みずいこお題部第二十一回より「今から悪いことしよ」『コンビニ』
関西弁非ネイティブのため口調は勘頼り
@a_yuuzora
翌日の支度をしている最中、生駒はトリガーをどこかで失くしたことに気付いた。出した覚えはないのに、いつもトリガーを入れているポケットの中にない。
機密情報の塊を紛失したことにサッと青ざめたが、作戦室を出る直前に確かに入れたことを思いだし、ひとまず安心する。
確かその後はボーダーの敷地内を歩いて寮に向かい、一旦水上の部屋に上がって少し喋ってから自分の部屋に戻った。水上の部屋で上着を脱いだからそのときにポケットから落ちたのだろう。もしそうでなくても敷地内にはあるはずだ。外で紛失するより百倍マシである。
ちらりと見た時計は二十三時を指そうとしている。生駒はそろそろ寝る時間だが水上はまだ起きているだろう。明日の朝取りに行くより今行ってしまったほうがいいだろうと判断して、隣の部屋に突撃することにした。
「イコさんさっきぶりです、何かありました?」
「さっき忘れもんしたっぽくてな」
「え、なんやろ。探してっていいですよ」
「そうさしてもらうわ。……なあ、めっちゃええ匂いせえへん? ええ匂いっちゅーか腹減る匂いっちゅーか」
「ああ、今飯食ってて」
水上に招かれて、生駒は部屋に上がりこむ。入ってすぐ見えるリビングのど真ん中、シンプルな卓袱台の上に大きなカップ麺が鎮座していて、生駒はきゃあと乙女の様な悲鳴を上げた。
「お、お前なんちゅうもんをこんな時間に食っとんねん! それ、罪の味ってやつやろ!」
「罪の味? 人の不幸はってやつですか」
「何の話!?」
「……ああ、あれは罪やなくて蜜の味やったか。あかんな、頭回ってへんわ」
カロリーが足らんねん、と呟きながら水上は座布団に座り食事を再開する。水上の家なので家主が何をしようと勝手ではあるが、ふわりと漂う醤油とごま油の匂いが暴力的なまでに空腹感を刺激する。もう夕飯は済ませているのに。せめて見ないように生駒は両手で顔を覆った。
「深夜にカップ麺とか……絶対美味いけど絶対あかんやつやん」
「食いたいもんを食いたいタイミングで食うのが一番美味いでしょ」
「それはほんまにそうなんやけど……身体に悪いやろ」
「夜勤の方がよっぽど身体に悪いんで今更やないです?」
「いやほんといちいちごもっとも過ぎる。でも深夜に飯食うと太るって……あれはもしかして都市伝説か」
生駒は水上の体を上から下まで眺める。どう見ても太ってるようには見えない。肩や腕が骨ばっているのは服の上からでもわかるし、腹が「ちゃんと内臓入っとる?」と思うくらい薄いことも知っている。摂取したカロリーはその優秀な頭脳か、まだ伸びる余地があるかもしれない身長にでもいくのだろうか。
「都市伝説かどうかは知りませんけど、俺の体型はご存じの通りっすね」
「ほんまにな。背え高くてスレンダーで羨ましいわ。俺なんてこないだ体重計ったらまた体重増えててん」
「それ太った思っとるんやったらシックスパックを脂肪に埋没させてから言うてくださいね。筋肉の厚みも太さもそろそろトリオン体のサイズから乖離してきとるんすよ」
「え、ほんま? 今度スキャンし直してもらお」
「そうしてもらってください。ところでイコさん、忘れ物は大丈夫なんすか」
「ああそれは最初に見つかっとんねん」
生駒はのそのそと卓袱台に近づいてその足元にあるトリガーを拾う。
「それイコさんのトリガーかい。俺いつの間にそこ置いとったっけって思ってたとこです」
「水上のはケツポッケに入っとるのが見えとるな」
「あ、ほんまや」
香しいカップ麺から距離をとろうと後退りする生駒に、水上は片頬を吊り上げて笑って悪魔の提案をする。
「ところでイコさん」
「水上がそういう顔しとるときはなんか悪いこと考えてんねん、知っとるんやぞ」
「俺今日コンビニでこれとおんなじのをストックしたばっかなんで、キッチンにまだあるんですよ」
「聞かん、聞かんぞ俺は」
「今から一緒に、イコさんの言う『悪い』ことしません?」
すると生駒が口でNOを言うまえに、腹の虫がぐうと返事をした。簡単に誘惑に屈したその音に、生駒はその場でべちょりと伏せる。
「んふふ、身体は正直っすねえ」
「……ちょっとえろい言い方すんのやめえ」
「お、飯食ったあとは夜の運動していくのもご希望ですか」
「せえへんわ! 明日朝から授業あんねん!」
思い切り不本意という顔で下唇を突き出しながら、生駒はむくりと起き上がり来客用の座布団をひっぱって水上の向かいに座る。表情とは裏腹に観念した生駒の姿が面白くてけらけらと笑いながら、水上はもうひとつのカップ麺を用意しにキッチンに向かった。