みずいこお題部第十七回より【桜色】『コーヒー』 関西弁非ネイティブのため口調は勘頼り
※ 双方大学生
@a_yuuzora
大学生生活のいいところは色々あるけど、そのうちの一つは平日の昼間に遊びに行けることだと生駒は思う。時間割次第で遅めに起きたり午後に遊びに行けたりするのは、テスト週間でもない限り朝から夕方まできっちり時間を拘束される高校時代にはなかなかできなかったことだ。
大学生だから、授業中恋人から「三限休講になったんで、時間空いてたらどっか遊びにいきませんか」というメッセージが届いて急遽午後の予定がバラ色になることだってある。
大学構内は昼時に大混雑するからと、水上が待ち合わせに指定したのは駅前のコーヒーチェーン店だった。それなりに混んではいるが、長蛇の列ができる大学の食堂ほどではない。
水上は既に店内の二階席にいるそうなので、中に入るためも兼ねて生駒はカウンターで季節限定フラッペを頼む。可愛らしい桜色のフラペチーノは一度飲んでみたかったから、期間内に買えてよかった。そしてご機嫌に階段を上り、二階席をぐるりと見まわして、ある一点を見つめて立ち尽くす。
あれ、水上やんな? 思わずそう呟いて見つめるのは、見慣れた赤毛と見慣れない姿。タブレットに視線を落としていたその赤毛の男は、何かに気付いたのか階段の方を見、生駒を見つけて笑う。生駒の良好な視力は、金色の瞳が銀フレームの眼鏡越しに柔らかく細められたのを確かにとらえた。
生駒は早足で水上に近づいて、そのテーブルの向かいに座る。
「おつかれさんです」
「おつかれさん。なあちょっと何? それどうしたん?」
「何が……ああ、これっすか」
水上がかけていた眼鏡を外すとやっと見慣れた顔に戻って、生駒はほっとしたようなちょっと寂しいような気持ちになる。
「大学の広めの教室だと黒板の文字が見づらいことがあったのと、最近本を電子書籍に切り替えたら流石に目ぇ疲れるようになったんで、ブルーライトカットも兼ねて買うたんです。後半はまあ気休めですけど」
「俺初めて見たんやけど!」
「授業んときとタブレットで読書するときにしか使いませんからねえ。トリオン体やと眼鏡要らんし」
「確かに」
水上は眼鏡ケースを出そうとして、じっと見つめる生駒の視線に気づき再び眼鏡をかける。
「そんなに気になりますか」
「気になるに決まっとるやん……なんかええなあ、頭良さそうっちゅーか、オトナっちゅーか」
「眼鏡あるだけで頭良さそうは流石に単純すぎでしょ」
「クールでカッコイイってことやで! よぉ似合っとる」
「それはどうも。ほらほら、あんまおしゃべりに夢中になってたらクリーム溶けませんか」
「あ、ほんまや! 飲んどこ」
生駒は慌ててフラペチーノに山盛りに乗っかっている生クリームをすくって食べる。
「ん、美味い」
「それ期間限定のやつですよね、イコさんほんまそういうの好きやなあ」
「季節モノってうかうかしてるとすぐ次のに切り替わってまうし、食べ逃したときの後悔結構大きいねん」
「そういうもんすか」
「水上も一口食う?」
スプーンに生クリームを少し多めに盛って差し出せば、水上は一瞬面食らったような顔をしてから素直にそれを口に咥えた。
「美味いやろ」
「美味いけど、甘いっすね……まるっと一杯は食えない気ぃします」
「そう? 俺は余裕やしさっき下でケーキも追加で買おうか迷っとったけど」
「健啖家でええことですね」
甘ったるくなった口を直すためか、水上は手元のカップに口をつけた。
「そっちのは何なん?」
「これは普通のブラックすね」
「ブラック……」
生駒はまだブラックコーヒーが飲めない。飲めたらカッコいいような気がして何度か挑戦したが、未だにその美味しさが理解できずにいる。
「ブラックって美味い?」
「うーん……慣れればまあまあって感じすね。甘いのもミルクっぽいのも別に要らんなあって時は苦いくらいののが丁度ええ、みたいな」
それってコーヒーの美味さ理解してるってことやない? 生駒は真っ黒い液体の入ったカップと手元にある桜色のカップを見比べて、向かいに座る年下の恋人に対して妙に悔しい気持ちでいっぱいになった。限定フラペチーノに罪はないが、何も考えずそれに飛びついた自分の軽率さというかミーハーさがなんだか子供っぽい気がして。
「なんか……負けた気がする!!」
「なんも勝負してへんでしょ、なんなんすか」
「知らん間に水上がオトナになっとるー!」
「まだ酒も飲めへん若造ですけど」
「年齢やないねん、雰囲気がめっちゃ大人の男って感じしとんねん。いつの間にそんなん身に着けたん、ずるいずるい! なんなん、大学デビューか!? そこにかかっとるのもシュッとしてかっこええコートやし」
「前イコさんが褒めてくれたんでお気に入りになっとるだけで、別に大学デビューとかやないですよ。……まあ、好きな人が年上やから、頑張って背伸びして大人になろうとしとるのは否定できませんけど」
「え?……ああ、好きな人て俺か。いやいや背伸びなんてせんでええねん、とっくに追い越されて天辺見えんようになっとるわ」
「んふふ、イコさんに気にいってもらえたなら背伸びした甲斐があったってもんです」
水上は眼鏡とタブレットを鞄にしまい、生駒に向き直る。
「それ食い終わったらどっか飯行きます? 誘っといてノープランなんですけど」
「お前がそんな腹減ってへんのやったら先に服屋行こ。水上のかっこよさに俺の方も追いつく努力せなあかんわ」
「言うて、俺も別にファッションセンスある方ちゃうし、イコさんに一番似合うのは和装やと思うんですけどね」
「それ地元でもこっちでも二万回言われたなあ。とりあえず、お前から見てかっこええって思えるやつ見繕ってや」
「了解」