みずいこお題部第十五回より「許さん」【黄緑色】
関西弁非ネイティブのため口調は勘頼り
@a_yuuzora
テーブルの上にコトンと置かれた二人分のパスタは鮮やかな緑色をしていて、ぽつぽつと置かれたミニトマトが色味のアクセントになっているて、ニンニクの香りがふわりと漂い食欲を刺激し、店で提供されるものとそう変わりがないように見えた。とても数か月前料理を始めた男の手料理とは思えない。
「今日は簡単なモンですまんな」
「簡単ってクオリティちゃうんすよ」
「そう? そう難しいモンちゃうで。乾燥バジルってオシャレなメシには必須って思って買ったはええんやけど、振りかけるだけやとなかなか減らんくてな、ジェノベーゼソースっちゅうのがあるのをこないだ知って作ってみてん」
「確かにめっちゃバジルって色してますねえ。食ってええですか」
「おん、どうぞ」
「じゃあいただきます」
「ん、美味いっす」
「良かった。本格的なのは松の実とか入れるらしいねんけどな」
「そんなん売ってるんすか」
「売ってへんかったからピーナッツ砕いて入れた。そろそろ無いものの代用に何使ったらええか分かってきたで!」
「ほんまその向上心凄いっすわ」
「こうやって振る舞う相手がおるとモチベーションになんねん」
「そりゃあ重畳です」
水上の機嫌が上向いたのを見て気分を良くした生駒は、つるりと口を滑らせる。
「そういやこないだ温泉での広報イベントあったやん? 撮影と料理出すやつ」
「イコさんのパスタ出してたやつですね。あれも美味かったっす」
「あれで迅のが風刃ジェノベーゼやったやん? なんであれ風刃なんって思ってたんやけど、風刃の帯って緑色やったなってこれ作ってて思い出してな。でも丸麺やとあんま風刃の帯っぽくないっちゅーか、平麺、フェットチーネやったっけ、あれのほうがそれっぽいような――あっ」
さっきまで上向いていた水上の機嫌が急降下していて、生駒はぱっと手で口を覆う。水上の前で風刃の話は禁句だったのを思い出した。
そのきっかけは、生駒が隊の誰にも言わず風刃争奪戦に参加したことである。しかもその話を明かしたのがランク戦直前だったのも良くなかった。ほんとうに何の考えもなく、今回の解説は迅が担当すると聞いて「こないだ風刃の所有権めぐっての争奪戦行ってきたんやけどな」と話しだしたのだが、隊員たちの驚愕は生駒の想像をはるかに超えていて、その動揺は試合開始後までしっかり響いた。隠岐はバッグワームの起動が遅れたし、海は「何すればいいんでしたっけ」と言い出すし、水上は真っ先に落とされた上にそのあと真織のサポートが出来なかった。そもそもいつも水上が主導して行う相手チームのおさらいができなかったのも大きい。結果はぼろぼろで解説席の迅には「生駒隊は調子悪かったですね」と言われて妙に恥ずかしかった。
「あのこと、まだ怒っとるん?」
「許しませんよ、一生」
「一生は勘弁してや」
「イコさんが勝手に隊抜けようとしたんやないですか」
「そこまで考えてへんよぉ……強い奴らとバトロワしてみたかっただけやって」
黒トリガーの持ち主になれば隊を抜けてS級になる、というのを知らないわけではなかったが、風刃の持ち主になれるとは全く思っていなかったからその可能性があるという発想が抜け落ちていた。本当にただチーム戦でもタイマンでもないバトルがしてみたかっただけなのだ。ただ、生駒が何も言わず相談せずに風刃を手にする可能性に手を伸ばしたことは申し訳ないとおもっているし、責任感に欠けていたなと思っている。
「でもまあ、俺は争奪戦参加できてよかったって思っとるよ」
「は?」
「顔怖っ。いや、なんぼ強いって言われても攻撃手ランク何位って言われても、それってタイマンではある程度対応できとるだけで、大人数になったら俺一人の力ではどうにもならんし、安心して背中預けられるお前がおるからのびのび戦えとるんやなあって再確認したんやで」
「……そっすか」
水上の止まっていた手が再び動いて黄緑色の麺をフォークでくるくると巻き付け始めた。顔は少しむくれているが、頬がすこしだけ赤い。照れているのだろうか。何に? 安心して背中預けられるという話を、今までしたことがなかっただろうか。生駒の中では当たり前にある信頼であり感謝なのだけども。どうも、したことがある話を無い話を覚えていられないのは悪癖なように思う。伝えるべきことは意識して伝えていかなければ。
「やっぱ俺、報連相苦手やわ」
「え、これバジルや言うてませんでした? ほうれん草入ってるんです?」
「そっちのホウレンソウちゃうねん」