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秘密の味

全体公開 みずいこ・単話 2751文字
2024-10-23 00:34:38

みずいこお題部第二十回より「お味は?」『ケーキ』【クリーム色】
関西弁非ネイティブのため口調は勘頼り

Posted by @a_yuuzora

ソロブースに籠っていた生駒は時計を見、そろそろ昼時だし一旦休憩するかとエリアを抜ける。昼食を摂りに食堂へいくか作戦室に行って誰か誘うかとか考えながらふとスマホを見ると、不在通知とメッセージが一件ずつ来ていることに気付いた。時刻は5分ほど前、水上からだ。
『今甘いもの食える腹の余裕あります?』
食事のお誘いだろうか。水上からというのは珍しい。なかなか唐突な質問に少し笑いながら返信する。
『あるけど何? スイーツバイキングにでもいくん?』
『残念ながら場所は俺んちですね』
『了解、すぐ行くわ』
ありがとう、と言葉が添えられたスタンプがひとつ送られてきて会話が終わる。寮暮らしだとこういうときに楽だと思いながら生駒は水上の部屋に向かった。

招かれて玄関に入ってすぐ気付いたのは、バニラのような甘い匂いだった。
「わ、ええ匂い、どうしたん? お菓子作りにでも目覚めた?」
「お菓子っちゅーかメシのつもりだったんすけどね、作りすぎてもーて」
水上は炊飯器の蓋を開けて内釜を取り出す。その中にはクリーム色のパンケーキのようなものが満タンに近い水位まで入っていた。
「コレは……何?」
「ホットケーキっすね」
「俺の知ってるホットケーキとちゃうなあ!?」
「俺の知ってるんともちゃいますけど、ホットケーキミックスと牛乳と卵で作ったんで他の何かではないはずなんですけどねえ」
言いながら水上はまな板の上で内釜を逆さにする。すると何かがどすんと落ちた音がして、内釜を引っ張り上げるとこんがりと美味しそうな焼き目のついた分厚いホットケーキが現れた。
「あ、焼き目みると案外ちゃんとそれっぽく見えるわ」
「ほんまや。で、これを俺に食ってほしいってことでええ?」
「ご明察です。いや流石にこの量を一人では食いきれんので」
「よっしゃ任された! あ、うちからバター持ってきてええ?」
「あるんなら是非。うちには無いんで」
「やっぱホットケーキにはバターやろ!」
生駒は隣の自分の家の冷蔵庫からバターを持ってきて水上の家に戻る。分厚いホットケーキはまな板の上でケーキカットされて一部は二枚の皿の上に載っていた。綺麗な切り口を堂々と上面にさらした横倒しになっているのがやや残念感をあおる。生焼けになっていないのがはっきり確認できるともいえた。
「早速バターのっけてええ?」
「どうぞ」
予め切り分けておいたバターをひとかけらずつ分厚いホットケーキの上に乗せると、じわりと下から溶けていく。
「うまそうやな! はよ食お」
「そっすね」
テーブルについていただきますをし、ひとまず作成者たる水上が口に運ぶのを見る。
「どう、お味は?」
「うまいっす。企業努力の味」
「なんやその感想。――あ、うま! 久しぶりにホットケーキ食った気ぃするわ」
「そんな難しいモンでもないけど別にわざわざ作ろうとも思わない、みたいな」
「わかるわ。そんで、そのあんま作ろうと思わんもんをこんな量作ったのはなんでなん?」
「あ、それ聞いちゃいます? まあ別にたいした理由やないですよ」
いわく。疲れてたときにコンビニに寄ったらホットケーキミックスが売ってるのを見かけ、パッケージの写真に惹かれて買ったはいいものの疲れてるときにわざわざ作る気にもならず、しばらく戸棚に放置していた。それをたまたま今日見つけ、賞味期限が近いことに気付き、消費してしまいたいが一枚一枚焼くのも面倒くさくて調べてみると混ぜて炊飯器で炊くだけで焼けると知って、パッケージの分量通りに混ぜて炊飯器にぶち込んだところバカデカホットケーキができた。という経緯らしい。
「お前……普段はしっかりしとるくせに自分事になると時々ポンコツになるよなあ」
「誰かの面倒見るんと違って、自分で自分のケツもてばええだけですからね。多少気ぃ抜くこともありますよ」
「ふぅん?」
……いや、今現在イコさんに俺のやらかしの面倒みてもらってるわけですけども。すいません」
「え!? いや、別に全然ええよ! 丁度昼飯何食おうか考えてたとこやったし丁度良かったわ。いつも頼ってるから頼られるの嬉しいしな!」
「そんならよかったです」
「でも飯系って作戦室持ってったらみんな食ってくれるやんか。なんでそうせんかったん」
「さすがにダサいでしょ、バカデカホットケーキつくってもーたから食ってくれって」
「え、そう? もしかして俺がカレー作りすぎて持ってったのも内心ダッサって思われてたってこと!?」
「イコさんはそういう失敗しても許される愛嬌があるやないですか。俺にはないんで」
「愛嬌……あるか、俺に……? いや失敗を笑いに変えて振りまいていきたいとは思っとるけども」
「そういうのを愛嬌って言うんやと俺は思っとりますよ。俺にはなかなかできんことです。それに後輩らにはちょっとくらいカッコつけておきたいんで、今日のことは秘密でお願いします」
「ひ、秘密な、了解」
しーっと内緒のポーズをしてみせる水上に、生駒はこくこくと頷く。不意に心のやわらかいところを触れさせてもらえたような気がして妙にドギマギして、生駒は慌てて話題を変えた。
「そういや、ホットケーキが昼飯なのはびっくりしたわ。甘いもん飯にするの大丈夫なタイプなん?」
「イコさん的には意外なんです? 俺子供の頃とかときどき昼飯時にホットケーキ焼いてもらってましたよ」
「うちではなかったなあ。ホットケーキはおやつやったな」
「あー、親父は『昼飯に甘いもんはなあ』って文句いってましたわ。でもトーストにはいちごジャム塗るんで、そっちの甘いもんはええんかいってツッコんでました」
「確かに、トーストにジャムがありならホットケーキもありか」
とはいえ生駒としてはそろそろ塩気が恋しい。さきほどバターを出したときにいくつか食材が見えた気がしたが、何があっただろうか。
「なあ、味変してみてええ?」
「別にええですけど、何するんすか」
「家にハムとレタスがあった気ぃするから、これに挟んでみたら美味いんちゃうかなあって」
「あー、サラダクレープみたいなやつすか」
「そうそうそれ! あ、マヨある?」
「そんくらいならありますよ」
「よし、じゃあ食材持ってくるわ」

一旦帰るついでにバターを戻しておこうとタッパーを持って行く。そのごく短い道すがら、『秘密で』と言われたことを思いだす。写真を撮りそびれた大きなホットケーキも、これから食べるサラダクレープ擬きも、二人だけの秘密ということだ。しっかり者で責任感の強い水上が迂闊なところを晒してもいい相手、本当なら秘めておきたい失敗を共有する相手に選ばれたことに変に動揺して、生駒はタッパーを取り落としそうになった。


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