界で過ごす神無のポケットは、飴玉や一口サイズの焼き菓子で常に満たされていた。
 イチゴ味の飴を受け取った流石は包装を解いて口の中に投げ入れると、かろかろと爽やかな甘味を転がして笑う。

 「うめー!久しぶりに食べた!」
 「もー晩ご飯入らなくなってもしらないからなー」
 「飴くらいで満腹になったりしねぇって!」

 言いながら飴の包装紙を丸めてゴミ箱へ捨てようとした流石はふと、嗅ぎ慣れない匂いがその包装紙から香ったことに気がついた。

 「ん……?神無って煙草吸うっけ」
 「え?いや、吸わないけど?」
 「だよな……なぁアキラ、これって誰の煙草の匂い?」

 ふたりのやり取りを見守っていたアキラは、流石から受け取った包装紙にそっと鼻を寄せる。そこからは確かに流石の言う通り、煙草独特の匂いがかすかに漂っているようだ。
 無意識にその匂いから煙草の銘柄を探る喫煙者のアキラは、おそらく海外製の煙草だろうと目を瞬く。

 「結構重いやつだな……宿舎にこれ吸ってるやつは居ないと思うけど……
 「だよなぁ、なんでだ?」

 喫煙者ではない神無の荷物から漂う重い煙草の匂いに首を捻る流石とアキラを見た神無は、あぁと納得した様子でペンを置いてポケットを探った。

 「これかも、ええとこの煙草」

 言いながら神無が取り出したのは、アキラの推測通り海外製の有名な煙草だった。
 パッケージが記憶に比べて若干異なるのは、おそらく未来のデザインだからなのだろう。
 この世界で拾ったものではなく、未来の世界で買った煙草を持ったまま時間を渡ったのだと理解したアキラはますます首を傾げた。

 「なんで神無が持ってるんだ?」
 「それ俺が一番気になってるんだけど、だらだら先輩が持っていけって言うからさー」
 
 呟いた神無はポケットから取り出したミルクの飴を口に放り込む。丸めた包装紙には縞斑の煙草の匂いが移ってしまっているらしいが、匂いに慣れてしまった神無には分からない。

 「なんでだろ、たぶん煙草にもお菓子の匂い移って美味しくなくなってると思うんだけど………

 室内に沈黙が訪れる。
 神無の発言に流石とアキラはもちろん、そばで仕事をしながら何となく耳を傾けていた帰代と聖まで唖然とした表情を浮かべていた。

 「…………結構重いやつだな……?」
 「えっ、二回言うほど?」
 「いや……そうだけどそうじゃないっつーか……

 自身のポケットに煙草を仕込んだ男の思惑をまるで理解していない神無は、きょとんと目を瞬いて首を傾げる。
 彼に事実を伝えるべきか悩んでアキラが口ごもっているうちに、やけになった流石が神無のポケットを漁った。

 「やっぱもっと腹減った!もういっこ!」
 「ちょ、流石先輩!晩ご飯入らなかったら帰代先輩に怒られるだろ!?」
 「あと一個くらい余裕だって!」

 子犬と子猫の可愛らしいじゃれあいのようなやり取りだが、大人たちにはそんな彼らを微笑ましく見守る余裕が残されていない。

 「ちょっとちょっと、おたくのお子さんだいぶ愛の重い人に目ぇ付けられてるみたいだけどいいの?」
 「いいわけねぇだろクソが!!」
 「なん、へぶッ?!」
 「アキラちゃん気をつけてねー、ママちょっとその話題がピンポイントで地雷だから」

 帰代の振り下ろす理不尽な八つ当たりの拳で床に沈んだアキラを介抱する聖は、そばで相変わらずお菓子の取り合いをする神無の姿を眺める。
 神無が身を翻すたびにふわりふわりとかすかに香る煙草の匂いは、ここには居ない彼の明確な牽制だった。
 独占欲の塊であるその行動をよく思わない帰代の一方で、聖はそんな若者たちの恋愛模様を観察対象として楽しみつつある。

 「まぁ、心配しなくても……とは思うけど、心配して当たり前かもねー」
 
 こうも分かりやすく男の匂いを纏っていながら、自覚のない無邪気な笑顔を浮かべる神無のことが気が気ではないのだろう。

 「こえー男に捕まってんなぁ……

 そう呟く聖を見上げたアキラはふと、そういえばあの煙草の匂いは特に“殺虫効果”を含むものだったことを思い出すのだった。

 


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