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相殺は失敗

全体公開 神無三十一受け 7 31 4215文字
2024-10-16 16:53:08

カルみと
シナリオネタバレあり

 

 「おじゃましまーす……
 「はい、いらっしゃい」

 深夜、スパローのアジトにある縞斑の私室を神無は訪れていた。
 小さな声で呟いて室内に足を踏み入れる神無をいつもの調子で歓迎すれば、彼はいつもよりしんと静まり返る背後の廊下を振り返り口を開く。

 「ニトとリトはもう寝ちゃった?」
 「うん。さっきまで待ってたんだけど、アサギリちゃんが明日にしなさいって部屋に連れてったよ」
 「そっか……遅くなっちゃったもんな

 アジトで暮らす子供たちのことも大切に思っている神無は、自分が来ると聞いて待っていてくれた彼らを思って申し訳なさそうに眉を下げた。
 人手の足りないドロ課でエースとして忙しく働く神無は、定時で帰宅できる日が非常に少ない。
 明日は公休だから仕事終わりに会いたいという連絡を受け取った縞斑は、日付が変わるまでに来れたら良い方だと考えていたが、少しでも早く向かおうと努力した神無にとってその結果は不満だったのだろう。

 「心配しなくても、子供たちも分かってくれるよ」
 「……うん、そうかな」
 「それより仕事お疲れさま。何か事件でもあったの?」

 現在のドロ課で大きな事件を抱えているという話はまだ縞斑の耳に入っていない。
 事件の真っ只中であれば明日の公休が潰れていただろうし、神無が自ら抱えた仕事が終わらなかったのだろう。
 急ぎの仕事があったのだろうかという意味も込めて尋ねれば、顔を上げた神無は首を横に振って苦い表情を浮かべた。

 「あいや、そういうわけじゃないんだけど……他の部署で問題無しって処理された組織の動きがなんか気になってさ」
 「ほう?」
 「さすがに他のところで処理が終わった組織のこと『なんか気になる』ってだけで再調査したいとは言い出せないよなーと思って、青木と提案用のデータをまとめてたんだよね」
 「なるほど、報連相できてえらいじゃない神無ちゃん」
 「う、うるさいなぁ

 以前なら自身が見つけた違和感を信じて疑うことなく、一人だろうと構わず突っ走っていたであろう神無の成長に縞斑が目を瞬けば、彼は恥ずかしそうに眉を寄せる。
 警察組織内でキャリアを積むことを決めた神無は、最年少には未だ生きづらい縦社会の中で上手く立ち回っているらしい。願わくばこのまま自分に似ることなく順調に突き進んで欲しいと祈るばかりだ。

 「俺たちの方でも探ってみようか。どの組織?」
 「ありがと。ちょっと待って、詳細を今そっちに………

 スパローとドロ課は水面下で協力関係を結び、警察が表立って動けないような非合法の調査を請け負う代わりに情報共有や資金支援を行っている。
 そんな縞斑からの提案に感謝してサングラス型コンピュータの操作を始めた神無だが、彼ははたと我に帰った様子で固まった。
 
 「って!今は仕事の話禁止!!」
 「あぁそうだった、ごめんね」
 「いや俺もつい調査のこと話しちゃったしお互い様だけどさ……

 本日の神無はスパローのリーダーであるカルマではなく、恋人の縞斑狩魔に会いに来たのだ。
 顔を合わせるとプライベートでも仕事の話を始めてしまう彼らは、神無の提案で仕事とプライベートをきっぱりと分けることに決めたのである。

 「とにかく!今日の俺はドロ課の神無じゃないの!」
 「ごめんごめん。ほらおいで、俺の恋人の神無三十一くん」

 両手を広げてそう首を傾げて見せれば、ぐっと呼吸を詰まらせて一瞬躊躇った神無はおずおずと広げた腕の中に歩み寄る。
 自身より一回り小さな体を抱きしめれば、腕の中でほっと息を吐いた神無がしみじみと疲労感を覚えて項垂れた。 

 「はぁ……つかれたぁ……
 「はい、お疲れさま」
 「もー早く会いたかったのに……仕事おわんないし、」
 「はは、まぁよくあることだよね」

 予定のある時ほど忙しくなるものだと頷く縞斑に子猫のようにすりすりと擦り寄っていた彼は、やがて袖を小さく引いて目を閉じる。
 キスがしたいという可愛らしいおねだりを聞いた縞斑は、上がる口角を隠しながら腰を折り唇を重ねた。

 「ん、ぅ」

 触れるだけのキスを落としてリップ音を残せば、少しだけ物足りなさそうに神無は眉を寄せる。
 袖先を握ってもう一度唇を突き出す仕草が可愛くてたまらないからわざとやっていると知ったら、きっと神無は顔を真っ赤にして怒るに違いない。
 笑みを浮かべた縞斑は神無を強く抱き寄せると、後頭部を押さえて逃げ場を奪う強引なキスを落とした。
 舌先で唇を撫でれば、神無はそれを待ち望んでいたようにぴくりと肩を揺らすと薄く唇を開く。

 「うっん、ぁ……ふ、っぁ

 久しぶりの逢瀬に高まっていた思いが伝わるように、割り込んだ舌を絡めて片腕で腰を引き寄せれば、神無はそれに応えるように両腕を首へと絡ませて縋った。
 与えられるものは何ひとつ逃さないと言うようにゆっくりと唾液を嚥下した神無は、ふと眉を顰めて軽く縞斑の肩を叩く。

 「っ……なぁに?」
 「んー……?」

 その合図を受け取って一度唇を離せば、神無は不思議そうな表情を浮かべて唇に指を当てて考え込んでいた。
 そんな神無の仕草に心当たりがあった縞斑は、あっと小さく声を上げて首を傾げる。

 「ごめん、歯磨きしたんだけど煙草臭かったかな」
 「いやたぶんそうじゃない……けど、」

 先輩とのキスは苦いといつかの時に言われたことを思い出して心配する縞斑だが、神無は首を横に振って自身の抱いた違和感をひとつずつ紐解いていく。

 「なんか、肉みたいな味がしたような……?」

 ぴく、縞斑の肩が揺れた。
 その些細な変化に気がつくことができたのは、神無の刑事としての腕が上がったからなのか、はたまた縞斑が彼への隠し事が下手になったのか。
 神無が抱いた違和感に心当たりがある様子の縞斑を見上げた神無は、先ほどまでの心配とは一転して気まずそうに視線を逸らす恋人の存在に気がつく。

 「せんぱいまさか、アサギリに内緒で夜食にハンバーガー食った……?」
 「……あははははー」

 観念して縞斑が乾いた笑いを漏らせば、それを肯定と正しく受け止めた神無はぷるぷると肩を震わせて縞斑の襟を掴み揺さぶった。

 「あんたさぁ!生活習慣病って知ってる?!刑事の時より運動できない環境なんだからちょっとくらい我慢しろよ!!」
 「神無ちゃんにだけは言われたくないかなー」
 「俺はちゃんと管理してるし!晩ご飯食べた上でそんなもん食ったら肥満一直線だろ!?」

 刑事として共に過ごす間に気がついて、付き合い始めてから痛感したことだが、縞斑はジャンクフードが好物なのだ。
 当時事件を独自で調査する中で、片手間かつカロリーを一度の食事で摂取できるという点において重宝していた頃の名残なのだろう。
 現在の生活でも染みついてしまったその味が恋しくなり、時々アサギリの目を盗んでありついていることを神無は知っていた。

 「だってアサギリちゃんのヘルシーメニューじゃ物足りないんだもん……
 「もんとか言うなよ35歳のくせに!!」

 唇を尖らせて不満げにそう漏らす縞斑は、体調管理を兼ねた分析を受けて夜食の存在がアサギリに見つかって以降、徹底的に食事を管理されているらしい。
 アサギリが作る野菜や鶏肉を中心としたさっぱりメニューはもちろん不味くはないが、深夜まで仕事に打ち込むことの多い縞斑にとっては少々物足りないのだ。
 不貞腐れる縞斑の胸をぼすぼすと叩いて叱った神無は、ふんと肩で息をすると腕の中から逃げ出そうともがき始める。

 「はなせぇえぇ……アサギリに言いつけてやるぅ!!」
 「そんなこと言わずに、見逃してよ神無ちゃん」
 「だめったらだめ!あんたには長生きしてほしいの!!食った分徹底的に運動してもらうからな!!」

 大好きな恋人と少しでも長く共に居たい神無は、心を鬼にして縞斑のわがままを跳ね除けた。
 じたばたと暴れる腕の中の神無をどうどうと宥めていた縞斑はふと、ひとつの考えが浮かんで神無の顔を覗き込む。

 「それって……食べた分運動したら許してくれるってこと?」
 「えま、まぁそりゃカロリーに見合った運動したなら多少は……?」

 スイーツをこよなく愛している神無も、カロリーを摂取したらその分普段のトレーニングの負荷を上げることでバランスを取ろうとしているらしい。
 特に接近戦が多い神無は、体が重くなれば立ち回りのバランス調整が必要になるためその辺りの管理を徹底していた。
 運動して相殺したなら問題はない。そう都合の良い解釈として受け止めた縞斑は、名案を思いついたようににっこりと微笑む。
 嫌な予感を覚えた神無を逃がさないように掴んだまま、彼は軽く口を開いた。

 「よし、じゃあセックスしよう」
 「は、はぁ?!?」
 「手っ取り早いし、夜にできる安全な運動でしょ?」

 犯罪組織のリーダーという立場にある縞斑は、迂闊に外を彷徨くことができない。
 そんな縞斑の主張は正しいが、だからといってその相殺方法を神無は気軽に受け入れるわけにはいかなかった。
 
 「あ、あんたハンバーガーのカロリーいくつだと思って!!」
 「でもこうすれば、神無ちゃんだって甘いもの食べ放題じゃない?恋人と気が済むまでセックスできるし、Win-Winだよ」
 「その理屈だと俺の体力が尽きてもカロリー消費するまでとかいって止まらないつもりだろ?!どう考えてもあんたの一人勝ちだよこの絶倫男!!!」
 「照れるなぁ」
 「褒めてないっ!!!」

 風呂を嫌がる子猫のように必死で抵抗を続ける神無だが、体格差によって次第に彼の体は寝室へと引き摺られていく。

 「待って!死ぬ!あんたに付き合ったらほんとに死んじゃうから!!たすけてアサギリ!!!」
 「残念だったね、アサギリちゃんは俺たちに気を遣って部屋から離れてるよ」
 「アサギリぃい!!!」

 神無の悲鳴も虚しくぱたんと扉は閉まった。
 果たして翌朝、神無は起きてきた子供たちと無事に遊ぶことができるのだろうか。
 結果はきっと、聞くだけ野暮な話だ。




 


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