紅青アンソロ「Rhapsodic Biography」に寄稿したお話です。テーマはタイトル通り「双子の進む道が違ってもお互い想い合う二人」です。リマスターの要素も入れつつエンディング後にナチュラルに再分離してます。主催の紫音様、アンソロジーの企画から発行までありがとうございました!
@wasser_welle
マジックキングダムより定められた宿命の戦いの末——勝利したのは僕、ルージュだった。ブルーとの融合後に生じた元々一人の人間だったという感覚とマジックキングダムへの疑問を持ちながら故郷へと戻れば、そこは跡形もなく破壊されていた。
辛うじて生きていた術士から話を聞けば、マジックキングダムが秘匿していた地獄という場所の封印が破られ、そこからやってきたモンスターに蹂躙されたのだという。
話を聞いてマジックキングダムの自業自得だと思ったし、いっそこのまま放置しても問題ないのではとも思ったけれど、僕の中でまだ意識を保っていたブルーが猛抗議をしてきた。
——最後の術士の務めを果たせ。放棄するな。
「何で僕がやらなきゃいけないわけ? もうたくさんだ! 僕のやりたいようにさせてくれ!!」
——だが、お前だってきっといつか後悔するぞ。
「それはブルーの意見だろう。僕は君とは違う」
——このままモンスターどもを放置して、もしも他のリージョンにまで被害が及んだらどうする。お前が旅をしたいどころの話じゃなくなるぞ。
「……そんなこと」
——あるわけない? もうすでにあるわけないことが目の前で起こっているんだぞ。キングダムの術士たちだってまさか封印が破られるとは夢にも思っていなかっただろうな。それだけ力のあるモンスターなんだ。魔術のゲートのような独自の技術を持ったモンスターがいないとも言い切れまい。そうなったら、お前が共に旅した仲間たちにだって被害が及ぶぞ。
「……」
僕は言い返す言葉が見つからず、黙ってブルーの言葉に耳を傾けていた。地獄のモンスターが他のリージョンを襲う可能性はゼロではない。そう、ブルーの言う通り既に封印が破れるという有り得ない事実が起こったのだから。もう何が起きても不思議ではないだろう。
——そうなったら、きっとお前は後悔するだろうな。
「……ああもう、わかったよ! やれば良いんだろう!? でもって地獄を再封印したら僕は旅に出てやるからね! こんなリージョン知るか!!」
——ああ、全部終わったらお前のやりたいことをやればいいさ。
それからはブルーに何度語りかけても返事はなかった。僕がやると言って安心したのだろうか。これで僕が別のリージョンにリージョン移動したらどうするんだろう。気になったが一度言った手前やるのは気が引けた。
そうして僕はキングダムの地下の奥深くへと足を運んでいく。徐々に不穏な気配、恐らく地獄のものであろうものが濃くなっていくのを感じた。
「ここから地獄へ行けるのか?」
辛うじて息のあった術士へと語りかければ返事があった。
「君は……そうか、最後に旅立った術士……」
彼曰く、ここが地獄の入り口だという。また地獄でゲートの術を発動させると混沌に飛ばされるらしく、リージョン移動は彼に預けることになった。
「頼む」
「ああ、行ってくる」
そうして彼に背を向けると二度と振り返らずに走って地獄へ飛び込んだ。
「……お前たちは本当の」
だから、彼の微かな呟きに僕は気づかなかった。
***
「はっ……はあっ……はっ……!」
どうにか地獄の主を倒した後、僕は地獄からキングダムまでひたすら走った。主人を失ったせいか、地獄が崩壊し出したのだ。徐々に崩れていく不安定な足場に飲み込まれまいとただただ走った。だって、こんなところで死んだら旅に出られない!
——お前には滅びた故郷を復興するという気持ちはないのか。
「残念だけどこれっぽっちもないね! もう僕は自由に生きていきたいんだ!!」
——そこまで言い切るといっそ清々しいな。
ただそれだけ。僕の足を動かす理由はたったそれだけだった。でもブルーは違った。顔は似ていても考え方は全く違う。融合してもそこは変わらないところを見るに、本当に元々一人だったんだろうかと思えてくる。
「ブルーは復興させたいんだ。すごいね、僕らを騙して殺し合わせてたのに?」
——もう二度とそういうことをしないリージョンに変えたいと思っただけだ。
「……ごめん」
——何を謝る必要がある。これはお前の身体だ。お前が思ったようにやりたいことをすればいい。
僕はブルーのその言葉に唇をぐっと噛み締めて、速度の落ちた足を叩き叱咤する。絶対に帰ってやるという意思を込めて。
「! 戻って……来れた……」
やっとの思いでキングダムへと帰還を果たした瞬間、緊張の糸が途切れたのか僕は気絶した。
***
「おい、起きろ」
「ん……」
肩を揺さぶられ覚醒を促される。でも身体中あちこち痛いし、疲労感がすごいし、目を覚ましたくなかった。
「おい」
「あと五分……」
世界を救ったんだからちょっとは休ませてよ、とゴロリと寝返りを打つ。すると声の主が耳元で声を荒げた。
「……起きろ!!」
「うわあっ!?」
その声に驚いて飛び起きれば、眉間に皺を寄せて呆れた顔をした双子の兄弟——ブルーがいた。え、一体どういうこと?
「やっと起きたか。お前は寝起きが良さそうに見えて悪いんだな」
「……ブルー……なの……?」
「ああ。どういう理屈なのか知らんが、気づいたらお前の隣で倒れていた」
「地獄の主を倒したからとか……?」
「一番妥当な線はそこだろうな。だがそんなことはどうだっていい」
「い、いいんだ?」
「……これなら、お前は俺に気兼ねすることなく旅に出られるだろう」
「えっ」
「俺はキングダムに残って復興をする。お前は自由に旅に出る。それでいいだろう?」
「……ブルー! ありがとう!!」
「うおっ!? 急に抱きつくな鬱陶しい!!」
ブルーのその言葉に僕が感極まって勢いよく抱きつけば、ブルーは僕を振り払おうと必死に身体を捩る。うん、きっと照れ隠しというやつだろう。多分!
その後、生き残っていた術士たちからは僕たち二人が中心となってキングダムの復興を行ってほしいと言われた。けれど僕は自分の意志を曲げることはせず、ブルーも僕の意見を支持してくれた。
「ルージュが旅に出るのは各地のリージョンの様子を見て復興する際の参考するためだ」なんて理由をでっち上げて。それがなんだか嬉しくてくすぐったかった。
「……じゃあ、行ってきます」
「ああ、行ってこい」
そうして、僕らは再び別々の道を歩むことになったのだった。互いの健闘を祈りながら。
***
「ブルー、ちゃんと元気に生きてる?」
「だからどうしてお前はいつも窓から入ってくる!?」
学院長室の窓が開いていたので遠慮なく窓から顔を出せば、僕に気づいたブルーが目尻を吊り上げて早足でこちらに駆け寄ってきた。
そう、僕は旅の合間にマジックキングダムへ立ち寄ることにしていた。こんなリージョン知るかという思いは今でも変わらないけれど、ブルーがちゃんと元気でいるかどうか気になるという思いはまた別だと思う。
「えー、だって正面から入ったら手続き色々面倒臭いんだもん。それに鍵開いてるし」
「当たり前だバカ。生徒の安全の為にやってるんだ。今は部屋の換気をしてたから開けてただけで普段はちゃんと鍵は掛けている!」
「なーんだ、僕が来るから開けてたんじゃないのか」
「どこまで自意識過剰なんだ……はあ」
僕が残念そうに言うとブルーは額に手を当てて呆れながら言う。
「そりゃあ、君と双子だしこう、以心伝心みたいな?」
「ったく……もう顔は見ただろとっとと行け。俺は今忙しい」
「ひどい! 唯一無二の兄弟がはるばる会いに来たっていうのにこの仕打ち!!」
ブルーが追い払うように手を振るから僕がよよよ、と泣く振りをすれば、ブルーはスッと目を細めて僕を睨みつけながら言う。
「一週間前にも来たばかりだろうが。しかもお前、あの時俺の格好してたな!」
「何のこと?」
「すっとぼけるな! 教員や生徒に「あれ、学院長先生、先程あちらにいらしたのでは……?」と幽霊でも見たようにビビられる俺の立場にもなれ!!」
「あはは、ごめんごめん」
「……全く」
僕が笑いながら顔の前で両手を合わせるとブルーは眉間に皺を寄せて呆れながら言う。
でも、君のフリしていた時に他の教師や生徒たちたくさん話しかけられた時に感じたよ。君が周りから慕われていることを。
「まあでも、相変わらずブルーが元気そうで良かったよ」
「その言葉、そのままお返ししてやる」
僕がそう言えばフン、と腕を組んでジト目で僕を見ながらブルーが言う。こんな他愛のないやりとりができることが、今はただ嬉しいと思う。
「頼むから過労死だけはやめてね」
「そんなことで死んでたまるか。お前こそ旅の途中でうっかりモンスターやら人間やらに殺されるなよ」
「大丈夫、術だけじゃなくて色々鍛えてますから。……じゃあ、そろそろ行こうかな」
「そうか。……気をつけろよ」
「ふふ、ありがとう。じゃあ、ブルーも本当に体に気をつけてね」
そして僕は窓から身を乗り出して手を伸ばせば、ブルーが僕の方へと身体を、顔を近づけてくれた。そうしてブルーの頬に手を添え——その唇に口付けをした。
これは、お互い離れ離れになるけれどまた此処へ戻ってくるよ、という一つの約束。いつまでも僕らが元気でいられるようにというささやかな願いを込めた儀式。
「じゃあ、行ってきます」
「ああ、行ってこい」
名残惜しいけれどそっと唇を離す。あと何度こうしたやりとりが出来るのかはわからない。でも、僕らが生きている限り続けられたらと思うんだ。
【終】