X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

自白剤カウンター

全体公開 みずいこ・単話 2858文字
2024-09-30 01:21:48

みずいこお題部第十六回より「酔ってません」【透明】『アルコール』 関西弁非ネイティブのため口調は勘頼り
※ 双方成人してます

Posted by @a_yuuzora

酒はその人の本音を引き出すという。理性のタガを緩め、隠し事をぽろっとこぼしてしまう、そういう魔力がアルコールにはある。だから恐ろしいともいえるし、面白いともいえる。
生駒には、この成人していれば誰でも買える自白剤を使って、本音を聞き出したい相手がいた。

水上の初めての飲酒は同い年のボーダー隊員たちとの早めの忘年会で、感想としてはそこまで楽しいものではなかったらしい。
一言でいうと「ああいうのは先に酔った方が勝ちだと気付いた」とのことだった。ある者はひっきりなしに笑っているし、ある者はさめざめと泣いているし、ある者は青い顔をしてトイレに籠ったきり出てこなくなったという、なかなか悲惨な会だったようだ。幹事までそんな状態だったから、たまたま近くにいて酔いそびれた水上が場の収拾をつけるはめになったという。まあ飲みなれてない者ばかりが十人以上集まったらそんなことにもなるのだろう。
「もうしばららくああいう場はご遠慮願いたいっすね」
「そんなら宅飲みとかならどうや? 酒とかツマミとか買い込んでピザとか頼んで少人数でまったり飲んだり喋ったりするのも楽しいで!」
「ああ、そういうのはええですね。何時までに帰らなあかんってこともないし、気楽そうや」
「せや、今度うちで宅飲みする?」
「ええんですか?」
「もちろん!」
「ほな遠慮なくお邪魔させてもらいます」
「後で予定付きそうな日探しとくな」
そう約束を取り付けてから、生駒は「これって『おうちデート』やない!?」と思い至った。
デートと表現はしたが、別に付き合っているということではない。ただ、生駒は水上のことが好きで、水上も生駒のことが好きなのではないかと薄々勘づいているというだけである。どちらもまだ決定的な言葉は告げていない。言ってくれないかとなんとなく探りを入れているような、今の先輩後輩兼相棒のような関係性を変えてしまっていいのかどちらもが迷っているような、そんな微妙な距離感。
そこに、アルコールという合法自白剤を飲ませられるイベントが降って湧いた。これを有効活用しない理由はない。

今生駒の家には透明な液体の入った二つの瓶(片方は焼酎でもう片方はウォッカ)、そしてオレンジジュースや烏龍茶などの大量の割材がある。ちょっと買い過ぎたかもと思ったが、準備は多いに越したことはない。宅飲みの酒を既製品ではなく自分で割る形にして、水上の分を濃く作り自分の分を薄く作って、先に酔わせてあの賢い男の理性のタガを緩めて本音を聞きだそう、というのが生駒の魂胆だ。潰して襲おうなんて悪いことなど企んではいない。酒の付き合いも楽しいと思ってほしいのは本当だ。ただ、ついでに少し本音を聞きたいだけ。できれば、好きだと言ってほしいだけ。それでもなんだか騙し討ちをしている気持ちにはなるけども。

酒を生駒が用意する代わりに水上には酒のアテになる総菜やスナックを買ってきてもらって、酒を仕込みがてらホスト側として細々と動きながら恙なく二人きりの宅飲みは進行した。「なんか酒濃くないです?」という怪訝な問いには「飲み放のうっすいジュースみたいな酒やない、濃い酒が安く作れるのが宅飲みのええところやで」と躱したし、こっそり作っておいた簡単なおつまみも、水上は喜んで食べて美味しいと言ってくれたのがとても嬉しかった。酒も食も進んで楽しい飲み会になり、良い調子だったはずだ。
なのに、先に机に突っ伏していたのは生駒の方だった。冬だというのに少し汗ばむくらいに身体が熱く、眠いわけではないのに瞼がとろんと落ちそうになる。ちらりと向かいに座る水上を見れば、涼しい顔でグラスに口をつけていた。
「おや、イコさんもう酔いました?」
「酔ってへんよぉ」
「うわ、酔っ払いの常套句ほんまに聞けるとは思わんかった」
水上は楽し気に笑いながら、キッチンから水を持ってきて生駒の前に置き、そのまま隣に座る。生駒は素直にそれに口をつけ、一息ついてから少しだけしっかりした口調で喋り始めた。
「水上、お前酒強いんやなあ」
「まだちゃんと酔ったことないっすけど、人並みやないですかね」
「うそぉ」
「ちゃんと自分の限度は知っとかなあかんなとは思ってますけど、それは後日でええかな」
「うん、限度知っとくのは大事なことやな」
「ほんで、イコさんが俺を潰そうとしとんのは気付いてましたよ」
「潰そうなんて思ってへんよ」
「でも酔わそうとはしてたでしょ」
「うん」
素直に答えてから、生駒は何か違和感を覚えた。だがアルコールでぼんやりした頭はその違和感の正体に気付けない。
「イコさんは俺酔わせて何したかったんですか」
「お前の本音が聞きたかってん」
「いつも本音で話しとるつもりですけど、イコさんにはそう見えてなかったんすか」
「んーん、水上が嘘ついてると思ってるんちゃうよ、でも隠し事はしとるやろ?」
「それは……してますねえ。それは、イコさんもでしょ」
「うん」
「ほんなら先にイコさんの秘密教えてくださいよ、そしたら俺の秘密も教えます」
「ほんま?」
「ほんまです。だからイコさんの隠し事、教えて」
「俺の隠し事はな、水上のことが好きってこと」
……それを隠そうと思ったのはなんでです?」
「だって俺、年上で一応上司やん? ほんまは嫌や思ってても断りづらいやろ」
「そんなこと、気にしてたんですか」
「大事なことやんか。俺、これでも威圧感与えへんように気ぃつかってんねんで」
「はい、よーく知ってますよ。そういう優しいところが、イコさんの素敵なとこやなっていつも思ってます」
「ほんま? 嬉しい」
「優しいから、俺から告白したらほんとはそういうつもり無くても俺の要望に応えてくれてまいそうやなって思ってたんです」
「ん……どゆこと?」
「俺ら、おんなじこと考えてたってことですよ」
「そっか、気ぃ合うなあ」
「そっすね」
水上はすっかり赤くなった生駒の頬を撫で、そこにくちづけた。いきなり降ってきた柔らかな感触に生駒はぱちくりと瞬いたあと、もっと、と乞う。すると水上はキスとおなじくらい柔らかな顔で微笑んで、「それはお互いシラフんときにしましょ」と囁いた。

◇  ◇  ◇

酒に強くないと言っていた水上が酔わず、酔うつもりのなかった生駒が先に潰れたのは、生駒のたくらみに気付いた水上が生駒の目を盗んでグラスをすり替えたからだった。つまり、水上に濃い酒を作って渡した後、すり替えられて自分でそれを飲むはめになったということである。
「どうせなら自分の分は酒の代わりに水でも入れとけばどっかで気付いたはずなのに、イコさん律儀に自分の分まで酒入れるから気づかへんのですよ」
「だって飲み会なんやし酒飲みたいやん」
「横着して俺と同じ割材使うし」
「飲みさしのボトルいくつも残したくなかってん……あれ、今気づいてもーたんやけど、知らんうちにめっちゃ間接キスしてたってこと!?」
「気にするのそこなんすか」


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.