ピクスク様のドラヒナ童話パロイベント、『オカシなどら×ひな寓話集』に参加した3作目です。
人魚姫ドラヒナになります。
1P目の捏造設定をご覧になって、OKな方はどうぞ。
カズサ王が立ち上げた、『陸と海を繋げる計画』の過程で、淡水域の人外達の有力者蛟王と会合しに来たタコルクさん達。
待ち時間に、散歩に出かけたヒナイチ姫は、産卵の為に故郷に戻って来た鮭達や、海に憧れを持つヤマメ、逆の考えを持つヤマメの稚魚達と出会う。
魔女さん視点の総集編は、こちらから→ 深海の魔女の死、太陽の魔女の誕生(https://privatter.net/p/10760499)
これまでに書いた人魚姫ドラヒナのお話は、こちらから読めます→https://privatter.net/category/59631
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*捏造設定になります。
魔女ドラルク 別名、深海の魔女。深海でも強大な力を持つ一族を両親に持つメンダコ。生まれつき不治の病を患っており、自身を治す為に魔女となった。現在、人魚の肉を材料とした薬で、かろうじて生き延びている。体は弱いが、魔術、医術、薬学の知識はトップクラスで、料理は趣味。陸では商人ドラルクとして、シンヨコ王国と交易したり、ロナルド王子の退治仕事に同行して、材料を調達していた。ヒナイチ姫の肉を狙って接触したが、情が移って出来なくなった。現在、カズサ王の陸と海を繋げる計画の中心人物。
ヒナイチ姫 イナ海国の第一王女。自身が領海内をパトロールするほど、武勇に優れている。人魚の王族として濃い血を持ち、その肉は長命種のドラルクをも不老不死に出来る。ドラルクの作るお菓子に魅了され、毎日通う契約を結んでいた。現在は、兄の命令で、ドラルクの護衛、監視員、助手をしている。幼い頃、小さなメンダコに変身したドラルクが、ヨシキリザメに襲われている所を助けた事がある。
シャコガイジョン サンゴ礁を襲った嵐により、深海に流された稚貝が、魔女に拾われたのが今の姿。魔女ルクさんの使い魔で命を共有している。陸では、アルマジロに近い姿で行動している。主人の非人道的な姿や、契約に破れた者達の末路を見てきたので、冷静でドライな一面がある。
ロナルド王子 人外にも開放的なシンヨコ王国の第二王子。武勇に優れ、人間と人外のトラブル解決で名をあげている。嵐の晩に海に投げ出され、ヒナイチ姫に命を救われた。現在、サンズ姫と新婚さん。乱暴だが、お人よしで面倒見がいい。シンヨコ王国は迷惑行為をする人外が多いので、平等な態度で付き合う事ができる。ドラルクとは、腐れ縁の様な間柄。
サンズ姫 シンヨコ王国の隣国、サンガ国(女性の多くが、くノ一を生業としている)の王女。おっちょこちょいだが、自身も優れたくノ一。気絶していたロナルド王子の第一発見者で、後に彼と結ばれた。最近は、ヒナイチ姫に懐かれて困っている。火薬や薬学の見識が高いくノ一で、ドラルクが探している治療薬作成のキーマンの一人。
魔女ルクさんには、契約した者達を実験台にし、人魚達を誑かして肉を食らっていた等、後ろ暗い経歴があります。
陸に行った元人魚達、人間から人魚になった者達の中には、望郷の念に駆られた者も多い。
彼らへの救済措置、人外にも友好的なシンヨコ王国との同盟、交流、付随する経済効果も狙って、カズサ王が陸と海を繋げる計画を立てています。
中心人物には魔女ドラルク。協力者として指名されたのが、ヒナイチ姫とロナルド王子、サンズ姫になります。
この三人の心臓には、魔法のパスポートが埋め込まれており、自由に陸と海で行動可能です。
「困ったなぁ…人魚の川流れなんて、聞いた事がないぞ。」
ちょっと、油断したんだ。こんなに綺麗な川を初めて見たんだ。
時間もあるし、嵐の中でも平気で泳げる私だ。流れは速いが、海に比べるとずっと浅いし、狭い。大した事はない…そう踏んでいたんだけど…。
ここは、シンヨコ王国の首都から外れた森…だったはずなんだ。
兄が立ち上げた『陸と海を繋げる計画』は、順調に進んでいる。
ドラルクの魔法によってかつての肉体を捨て、陸から海の世界へ、海から陸の世界へと移住した者達。
初めは、憧れの場所にやってきたのだ。浮かれもし、彼に感謝もしただろう。
でも、時間が経つと望郷の念が、頭をもたげてくる。後悔する者もいるし、口車に乗せられた事を恨む者もいる。それは、仕方ないと思う。
兄はそんな彼らの救済措置として、そして、将来的には様々な国、種族の者達が政治面、経済面でも交流出来る様にしようとしているんだ。
中心人物に指名されたのが、深海の魔女ドラルク。
その彼が、協力者として指名したのが、シンヨコ王国のロナルド王子とその妃のサンズ…私の大切な友人となった者達だ。
ドラルクとロナルド王子は、元々、腐れ縁の顔見知り。そして、そのロナルド王子は、私が嵐の晩に助けた人間の王子様で、サンズはそのロナルド王子の第一発見者。彼の現在の妃でもある。
そんな縁で、私達4人と1匹は、行動を共にする様になった。
今回は、シンヨコ王国近辺にある険しい山道を登って行って、涼しくて綺麗な川に来たんだ。そこには、淡水域に住まう人外達の有力者、蛟王がいる。
表層とも深海とも違う、それでも人魚である私には、どこかなじみ深い気がする場所。
川というのは、どんな所なんだろう。
だから、ドラルクと蛟王が最終の打ち合わせをしている待ち時間に、私はたまらなくなって、蛟王の住まいである洞窟を飛び出したんだ。
「おい、バカ!呼び出しがあったら、どうするんだ。」
「緊張感なさ過ぎだろ!サンズちゃん達は、まだお仕事ですよ。」
「ヌヌイヌヌヌ、ヌッヌヌ!」
後ろで、ジョン達の慌てた声がする。でも、さっきまでの会合でイナ海国から話せる事は伝えてしまった。
呼び出される事もないと思う。
「ちょっとだけ…いいよな?」
「ったく。しょーがねえな。」
心臓に埋め込まれたパスポートに手を当てる。意識を集中させる。
さっきまで、人間の2本足だったものが、本来の緑に輝く尾鰭になる。
「こんにちは…お前は、魚…なのか?何だか、不思議な姿をしているなぁ。」
川底に潜って、海とはまた違う色の砂利を掬って、手で弄んだり、初めて見るタニシやサンショウウオ、イワナに挨拶をしながら、涼やかな世界を堪能する。
「おや、ヒナイチ姫?ヒナイチ姫では、ありませんか?」
「うん?あれ?お前達、どうしてここに?」
声をかけられて振り返る。そこには、何十匹もの鮭達が泳いでいた。
流れに逆らって遡上する彼らの鱗は剥がれ、岩で擦れて傷だらけの体は、とても痛々しかった。
「アハハ…ご存じではありませんか?そろそろ、時期なんですよ。」
「私達は、もっと上流で生まれたのです。だから、皆でそこへ帰ります。」
川で生まれた彼らは川を下り、海で生活し、そして、産卵の為に故郷への旅路に着く。
そして…
「そうか。私達は、ちょっと仕事でな。じゃあ、またな。」
「また…ですか。いいえ、もうお会いする事はありません。」
「私達の子供達が孵化したら、またお世話になるかもしれませんね。それでは…。」
そして、それは帰郷であり、死出の旅でもあるんだ。
「さようなら。」
「…さようなら。」
ボロボロの尾鰭を閃かせて、それでも彼らは昇っていく。
その顔に、恐怖はなかった。
「死への恐怖…か。」
生まれつき、不治の病と、『自分の体を治す』という執念に憑りつかれた想い人を、思い浮かべる。
ドラルクが、ウィッチ・ドクターとして名前を轟かせる様になったのは、幼い頃から何度も死線を彷徨った、恐怖から逃れる為だったという。
今でも…彼は私達と笑いながらも、シャコガイのジョンを胸に抱いて、迫りくる恐怖に耐えているのに違いない。
いつか故郷に戻って産卵し、死を迎える事を運命として受け止めて来た、さっきの鮭達と何が違うのだろうか。
黙っているけれど…彼が元々、陸に興味を持った私に声をかけたのは、人魚の肉が欲しかったからだ。
でも、諦めたんだ。『獲物』だったはずの私に…想いを持ってしまったから。
本当は、優しい奴だから…
『それが出来るのは、このイナ海国では、王族の俺とお前だけだ。』
いつだったか、兄はそう言った。
自分の手を眺める…治す事は出来なくても、長命種のお前をも『死なせなくする』、最高の人魚の骨肉ならここにある。
まだ、時間に余裕があるし、魔女も自分で治療薬を作るつもりでいるから…私も、今は何も言わない。
「私は、怖いと感じた事もないからな。」
何も考えずに生きてきた。
ロナルド王子を助けるまで、魔女に出会うまで…こうして、4人と1匹で、様々な世界を巡るまで。
「ねえ。うみのせかいって、たのしいですか?」
無邪気な声に振り返る。そこには、ヤマメの稚魚が泳いでいた。
「あ、こら。やめとけよ。うみからきた、みずちおうさまのおきゃくさまだろ?」
友達らしい稚魚が止めるのも構わずに、彼はクルクルと私の周りを回った。
「楽しいぞ。私は、海で生まれたからってものあるけれど。」
とても、広くて、餌も豊富で、様々な者達がたくさんいる…川よりも、ずっとずっと色んな者達がいる。
「でもさ、こ~んなに、こ~んなにでっかいバケモノもいるんだろ?」
もう一匹の友達と思しきヤマメも話しかけてくる。
そうなんだ。何メートルのサメどころか、何十メートルも大きなクジラがいるなんて、考えもしないだろう。
そもそも、生まれついた場所から離れる…それは、相当な覚悟を要する。
海に憧れを持ち興味津々な子と、見知らぬ世界に警戒心を持ち故郷にとどまる子。
私がかつて、陸の世界に興味を持ち、無鉄砲にドラルクを訪ねた様に。
私がかつて、ドラルクと共に故郷を捨て、冷たく深い深海に行く事に躊躇いを持っていた様に。
今…?今は、決めてるぞ。かえって、もっと悲惨かもしれない旅路を選ぶつもりだ。
「いるぞ。何百匹もの群を一飲みにする大きな者達もな。」
「だってよ、やめとけよ。」
「でもさ~。かえってきたサクラマスのおじさん達を、みただろ?かっこいいじゃん?それに、まんぞくしてるって、いってたじゃん?」
ヤマメは、海に下って成長すると姿形が違う、サクラマスになる。
彼らもまた、故郷に帰ってきて、産卵を終えると死んでしまう運命だ。
「ここでくらしてれば、さんらんしたって、つぎのとしもいきられるのに。」
相反した考えを持つ、二匹の頭を撫でる。
「ねえ、おひめさまはどうおもう?」
「そう…だな。『私』は、別の世界にも足を延ばして楽しかったぞ。それに、興味が増えた。今は、もっと色んな世界の事を知りたい。でも…」
辛い事も増えたと思う。
知らなければ、笑っていられた事も増えた。それは、間違いない。
そうでなければ…仮に魔女の病気が悪化して、死んでしまったとしても。
『一緒にいて楽しい奴だったのにな。あいつがいなくなったら、誰が私にクッキーを焼いてくれるんだ?』
そんな酷い事さえ、言ったかもしれない。
「ぼくは、いつかうみへいきます。そのときは、よろしくおねがいします。」
「そうか。じゃあ、まず体を鍛えないとな。」
陸から海へ、海から陸へ移動した者達も、そうだったのだろう。
辛い時に、『帰れなくなった』故郷が恋しくなるのだ…そう思う。
「おれは、ヤマメのままでいいや。すみなれたところがいちばんだから。」
「それも、いいと思うぞ。それは、それで楽しいものだからな。」
私は、どちらの選択も悪いとは言わない。どちらも正解だと思う。
たまたま、私が選んだ選択が『今』を作っているだけなのだ。
じゃれあいながら、遠ざかっていく稚魚達に手を振る。
彼らは、どんな選択を選ぶのだろう。
願わくば…その道行が『楽しい』と思えるものでありますように…。
「お姫様、迎えに来たよ。」
迷いながら流れを遡上していると、目の前に突然、紫に光る魔法陣が現れた。
そこから、溶け出す様に姿を現したのは、私の大事な想い人。
呆れた様に笑いながら、お前はローブを開いて迎え入れてくれる。
「すまんな…結構、遠い所まで下っていたみたいだ。」
「ウフフ…だと思った。」
「ロナルド王子達は?怒ってないか?」
「そりゃ、5歳だもの。お冠さ。だから、待たせてあるよ。それにしても、ここまで戻って来るのも大変だったでしょ?」
「そう…だな。」
私自身、海流で鍛えているつもりだったんだけど、ここもすごいものだ。
さっきの、鮭達はあの急流を…それどころか、滝をも遡って故郷へ帰るのだろうか。
そこまで、多くの者達の心を突き動かす『望郷の念』。
私達が、今行おうとしている計画の根底にあるもの。
少しでも、早く成功させたい…そう思う。
私は、故郷を去るつもりの者だけど…。
「さあ、おいで。海とはまた違って、疲れただろう?無事に交渉も終わった事だし、帰ったらとびきり美味しいクッキーを焼いてあげようね。」
「うん!」
険しい滝を遡上する鮭達の様に、躊躇いなく、深海の闇を象徴する暗いローブの中に飛び込む。
私の大好きな、ツンとした匂いが鼻腔をくすぐる。
私の大好きな、骨と皮の感触がする、かたいかたい胸の中。
私の大好きな、腕や尾鰭に巻きついてくる、柔らかな8本の足。
「私は、後悔しないぞ。サンゴ礁より、ずっとずっと…。」
いたい場所は、ここだけだ。
この計画が成功したら、私は報酬として、深海の魔女の元に嫁入りする。
太陽に祝福された明るい世界より、深くて冷たい暗い世界に向かうのだ。
魔女が示してくれた、実り豊かな陸の世界。
魔女とジョンと過ごした、冷たく暗い深海の世界。
これから、さらに繋がる国々が増えていくのだと言う。
一口に、山岳、淡水、表層、深海の世界と言っても、場所が違えば、全く違う。
そして、魔女と共に様々な者達に出会っていくのだろう。
どんなに素晴らしい者に出会っても、どんなに綺麗な世界を訪れたとしても、それでも…
「永遠に、ここにいよう…な?」
私が、帰る場所はここだけだ。
どんな惨い運命が待っていたとしても…。