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表題「未完成」 - 井之中圭太郎

全体公開 2924文字
2024-10-14 09:48:14

CoC 表題「未完成」のネタバレを含みます。
“本文”です。

Posted by @niki__kr
















表題「未完成」
  「とある少女」

     井之中 圭太郎








第一章 『鏡』



幻みたいな彼女、の。
曖昧な輪郭は、瞬きを繰り返すたびに形を得る。

銀糸の髪は彼女がかすかに微笑むたび、肩の上でふわりと揺れた。
透けるような白い肌。伏し目がちで穏やかなまなざしのまわりを、銀の睫毛がふちどる。

10代半ばの儚げな少女だ。
作り物のように美しく、触れれば消えてしまうのだろうと思った。

蒼みがかった淡いグレーの瞳がこちらを捉える。
うすい唇が動く。

名前は「かすみ」と聞こえた気がした。

また、輪郭が鮮明になる。頬に、唇に、温かい色の紅が灯ったように感じる。

瞬いたふたりの瞳がもう一度合う。

霞はそこにいた。



* * *



第二章 『心』



霞、と名乗った少女は、ふわふわと微笑んでいる。
その表情は慈愛にあふれているようでいて、伏したまつ毛の下には憂いが影を落としている。

どこか浮世離れした天使のような彼女は多くを語らないが、静かに紡がれる言葉には伝えたいことが十分に含まれていた。

「わたしはあなたの夢が叶うところが見たいの」
どうして今まで気づかなかったのか、彼女の手は祈るように組み合わされていた。

彼女は人の夢を、願いを観測するもの。

(きみの夢は、叶えないの)
問いかける言葉は、穏やかな空気を震わせることなく私の喉の奥で消えていった。




* * *





第三章 『写真』




「私ね、大切な人がいたの」

彼女は白いワンピースの胸元に下げたペンダントをそっと撫でる。

次の言葉を待つ静寂があった。

ペンダントは写真を入れるロケットになっていた。それを開き、私に見せる。
そこにはやさしく微笑む年若い青年が写っていた。

「彼の夢はお医者さんになること。」
「でもね、それは叶わなかった」
「夢半ばで、彼は病で命を落としてしまった。」

ぽつりぽつりと。彼女は語り始める。

「私と彼は、入院中に出会ったわ。」
「そう。私病気だったの。心臓の一部が変形して、鼓動がおろそかになる病気。小さな頃から入院しがちで、完全に治すには移植しかないって言われて、ずっとドナーが現れるのを待っていた。」

「退屈な入院生活で出会った彼は、やさしくて、とても素敵な人だった。」
「彼は病気を発症するまでは、本当に普通の、元気な男の子だったみたい。学校にも毎日通って楽しいことをたくさんして、友達もたくさん。時には喧嘩したり、嫌なこともあったんだろうけど、いろんなこと経験して育ってきた、私とは違う、素敵な人。」

「彼は本当に優しい人でね、医者になったら、君のことも治してあげたい、1人でも多くの人の助けになりたいって言っていた」


「私、輝かしい未来を語る彼が羨ましかった。憧れていた。そして、恋をした。」

「2人で過ごす時間は本当に楽しかった。」
「彼に早く元気になって欲しい、だけど、まだ、ずっと、ここに、いて欲しい」

「そんなふうに願ってしまったの、私。」

彼女は胸のロケットをそっと閉じ、両掌で包み込む。
伏した睫毛の憂いが濃くなる。

「たぶんそれは運命だったの。」

「彼の病気は急速に進行した。元気でお喋りしていたのが嘘みたいに、彼は眠っている日が多くなった。」

「そして私はね」
「ある日、手術が決まったよって、担当の先生に言われたの。」

「嬉しかった。こんな奇跡があるのかしらって」
「心臓移植は拒絶反応もなく、無事に終わったわ。」

「彼に報告を、と思って部屋を尋ねたの。」

「そこは、空室だった。看護師さんに聞いたら、一瞬ハッとして、昨日退院したのよって困ったように言われたわ。」

私にドナーは知らされない決まりになっているの。」

「私のことを助けたいと言ってくれた彼」
「彼にずっと、ここにいてほしいと願った私」

「ふたりの願いは叶ってしまったのかしら」

問いかけるように、彼女は私を見やる。
泣いてしまうのではないかと思ったが、彼女は、穏やかに微笑んでいた。
ペンダントを握りしめて胸元に押し当てられた両手は、胸の鼓動を確かめているようにも見えた。

「さぁ、見せて。あなたの夢が、かなうところ。」



* * *


第四章 『宝箱』




「私の宝物。それはこの、心臓。この、命。」
「それ以外にないと思わない?」

それはこれまで彼女が見せた中でいちばんの笑顔だ。
きらきらと、命がかがやいている。

霞という少女は間違いなくそこにいて、
生きていた。



「本当にありがとう。わたしのいのちを、描いてくれて。」

「私の宝物、いのちは、初めは両親からもらったもの。病気がちでも、両親も、周りの人もやさしくて、友達は少なかったけど、それでも私なりに楽しくは生きてきたの。」
「でも、やっぱり、彼と出会ってからの人生は全然違ったわ。世界が輝いて見えた。明日が来るのが楽しみで、彼にまた会えるのが待ち遠しかった。」

「もう彼とお話はできなくなってしまったけれど、彼と過ごした時間の思い出、彼のくれた言葉、それは消えないでずっと、私の胸をあたたかく脈打たせてくれるの。」

「私の宝物よ。」

「ふふ、わたしって随分おしゃべりになってしまったわね。こんなに自分のこと話すなんて。」

思わず笑ってしまったという形で彼女の表情がほころぶ。

「あなたのおかげ。」

「そう言ってもらえるなら、書いた甲斐があるな。俺も、書くってことがどういうことか、改めてわかった。いい経験になってるな!」

「君は俺の夢が叶うところを見たいと言うけど……それが何なのか、俺自身にもはっきりとはわかっていないのかも。」
「でも、そうだな。これから作家として書いていくと決めた以上は、やっぱり作品を完成させることが目標だから、、、物語を書き続ける。それが夢、かな。」
私は彼女に向き直る。
万年筆を置く。

 
「見たいものは、見れたかな?」



* * *

「   」





「ありがとう、貴方の物語、しっかりと受け取りました」
少女は貴方に感謝を述べる。

「最後にひとつ、お願いがあるの」

「その物語のタイトルを、私につけさせてくれないかしら?」
少女は、そう、貴方に頼む。



「タイトル、か」

「そうだなぁ、、、確かにこれは、君の物語だもんな。」
「いいよ。」


「ありがとう」
少女は、とてもうれしそうに笑う。

「もうね、決めてあるの」

「貴方が書き始めたその時から、タイトルは決まっていたの」


「あのね、タイトルは────」



 


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