カルみと♀(先天性)
シナリオネタバレあり
@popo_trpg_ss
「揉んだら大きくなるって言うけど、実際どうなんだろうね」
とある日の風呂上がりのこと、ソファに並んで座っていた縞斑はふと、隣で縞斑の部屋着の上だけをワンピースのように被って機嫌良くアイスを食べる神無に向けてそう切り出した。
「……へ?」
チョコチップアイスを口に運ぶ姿勢で固まった神無は、一回り大きな縞斑の服を着ているため肩口がずり落ちて白い肌が覗いている。
そこから覗く黒のブラ紐をぼんやりと見ているうちに浮かんだ疑問の言葉を、仕事終わりでそこそこに疲れていた縞斑は脳を仲介することなく脊髄反射で呟いていたのだ。
「な…っなん、」
じわじわと部屋の沈黙に助けられて言葉の意味を理解した神無は、やがてぼっと火が出る勢いで顔を赤らめると近くのクッションを掴んで縞斑の顔目掛けて投げつける。
「んぶ、」
「変態!!さいてー!!急になに?!」
「いや……医学的根拠はないって意見と、大きくなったって体験談があるから、実際のところどうなのかなって気になって」
「気になってって……先輩目ぇキマってるじゃん、疲れてるなら早く寝なよ…!!」
「寝たら明日が来るし、明日が来たら神無ちゃん帰っちゃうじゃない」
「子供みたいな駄々こねてる……」
縞斑がふたりの時間を作るために、この数日間無理をして仕事を進めたことは神無も知っていた。
ほとんど眠っていないらしい縞斑の目の下には色濃い隈が滲んでおり、ゆらゆらと揺れる頭は大天才の大先輩と胸を張るのを躊躇われる危うさである。
それでも眠る気はないらしく、眠気を紛らすために会話を探す縞斑を哀れに思った神無は、仕方なく彼の疑問に耳を傾けることにした。
「別に……そんな変わらないと思うけど…」
「そうなんだ。あんなに揉んでるのに」
「い、言わなくていいって…!」
縞斑の言葉に情事の様子を思い出してしまったらしい神無は、ぐっと再び口籠ると軽く縞斑の膝を叩く。
そうして縞斑と戯れようとした神無はふと、何かを思い出した様子で目を瞬いて声を上げた。
「あ、」
「なに?」
「いや…カップ変えるほどじゃないけど、そういえば前より少しだけきつくなった……かも?」
言われてみれば、縞斑と付き合い始めてから胸が窮屈に思うことが増えた気がする。
あくまで些細なもので、カップを変えたり肩紐を調節するほどではないため気にも留めていなかったが、あれが縞斑の言う変化だったのかもしれない。
そう神無が打ち明ければ、体験談を聞いて感動するわけでもなく縞斑は眠気の滲む座った目でへらりと口を開いた。
「……太ったと、かッ?!」
神無の放った拳は、縞斑が言葉を言い切る前に彼の脇腹に命中した。
若干目が冴えた様子で蹲る縞斑を見下ろした神無は、目を三角にして肩を震わせる。
「さいってー!!このノンデリ男!!!」
「いや…だって、先月のスイーツの摂取量はどう考えても流石に」
「うるさいうるさいうるさい!!ちゃんと考えて食べてるもん!!!」
「ごめんごめん待って、今もう一発殴られたら意識落ちちゃう、ごめん」
再び拳を振り下ろそうとする神無を縞斑が宥めれば、眠気で正常な判断ができていない目の前の恋人を見下ろした神無は呆れた様子でため息を吐いた。
「だからぁ…普段はスポブラだからあんま分かんないけど、今日みたいに普通のやつ付けるときになんか……ちょっときついかな?みたいな程度で」
「ほう……」
ドロ課のエースとして最前戦で戦う神無は、普段は動きやすい下着を選んで胸を押さえつけている。
初めて縞斑と泊まった日に誤ってその下着を身につけてしまって以来、彼女は縞斑と会うときは必ず可愛らしい下着を身につけるように決めていた。
神無曰く、普段の下着は動きやすいが可愛さの欠片もないらしく、縞斑が気にしていないと告げてもムードが壊れるから嫌だと頑なに拒絶したのだ。
「腫れとは違うだろうし……やっぱり女性ホルモンか」
「マッサージみたいな作用って話をするならまぁ、リンパと血の流れが良くなって女性ホルモンが分泌されやすく…って、なに真剣に話してんだろ……」
医学的な話を辿って知識を掘り起こそうとした神無はふと、真剣に考えたところで胸を揉んだら大きくなるのかというくだらない話だと我に返る。
そんな神無の一方で、身近な経験談を元に縞斑は、僅かに目が冴えたのか口元に手を当てて考え込んでいた。
「にしても……女性ホルモンっていうなら神無ちゃんはもともと無縁だったからなぁ」
「し、失礼な……」
事件を追うことだけ考えて生きてきた神無は、男勝りな性格どころか性別を男と偽って生活していたのだ。
今でも彼女が女であることは、上層部の一部や仲間たちしか知り得ないことだ。それほどに神無は自身の身分を徹底的に隠している。
そんな彼女は当然学生時代も恋愛経験がまるでなく、想いを伝えたときに縞斑が初めての相手だと聞かされた。
とはいえ縞斑の手で花開いたことを認めることはどこか気恥ずかしい神無は口ごもっていたが、ふと思い当たることがあるらしく顔を上げる。
「……確かにそれで言うと、先輩のこと好きだなって思った頃から大きくなったかも」
「え、」
「ブラが急に入らなくなって、慌ててレミに採寸してもらって一通り新調したんだよね」
レミからは事件が解決して安心から気が緩んだからだろうと言われていたが、思えばあの頃は縞斑への恋心を自覚した時期でもあった。
「そう考えるとやっぱり、女性ホルモンが分泌されるようなことがあれば大きくなるんじゃない?」
「……神無ちゃん、今自分がすごいこと言ってるのわかってる?」
「え?な…なにが?」
「これ無自覚か……こわ……」
真剣に医学的根拠を探す神無だが、隣の縞斑は間接的に彼女が自分を好きになった時期を知ることができて浮かれている。
自分の発言が爆弾で、恋人の心を焼け野原にした自覚が神無には相変わらずないらしい。
きょとんと首を傾げる彼女をみた縞斑は、たっぷり数十秒言葉に悩んで視線を彷徨わせた末に頭を抱えた。
「だめだ…確認してもいい?っていう親父臭さ満点の誘い文句しか出てこない……睡眠不足が憎い……」
「出てる出てる、頭の中全部出てるよ先輩」
睡眠不足が祟ってまともな受け答えができない縞斑は、眠気に意識が侵されて考え事が全て口からまろび出ている。
誘い文句が見つからず頭を抱えて本気で悔しそうにする縞斑の姿を見ていた神無は、なんだか普段のスマートな姿とのギャップも相まってどうしようもなく愛おしく感じてしまい吹き出した。
「もー…仕方ないなぁ」
呟いた神無は着ていたシャツの裾をぺらりと捲る。彼女の肌を覆い隠していた心許ない一枚の向こう、白く滑らかな肌に縞斑はこくりと唾を飲んだ。
至近距離で縞斑の喉を鳴らす音を聞いた神無は、ちらりと誘うように舌を出して悪戯っぽく笑う。
「確認してみる?」
「…………、」
縞斑は思わずびしりと石のように固まった。
そんな彼の動揺をおかしそうに神無がくすくすと笑っていれば、彼は額に手を当てて深呼吸をしながらその助け舟を確かめる。
「……これは据え膳」
「うん」
「…………断じて親父臭くない」
「ふふ、うん」
「むしろ……食わなきゃ恥だし、君に失礼」
「そうだよ、感謝しろ?」
得意げに笑って両腕を広げる神無をじっと見つめた縞斑は、やがて感謝の気持ちを込めて両手を合わせると頭を下げた。
「……ありがとう…いただきます」
「あはは、変な始まり方」
誘った相手に拝まれて情事に及ぶなど聞いたことがないが、不思議と悪い気はしない。
促されるままに自分を抱き寄せるいつもより素直な縞斑の腕の中、ころころと楽しそうに笑った神無はムード作りも兼ねて彼の唇にキスをしたのだった。
終