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いつか気付くまで

全体公開 神無三十一受け 7 26 3072文字
2024-10-11 16:53:35

カルみと
シナリオネタバレあり

 

 神無三十一が別部署の刑事らを殴って自宅謹慎を言い渡されたという知らせを縞斑が受け取ったのは、当日の夜のことだった。


 「なにやってんの」

 扉が開いた瞬間、頬にガーゼを当てて不貞腐れた表情を浮かべる神無を目にした縞斑は開口一番にそう呟く。
 ディーノと青木から連絡を受けた縞斑は、その日の仕事を終え次第神無の様子を見るために自宅へ向かったのだ。
 僅かに反撃されたあとはあるが、ひとまずは元気そうである上、おそらくそれ以上に相手の方が重症なのだろうと縞斑は息を吐く。

 「暴力沙汰で謹慎処分って、君ほんとに警察でキャリア積む気ある?」
 「………説教しに来ただけなら帰れよ」

 縞斑の言葉を呆れと受け取った神無は、ますます唇を尖らせるとふいとそっぽを向いて顔を逸らした。

 「そういうわけにもいかないでしょ」
 「じゃあなに?愚かなことした俺のこと笑いに来たとか?お生憎だけど俺、あいつら殴ったこと微塵も後悔してないからな」

 不機嫌を前面に押し出す彼の姿は反抗期真っ盛りのクソガキのようだが、縞斑はそんな彼をそれ以上責めることなく玄関に立ち入る。
 刑事であり謹慎中の自分と犯罪者である縞斑が外で顔を合わせるリスクを理解している神無は、玄関先での問答を諦めて彼を中に入れてから扉を閉めた。
 薄暗い玄関で縞斑は神無の顔をじっと見下ろす。普段なら果敢に睨む生意気な瞳は、その視線を受けた瞬間気まずそうに逸らされてしまった。

 「後悔してないだろうから、慌てて会いに来たんだよ」
 「……なにが、」
 「騒動の原因は俺だろ?」
 
 ぴくりと神無が肩を揺らす。
 一瞬動揺によって崩れた表情は、瞬きひとつの間に不機嫌なものへと戻っていた。
 その変化はきっと、普段の彼の姿を良く見ている縞斑でなければ見過ごしていたことだろう。彼のことを好きでいて良かっただなんて誰にも言えない理由を内心で呟いていれば、神無が誤魔化すように口を開いた。

 「はぁ?なんだよそれ、自意識過剰すぎ」
 「……ディーノちゃんが教えてくれたよ」
 
 分かりやすく神無の表情が強張る。
 取り繕えない動揺のままに顔を上げた彼を、逃がさないというように玄関の壁に追い詰めれば、背後を預けた神無はぽつりと悪態をついた。

 「だらだら先輩には言うなって言ったのに……
 「ディーノちゃんはきちんと『事件の詳細を俺に言わない』って君の命令を守ったよ」
 「じゃあなんで、」
 「彼が伝えたのはアサギリちゃんで、俺はアサギリちゃんから話を聞いたからさ。アサギリちゃんは俺への報告を口止めされてないからね」

 神無が驚いたように目を丸くする。
 現場を目の前で見守っていたディーノは、真っ先に神無から縞斑にこの一件を伝えるなという命令を受けた。
 それに応じたディーノは、その上で神無にとって最良の手段を探して命令の粗を突き、アサギリを経由して縞斑に事情を説明する方法を思いついたのである。

 「その上で言うけど、神無ちゃんは気にしなくていいんだよ。俺のことをいちいち庇ってたら神無ちゃんの立場が悪くなるだろ」
 「っだって!アイツら何も知らないくせに!!」

 顔を歪めた神無が声を荒げる。悔しそうに眉を寄せた彼とようやく視線が絡んだ理由はおそらく、隠し事が見つからないようにするためだったのだろう。
 庁内で出会った刑事たちは、縞斑たちのことを毛嫌いしていた。最初は些細な小言や愚痴だったようだが、縞斑の元同僚である神無を見かけた彼らの陰口は過激になり、その内容が神無の耳にも届いてしまったのだ。

 「君らが分かってくれるなら、俺はそれでいいから」
 「でもっ」

 しばらくは冷静にいなしていた神無だが、縞斑の過去や背負ったものを何も知らないまま好き勝手に馬鹿にする彼らを前に、ついに堪忍袋の尾が切れてしまったらしい。
 あの事件を最前線で駆け回って、命を賭けた戦いの緊張感をその身に叩き込まれた神無にとって、刑事たちを伸すことなど造作もなかった。
 一撃は正当防衛を成立させるために言葉で煽って食らったが、そのあとは相手の攻撃を全て避けて一人残らず地面に沈めたのだと、縞斑はアサギリ伝手に聞かされて思わず感心してしまったほどだ。
 最初に手を出したのは刑事たちだったが、神無の攻撃は過剰防衛にあたるとされ、彼は特例として数日の自宅謹慎処分を受けることになった。

 「神無ちゃんは若いなぁ」
 「……どうせ怒りを抑えられないクソガキですよーだ」
 「あぁちがうちがう、そういう意味じゃなくて」

 自分の処分に対して不服そうに唇を尖らせる神無の頭にぽんと手を置いた縞斑は、宥めるようにそのまま数度撫でながら言葉を続ける。

 「俺みたいなおっさんになると怒る前に気持ちが萎んじゃうんだよ」
 「………。」
 「特に相手がどうでもいい、取るに足らないような人間だとね、ぶつかって理解してもらうことを諦めちゃうんだ」
 「諦める?」
 「そう。だから、理解を得ようとぶつかった神無ちゃんのことが眩しいなと思って『若い』って言葉を選んだ」

 怒るエネルギーというものは甚大で、歳を取るにつれて本気で怒る体力を浪費と捉えた体は自然と感情を抑制するようになる。
 縞斑もその例外ではなく、そもそも彼にとって怒りを抱くことができるようなどうでもいいとは思えない相手自体がほんの一握りだった。

 「俺を守ろうとしてくれてありがとうね」
 「……おれは、先輩の迷惑になってない?」

 おずおずと神無が顔を上げる。不安げな瞳を見下ろした縞斑は、ふっと小さく笑うと真っ直ぐに目を合わせて笑った。
 
 「君のキャリアの邪魔にならないか心配はしたけど、迷惑だなんて思ってない。先輩思いの後輩を持てて嬉しいよ」

 自分が縞斑にとってどうでもいい相手ではないという自覚がないらしい神無は、その言葉を聞いて安心したように息を吐く。
 腫れた頬にそっと手を伸ばせば、まだ熱を持っているそれにぴくりと神無が肩を揺らした。労うように撫でる指先に神無は顔を綻ばせる。
 
 「でもやり過ぎはよくないし、自分のことは大事にしてほしい。それが一番の俺の願いかな」
 「うん。頑張る」
 「とはいえ、君の目に余る輩がいたら俺に教えて。ちゃんとこっちでも対処するよ」
 「………その人大丈夫?」
 「大丈夫大丈夫、ちょっと恥かいてもらうくらいで留めておくから」

 縞斑だって神無やディーノ、スパローの仲間たちを馬鹿にされて最後まで耐えられる自信はない。若干陰湿な手段を企んで縞斑が笑っていれば、想像がつかずとも察しのついた神無が苦笑いを浮かべる。

 「さてと、ところで神無ちゃんご飯食べた?」
 「まだだけど
 「そう思って色々買ってきたから、ほら。好きなの食べな」
 「駅前のケーキ!プリンにシュークリームも!!ほんとにいいの!?」
 「しょげてるときは好きなもの食べて元気出した方がいいかなと思ってね」
 「しょ、しょげてねーし!!先輩も一緒に食べよ!!」

 焦ったように声を上げる神無は、ようやくいつもの調子を取り戻した様子だった。
 差し入れを手にリビングへ向かう神無を追って、縞斑は部屋へと歩き出す。
 ぴょこぴょこと機嫌よく揺れる想い人のその背を眺めた縞斑がほっと安堵の息を吐いたことを、きっと神無が知ることはまだないだろう。




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