両片想い期の本編ドラヒナのお話です。
何十番煎じだとは思いますが、『どんな姿でも、執着している子を一瞬で見分ける』ドラルクさん、というテーマを書きました。敵性吸血鬼の能力は、たぶん、グリム童話の『ヨリンデとヨリンゲル』のイメージが入ってますね。
30年後、一緒に棺桶に入ってイチャイチャしている、ドラヒナ夫妻のシーンを追加しました。
2024/05/20に上げました。
@kw42431393
時計を見ると、お昼頃。いつもなら、暗い棺桶の中にいる時間。
「ロナルドくんとジョンは、地域イベントの手伝い。ヒナイチくんは、非番。今なら、何でもし放題…。」
どういう訳だが、日中なのに目が覚めちゃってね。
カーテンで閉め切った部屋で、昼更かししようかと思ったのだよ。家の事をしたり、ゲームをしたり、ドラドラチャンネルの更新とか…やる事はあるはずなんだけど。
何故だろう、気が乗らないね。
だからと言って、また、寝直すつもりにもなれない。
家主もハムスターもいない、勝手知ったる我が城で…ウキウキしてても、おかしくないのに。
「ジョンも、いないせいかな。」
ここに来てから、赤ちゃん返りしたジョンが一緒に寝たがるから、日中棺桶で一緒に寝ている日も、多くなったからかな。
『さっき帰った依頼人、イベントの主催者さんだってよ。今、愛鳥週間…だっけ?小学生から高齢者まで、山を散策しつつ、バードウォッチングの案内や指導をするんだと。んでさ…』
『ああ、聞こえてたよ。是非、うちのジョンを借りたいって依頼だったね。君もヌーくんと一緒に、地元の山の楽しさを再発見しよう…的な。』
『ヌヒヒ…』
『そりゃ、ジョンだもんな!さすがだぜ!』
『照れる必要はないよ。さすが、私のジョン!世界一、愛される〇!主人として、私も鼻が高いよ。』
そんな感じで、引き受けた依頼だ。昼間だから、私は同行出来ないけど、悪い気はしない。
当日は、私の手でいつも以上に、丁寧に腹毛もブラッシングして、甲羅のケアもバッチリした上で送り出したのだ。
ファンの皆にこねくり回されても、大丈夫な様に。
じゃあ、いってきますヌ。ドラルク様も行けたらいいヌにね。
『そんな顔しなくていいよ。写真楽しみにしてるよ。お弁当もおやつも用意してある、気を付けていっておいで。』
「じゃ~な。一人で留守番よろしくな、ドラ公。俺は、ジョンとイチャイチャしてくるぜ~。」
棺桶に入る前に、一人と一匹と交わした会話を思い出す。今頃、皆でお弁当を食べているのだろう。
締まりのない若造の顔は、なんとも痛々しいものがあるが…まぁ、よかろう。
問題は、もう一度眠る気になれない日中を、どう過ごすかだ。
「ドラルク城にいる時のジョンが、こんな感じだったのかな。」
あそこはど田舎だったから、フラッと、コンビニとかフットサルとか、スナバとか出かける所もなかったから。
『ここに来て、すっごくすっごく楽しいヌ』と言っている気持ちも、よく分かる。
「バードウォッチングねぇ。楽しいのかな、それは。」
実際、私達吸血鬼が目にする鳥は、少ない。
フクロウぐらいなもの…いや、オッサンアシダチョウに、何故か攻撃的なハトとかもいるな。
思ったよりはいるな…シンヨコだけかもしれないが。
いずれにしても、日光に当たると即死してしまう私には、縁が遠いものだ。
人間達が思う程、私も『青空』を見たがる訳でもないのだが…
コツコツ
『チュン、チュン』
…不意に窓を叩く音と、可愛らしい鳴き声がした。遮光カーテンの隙間から、外を窺う。
『チュン!チュン!』
「何だ、スズメじゃないか。」
カーテン越しに、少しだけ窓を開ける。
入ってくるとは思わないが、何故か、お客を招きたい気分だったのだ。
それに…
『チュン!』
「おやおや、入って来ちゃったの。吸血鬼の居城にようこそ。可愛いお嬢…。」
鳴き声が、どっかの誰かさんを彷彿させたのもある。
小さくて愛らしい、その姿にも…
「…いらっしゃい。お腹を空かせているのかな、用意をするよ。何がご所望かね?世界一美味しい、ドラちゃんクッキーなんていかが?」
『チュン!』
必死に返事をするスズメを指に留まらせると、私はキッチンへ向かう。
『チュン!チュン!』
「…少し、怪我をしてるね。救急箱を取ってくるから、お待ち。」
『チュン!チュン!』
肩に移動したスズメが、必死におやつ棚に向かって鳴いている。パタパタと羽ばたかせる様にして…。
「おやおや、すごいね?どうして、そこにクッキーが入ってるって、分かったの?」
すっとぼけてるって?だって、二回目だもの。
面白くないよね。
この子から、血の匂いと微かな同胞の気配がするなんて。
面白くないよね。
だから、ちょーっと、意地悪しちゃう。
「クッキーは焼いてあげるけど、それはうちのお嬢さんの。ダメだよ。」
『…チュン』
シュン…としおれた、小さな小さなアンテナ。うん、ここまでにしよう。
惚れた弱みってやつだよ。意地悪したくても、長続きしない。怒った顔も出来やしない。
そろそろ、気づいて欲しいものだとも。
「冗談だよ、非番だったのに。災難だったね、ヒナイチくん。」
「もしもし、半田くん?ちょっと、急遽、鶴見川上流の…ほら、マッシーくんを保護した辺りあるよね?あそこに出動してくれる?…うん、人を噛んで鳥にする吸血鬼がね…そうそう。そこにロナルドくんもいるよ。ダチョウとかにされて、求愛のダンスとか踊ってる姿を撮れるかも…って、あ~あ。」
途中で切られちゃったけど、いいか。彼の事だから、ネタ振っただけで、豪速で着くでしょ。
ロナルドくんには、経緯をRINEしておいた。
ジョンだけが心配だね、オリハルコンの甲羅があっても、お腹はムニムニだもの。
「さてと…。」
電話を終えると、私はクッキーを持って、リビングに戻る。ジョンが心配だし、犯人に腹は立つ。
でも、太陽が出ている間、私は何も出来ない。悔しいよね。
「はい、待たせたね。さあ、ゆっくりお上がり。」
『チュン、チュン♪』
手に持ったクッキーを見た彼女が、パタパタと飛んでくる。
肩に留まって、手元を覗く可愛らしい姿を見て、ため息が漏れた。
何でも、署に忘れ物を取りに戻る途中で、鳥の格好をした妙な吸血鬼に噛みつかれたのだそうだ。本当に、変なのに好かれるんだから。
「どうせ名乗ったら、『吸血鬼、毎日がバードウィーク』とかいう、ダサい名前なんじゃないかな。」
そいつに捕まる所を、なんとか逃げてここに来た…というのだ。さっきまで飛び方が分からなかったので、ほとんど、ここまで徒歩。
そりゃあ、お腹も空くだろう。
「チュン、チュン」
「おいしい、おいしい…って言ってるね。お水も持ってきたよ。」
この子の『おいしい、おいしい』が、聞けないのは残念だなあ…これを聞かないと、何だか物足りなくなってしまって。
「だから、早く戻っておくれ。私がつまらない。」
「チュン?」
犯人は、察しがつく。今回のイベントの依頼人だと思う。
うちに来たのは、希望者を呼び寄せるジョンを借りる為だ。
ああ、あの時ビンタしてやるんだった…私が、死ぬだけだけど。
RINEを確認する。ロナルドくんとのトークに、既読がついていた。
今頃、グーで解決しようとしているだろうか。そろそろ、半田くんも着く。おそらく、大丈夫だろう。
山に誘導するというのも、本人の趣味もあったのだろうが、日光を避ける必要があったのだろうね。
鳥好きが高じて目覚めた能力だと、宣っていたらしい。彼も吸血鬼だから、私ほどでなくても、バードウォッチングする機会は少なかったのに違いない。
しかも、噛みつくまでどの鳥になるか分からない。
だから、手当たり次第に、噛みついて、籠に入れて、コレクションしたくなったのだそうだ。
「それにしても、噛まれるなんて。気が抜けてるよ、ヒナイチくん。元エリートの名が、泣いちゃうじゃないか?」
手のひらでクッキーを啄む彼女の、背中を撫でる。
私の皮肉に、ヒナイチくんは、恨みがましげな目を向けるが…クッキーは、強い。
今も小さなアンテナは、可愛いハートマークを描いていた。
「ゴメン、ゴメン。襲われた子供を、保護しようとしたからだよね。だから、ここで待とう?すぐに戻れるとも。」
『チュ…ン。』
いつの間にか、クッキーが、無くなっていた。
お餅の様に膨らんで、私の手のひらに収まったヒナイチくんが、うとうとし始めて…。
「うん、そこでお眠り。歩きづめで疲れたんだよね?どうして、署に行かなかったの?」
『…チュン。』
「…ウフフ、嬉しいね。半田くん達より、私を頼ってくれたんだ?」
『…ン。』
私が寝てるとは、思わなかったのかな…まあ、君が呼んでくれるなら、棺桶にいても、飛び起きただろうね。
『チュン。』
「応援に行きたい?気にしちゃ、ダメだよ。ヒナイチくんだって、犯人相手に、その姿じゃなんにもならない。ここで、私と待とう?」
『…チュン。』
そっと、眠そうな彼女をジョンのベッドに移す。
まだ、夜まで時間がある。家の事をするか、もう一度棺桶で寝直すか…そう考えたからなんだけど。
「アハ…ヒナイチくんったら。」
私の手から離れた途端に、寝ぼけ眼でモソモソと、手のひらに登ってくる。
無意識でやってるの?
じゃあ、仕方ないよね?そんなに、私といたいって事なんだから。
「許しちゃう。うなじを味わう順番は、あいつより後になった事は悔しいけど。毎日、こんなに可愛い小鳥を観察しているのは、私だもの。」
だから、いいよね?
無防備に眠る君を見ていると、私も眠くなってきちゃったから…
「私のお城へ、ようこそ…美しいお嬢さん。」
私の可愛い可愛い獲物…獲物だったお嬢さん。
『…チュン、チュン』
「うん、おやすみ。お望み通り、起きたらまた焼いてあげるとも。」

チュッとリップ音を立てて、あいつの噛まれた跡にキスをする。
濃い血を受け継ぐ私の気配臭は、強い。
そして、この中に少しの間だけでもいれば、あいつの気配臭は上書きされるはず。
ゴトリ…
棺桶に横たわると、手のひらの彼女を、胸の上に乗せる。
私の手を探す様にモゾモゾするので、手を合わせてヒナイチくんの上をドームの様に覆ってあげる。
『…スゥ、スゥ。』
「フフ、巣に戻った小鳥みたい。それに、あったかい。」
胸と手に広がる温もりが、愛おしくて…私も、そのまま眠りについた。
「いつかは、人間の姿でもこうしたいなあ…。」
その願いが叶うまで、もう少し。
彼女が、大人になるまでかかったのは…また別のお話。
トクン…ト…トクン
「あ。また、ちょっと途切れたな。」
目を開けても、ここは何も見えない真っ暗な空間。
ここは、床下に置かれたドラルクの棺桶の中。今の私が、一番心安らかに眠れる空間。
聞こえるのは、人間でいうところの不正脈…なのかな?時々、途切れる吸血鬼の心臓の音。
初めて、こんな風に彼の心音を聞いたのは、30年前の事だ。
『ち~ん…なんで、こうなったんだ?』
『すぅ…すぅ…』
『ど、ドラルク。起きてく…あれ?外で声がしている。ロナルドがいるのか?ど、どどどどうしよう…ちん。』
当時の5月だったか…鳥の恰好をした吸血鬼に不覚を取って噛まれてしまった私は、スズメにされてしまったんだ。変身したばかりで、飛び方が分かる訳もなく…追いかけて来る奴から、必死に隠れて、飛び跳ねながら逃げて…昼更かしをしていた彼の元に逃げ込んだ。
一晩中跳び回っていた、小さな体は疲れ果てて…ドラルクの胸の上で眠っていた事までは、覚えている。
目覚めたら、変身は解けていた。が、彼の上にうつ伏せで跨った状態で、混乱したものだ。
起こすのも気まずいし、外でロナルドの声がする。何とか、気づかれずに開けようともがいていた所を、ジョンに開けて貰ったんだっけ。ロナルドが半田とじゃれている間に開けてくれたので、現場を見られなかったのは、幸いだったな。
「…あんっ!?こら。起きてるなら、一言言ってくれ。」
「クスクス…油断大敵だねぇ。ヒナイチ隊長殿。」
微かなリップ音と、ヒヤリとした吸血鬼の唇の感触を首筋に感じて、顔を上げる。
暗闇の中で、赤い瞳が悪戯っぽく揺れている。
枕元の時計を見る。まだ、昼の3時。吸血鬼の彼が起きるには、早すぎる。
「やっと取れた非番だもの。もう少し、一緒に…ね?」
「こらっ!また、そんな所を嗅いで。」
スンスンと、弱い首筋に鼻を押し付けられて、身をくねらせる。
私は、もう49歳なんだぞ。昔みたいに、そんな…。
「またまた~、そんな事を言う?ヒナイチくんのうなじ、年々いい匂いになっていくんだもの。この30年の間に、私の気配と混ざり合って…分からないかなぁ~?」
「は…っ!んくっ!!」
カプリ…と、甘噛みをする彼の背中に、腕を回す。
最弱の捕食者の巣の中で、蜘蛛の様に細い手足に絡み取られて…
「あっ…んんっ!!」
「あはっ…年甲斐もなく、また元気になってきちゃった。もう中毒だもの、その匂い…。」
…硬くて冷たい胸に、耳を押し当てて、弱弱しい吸血鬼の心音を聞きながら…
「嬉しいなぁ…ヒナイチくんのも元気じゃないか。お夕飯が出来たら起こしてあげる。だ・か・ら…もう一度?」
「ま、またぁ?む、むりぃ…さすがに、いいとし…っく!!…としだから…つかれたっ!?…こらっーーっ!!」
…再び、私の理性は、闇に喰われて堕ちていく。