X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

1番 幸せな夢(🐍🐸)

全体公開 へびかえるひつじ 1 22 1698文字
2024-10-27 22:05:25

性癖パネルトラップ、「幸せな夢」で🐍🐸です。短いお話。全年齢です。
ネタバレは特にありません。

1番 幸せな夢(🐍🐸)

 目を開けると、眠るジャノメの顔が眼前に広がった。
 穏やかに目を閉じて、あどけない顔で寝息を立てている。解かれた長い髪が緩やかに枕とシーツに広がっていて、帰代はそっとその一束を指に絡めた。
 くるくると指に巻き付けてはすり抜ける髪で手遊みに興じていると、長い睫毛に縁取られた目蓋が震える。やがてゆっくりと開かれたその向こうから寝ぼけた黒い目が現れるのを、帰代はじっと見つめていた。
「おはよう」
 声をかけると、寝ぼけ眼を何度か瞬かせたジャノメがふわりと微笑んで「おはよう」と返してくる。その柔らかな声が帰代の耳を優しく撫で、心地よさにそっと目を細めた。
 ジャノメは長い髪を弄る帰代の手をちらりと流し見て、お返しとばかりに手を伸ばすと帰代の襟足を指で梳く。くすぐったさに帰代が身を捩れば、ジャノメは小さく笑った。
 そんな戯れを繰り返す間に、窓の外はすっかり明るくなっている。
「今日は何をしようか?」
 徐に問いかけられ、帰代は「まずは朝飯だろう?」と答えながら指先でジャノメの腹をつつく。
「うん、お腹空いたね」
「何が食いたい?」
「帰代くんのパンケーキが良いな」
 強請るように見つめられ、「わかった」と請け負った。粉も卵も牛乳もあったはずだ。
 ふわふわのパンケーキを三段重ねにして、天辺にバターをひとかけ乗せる。メープルシロップは無いが、代わりに蜂蜜をたっぷりかけてやればきっとジャノメは目を輝かせるはずだ。
「ふふ、楽しみだなぁ~」
 ジャノメが笑う。それを見て、帰代も小さく笑みを浮かべた。
 二人の体温で心地よいベッドから抜けるのは名残惜しいが、美味しい朝食のためには仕方がない。起き上がる前にと、帰代は僅かに期待しながらジャノメの方へ顔を寄せた。
 一瞬きょとんと目を瞬かせたジャノメが、やがてぱっと表情を明るくして帰代の頬へ口づけた。左右の頬に小さなリップ音を立ててから、仕上げとばかりに唇を重ねる。触れ合う皮膚から伝わる熱が、胸の奥も静かに温めてくれた。
 そろそろ起きなければと、唇を離して一度目を閉じる。

 ――――そして、帰代は目を開けた。

「っ、けほっ、こほっ」
 埃と煙の混じった火薬臭い空気が喉を逆撫でていく。擦り傷、切り傷、打ち身、銃創――身体のあちこちに負った怪我が咳き込んだ拍子に痛みを訴えてきて、きつく眉根を寄せた。
 どれくらいの間意識を飛ばしていたのか。時計を確認すれば、記憶よりも長針が半周近く進んでいた。次の作戦行動に合わせるためには、少々巻きで動く必要があるだろう。
 意識を飛ばした原因となった爆発の所為で、耳がおかしくなっていた。わんわんと響くような感覚に顔を顰め、それでも何とか聞こえることを確認して身体を起こす。
 雲と煙の立ち込める暗い夜空を、炎がオレンジ色に照らしていた。
 どこまでも平和な朝はそこにはなく、広がっているのは夜の戦場。先程までのは、考えなくとも夢だとわかる。
 とても幸せな夢だった。紛争地域で命がけの任務に身を投じている帰代の現実からは酷く遠いところにある、今は手の届かないもの。
……行くか」
 重い身体を痛む足で支え、引き摺るようにして歩き出す。
 ふわふわのパンケーキを焼くのではなく、手にした武器で血の華を咲かせるために。砂上の楼閣にある表向きは平和な国を、これからもそうであると一般市民が信じて生きていけるようにする、その礎を守るために。
――――帰ったら、材料を買っておかないとな」
 小麦粉はともかく、卵や牛乳といった生ものは買わなければ家にない。
 今は少し遠くにあるいつかの明日の予定を決め、まずは任務を終えて帰るためにと気持ちを切り替えた。


(あとがき)
 性癖パネルトラップ、1番に入っていたのは「幸せな夢」です。そこから遠いところにいればいるほど好きです。今回の🐍🐸のように戦場で見る平和の夢しかり、亡き人と共に過ごす優しい時間しかり。夢を見ている間の混じりけの無い幸福と、そこから覚めた後に胸に広がる空虚感が良くって……


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.