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死への恐怖と望郷の念

全体公開 人魚姫ドラヒナ 12 5660文字
2024-09-25 10:27:52

ピクスク様のドラヒナ童話パロイベント、『オカシなどら×ひな寓話集』に参加した3作目です。
人魚姫ドラヒナになります。
1P目の捏造設定をご覧になって、OKな方はどうぞ。
カズサ王が立ち上げた、『陸と海を繋げる計画』の過程で、淡水域の人外達の有力者蛟王と会合しに来たタコルクさん達。
待ち時間に、散歩に出かけたヒナイチ姫は、産卵の為に故郷に戻って来た鮭達や、海に憧れを持つヤマメ、逆の考えを持つヤマメの稚魚達と出会う。

魔女さん視点の総集編は、こちらから→ 深海の魔女の死、太陽の魔女の誕生(https://privatter.net/p/10760499)
これまでに書いた人魚姫ドラヒナのお話は、こちらから読めます→https://privatter.net/category/59631

Posted by @kw42431393

*捏造設定になります。

 魔女ドラルク 別名、深海の魔女。深海でも強大な力を持つ一族を両親に持つメンダコ。生まれつき不治の病を患っており、自身を治す為に魔女となった。現在、人魚の肉を材料とした薬で、かろうじて生き延びている。体は弱いが、魔術、医術、薬学の知識はトップクラスで、料理は趣味。陸では商人ドラルクとして、シンヨコ王国と交易したり、ロナルド王子の退治仕事に同行して、材料を調達していた。ヒナイチ姫の肉を狙って接触したが、情が移って出来なくなった。現在、カズサ王の陸と海を繋げる計画の中心人物。

 ヒナイチ姫 イナ海国の第一王女。自身が領海内をパトロールするほど、武勇に優れている。人魚の王族として濃い血を持ち、その肉は長命種のドラルクをも不老不死に出来る。ドラルクの作るお菓子に魅了され、毎日通う契約を結んでいた。現在は、兄の命令で、ドラルクの護衛、監視員、助手をしている。幼い頃、小さなメンダコに変身したドラルクが、ヨシキリザメに襲われている所を助けた事がある。

 シャコガイジョン サンゴ礁を襲った嵐により、深海に流された稚貝が、魔女に拾われたのが今の姿。魔女ルクさんの使い魔で命を共有している。陸では、アルマジロに近い姿で行動している。主人の非人道的な姿や、契約に破れた者達の末路を見てきたので、冷静でドライな一面がある。

 ロナルド王子 人外にも開放的なシンヨコ王国の第二王子。武勇に優れ、人間と人外のトラブル解決で名をあげている。嵐の晩に海に投げ出され、ヒナイチ姫に命を救われた。現在、サンズ姫と新婚さん。乱暴だが、お人よしで面倒見がいい。シンヨコ王国は迷惑行為をする人外が多いので、平等な態度で付き合う事ができる。ドラルクとは、腐れ縁の様な間柄。

 サンズ姫 シンヨコ王国の隣国、サンガ国(女性の多くが、くノ一を生業としている)の王女。おっちょこちょいだが、自身も優れたくノ一。気絶していたロナルド王子の第一発見者で、後に彼と結ばれた。最近は、ヒナイチ姫に懐かれて困っている。火薬や薬学の見識が高いくノ一で、ドラルクが探している治療薬作成のキーマンの一人。

 魔女ルクさんには、契約した者達を実験台にし、人魚達を誑かして肉を食らっていた等、後ろ暗い経歴があります。
 陸に行った元人魚達、人間から人魚になった者達の中には、望郷の念に駆られた者も多い。
 彼らへの救済措置、人外にも友好的なシンヨコ王国との同盟、交流、付随する経済効果も狙って、カズサ王が陸と海を繋げる計画を立てています。
 中心人物には魔女ドラルク。協力者として指名されたのが、ヒナイチ姫とロナルド王子、サンズ姫になります。
 この三人の心臓には、魔法のパスポートが埋め込まれており、自由に陸と海で行動可能です。



 「困ったなぁ人魚の川流れなんて、聞いた事がないぞ。」
 ちょっと、油断したんだ。こんなに綺麗な川を初めて見たんだ。
 時間もあるし、嵐の中でも平気で泳げる私だ。流れは速いが、海に比べるとずっと浅いし、狭い。大した事はないそう踏んでいたんだけど
 ここは、シンヨコ王国の首都から外れた森だったはずなんだ。

 兄が立ち上げた『陸と海を繋げる計画』は、順調に進んでいる。
 ドラルクの魔法によってかつての肉体を捨て、陸から海の世界へ、海から陸の世界へと移住した者達。
 初めは、憧れの場所にやってきたのだ。浮かれもし、彼に感謝もしただろう。
 でも、時間が経つと望郷の念が、頭をもたげてくる。後悔する者もいるし、口車に乗せられた事を恨む者もいる。それは、仕方ないと思う。
 兄はそんな彼らの救済措置として、そして、将来的には様々な国、種族の者達が政治面、経済面でも交流出来る様にしようとしているんだ。
 中心人物に指名されたのが、深海の魔女ドラルク。
 その彼が、協力者として指名したのが、シンヨコ王国のロナルド王子とその妃のサンズ私の大切な友人となった者達だ。
 ドラルクとロナルド王子は、元々、腐れ縁の顔見知り。そして、そのロナルド王子は、私が嵐の晩に助けた人間の王子様で、サンズはそのロナルド王子の第一発見者。彼の現在の妃でもある。
 そんな縁で、私達4人と1匹は、行動を共にする様になった。
今回は、シンヨコ王国近辺にある険しい山道を登って行って、涼しくて綺麗な川に来たんだ。そこには、淡水域に住まう人外達の有力者、蛟王がいる。
 表層とも深海とも違う、それでも人魚である私には、どこかなじみ深い気がする場所。
 川というのは、どんな所なんだろう。

 だから、ドラルクと蛟王が最終の打ち合わせをしている待ち時間に、私はたまらなくなって、蛟王の住まいである洞窟を飛び出したんだ。
 「おい、バカ!呼び出しがあったら、どうするんだ。」
 「緊張感なさ過ぎだろ!サンズちゃん達は、まだお仕事ですよ。」
 「ヌヌイヌヌヌ、ヌッヌヌ!」
 後ろで、ジョン達の慌てた声がする。でも、さっきまでの会合でイナ海国から話せる事は伝えてしまった。
 呼び出される事もないと思う。
 「ちょっとだけいいよな?」
 「ったく。しょーがねえな。」



 心臓に埋め込まれたパスポートに手を当てる。意識を集中させる。
 さっきまで、人間の2本足だったものが、本来の緑に輝く尾鰭になる。
 「こんにちはお前は、魚なのか?何だか、不思議な姿をしているなぁ。」
 川底に潜って、海とはまた違う色の砂利を掬って、手で弄んだり、初めて見るタニシやサンショウウオ、イワナに挨拶をしながら、涼やかな世界を堪能する。

 「おや、ヒナイチ姫?ヒナイチ姫では、ありませんか?」
 「うん?あれ?お前達、どうしてここに?」

 声をかけられて振り返る。そこには、何十匹もの鮭達が泳いでいた。
 流れに逆らって遡上する彼らの鱗は剥がれ、岩で擦れて傷だらけの体は、とても痛々しかった。
 「アハハご存じではありませんか?そろそろ、時期なんですよ。」
 「私達は、もっと上流で生まれたのです。だから、皆でそこへ帰ります。」
 川で生まれた彼らは川を下り、海で生活し、そして、産卵の為に故郷への旅路に着く。
 そして

 「そうか。私達は、ちょっと仕事でな。じゃあ、またな。」
 「またですか。いいえ、もうお会いする事はありません。」
 「私達の子供達が孵化したら、またお世話になるかもしれませんね。それでは。」
 そして、それは帰郷であり、死出の旅でもあるんだ。
 「さようなら。」
 「さようなら。」
 ボロボロの尾鰭を閃かせて、それでも彼らは昇っていく。
 その顔に、恐怖はなかった。



 「死への恐怖か。」
 
 生まれつき、不治の病と、『自分の体を治す』という執念に憑りつかれた想い人を、思い浮かべる。
 ドラルクが、ウィッチ・ドクターとして名前を轟かせる様になったのは、幼い頃から何度も死線を彷徨った、恐怖から逃れる為だったという。
 今でも彼は私達と笑いながらも、シャコガイのジョンを胸に抱いて、迫りくる恐怖に耐えているのに違いない。
 いつか故郷に戻って産卵し、死を迎える事を運命として受け止めて来た、さっきの鮭達と何が違うのだろうか。

 黙っているけれど彼が元々、陸に興味を持った私に声をかけたのは、人魚の肉が欲しかったからだ。
 でも、諦めたんだ。『獲物』だったはずの私に想いを持ってしまったから。
 本当は、優しい奴だから

 『それが出来るのは、このイナ海国では、王族の俺とお前だけだ。』

 いつだったか、兄はそう言った。
 自分の手を眺める治す事は出来なくても、長命種のお前をも『死なせなくする』、最高の人魚の骨肉ならここにある。
 まだ、時間に余裕があるし、魔女も自分で治療薬を作るつもりでいるから私も、今は何も言わない。
「私は、怖いと感じた事もないからな。」
 何も考えずに生きてきた。
ロナルド王子を助けるまで、魔女に出会うまでこうして、4人と1匹で、様々な世界を巡るまで。



 「ねえ。うみのせかいって、たのしいですか?」

 無邪気な声に振り返る。そこには、ヤマメの稚魚が泳いでいた。
 「あ、こら。やめとけよ。うみからきた、みずちおうさまのおきゃくさまだろ?」
 友達らしい稚魚が止めるのも構わずに、彼はクルクルと私の周りを回った。
 「楽しいぞ。私は、海で生まれたからってものあるけれど。」
 とても、広くて、餌も豊富で、様々な者達がたくさんいる川よりも、ずっとずっと色んな者達がいる。
 「でもさ、こ~んなに、こ~んなにでっかいバケモノもいるんだろ?」
 もう一匹の友達と思しきヤマメも話しかけてくる。
 そうなんだ。何メートルのサメどころか、何十メートルも大きなクジラがいるなんて、考えもしないだろう。
 そもそも、生まれついた場所から離れるそれは、相当な覚悟を要する。
 海に憧れを持ち興味津々な子と、見知らぬ世界に警戒心を持ち故郷にとどまる子。
 私がかつて、陸の世界に興味を持ち、無鉄砲にドラルクを訪ねた様に。
 私がかつて、ドラルクと共に故郷を捨て、冷たく深い深海に行く事に躊躇いを持っていた様に。

 今?今は、決めてるぞ。かえって、もっと悲惨かもしれない旅路を選ぶつもりだ。

 「いるぞ。何百匹もの群を一飲みにする大きな者達もな。」
 「だってよ、やめとけよ。」
 「でもさ~。かえってきたサクラマスのおじさん達を、みただろ?かっこいいじゃん?それに、まんぞくしてるって、いってたじゃん?」
 ヤマメは、海に下って成長すると姿形が違う、サクラマスになる。
 彼らもまた、故郷に帰ってきて、産卵を終えると死んでしまう運命だ。
 「ここでくらしてれば、さんらんしたって、つぎのとしもいきられるのに。」
 相反した考えを持つ、二匹の頭を撫でる。
 「ねえ、おひめさまはどうおもう?」
 「そうだな。『私』は、別の世界にも足を延ばして楽しかったぞ。それに、興味が増えた。今は、もっと色んな世界の事を知りたい。でも
 辛い事も増えたと思う。
 知らなければ、笑っていられた事も増えた。それは、間違いない。
 そうでなければ仮に魔女の病気が悪化して、死んでしまったとしても。
 『一緒にいて楽しい奴だったのにな。あいつがいなくなったら、誰が私にクッキーを焼いてくれるんだ?』
 そんな酷い事さえ、言ったかもしれない。

 「ぼくは、いつかうみへいきます。そのときは、よろしくおねがいします。」
 「そうか。じゃあ、まず体を鍛えないとな。」
 陸から海へ、海から陸へ移動した者達も、そうだったのだろう。
 辛い時に、『帰れなくなった』故郷が恋しくなるのだそう思う。
 「おれは、ヤマメのままでいいや。すみなれたところがいちばんだから。」
 「それも、いいと思うぞ。それは、それで楽しいものだからな。」

 私は、どちらの選択も悪いとは言わない。どちらも正解だと思う。
 たまたま、私が選んだ選択が『今』を作っているだけなのだ。
 じゃれあいながら、遠ざかっていく稚魚達に手を振る。
 彼らは、どんな選択を選ぶのだろう。
 願わくばその道行が『楽しい』と思えるものでありますように



 「お姫様、迎えに来たよ。」

 迷いながら流れを遡上していると、目の前に突然、紫に光る魔法陣が現れた。
 そこから、溶け出す様に姿を現したのは、私の大事な想い人。
 呆れた様に笑いながら、お前はローブを開いて迎え入れてくれる。
 「すまんな結構、遠い所まで下っていたみたいだ。」
 「ウフフだと思った。」
 「ロナルド王子達は?怒ってないか?」
 「そりゃ、5歳だもの。お冠さ。だから、待たせてあるよ。それにしても、ここまで戻って来るのも大変だったでしょ?」
 「そうだな。」
 私自身、海流で鍛えているつもりだったんだけど、ここもすごいものだ。
 さっきの、鮭達はあの急流をそれどころか、滝をも遡って故郷へ帰るのだろうか。

 そこまで、多くの者達の心を突き動かす『望郷の念』。
 私達が、今行おうとしている計画の根底にあるもの。
 少しでも、早く成功させたいそう思う。
 私は、故郷を去るつもりの者だけど

 「さあ、おいで。海とはまた違って、疲れただろう?無事に交渉も終わった事だし、帰ったらとびきり美味しいクッキーを焼いてあげようね。」
 「うん!」
 
 険しい滝を遡上する鮭達の様に、躊躇いなく、深海の闇を象徴する暗いローブの中に飛び込む。
 私の大好きな、ツンとした匂いが鼻腔をくすぐる。
 私の大好きな、骨と皮の感触がする、かたいかたい胸の中。
 私の大好きな、腕や尾鰭に巻きついてくる、柔らかな8本の足。

 「私は、後悔しないぞ。サンゴ礁より、ずっとずっと。」

 いたい場所は、ここだけだ。
 この計画が成功したら、私は報酬として、深海の魔女の元に嫁入りする。
 太陽に祝福された明るい世界より、深くて冷たい暗い世界に向かうのだ。

 魔女が示してくれた、実り豊かな陸の世界。
 魔女とジョンと過ごした、冷たく暗い深海の世界。
 これから、さらに繋がる国々が増えていくのだと言う。
 一口に、山岳、淡水、表層、深海の世界と言っても、場所が違えば、全く違う。
 そして、魔女と共に様々な者達に出会っていくのだろう。
 どんなに素晴らしい者に出会っても、どんなに綺麗な世界を訪れたとしても、それでも

 「永遠に、ここにいような?」
 私が、帰る場所はここだけだ。
 どんな惨い運命が待っていたとしても


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