わんで内戦勃発した後メガ様のところにたたかわないおぷさんが来た話とオプのところにたたかわないめがさんが来た話。
加筆修正した完結版は通販開始してるよᐠ( ᐛ )ᐟ
たぶん素材は綿100%
@fao_scherzo
おぷさんとメガトロン
オートボットとディセプティコンの戦争が拡大し、サイバトロン星全土が戦火に包まれた頃。
それはいきなり現れた。
「…………」
本拠地である最奥に構えられた破壊大帝の私室。
言うまでもなくセキュリティはディセプティコンでも最新の技術を惜しげもなく投入された最高レベルで、ネズミ一匹通さない、ある意味では牢獄じみた不可侵の空間。
その部屋の、ど真ん中。
休憩用に置かれたローテーブルの上で、メガトロンのために用意された最高級のエネルゴンを食い荒らす、得体の知れない何かと目が合うこと数分。
それは一度動きを止めたものの、感情が全く分からない微笑のまま無心で持っていたエネルゴンを食べ続けた。その間も怒っているのか笑っているのか、揶揄っているのか怖がっているのか、喜んでいるのか悲しんでいるのか、全く分からない微笑とも言えない表情は微塵も変わらない。
抱えていたエネルゴンを食べきり飲み下すと、それはおもむろに口を開いた。喋る事にも言語を扱うことにも意志疎通ができる物体である事にも驚かされたが。
「邪魔してるぞ。すまない、エネルギーが切れそうだったので少し頂いてしまった。助かったよ、ありがとう」
助けた覚えもエネルゴンを与えた覚えも何もない。
変わらない表情のまま立ち上がった──驚いたことに座っていたらしい状態と頭の高さはほぼ変わっていない──それはどれほど図太い神経をしているのか。良く見ればどこぞの誰かを思い起こさせるような、全く似ていないような、何とも言えないムカつく造形をしている。
これは何だ。
幻覚か?
メモリーの不具合か、アイセンサーが逝かれたのか。声が聞こえると言うことは集音機も壊れたのか。それともまとめてブレインの不調か。そう言えば先日の戦闘で頭を殴られた。リペアは終わらせていたが、内部にも損傷を負っていたのかもしれない。軽微な損傷が拡がり今になって不具合を発症させたのか。
とにかくなんらかのエラーで意味の分からない、所謂データゴーストを見ているのかもしれない。
「…………」
「ほわっ!? 何をする!? やめないか!!」
いつまでもそれを見ているのも馬鹿らしい。近づいて無造作に頭……なのか胴体なのか分からないが、片手で鷲掴み持ち上げてみる。指先がめり込みくしゃりと潰れた感触には驚かされた。確かに実体はあるのに、この薄さは何だ。柔らかな金属も存在はするが、どう考えてもこれは金属の感触ではない。が、有機生命体のそれでもない。全く知らない感触だ。何より持ち上げているのに重みも感じられない。
「おい、やめろ!! やめろと言っているだろう!!」
潰れた顔はやはり変わらぬ表情で、顔なのか胴体なのか分からないが本体についている四つの短い何かを懸命に振り回す。それが手足だとでも言いたげに。
試しに一つつまんで引っ張ってみると、少し伸びた。
「ほわああああああっ!?」
胴体にくっついている根本がギチギチと音を立て始めたところで、あまりにもやかましく悲鳴を上げる物だから手を放してやる。これ以上騒がれては外に聞こえてしまいそうだ。そうなっては面倒どころの騒ぎじゃないだろう。
「いきなり何をするんだ君は!? 千切れるかと思ったぞ!!」
「…………」
不思議な感触に興味が湧いて、喚くそれを無視して両手で捏ね回す。握り込めば指先を呑み込み、押しつぶせば形を変えて潰れながら、一定のところで僅かながら反発してくる。引っ張れば薄く伸びて、これは、なんと形容するのだったか。
得も言われぬ触感に無心で捏ねて、一通り感触を確かめ、危険がないことを確認したところで漸く解放してやった。心なしか少し縮んだ気がする。
「……で、お前は何者だ?」
「全く、いきなりなんてことをするんだ……。私はメガトロンを探しに来ただけなのに……」
「何?」
机に置くとそれは両手をついて肩……が動いているのかは分からないが、とにかく呼吸を整えると立ち上がる。聞き捨てならない名前が聞こえた気がして聞き返すが、それは答えることもせず何故か胸を張ってこちらを見上げてきた。
「私はオプティマス・プライム。オートボットの総司令官だ。気軽に『おぷさん』と呼んでくれて構わんぞ」
次の瞬間、思わずそれを叩き潰していた。
拳の下で潰れて伸びたそれは、「ほわぁ……」とよく分からない鳴き声を上げていた。
■
自称オートボット司令官の『おぷさん』とやらがメガトロンの私室に住み着いて暫く。
いくつか分かったことがある。
これはどうやら本当に生きているらしいこと。
見た目に反して随分な大喰らいなこと。
どういう原理か、エネルゴンを補給すると両手で抱える程の大きさにまで質量が増えること。
大きくなっても感触は変わらず、枕にすると案外寝心地が良いこと。
逆にエネルギーが足りなくなると手の平サイズにまで縮むこと。
なにやら別の世界から迷い込んで来たらしいこと。
オートボットの総司令官であり、オプティマス・プライムであるというのも嘘ではないらしいこと。
自分の世界の『メガトロン』を探しているらしいこと。
──彼らの世界では、もう戦わないことにしたこと。
それらが分かったところで、だからどうした、としかならないのだが。
メガトロンを探していると言う割に、この部屋から出ようとする気配はない。兵士に見つかっても騒ぎになるだろうし、彼らへの説明も面倒なので好都合ではあるが。万が一サウンドウェーブやショックウェーブに見つかっては面倒にしかならないのだろう。
数日程部屋を空けていたせいで、手の平サイズにまで縮んだオプティマスがエネルゴンを食べるのをぼんやりと眺めていれば、何を勘違いしたのか抱えていたそれをこちらに差し出して来る。
「疲れているのか? 元気がないな。ごはんを食べると良いぞ」
「……疲れてるわけじゃない」
相変わらず欠片も変わらない表情で押し付けてくるエネルゴンを受け取り、口にする。食べれば満足したのか、オプティマスはメガトロンのために用意されたゴブレットに盛られたエネルゴンを拝借する。小さな手足を伸ばし、ぷるぷると震えながらなんとかエネルゴンを引き摺り落とそうとする様がどこか間抜けで。
そっとゴブレットに手を伸ばし、オプティマスから遠ざけるように滑らせる。
「ほわっ!?」
「…………」
バランスを崩したオプティマスは何とか踏みとどまり、めげずに向かってくるものだから。もう少しでエネルゴンに手が届く瞬間、また遠ざける。そんなやり取りを何度か繰り返し、机の端まで来てしまったゴブレットに今度は行けると確信したのか。勢いをつけて飛びついてくるオプティマスに対してそのままゴブレットを持ち上げた。
「ふっ……くくっ!」
ぺちゃりと音がしそうなほど、見事に顔面から転んだオプティマスに思わず笑ってしまった。
「……酷いじゃないかメガトロン。君がいない間私はどれだけひもじい思いをしてきたと……」
表情は全く変わらないのに、何故だか悲しそうな顔で見上げてくるものだから。肩を震わせながらゴブレットに詰められていたエネルゴンを机にばらまいてやる。
「すまん。あまりに間抜けだったから、つい。さっさと食え。でかくならんと潰してしまいかねん」
「君がくれなかったんだろう?」
ムス、と拗ねたような顔をしてエネルゴンに齧りつく。変わらない表情でも随分と感情が読めるようになったものだ。
「忙しかったのか?」
「そうだな。完成間近の兵器に、オートボットが勘付いたせいで寝る暇も無かった」
「…………」
エネルゴンに齧りつきながら首を傾げるように身体を傾けるオプティマスに、ため息交じりに答えてやる。対応に追われて参謀共々休む暇も無かった。
「ダミーも用意していたはずなんだが、何処から情報が漏れたのか。……スパイがいるやもしれんな」
「仲間を疑うのは良くない。ここはオートボットが優秀だったと素直に認めたらどうだ?」
「サウンドウェーブが守っていた情報だ。オートボットには手が出せん」
「むぅ……。まあよかったじゃないか。その様子じゃ兵器は未完成のままか、完成できなくなったのだろう」
情報戦に於いてオートボットにサウンドウェーブのセキュリティを突破できる通信兵が居るとは思えない。となれば情報の入手経路は限られてくる。あの兵器廠に配備していた兵士のリストを作らせるべきか。
考えていればオプティマスがふざけた戯言を抜かし出す。一体あの兵器にどれほどの予算と時間を掛けていたと思っているのか。
「良くない。未完成のまま、必要な資源は失われた。集めるのにまた時間がかかる」
「使われなくなったのだから、良い事なのだろう。察するに、それが完成してしまったらまた多くの仲間が傷ついてしまうのではないか」
「オートボットを殺すための兵器だった」
事あるごとにオートボットとディセプティコンを『仲間』の一言でまとめてくる。そちらの世界の事情は知らないが、敵を殺すのに躊躇する必要が何処にあると言うのだろう。
「戦わないのは良いことだ」
「俺は良くない」
平行線の会話はいつも通り。以前はうるさい口を塞ぐために潰していたが、最近ではこのやり取りも気晴らしになってしまう程慣れてしまった。口うるさく「戦わない方が良い」と言ってくるのには辟易するが、それさえ無視してしまえば、ここまで気軽な話し相手という存在もいないだろう。
部下や参謀達の前でこんな愚痴など零せないし、気の抜けた姿など見られるわけにはいかない。何故なら自分は『破壊大帝』であり『メガトロン』なのだから。
唯一の休息場所が、ここだった。
「数日も経てばまた暫く空ける。エネルゴンは置いて行ってやる」
「戦争か?」
「外に出たいなら通気口から出ろ。表を歩かれると迷惑だ」
「戦わない方が良いぞ」
「うるさい」
慣れたとはいえ小言にもそろそろうんざりしてしまって、いつの間にか膨らんでいたそれを持ってリチャージスラブに寝そべった。そうすればオプティマスも漸く口を閉じる。以前は眠る時もやかましかったが、口を鷲掴みにして黙らせていたのが効いたらしい。
煩いこいつを処分せずに置いておく理由など、寝心地が良くなることしかないのだから。枕は枕らしくしてもらわねば困るというものだろう。
■
期待していた兵器が駄目になったのなら、次の手を打つしかない。物資も奪われているとくればまずは奪われた物資の奪還。戦力増強が見込めなかった分、相手の戦力を削らねばならない。
各地に点在するオートボットの拠点への同時襲撃。
作戦決行日が近づくと部屋が騒がしくなる。
「本当に行くのか?」「皆傷ついてしまう」「戦わない方が良いぞ」「作戦は変えられないのか」など、聞くに堪えない綺麗ごとを並べだす。
出撃前には殊更うるさく喚いて作戦の最終確認すら邪魔をしてくるものだから。
「ん? おい、何をする?」
データパッドの上に陣取り邪魔をするそれを掴み上げ、データパッドを回収すると扉に向かう。
「ほわ、放せ! 放すんだメガトロン!! 話をしよう!! 戦いはいけない! 戦わないの方が良いと言ってるだろう!!」
短い手足をじたばたと暴れさせるが、当然のように届かない。扉の前までくると一度部屋を振り返り、未だやかましいそれを一番遠い壁に向かって思い切り投げつける。
「ほわあああああああああああああああああっ!?」
勢いよく飛んで行ったそれが壁に叩きつけられるより前に、悲鳴を背に部屋を後にした。
■
べちん、と音を立てて壁と無理やりキスをさせられて、ずるずると地面に落ちたオプティマスは、強打した顔面を短い手でさすりながら立ち上がる。
振り返れば、既に彼は部屋を出た後で扉も締め切られている。
「戦えば、傷つくのはお前自身なのだぞ、メガトロン……」
どうやら自分たちよりも随分と若いらしいメガトロンに、オプティマスは変わらぬ微笑を浮かべて俯いた。彼らがそれを理解するには、まだ時間が必要らしい。自分たちのように諦観にも似た達観に至るには若すぎる。
仕方ないかと諦めて、とりあえず腹ごしらえでもしようかと思い至ってテーブルを見上げ、言葉を失くした。
「……む。しまった。これでは机に登れないぞ……」
今のでエネルギーを随分使ってしまったから、縮んだ体長ではテーブルに届かない。
数日かけてなんとかエネルゴンにありつけたオプティマスが補給していると、外から乱暴な足音が近づいてくる。踵が床を削る程の勢いで、扉が開き切るのも待たずに入ってきた彼は補給中のオプティマスの頭を鷲掴みリチャージスラブに投げ捨てると、自身もそのままスラブに転がりオプティマスを抱き寄せ顔を埋める。
「おかえり」
「…………」
声を掛けても返事はない。
良く見れば彼の身体は隅々まで磨かれている。右腕なんて新品同然。全身リペアをしてきたのだろう。
それはつまり、それだけ激しく戦ったと言うことで。
それだけの損傷を負ったと言うことで。
この荒れようも見れば、相手が誰だったのかなんて察せない馬鹿はいないだろう。
だから言ったのに。
「戦わない方が良いだろう?」
「…………うるさい」
潰れる程の力で抱えられて、震える声で抗議するのもいつものことだ。それでも以前はこんな姿を見せようとはしてこなかったから、随分と心を許してくれたらしい。そちらのオプティマス相手にもこうして本音を吐き出してやればいいのに。
短い腕を伸ばし、彼のヘルメットを撫でてやる。
泣くくらいならやめてしまえばいいのに。
「それでも戦いはやめないのか?」
「後には戻らない。立ち止まらない。進むと決めた」
「そう言うところは、私の知るメガトロンと一緒だな」
返ってきた返答は予想通り。顔は埋めたまま、それでも先ほどとは違い意思の強い声ではっきりと答えてくる。若いと言っても『メガトロン』だ。簡単に止まる彼じゃない。
そのままふて寝してしまった彼の頭を撫でながら、どうするべきかと考える。このままではきっと彼はいつか壊れてしまう。それを知って見ているだけと言うのも忍びない。
『オプティマス』でダメなら、同じ『メガトロン』であれば言葉も届くのだろうか。
そう言えば、良く知っている方のメガトロンは何処に居るのだろう。
共にこの世界に迷い込んで来たところまでは覚えているのだが。この世界のサイバトロン星の原生生物らしい機械生命体に追いかけられて逸れてそれっきりだった。
無事でいてくれれば良いのだが。
──オプティマスが案じている一方で、メガトロンの方はと言えば。オートボットの本拠地にて、こちらの世界のオプティマスの部屋に同じく居候していた。
オプティマスとめがさん
「ただいま。遅くなりました、めがさん」
「遅い! 貴様、わしをこんなところに閉じ込めるなど許さんぞ!!」
「はは、すみません……」
部屋に帰ってきた途端怒られて、オプティマスは苦笑する。こうして誰かに怒られるなんて経験、久しぶり過ぎて懐かしさすら感じてしまう。
テーブルに置いていたゲージから小さい手足をばたつかせる柔らかい生き物を抱き上げて、持ってきたエネルゴンを与えれば怒りながらも補給し始める姿に目を細める。
どこかメガトロンに似ているこの生き物がやってきたのは随分と前の事。
オプティマスの部屋で行き倒れていたところを見つけ、物は試しにエネルゴンを与えてみたら元気になった。自らを『メガトロン』と名乗るそれに興味を惹かれて──何より触り心地が最高に良かったものだから──こうして部屋に匿っている。
なにやら自分たちより随分年上らしく、更に彼らの世界では戦わない道を選んだという驚愕から敬意を払って接しているのだが、見た目のせいかどうにも可愛らしくて癒されてしまう。
「俺が居ない間、変わりありませんでしたか?」
「生憎とな。おかげで退屈で干からびるかと思ったわい」
「なら今度は暇つぶしができるものを用意します。あまり多くはないですが……」
めがさんのサイズでも使えるものは何があるだろう。小型のタブレットは……オプティマスの私物となるとオートボットの最重要機密にもアクセスできてしまうから難しいだろうか。
「……何かあったのか?」
「え?」
考え込んでいれば、めがさんは変わらぬ表情のまま、訝し気にオプティマスを見上げてくる。
気付かれないようにしていた、つもりだったのだが。はぐらかそうにも彼は既に確信している様子で、敵わないものだと苦笑してしまう。
いつの間にか大きくなっていためがさんを抱き上げて、抱え込む。最近、こうしているととても落ち着くことに気が付いてことある毎に彼に甘えてしまう癖がついてしまった。彼の前ではオプティマス・プライムで居る必要がないから──何せ彼はもっとプライムに相応しいオプティマスを知っているのだし、彼が言うオプティマスは自分でない別の誰かだ──だからだろうか。
エリータやビーにも零せない弱音を、彼の前では素直に口にすることができた。
「ディー……いや、メガトロンに、会ったんだ。戦場で、俺が先に見つけて……」
同胞に向けられたカノン砲に、横合いから割り込んで止めればあとはいつもの通り。互いに互いしか見えなくなって、それでも会話をする余裕なんてどこにもなくて。
握った拳を叩き込んだのは、さてどちらが先だっただろう。
互いに大きく破損して、自軍の被害も無視ができない物になったのでほぼ同時に退却を命じていた。
以前、彼らの兵器廠を襲撃した時の報復にディセプティコンによる襲撃が行われるのは予測できていた。各地の拠点に兵士を配備し、迎え撃つ準備は万端ではあったのだが、まさか自分が守っていた拠点にメガトロンが来るとは思わなかった。
向こうも同じだったのか、オプティマスを見た途端、彼の赤いオプティックは大きく見開かれていた。
彼が驚いていたところを見たのは久々だ。
特徴的な形のオプティックが、小さく音を立てて回転して、ほんの一瞬、僅かに光が弱くなる。
その表情が、いつか見た彼と重なってしまった。
ブレインに焼き付いて離れない、あの日の光景を強く思い出す。
「最近、思うことがあるんだ。あの時、先にディーを裏切ったのは俺の方だったんじゃないかって。ディーが泣いてたのに、俺は気付けなくて、突き放して、守ってやるって言ったのに……ディーが傷付いてることに気付いてやれなかった……」
その結果、こうなった。
彼は憎悪と嚇怒に塗り替えられて、『メガトロン』を名乗りディセプティコンを率いて、多くの同胞を手に掛けるようになってしまった。既に後戻りができないところまで、お互い歩んできてしまっている。別れた道を振り返ることもできずに、歩きを止めることも許されず、ただ進み続けた結果既に二人の道は交じることがないところまで来てしまった。
それでも、それだからこそ、ふと過るのだ。
今でも、彼は泣いているんじゃないのか。
助けを、求めているんじゃないのか。
なんて。そう思っても、一度彼の手を振り払ってしまった自分が彼に手を差し伸べてやる資格があるとは思えない。
今更彼に寄り添いたいなんて、そんな都合の良い話が通るわけがない。
「自惚れるなよ、オプティマス」
「めがさん?」
気付けば随分ときつく抱きしめていためがさんから声を掛けられた。慌てて腕を緩めて、潰れてしまった身体を整えるのを手伝ってやる。
「貴様の言動一つで道を変えるわしではないわ。その小僧も、過去はどうあれ今は『メガトロン』なのだろう? ならば仮定は無意味だ、愚か者めが」
「…………」
慰めて、くれているのだろうか。
なんだか貶されているようにも、悩むだけ無駄だと一蹴されているようにも感じるが。
「そもそも、貴様戦いたくないと言うのならさっさと降伏してしまえば良いのだ。それをしないのならば、悩む必要がどこにある」
「……それは、そうだけど、でも、それはディーが……」
「そこでそいつのやり方が受け入れられんと言うのなら、どの道貴様らの道は分かれておるわ」
「…………」
身も蓋もないめがさんの言い分に、何も返せない。
センチネルの裏切りさえなければ、今でもオライオン・パックスとD-16は親友で居られたはずだ。そう思っているはずなのに、言葉にはできなかった。
どこかで、すれ違っていたのだろうか。
それとも、出会うことすらなかったのだろうか。
めがさんの言う通りだ。
もしもの話なんて考えるだけ無駄なのだろう。
こうにしか成れなかった。こう成ってしまった。
ならば過去を振り返ることに意味はない。前をみて進み続けるしかないのだろう。
その先で、いつか再び道が交わることがあるのなら。その時は、彼の手を今度こそ離さないようにしなくては。
そうすれば、いつかめがさんの世界のような平穏が訪れることだってあるかもしれない。何せ彼らは別の世界の自分たちだ。
そう決めてから、ふと疑問が浮かんだ。めがさんがメガトロンと同じであるのなら、何故彼らの道は分かれなかったのだろう。
「めがさんは、どうして戦わないことにしたんだ?」
「それが分かれば貴様らも戦いを止めるだろうな」
「……なら、暫くは無理そうか」
可愛らしい見た目に反して、自分たちとは比べようもない程の時間を重ねているめがさんはそれだけ多くのことを経験してきたのだろう。彼の中には諦めにも似た感情が混じっていた。
彼らの事情にその心情を慮ることはできても、真に理解するにはオプティマスはまだ経験も考えも浅すぎる。
今はまだ、互いに一歩も譲れないオプティマスとメガトロンでは彼らのように歩み寄ることはできないのだろう。
■
そのまま眠ってしまったオプティマスにメガトロンはため息を吐きだした。
戦いたくないと言いながら戦い続けるのはトランスフォーマーの性質 なのだろうか。
「でぃー……」
「……愚か者めが」
夢を見ているのか、それとも過去を再生しているのか。
譫言のようにかつての親友の名を繰り返すオプティマスに、仕方ない奴だとメガトロンは短い手を伸ばして頭を撫でてやる。あの鋼以上に硬く図太い精神を持ったオプティマスと同じ存在なのか疑わしくなってくる。もしかしてアレも昔はこのくらいの可愛げは持っていたのだろうか。
ふと想像してみて、気持ち悪さにすぐさま想像を打ち消した。アレは恐らく生まれつきの才能なのだろう。
聞く限り生まれてまだ100サイクルも生きていないような幼体共が、随分な重責を負わされているらしい。この世界のプライマスも碌なものではないのだろう。
この分ではこちらのメガトロンもそろそろ限界なのではなかろうか。この惨状を見せられて、放置しているのも忍びない。そろそろ自分のところのオプティマスも探してやらねばならないし、丁度良い頃合いなのかもしれない。
そうと決まれば話は早い。
オプティマスの腕から抜け出すと、余っていたエネルゴンを適当な布に包んで背負う。
「まったく、手間を掛けさせおって」
やれやれ、と呆れてため息を吐きだしながらテーブルから飛び降りた。
■
「……ぱっくす」
「────」
夢を、見ているのだろうか。
小さく呼ばれた名前にオプティマスは腹を括る。彼をこのままにするわけにもいくまい。
そろそろメガトロンを探しに行きたかったのだし、丁度良い。
起こさないように細心の注意を払って彼の枕から抜け出すと、残していたエネルゴンを包んで背負うと一度だけ振り返る。
「少しだけ待っていてくれ。大丈夫だ、私にいい考えがある」
聞こえてはいないだろうが、声を掛けるとリチャージスラブから飛び降りた。
■
むぎゅ、と通気口の柵の間に身体を押し込めて、潰れながらもなんとか通り抜ける。
エネルギーを補給したばかりの身体では少し狭いが、この先どこまで放浪する羽目になるのか分からない。出るなら今しかないだろう。通気口の中を這いながら、外を目指す。
さて、こちらの世界の自分はどんな奴なのだろう。
今でもこんなに想ってくれる親友が居るなんて、中々の果報者じゃないか。
それを知らずに戦い続ける道を選んでいるのだとすれば、説教の一つ二つはくれてやろう。
こうして始まる小さな二匹の大冒険。
起きた彼らがどれほど慌てるかも知らず、意気揚々と彼らには大きすぎる世界に足を踏み出した。