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多喜の怪談話3/試食の話

全体公開 創作話 3 3047文字
2024-09-18 21:17:42

ホラー注意

Posted by @lianmiso

 ここの会社も必ず人数より多く一席作るんだね。来客も欠席もなかったよね、今日の食事会。
 君が前にいた会社にはなかった?
 珍しい風習なのかな。後で理由を聞いてみようか。
 ………僕がいた百貨店の話?なんで一席作るのかって?
 そうだね、いつもという訳じゃなくて試食会だけそんなことをしていたんだ。
 試食会という名のフロアの交流会だね。
 各代表が1人ずつ選ばれて出席するんだ。
 広い百貨店だとね、ちっちゃいテーマパークくらい人がいたりした時もあったんだよ。昔は今よりも機械なんてなかったしね。そうなると同じ百貨店でもまったく働いている人なんてわからない。だから顔合わせも兼ねていたんだよ。
 ………僕?うん、出ていたよ。でも、代表なんて柄じゃないし、周りがみんな辞めてしまったから繰り上げみたいなものだよ。大して偉くなかった。今よりもずっと若くて、だから、ガチガチに緊張していてさ。
 部屋に入ってから首が、関節がギシギシ言う。「まるでロボットみたいだ」なんて隣の席の人に笑われたらしいけどね、まるで覚えてない。
 会議室の机の上に商品が並べられていくのもTVの映像のように感じられてね。
 配膳する人をなんとなく目で追って行った。
 偉い人が挨拶をしてから周りの人と味の感想やら「最近どう?」やらなんやら話をしたね。
 あるお偉いさんが会にそぐわない憎々しげな視線を空いてる席に向けて、そこで始めておかしいと思った。
 グラスには赤い液体が。空調の風で少し揺れるとまた色合いが変わる。蛍光灯の光でもわかる。
 僕らに出された葡萄ジュースじゃない。本物のワインだった。
 皿には均等に切られて美しく生ハムが盛られていた。
 遅刻したら後から配るはずだから、奇妙に見えたよ。
 時間が経てばワインは酸っぱくて苦くなっちゃうしハムは乾いちゃう。
 だから聞いてみたのさ。百貨店の古株に。
 そうしたら「あれは百貨店に住む神様に捧げているんだ」だってさ。
 案外ここも芸能の神に捧げているのかもね。一応芸能事務所だし。
 ………顔が浮かない?そうだねぇ。あの後、色々あったから。
 聞きたいの?こっちはまだ全員揃わなそうだし、別にいいけど………
 「材料が無駄だ」、「もったいない」ってそういった風習を嫌う面白くないって人もたくさんいたんだよ。あの会をよく思ってなかった。僕らよりいい物出されてたしねぇ。
 僕?
 「お供物ってそんな感じだよな」くらいしか思ってなかったよ。神様に上げるからね。ワインはちょっといいなって思ったけどそれぐらい。誰かに捧げられた物は取っちゃいけない。笑わないでよ。
 うちの百貨店は一応老舗だった。
 世代交代も失敗していて、来るべき時が来れば、一気に重要なポジションが変わる。
 そう、憎々しげな視線を向けたーーー鐘持さん。
 鐘持さんもそのうちの1人だった。
 元々偉かったんだけどさらに偉くなってさ。
 試食会を意気揚々と潰そうとした。
 でも、「美味しいものが食べたい」、「人と話したい」って人も多くてね。
 とりあえず会は無くならなかった。
 そう……無くなったのは席。
 「とうとうやったな」と僕はテーブルクロスも引かれない席を見ていた訳さ。
 なんとなく可哀想になって、ティッシュをテーブルクロスに見立てておつまみのサラミとか乗せてた。
 だって、創業以来ずっと続いてたらしいしね。僕らだっていきなり席がなくなってたら困るじゃん。
 ………怖くなかったかって?その頃は忙しさで参ってたんだよ。今は君の知る通りさ。
 話を戻そう。
 結局「やめろ!みっともない!」って鐘持さんに片されてしまったんだけどね。
 ティッシュはダメだったなぁと思いながら、席に戻ったんだ。
 鐘持さんが更に大きい声で怒鳴った。
 僕が怒鳴られた訳じゃない。
「試食品を勝手に食ったのは誰だ!」
 無くなっていたんだよ。
 鐘持さんの分が綺麗さっぱり。チーズとハム、葡萄ジュースがね。
 奇妙なのは欠片どころか油、液体の入った跡も全く残さずって所。
 まるで洗ったか、新しい食器に変えられてしまったみたい。
 出世した鐘持さんは中心の席を用意されていて人に囲まれていた。自分の信頼できる人で固めてたからそんなことする人はいない。ユーモアが通じない人たちでもあったからね。そんなことなんてできないでしょう。
 だから、すっかり鐘持さんは疑心暗鬼。試食会終わった後もピリピリしてたな。
 しばらくして異常な経費削減が始まってさ。真っ先に狙われたのは僕の所だった。
 閉鎖まで話が行ったんだけど、社長直々待ったを掛けたから免れたんだ。一応初代社長から代々続いていた由緒ある画廊だったからね。消耗品買うのも中々承諾されなくなったな。シャーペンの芯なんか注文する時もわざわざ部下を寄越してないのを確認するくらいで。
 「困ったものだね」って顔を見合わせた。 
 部下の顔色がセール前でもイベント前でもないのに妙に悪くてね、「お茶でも飲んできなよ」って誘うと戸惑ってたっけ。
 「僕が接客中だったからと言えばいいよ。監視カメラなんて見る訳じゃないし、君が絵を見れば来客数稼げるし」なんて言うとようやく笑顔を見せてくれて安心した。それで恐ろしいことがわかったんだ。
 鐘持さんの物がね、毎日ひとつずつ消えてるんだ。
 ボールペンはまだしも僕ら百貨店勤務の生命線である手帳に派手な金の腕時計、IDカードまで………
 苛立ちは最高潮。周りに当たり散らして部下も離れていってるって。「予算削減ってうるさいのに自分が失くして再発行するなんて!」なんて声も大きかったらしいけど、そんなことはおかしいんだよね。
 カードもそうだけどさ。腕時計の金具が壊れることってそうそうない。僕でも知ってる高級メーカーだったもの。そういうのは中々壊れないものさ。
 それで最後に彼が削減しようとしたのは、そう、地下階の試食コーナー。
 試食の量がだんだん増えてきたってコーナーの人がぼやいてたけど、会に出席した人の感想は違ったのさ。
 席がなくなったから見えざる客が地下に移動したんだってね。
 一応意見は通った。
 それで満足して鐘持さんが売り場の視察に行ったんだけど………
 ケーキの並んだショーケースを撫でて大声出した。
「ない!俺の中指が!」
 でもね、見ていた店員の話だとちゃんとあったんだって。それなのに。
「人差し指も!薬指も!あぁ、足の指の感覚がない!」
 靴を脱ぎ、靴下も脱いで、スーツの上着も捨てていって百貨店の前を走る車と激突。
 そのまま彼は帰らなかったな。過労ってことで片付けられた。
 もう一つおかしな話がある。彼は右薬指に指輪をしていたんだけどその指輪はね、ケーキのショーケースの下で見つかったんだって。オーダーメイドで自慢していた金の指輪。サイズもぴったりだったのに……
 試食会は再開。もちろん地下の売り場の試食コーナーも復活したんだけど、百貨店で更に事件が増えてね古い風習も馬鹿にできないってことだよ。
 一体あの席には何がいたんだろう。
 本当に神様だったのかな?それとも長い月日で入れ替わった何かだったり
 百貨店閉まっちゃったから確かめる人もいないんだけどね。
 おっと、所長が来た。
 僕らもグラスを持たなくちゃ。
 ほらほら。手に取って。注いであげるよ。


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