きのいの創作キャラ「フェケテ」の設定について綴った文章です。
2020/3/12~14に、かべうちにて初公開したものです。
表現の誤りや分かりづらい部分、作者の現在の考えとは異なる箇所もございますが、資料として当時の記述のまま掲載いたします。
@kinoi_mummy
フェケテという男 <1> 【世界観と現在】
舞台は我々の住まう地球ではない世界。
当然至極にして、世界の住人も我々の知る規格とは異なる者のみで構成されている。
しかし、世界の全貌を知る者は未だ誰もいない。
フェケテはその世界に生きる魔道士だ。
魔道士とは魔法を研鑽し行使する者であり、魔法とは人の営みに関わる総ての事象ーー自然の理に干渉すること、戦うこと、癒すこと、生かすこと、殺すことーーに影響を引き起こせる神秘の術である。
名前 :フェケテ(Fekete)
実在の言語マジャール語で
「黒」を意味する
性別 :男性
年齢 :37歳
身長 :185cm
体重 :87kg
職業 :魔道士
研究者
関係者:教え子 マーグス
師匠 魔女
兄弟弟子 エレンセン(故人)
呪文刻印師(故人)
故郷には両親と兄
一人称:俺
おじちゃん
二人称:お前さん
嬢ちゃん
坊主
<身体的特徴>
強面の大柄な男。
如何にも力持ちといった風貌だが、その膂力は人並みである。
主に広い背中を中心にして、全身に刺青が施されている。
これらは魔法の行使に必要な呪文であり、呪いの類である。
単なる文様ではなく肉体に刻まれた傷痕であるため、触れれば相応の刺激となる。
また、魔力の高い者が触れれば肉体のみならず精神の奥底にまでその刺激は伝わり、彼の心身は揺さぶられる。
魔法を行使する度にこの刻印は疼く。
<性格>
基本的に正負を問わず何事にも動じることはないため、常に飄々としている。
嫉妬せず、優越感も劣等感も無い。
魔道の探求に生涯をかけて力を尽くすのが彼のアイデンティティだが、それは使命感からの行動ではない。
誰のためでもない。
追求せずにはいられない彼のサガの対象が魔道というだけである。
向上心は低くないが、現状に満足しない心境もほぼ無い。
孤高を貫いているわけでもなく、群れなすことを嫌っているわけでもない。
多くを語る人物ではないが寡黙でもない。
話をすれば明るくおどけてみせる場面も少なくなく、気さくで前向きな好漢に見える。
彼に出会った者の多くが彼を善と評価する。
しかし彼は己を悪ではないとしながらも、自身が呪いに頼ってまで魔道を歩む限り背徳者であるという意識が強く、善でもあり得ないと考えている。
また、目的のためなら手段を選ばない性分も、この自己評価を補強している。
彼は我慢をして上述の性格に至ったのではない。
あくまで自然体でいてこのようになった。
鉄よりも鋼よりも硬い精神の持ち主。
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フェケテという男 <2> 【少年時代〜木偶の坊】
フェケテは悪くない家系の次男として生まれ、15歳の頃魔道士を目指す修行を始めた。
図体ばかりが大きく、他に特筆すべき秀でた才能を見出せる者が彼を含め誰もいなかった。
何事もそこそこにできなくて、そこそこにできる。
そのため、家族も周囲の人間も「木偶の坊」「独活の大木」など言いたい放題であった。
家柄が家柄なので、何の特技もない人間にはあまり価値が認められないという土壌ありきの環境だ。
しかしフェケテは全く意に介さなかった。
繰り返しになるが、彼には劣等感も嫉妬心も無い。
彼を貶すことに何の効果も意味も無い。
だからこそ周囲も、憂さ晴らしや気まぐれで軽々しく悪口を言った。
理由はそれだけではない。
実際、彼には何の才も求められていなかった。
どのような人物であるかは割愛するが、彼には兄がいた。
どのような人物であれ兄がいる限り、次男であるフェケテには何の期待も寄せられておらず、彼も周囲の期待を欲さなかった。
また、彼の家柄も関係がある。
彼の家は貴族ではないが、良くも悪くも中流だった。
権力を渇望する上流でもなければ、その日暮らしをしながらいつかのし上がろうという夢を抱く下流でもない。
それ故の余裕か、家が存続しさえできれば良いという呑気な姿勢であった。
すなわち、フェケテは比較的広い自由が認められていた。
そんな彼の少年時代。
彼の興味を惹いたのは魔道士を志す道・魔道であった。
彼の住む大国サロノクは広大な軍事国家であったため、軍に入ることが一種のステータスになっていた。
ただ、前述したとおり、彼の家系はそもそも栄誉を欲していなかったがために魔道士の道も閉ざされたものではなかったのだ。
サロノクの北には世界にその名が轟く神秘の魔道の地・ミージファルがあり、その支配権を争い、サロノクは北西の軍国ティラニデと長年対立関係が続いていた。
それ故に、国民の興味そのものが軍の道と魔法の道とで半々程度だったというのも、彼の道を妨げない理由の一つであった。
と、いうよりはだ。
家族も周囲の人間も、フェケテの将来に興味が無かった。
彼が道を決めた時も、歓迎するでも反対するでもなく、散歩にでも出かけさせる感覚でミージファルへの留学にやったのだった。
彼も気分を害することなく、それに甘えてふらりと旅立った。
ミージファルには高名な魔道学院があり、上流階級や魔道の高みを目指す者は皆ここを目指した。
フェケテも学院に入れるだけの家柄はあったが、彼の行き先は初めから違っていた。
“ミージファルの意地悪な魔女”
大国サロノクでも噂されていた彼女を訪ねたのだ。
「若い娘が訪れたなら動物に変えてしまう」やら「魔道士志望の少年が訪れたなら自分のものにしてしまう」やら言われたい放題の女であったが、実際は学院に入れない落ちこぼれの受け皿となっていたのだった。
彼が最初から彼女をアテにしていた積極的な理由はおそらく特に無いのだろう。
ただ、学院を避ける意図はあったのかもしれない。
その意図もはっきりしないが。
しかしてフェケテは意地悪な魔女の門下生となった。
兄弟弟子も十数名いた。
多くは受け入れていないーーそもそも魔女は弟子を取りたくないのだがーー修行の場だ。
どの少年も、家柄や実力のために学院に留まれない者であったり、家の命令だから、他に適性が無いからなど、消極的な理由の者ばかりであった。
ただひとり。
代々高尚な魔道を貫く家柄に生まれ、約束された魔道の申し子・エレンセンを除いてはーー
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フェケテという男 <3> 【少年時代〜学友エレンセン】
意地悪な魔女に入門したフェケテ。
当時15歳。
ここで3年間、ささやかな寮生活のような形で修行を積む。
その後も魔道の探求を欲した彼は、独学の旅に出ることになる。
3年も彼女に師事した者は少ない。
前項で述べた落ちこぼれの学友たちの中には途中で挫折し故郷に帰ったり、突如何処かに逃げ出す者も少なくなかった。
それだけ彼女の修行は厳しく理不尽で、人当たりもきついものであった。
それでも師は師。
門弟たちが師と付き合い続けるのに一役買ったのがフェケテだった。
当初は、ここでもフェケテは木偶の坊の評価であった。
極端に下手でもないが、基本の基本以上のことはできない。
特筆して秀でた魔法の才が無いし、滅茶苦茶に罵るほど不出来でもない。
それに加えて、何を言っても飄々と受け止められるし、修行の態度自体は真面目ときた。
師からしてみれば扱いに困る。
しかし師は後に気付くのだ。
彼の天賦の才はその精神力であると。
魔道の申し子エレンセン。
先述のとおり出来の悪い同門とは比べるまでもなく、腕前で言えば優等生として師以上の天才を発揮していた。
その点は師も認めるところであったし、彼にも自負があった。
だからこそだ。
同門とも師とも人間関係は上手くいかなかった。
これには同門も師も頭を抱える。
何せ彼自身はそれを問題にしていないのだ。
そのため、周りは疲弊するばかり。
そもそも、なぜエレンセンはミージファルの正式な魔道学院に入学しなかったのかと言えば、やはり驕りからくる理由であった。
彼の名家のもとにも意地悪な魔女の噂は届いていた。
彼は、ミージファルの辺境で注目もされずに埋もれたままの秘法があると見て、それを発掘し自身がその大家となる腹積もりであった。
家は彼自身の才能を賛美するばかりであり、彼の意向であればどのような場所へも送り出したであろう。
彼らが師匠、意地悪な魔女にもまた真意はあった。
根も葉もない噂によって悪名を背負ってでも彼女がやりたかったこと。
ミージファルを始めとしてサロノク、ティラニデと、魔道は称賛され美化される一方の情勢であった。
魔法は思いのままに行使できる便利な道具でも兵器でもない。
人間の肉体を蝕み精神を摩耗させ心をすり潰す、文字通りの魔道であると。
そのことが省みられていないことを彼女は大いに憂いていた。
で、あるからだ。
軽々しく魔法を求めるものを退けるために、彼女は誰に対しても嫌がらせをしたり冷たく当たったりした。
意地悪な魔女として畏怖され嫌悪され、若者が魔道から逃げ出してくれるように。
少しでも多くの人間を魔法から遠ざけるために。
そのような環境にありながら、フェケテは両者を繋ぐ架け橋のような存在となっていた。
学友たちは気さくで自然体、等身大の彼を心から好ましく感じていた。
エレンセンは才もないのにどんな態度にも怖気付かず、自身に興味を持ち共に魔道を語らう初めての友として彼を面白く思っていた。
そんな様子を発見した師もまた、フェケテの一番の才はその器の大きさであり、誰にも勝るものであるとはっきりと評価し、彼女自身もまた少年たちとの修行生活を助けられた。
ある日。
誰もが距離を置く師とも親しくなっていたフェケテは、いつものように彼女の書斎に入り浸りくつろぎながら書物を物色していた。
物好きだと呆れながらも、心の底では師は嬉しく感じそんな彼を眺めていた。
フェケテが見つけたのは、本棚にも仕舞われておらず、物で溢れ返り散らかり放題の部屋の隅に無造作に投げ出された一冊の魔道書。
何か忌まわしさとおぞましさを背筋に覚えさせるそれこそが、フェケテの人生を変えた古代魔法の書であった。
師ですらも持て余していたーー彼の前では貰い物で興味がないとうざった気に言ってのけてみたものの、本心は恐怖から放置していたーーそれを借り受け、毎日寝床にまで持ち帰るほどに没頭し始めた。
師はもちろん心配したが、特段価値のある物でもなく、フェケテに使いこなせるものでもないと考えていたことと、彼の熱意に負けたことから貸出を許可した。
古代の字は辞書を引きながらでも読みづらい。
実践しようにも要領を得ない。
それでも、本と向き合うのが心底楽しかった。
友たるエレンセンも、現代魔法に及ぶほど洗練されておらず、今後実用性を見出せるような価値のあるものではないと笑った。
それでも、傍らで下らない書物に熱中するフェケテに、エレンセンも悪い気はしていなかった。
この魔女の地でフェケテにも皆にも、最も穏やかな時が流れていた時期だったのかもしれない。
しかし。
魔女の憂いは近しい場所から現実のものとなり哀しみを運んできた。
エレンセン。
魔道の申し子。
彼は天才だったが、驕り過ぎた。
魔道は人間を滅ぼす。
比喩ではなく、恐ろしく具体的にだ。
エレンセンは消し飛んだ。
字義通りに。
極めて高い魔力。
更なる高難度の魔法の追求。
これらが噛み合って、彼は己を制御できなくなり、自らの魔法に飲み込まれて消え去った。
師が危険を察知した時にはもう手遅れだった。
彼の肉体は魔力に飲み込まれ辺りを焦土にしながら散り散りになり、装備だけがその場に残った。
近づけば巻き込まれる。
その様子をフェケテも、師とともに傍観するしかなかった。
防げなかった。
何もできなかった。
弟子が、友が、目の前で壮絶に死んだ。
フェケテとエレンセン。
当時18歳。
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フェケテという男 <4> 【放浪時代】
かつて、魔道の極みを争う戦があった。
軍事国家サロノク国。
魔物が多く棲む広大なルーシャ国。
それぞれ闘いのために究極の魔法を擁立し、戦場で合間見えた。
結果、戦場ごと吹き飛び全てが灰燼と化したという。
そこで、当時ミージファル最高を誇る魔道の使い手・賢者レルキースは2つの魔法を封印し、今後認められた者にしか使えないようにした。
人格と実力を兼ね備えた最高の魔道士。
ルーシャが開発した魔法を使うには“日輪の御子”の称号を、サロノクが開発した魔法を使うには“月輪の御子”の称号を、それぞれの試練を乗り越えて賢者の祭壇で与えられる必要があった。
それから幾年月。
称号を手にするべく多くの魔道士が試練に挑戦したが、ひとりとして御子は現れなかった。
エレンセンもまた、月輪の御子を志す者の一人であったのだ。
そのことを、師もフェケテも知っていた。
エレンセンの執着心は狂気を孕んでいたと言えたかもしれない。
それでも、残された2人は彼が命を懸けてまで選んだ道を否定したくはなかった。
彼のために。
否、同じ魔道を志す者として追求できることを成したいとそれぞれが決意した。
フェケテは自らが心酔するーーエレンセンもその存在を認めていたーー古代魔法の研究を望み、師は彼に可能な限りの助力を約束した。
師が彼に施したのは、件の古代魔道書の元の持ち主に引き会わせること。
隠遁生活を送る呪文刻印師の老人。
久しい相手であったが、彼であればフェケテに古代魔法を授けられるのではないかと師は考えた。
「丈夫そうな玩具を寄越すとは気が利くな」
ミージファルでも人里離れた庵で人目を避けるようにその老人は住んでいた。
他人に呪文を施すことを生業とし、地肌を見出せない程に全身呪文の刺青が刻まれた男。
古代魔道書のことなどすっかり忘れていたようにとぼけてみせながらも、その闇の深さを2人に語る。
まず、今のフェケテの手に負えるものではないという結論を述べた。
次に、自分が多数の呪文を施せば身体は耐えられるかもしれないという可能性を示唆した。
そして。
それをもってしても、命の危険とは常に隣り合わせになるであろうことを告げた。
その上でフェケテは古代魔法の探求への決意を固め、呪文の刻印を望んだ。
「どんな悲鳴を上げても、どんな醜態を晒してもいい。だから生きて耐えろ。」
フェケテの全身には呪文が刻まれることになった。
魔獣の骨でできた彫り具が皮膚を破り肉に深々と食い込み、その度に精神を滅茶苦茶に掻き回されるような感覚が襲った。
出したことのない声が出たに違いない。
見せたことのない表情が浮かんだに違いない。
心身が砕け散りそうだ。
自分は毀れる。
羞恥など感じる余裕は一片たりともなかった。
かくして、おびただしい数の呪いを受け穢されたフェケテは師の下から巣立ち、魔道の修行と研究のため旅立った。
癒しの魔道士であれば、行く先々で人助けをするものなのかもしれない。
闘いの魔道士であれば、護衛を買って出て生業にしてゆけたかもしれない。
あくまで彼は自分のために各地を転々と渡り歩いた。
悪行は成さなかったが、これと言った善行も積まなかった。
結果的に人助けとなった闘いや魔法の行使はあったかもしれないが、それは結果だけの話だ。
彼の目的ではなかった。
16年の歳月が流れる。
当時34歳。
家族のことは気にもならない。
師とも久しい。
呪文刻印師は鬼籍に入った。
魔道のほうはと言えば、未だ途上にあるとの評価を下していた。
ある程度の行使ができる。
雷の魔法は性に合う。
それだけに過ぎない。
それがどのようなことに昇華できるかまでは見出せずにいた。
サロノクとティラニデの対立はいよいよ本格的となり、当時は既に戦争状態にあった。
その時のフェケテはサロノクにいた。
渡り歩けば戦火と廃墟。
自身には関係の無いことであった。
無いはずであった。
朽ちた街で戦災孤児と思しき子供達の中に、あの少女を見つけるまでは。
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フェケテという男 <5> 【未来へ〜月輪の御子マーグス】
フェケテはサロノクでの戦火の中で、魔道の才に恵まれた少女・マーグスと出会う。
彼女を教え導くことになったフェケテ。
修行と試練の果て、マーグスは月輪の御子として認められる。
ーーもう、人間同士ではいられない。
少女マーグス。
当時12歳。
自分より幼い戦災孤児を、廃屋と化した礼拝堂へと集め守っていた。
礼拝堂に至るまでの間フェケテが見てきたもの。
ティラニデの蹂躙も既に過ぎたのか、街中は静まり返っていた。
しかし、ならず者による略奪は横行し、不安定な情勢に伴い生まれた邪教の狂信者も贄を求めて彷徨う。
また、住民を守るはずの兵を失ったがため、本来退治されるはずの魔物も腐肉を貪り蔓延っていた。
この世の地獄か。
非道い有様だとは思ったが他人事であり、自身はそれをフィールドワークのつもりでたむろしていただけであった。
少女は気丈であった。
強い絆で結ばれた集団でもあるまい。
彼女が守るのは、ここ数日の間に家族を失った子供達と思われた。
それを取りまとめて生き抜こうとしている。
フェケテは積極的に避ける腹積もりであった。
呪いに侵された男に童が関わるものではないと。
関わったところで自分ではこの子らを救うことはできないと。
しかし。
礼拝堂の子供達は魔物に狙いをつけられた。
どうして湧いたやら、生ける屍の魔物。
もとは人だったものだ。
これはこれで童どもに悪影響だと、フェケテはどうしても見逃せなかった。
礼拝堂に押し寄せる屍ども。
幼い子らを庇うマーグス。
間に入ったフェケテは、子供達に向けて暗闇の魔法を放ち視界を遮る。
「良い子は見ちゃいけないんでね…」
突如として現れた暗闇に戸惑う子供達を背に、フェケテは古代の呪文の詠唱に入る。
刹那。
轟音とともに屍どもに雷が迸ったかと思うと、すぐに静寂が訪れ、暗闇は晴れ始めた。
屍どもが元どおり動かなくなったことを確認し、子供達の視界が戻る前にすぐさまその場を立ち去ろうとするフェケテ。
途端。
「私にも教えてください。」
背後から声がした。
うまく撒いたはずだったのだが。
話を聞けば、少女は一部始終を見ることができたというのだ。
フェケテの魔法は、彼女には通じなかった。
その上なお、人の形をしたものが灼け爛れ朽ちていく様を見て怖気付くことすらなかったというのだ。
それよりも、この子達を守りたい。
無念のうちに廃墟に沈んだ人。
こんなことをもう起こしたくない。
そのために魔法は必要だと、彼女はのたまったのだ。
「将来の保証まではできない。」
懐かしい。
突き放すような言葉の中に隠し切れない優しさ。
途方に暮れたフェケテは、幼い子らを師に頼んだ。
ずっとこの場に留められないかもしれないが、その時はミージファルの学院にでも保護を頼むという彼女の言はフェケテを安心させた。
だが、マーグスだけは固辞して止まなかった。
自分は、師匠などという器ではない。
結局、誰も彼女が魔道を歩まぬようにと説得することはできなかった。
これは魔道の実践。
男はそう腹を括ると、少女とともに修行の旅路を歩み始めた。
“師匠”
そう呼ばれるようになったフェケテ。
マーグスには、かつて師から授かった現代魔法だけを教授した。
彼女は、心身に浸み渡らせるかの如く次々に、そして早々と魔法を習得していった。
彼女の才能であれば古代魔法すら操れたかもしれない。
しかし、彼女は目的を持って魔道を歩んでいる。
それは自身の研究分野とは相容れぬものだと彼は考えていた。
違う。
我々は同じではないのだ。
仮にもし彼が彼女を同じ土俵に立つ者として意識していたとしても、嫉妬心も劣等感も抱くことはないだろう。
マーグスとは3年の月日を歩んだ。
13、14、15歳ーー
子供から少女に。
少女から女にーー
薬湯の作り方と飲み方を教えただけで喜ばれた。
薬酒に挑戦できた時は妙に嬉しそうだった。
彼女の魔力を補強し安定させる装束を揃えたというのに、なぜか見栄えの面で不満を言われた。
湯浴みの際は刻印を見せまいと当然距離を置いたが、彼女からは更なる温もりを要求された。
寄り添わずとも、湯の温かさは十分なはずなのに。
“嬢ちゃん”
フェケテは、親しみと水臭さを込めて彼女をそう呼び続けた。
もう手遅れかもしれなくても、これ以上自分と近しくならないように。
自分は選べた人間だが、彼女はそうではない。
彼女には他に無かったはずだ。
やむを得ない状況から、この道を強いられて進んでいるのだ。
そして、その背中を押しているのは紛れもなくこの自分だ。
彼女は多感な時期を、本来なら交わらずとも済んだ人間と歩みを揃えて過ごしている。
若いーー否、幼い彼女のたった一度の人生を、自分の穢れ切った人生で埋め尽くしてしまうことの罪悪感に、フェケテは耐えることができなかった。
早く終わらなければ。
いや、終わってほしい。
魔道のためであればどんな痛みや羞恥にも耐えられる男は、常に限界を迎えながら、とうとう彼女の映えある瞬間に立ち会うことができた。
マーグス。
当時15歳。
古の賢者レルキースが認めし、月輪の御子。
彼女は本当に良く修行した。
彼女は本当に良く年相応に懐いてくれた。
彼女は唯一無二の魔道の天才だ。
それが辛くて、悲しくて、嬉しくてたまらなかった。
フェケテ。
当時37歳。
ーーここから先はマーグスの物語。
月輪の御子となったマーグスは使命を果たすべく世界を巻き込んだ混乱に立ち向かってゆくことになるが、この一大事にフェケテも協力してゆく。
事が解決したらーー
ーーフェケテはもう師ではない。
月輪の御子には使命があるはずだ。
もはや普通の人間同士ではいられない運命にあるのだ。
何故ならそれは、人が命を懸けてまで目指すものなのだからーー
あるいは。
ーーフェケテはずっと逃げていた。
彼女の心細さを分かっていながら、白々しく目を逸らし続けていた。
むやみに卑下して、卑屈になって。
人間同士として彼女を受け止めることができなかった。
混乱の最中、彼女は自身の弱みを打ち明けてくれたのに。
若い彼女が、勇気を振り絞って。
それなら、自分も腹を割って白状するべきなのだ。
今まで済まない、とーー
画像
1~6:フェケテ
(キャラクターモデル作成ソフト:ソウルキャリバー6)
7:簡易地図
8~13:エレンセン
(キャラクターモデル作成ソフト:ソウルキャリバー6)
14~15:意地悪な魔女、呪文刻印師
(キャラクターモデル作成ソフト:ソウルキャリバー6)
16~19:マーグス
(キャラクターモデル作成ソフト:カスタムメイド3D2)


















