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バードウィークとは言うけれど

全体公開 本編ドラヒナ(両片思い期) 8 5606文字
2024-10-15 08:59:54

両片想い期の本編ドラヒナのお話です。
何十番煎じだとは思いますが、『どんな姿でも、執着している子を一瞬で見分ける』ドラルクさん、というテーマを書きました。敵性吸血鬼の能力は、たぶん、グリム童話の『ヨリンデとヨリンゲル』のイメージが入ってますね。
30年後、一緒に棺桶に入ってイチャイチャしている、ドラヒナ夫妻のシーンを追加しました。
2024/05/20に上げました。

Posted by @kw42431393

 時計を見ると、お昼頃。いつもなら、暗い棺桶の中にいる時間。 
 「ロナルドくんとジョンは、地域イベントの手伝い。ヒナイチくんは、非番。今なら、何でもし放題。」

 どういう訳だが、日中なのに目が覚めちゃってね。
 カーテンで閉め切った部屋で、昼更かししようかと思ったのだよ。家の事をしたり、ゲームをしたり、ドラドラチャンネルの更新とかやる事はあるはずなんだけど。
 何故だろう、気が乗らないね。
 だからと言って、また、寝直すつもりにもなれない。
 家主もハムスターもいない、勝手知ったる我が城でウキウキしてても、おかしくないのに。
 「ジョンも、いないせいかな。」
 ここに来てから、赤ちゃん返りしたジョンが一緒に寝たがるから、日中棺桶で一緒に寝ている日も、多くなったからかな。



 『さっき帰った依頼人、イベントの主催者さんだってよ。今、愛鳥週間だっけ?小学生から高齢者まで、山を散策しつつ、バードウォッチングの案内や指導をするんだと。んでさ
 『ああ、聞こえてたよ。是非、うちのジョンを借りたいって依頼だったね。君もヌーくんと一緒に、地元の山の楽しさを再発見しよう的な。』
 『ヌヒヒ
 『そりゃ、ジョンだもんな!さすがだぜ!』
 『照れる必要はないよ。さすが、私のジョン!世界一、愛される〇!主人として、私も鼻が高いよ。』

 そんな感じで、引き受けた依頼だ。昼間だから、私は同行出来ないけど、悪い気はしない。
 当日は、私の手でいつも以上に、丁寧に腹毛もブラッシングして、甲羅のケアもバッチリした上で送り出したのだ。
 ファンの皆にこねくり回されても、大丈夫な様に。

 じゃあ、いってきますヌ。ドラルク様も行けたらいいヌにね。

 『そんな顔しなくていいよ。写真楽しみにしてるよ。お弁当もおやつも用意してある、気を付けていっておいで。』
 「じゃ~な。一人で留守番よろしくな、ドラ公。俺は、ジョンとイチャイチャしてくるぜ~。」

 棺桶に入る前に、一人と一匹と交わした会話を思い出す。今頃、皆でお弁当を食べているのだろう。
 締まりのない若造の顔は、なんとも痛々しいものがあるがまぁ、よかろう。
 問題は、もう一度眠る気になれない日中を、どう過ごすかだ。
 「ドラルク城にいる時のジョンが、こんな感じだったのかな。」
 あそこはど田舎だったから、フラッと、コンビニとかフットサルとか、スナバとか出かける所もなかったから。 
 『ここに来て、すっごくすっごく楽しいヌ』と言っている気持ちも、よく分かる。
 「バードウォッチングねぇ。楽しいのかな、それは。」
 実際、私達吸血鬼が目にする鳥は、少ない。
 フクロウぐらいなものいや、オッサンアシダチョウに、何故か攻撃的なハトとかもいるな。
 思ったよりはいるなシンヨコだけかもしれないが。
 いずれにしても、日光に当たると即死してしまう私には、縁が遠いものだ。
 人間達が思う程、私も『青空』を見たがる訳でもないのだが

 コツコツ 
 『チュン、チュン』

 不意に窓を叩く音と、可愛らしい鳴き声がした。遮光カーテンの隙間から、外を窺う。
 『チュン!チュン!』
 「何だ、スズメじゃないか。」
 カーテン越しに、少しだけ窓を開ける。
 入ってくるとは思わないが、何故か、お客を招きたい気分だったのだ。 
 それに

 『チュン!』
 「おやおや、入って来ちゃったの。吸血鬼の居城にようこそ。可愛いお嬢。」
 鳴き声が、どっかの誰かさんを彷彿させたのもある。
 小さくて愛らしい、その姿にも

 「いらっしゃい。お腹を空かせているのかな、用意をするよ。何がご所望かね?世界一美味しい、ドラちゃんクッキーなんていかが?」
 『チュン!』
 必死に返事をするスズメを指に留まらせると、私はキッチンへ向かう。
 『チュン!チュン!』
 「少し、怪我をしてるね。救急箱を取ってくるから、お待ち。」
 『チュン!チュン!』
 肩に移動したスズメが、必死におやつ棚に向かって鳴いている。パタパタと羽ばたかせる様にして
 「おやおや、すごいね?どうして、そこにクッキーが入ってるって、分かったの?」

 すっとぼけてるって?だって、二回目だもの。
 面白くないよね。
 この子から、血の匂いと微かな同胞の気配がするなんて。
 面白くないよね。
 だから、ちょーっと、意地悪しちゃう。

 「クッキーは焼いてあげるけど、それはうちのお嬢さんの。ダメだよ。」
 『チュン』
 シュンとしおれた、小さな小さなアンテナ。うん、ここまでにしよう。
 
 惚れた弱みってやつだよ。意地悪したくても、長続きしない。怒った顔も出来やしない。
 そろそろ、気づいて欲しいものだとも。

 「冗談だよ、非番だったのに。災難だったね、ヒナイチくん。」



 「もしもし、半田くん?ちょっと、急遽、鶴見川上流のほら、マッシーくんを保護した辺りあるよね?あそこに出動してくれる?うん、人を噛んで鳥にする吸血鬼がねそうそう。そこにロナルドくんもいるよ。ダチョウとかにされて、求愛のダンスとか踊ってる姿を撮れるかもって、あ~あ。」
 途中で切られちゃったけど、いいか。彼の事だから、ネタ振っただけで、豪速で着くでしょ。
 ロナルドくんには、経緯をRINEしておいた。
 ジョンだけが心配だね、オリハルコンの甲羅があっても、お腹はムニムニだもの。
 「さてと。」
 電話を終えると、私はクッキーを持って、リビングに戻る。ジョンが心配だし、犯人に腹は立つ。
 でも、太陽が出ている間、私は何も出来ない。悔しいよね。

 「はい、待たせたね。さあ、ゆっくりお上がり。」
 『チュン、チュン♪』
 手に持ったクッキーを見た彼女が、パタパタと飛んでくる。
 肩に留まって、手元を覗く可愛らしい姿を見て、ため息が漏れた。
 何でも、署に忘れ物を取りに戻る途中で、鳥の格好をした妙な吸血鬼に噛みつかれたのだそうだ。本当に、変なのに好かれるんだから。
 「どうせ名乗ったら、『吸血鬼、毎日がバードウィーク』とかいう、ダサい名前なんじゃないかな。」
 そいつに捕まる所を、なんとか逃げてここに来たというのだ。さっきまで飛び方が分からなかったので、ほとんど、ここまで徒歩。
 そりゃあ、お腹も空くだろう。
 「チュン、チュン」
 「おいしい、おいしいって言ってるね。お水も持ってきたよ。」
 この子の『おいしい、おいしい』が、聞けないのは残念だなあこれを聞かないと、何だか物足りなくなってしまって。
 「だから、早く戻っておくれ。私がつまらない。」
 「チュン?」
 犯人は、察しがつく。今回のイベントの依頼人だと思う。
 うちに来たのは、希望者を呼び寄せるジョンを借りる為だ。
 ああ、あの時ビンタしてやるんだった私が、死ぬだけだけど。
 RINEを確認する。ロナルドくんとのトークに、既読がついていた。
 今頃、グーで解決しようとしているだろうか。そろそろ、半田くんも着く。おそらく、大丈夫だろう。
 山に誘導するというのも、本人の趣味もあったのだろうが、日光を避ける必要があったのだろうね。
 鳥好きが高じて目覚めた能力だと、宣っていたらしい。彼も吸血鬼だから、私ほどでなくても、バードウォッチングする機会は少なかったのに違いない。
 しかも、噛みつくまでどの鳥になるか分からない。
 だから、手当たり次第に、噛みついて、籠に入れて、コレクションしたくなったのだそうだ。

 「それにしても、噛まれるなんて。気が抜けてるよ、ヒナイチくん。元エリートの名が、泣いちゃうじゃないか?」
 手のひらでクッキーを啄む彼女の、背中を撫でる。
 私の皮肉に、ヒナイチくんは、恨みがましげな目を向けるがクッキーは、強い。
 今も小さなアンテナは、可愛いハートマークを描いていた。
 「ゴメン、ゴメン。襲われた子供を、保護しようとしたからだよね。だから、ここで待とう?すぐに戻れるとも。」
 『チュン。』
 いつの間にか、クッキーが、無くなっていた。
 お餅の様に膨らんで、私の手のひらに収まったヒナイチくんが、うとうとし始めて
 「うん、そこでお眠り。歩きづめで疲れたんだよね?どうして、署に行かなかったの?」
 『チュン。』
 「ウフフ、嬉しいね。半田くん達より、私を頼ってくれたんだ?」
 『ン。』
 私が寝てるとは、思わなかったのかなまあ、君が呼んでくれるなら、棺桶にいても、飛び起きただろうね。
 『チュン。』
 「応援に行きたい?気にしちゃ、ダメだよ。ヒナイチくんだって、犯人相手に、その姿じゃなんにもならない。ここで、私と待とう?」
 『チュン。』

 そっと、眠そうな彼女をジョンのベッドに移す。
 まだ、夜まで時間がある。家の事をするか、もう一度棺桶で寝直すかそう考えたからなんだけど。
 「アハヒナイチくんったら。」
 私の手から離れた途端に、寝ぼけ眼でモソモソと、手のひらに登ってくる。
 無意識でやってるの?
 じゃあ、仕方ないよね?そんなに、私といたいって事なんだから。
 「許しちゃう。うなじを味わう順番は、あいつより後になった事は悔しいけど。毎日、こんなに可愛い小鳥を観察しているのは、私だもの。」
 だから、いいよね?
 無防備に眠る君を見ていると、私も眠くなってきちゃったから



 「私のお城へ、ようこそ美しいお嬢さん。」
 私の可愛い可愛い獲物獲物だったお嬢さん。
 『チュン、チュン』
 「うん、おやすみ。お望み通り、起きたらまた焼いてあげるとも。」



 チュッとリップ音を立てて、あいつの噛まれた跡にキスをする。
 濃い血を受け継ぐ私の気配臭は、強い。
 そして、この中に少しの間だけでもいれば、あいつの気配臭は上書きされるはず。
 
 ゴトリ

 棺桶に横たわると、手のひらの彼女を、胸の上に乗せる。
 私の手を探す様にモゾモゾするので、手を合わせてヒナイチくんの上をドームの様に覆ってあげる。
 『スゥ、スゥ。』
 「フフ、巣に戻った小鳥みたい。それに、あったかい。」
 胸と手に広がる温もりが、愛おしくて私も、そのまま眠りについた。

 「いつかは、人間の姿でもこうしたいなあ。」
 その願いが叶うまで、もう少し。
 彼女が、大人になるまでかかったのはまた別のお話。 
 



 トクントクン
 「あ。また、ちょっと途切れたな。」
 
 目を開けても、ここは何も見えない真っ暗な空間。
 ここは、床下に置かれたドラルクの棺桶の中。今の私が、一番心安らかに眠れる空間。
 聞こえるのは、人間でいうところの不正脈なのかな?時々、途切れる吸血鬼の心臓の音。
 初めて、こんな風に彼の心音を聞いたのは、30年前の事だ。
 
 『ち~んなんで、こうなったんだ?』 
 『すぅすぅ
 『ど、ドラルク。起きてくあれ?外で声がしている。ロナルドがいるのか?ど、どどどどうしようちん。』

 当時の5月だったか鳥の恰好をした吸血鬼に不覚を取って噛まれてしまった私は、スズメにされてしまったんだ。変身したばかりで、飛び方が分かる訳もなく追いかけて来る奴から、必死に隠れて、飛び跳ねながら逃げて昼更かしをしていた彼の元に逃げ込んだ。
 一晩中跳び回っていた、小さな体は疲れ果ててドラルクの胸の上で眠っていた事までは、覚えている。
 目覚めたら、変身は解けていた。が、彼の上にうつ伏せで跨った状態で、混乱したものだ。
 起こすのも気まずいし、外でロナルドの声がする。何とか、気づかれずに開けようともがいていた所を、ジョンに開けて貰ったんだっけ。ロナルドが半田とじゃれている間に開けてくれたので、現場を見られなかったのは、幸いだったな。

 「あんっ!?こら。起きてるなら、一言言ってくれ。」
 「クスクス油断大敵だねぇ。ヒナイチ隊長殿。」
 微かなリップ音と、ヒヤリとした吸血鬼の唇の感触を首筋に感じて、顔を上げる。
 暗闇の中で、赤い瞳が悪戯っぽく揺れている。
 枕元の時計を見る。まだ、昼の3時。吸血鬼の彼が起きるには、早すぎる。
 「やっと取れた非番だもの。もう少し、一緒にね?」
 「こらっ!また、そんな所を嗅いで。」
 スンスンと、弱い首筋に鼻を押し付けられて、身をくねらせる。
 私は、もう49歳なんだぞ。昔みたいに、そんな
 「またまた~、そんな事を言う?ヒナイチくんのうなじ、年々いい匂いになっていくんだもの。この30年の間に、私の気配と混ざり合って分からないかなぁ~?」
 「はっ!んくっ!!」
 
 カプリと、甘噛みをする彼の背中に、腕を回す。
 最弱の捕食者の巣の中で、蜘蛛の様に細い手足に絡み取られて
 「あっんんっ!!」
 「あはっ年甲斐もなく、また元気になってきちゃった。もう中毒だもの、その匂い。」
 硬くて冷たい胸に、耳を押し当てて、弱弱しい吸血鬼の心音を聞きながら 
 「嬉しいなぁヒナイチくんのも元気じゃないか。お夕飯が出来たら起こしてあげる。だ・か・らもう一度?」
 「ま、またぁ?む、むりぃさすがに、いいとしっく!!としだからつかれたっ!?こらっーーっ!!」

 再び、私の理性は、闇に喰われて堕ちていく。
 
 
 
 
 

 


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