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4番 吐血(カルみと)

全体公開 白宮タカヒロVOID 9 35 3743文字
2024-10-28 12:43:01

性癖パネルトラップ、「吐血」でカルみとです。吐血するのは先輩。全年齢。
ネタバレは特にありません。

4番 吐血(カルみと)

 窮屈な首元に無意識に手が伸び、ネクタイに触れる。今の状況で寛げるわけにはいかないと思い出して、縞斑はそっと手を下ろした。
 慣れない盛装に身を包んで参加しているのは、多くの企業や団体が参加している非公式のパーティーだ。最近縞斑や神無たちが追っている違法改造VOID事件に関わっていると見られる人間の参加が噂されており、潜入捜査と相成ったのだ。
「先輩、新しい参加者が到着したみたい」
 組んだ腕を軽く引き、共に潜入にあたっている神無が囁いた。
 今夜の彼は黒のマーメイドドレスに身を包み、ウィッグや化粧によって実年齢より大人びた女性へと変貌している。パーティーに潜入するのなら男女のペアの方が目立たないだろうという意図での女装だったのだが、無駄に気合を入れた所為で絶世の美女が出来上がってしまっていた。
 参加者の男たちからの視線を集めるパートナーに内心溜息を吐きつつ、縞斑は「わかった、見に行ってみよう」と同じく囁き声で答える。慣れないであろうヒールを履いた神無をエスコートしつつ、会場の出入口へと足を向けた。
 さっそく顔見知りの参加者と挨拶を交わしているらしい人間がターゲットではないことを確認し、縞斑たちは再び通行の邪魔にならないあたりを見つけて移動する。
「アサギリちゃん、会場周辺に動きはある?」
 髪を整える振りをして、ピアスに偽装した通信機を使う。
『次々と参加者の車が到着していますよ。不審な点はありません』
「了解、引き続き頼むよ。何かあったら連絡して」
『わかりました』
 短いやり取りを終えた縞斑を、神無がちらりと見上げた。小さく頷いて問題ない旨を伝えれば、瞬きで返事をして神無は会場へと視線を戻す。
 時折話しかけてくる参加者を笑顔と話術で躱しつつ、二人は標的が来るのを待ち続けた。そして、遂に目をつけていた人間が会場に姿を現した。
「先輩、あいつだ」
「わかってる」
 飲み物を取りに行くと見せかけ、縞斑が神無から離れた。
 神無は他の参加者を避けるふりで不自然にならないように歩を進め、ターゲットとすれ違う瞬間――――
「あっ」
 神無が躓き、ターゲットである男に寄りかかった。
 男は「おっと」と神無を受け止めて、その相手が美女であることに気付き顔を綻ばせる。
「大丈夫でしたか?」
「は、はい……すみません」
 眉を下げて謝る神無に、男は「どうってことないですよ」と微笑みかけた。
 そこへ、グラスを持った縞斑が歩み寄る。
「パートナーが失礼しました。貴方は確か、あの有名な○○社の副会長では?」
 絶世の美女をパートナーにしている男へやっかみ交じりの視線を向けたターゲットだったが、縞斑が「××社の島田と申します。お会いできて光栄です」と手を差し出せば気を良くしたようで握手に応じた。
「君たちのように若い人間に知られているとは、嬉しいね。パーティーは久し振りだが、たまには悪くない」
「貴方ほどの方なら、出席して欲しいと願う主催者も多いでしょうに」
「はは、もう年だからね。招かれるパーティー全部に参加していては身体が持たん」
 楽しそうに笑ったターゲットが、ボーイを呼び止めてグラスを二つ手に取る。その片方を、縞斑の隣で静かに会話を聞いていた神無へと差し出した。
「美しいお嬢さんへ、お近づきの印だ」
 戸惑いながらも「どうも」と受け取った神無が、窺うように縞斑を見やる。
 神無は酒に弱い。飲むべきではないが、とはいえここで断ったり口をつけないままでいたりするとターゲットの気分を害して、情報を引き出す妨げになる可能性がある。
 仕方がないなと、縞斑はそのグラスを自身の持っていたノンアルコールのものと取り換えた。
「お心遣いは嬉しいですが、私は彼女にぞっこんなんです。貴方からのグラスは私が代わりに頂きます」
「おお、これはすまなかった。確かにこれほどの美人を連れていては、気が気ではないだろう」
 幸いターゲットはさほど気にした様子もなく、悋気を覗かせた縞斑を揶揄うように笑い飛ばした。
 上手く躱せたところで、さてこれからどういう話をして情報を引き出すかと考えながらグラスに口をつけ――瞬間、アルコールではない熱が喉を焼く感覚に目を見開く。

「うっ!?」

 縞斑が咄嗟に口を押える。手を離れたグラスが床に転がり、零れたロゼが小さな水溜まりを作った。
「先輩!?」
「君、どうしたんだ!?」
 神無とターゲットが揃って驚き声を上げる。
 返事の代わりに、縞斑の口から出たのは湿った重い咳だった。
「ごほっ」
 込み上げたものが咳をした拍子に指の間から溢れ滴り落ちる。ロゼ色の水溜まりが、より鮮烈な赤色へと変わった。
「先輩っ!?」
『マスター、何か起きたのですか?』
 ふらついた縞斑を支えながら、神無が必死に呼びかける。耳元ではバイタルの異常を察知したらしいアサギリの声がした。
 応えてやりたいのは山々だが、込み上げてくる鉄錆の味がそれを許さない。
 慌てた様子のターゲットが「医者を! それから救急車だ!」と声を上げている。その様子を見るに、どうやら毒を盛ったのは彼ではなさそうだ。道理で自身の危機感が働かなかったわけだ。
「ディーノ! 先輩が血を吐いて、たぶん毒で、何とかしないと……!」
 神無がイヤリングに偽装した通信機で自身の相棒に救援要請を送っている。
 身分を詐称している以上、救急搬送されるわけにはいかない。何とか会場を出て、アサギリたちに回収してもらわなければ。
 半ばパニックになりかけている神無に強い視線を向ければ、はっとした様子でルージュに彩られた唇を引き結んで頷いた。
「すみません! 外で待ちますので通してください!」
 ボーイが焦りながらも「こちらへ!」と人ごみを捌いて誘導してくれる。会場の外に出られれば、ドロ課の車が待機しているはずだ。
 神無の肩を借りた縞斑は、遠のきそうになる意識を気合で繋ぎ止めつつ足を動かした。


「結局、あの毒は例の副会長を狙ってのものだった、と……盛った側の詰めが甘過ぎた所為で酷いとばっちりだ」
 会場を脱出後、胃洗浄やら何やらで無事命を繋いだ縞斑は、自室を訪れた神無から事のあらましを聞いて溜息を吐いた。
 どうやらターゲットと繋がっていた組織が公安に目をつけられたことを察し、捜査の手が入る前にターゲットを亡き者にしようと画策したらしい。思い出してみればボーイが毒入りの酒を手渡した相手はターゲットであり、それがたまたま神無へ、そして縞斑へと渡って行ったのだ。
「あいつは命を狙われたことに気付いて公安に保護を求めてきて、色々組織の情報を吐いてるところ」
「それは重畳。怪我の功名ってやつかな?」
 そんなことを言った縞斑を神無の鋭い視線が射貫く。
「死にかけといて何言ってるんだ。あんな、血を吐いて、苦しそうで――――先輩が死んだらどうしようって、俺……っ」
 その目に涙の膜が張っていることに気付き、縞斑は「ごめん」と神無を優しく抱き寄せた。
「怖い思いをさせて悪かったよ」
「本当に、怖かったんだからな?」
「うん、ごめん。でも、神無ちゃんがあれを飲まなくて良かったよ」
 まだ言うかと睨み上げてくる神無を抱き締めたまま、縞斑は苦笑する。
「悪いけど本気だ。俺の方が身体が大きい分毒の許容量も多いし、昔ちょっと馴らしてたから少しなら耐性もある。でも神無ちゃんが飲んでたら助からなかったかもしれない」
 もし毒を飲んで血を吐いたのが神無だったらと思うとぞっとする。この腕の中にある温もりが失われていたかもしれないのだ。
 同じ恐怖を味わわせてしまった申し訳なさはあるが、それ以上に安堵の気持ちが強い。
「先輩の馬鹿。毒飲んで良かったって言ってたってアサギリにチクってやる」
「悪意のある切り取り方はやめて。めちゃくちゃ文句言われるやつだからそれ」
 すでにもっと上手く対処できたのではと散々アサギリに言われた後なのだ。勿論それが縞斑に対する心配やマスターを失う不安から来ていることはわかっているが、淡々と続く説教は心身共に堪える。
「もっと叱られて反省すればいいんだ、ばーか。先輩の大馬鹿野郎」
 ぐりぐりと額を縞斑の肩口に押し付けながら、神無はご自慢のIQをどこかに落としてきたのではと疑うような幼稚な言葉で罵った。その背をぽんぽんと叩きながら、「はいはい、馬鹿でいいからアサギリちゃんに妙なこと言わないでね?」と宥める。

 どうやら毒殺未遂の影響は予想より大きかったらしく、その後しばらくの間、神無やアサギリによって外食が著しく制限された。
 愛されているのは嬉しいが、好物のジャンクフードに中々ありつけずに内心ちょっと涙した縞斑だった。


(あとがき)
 性癖パネルトラップ、4番に入っていたのは「吐血」でした。カルみとで今回はだらだら先輩に血を吐いてもらいました。想像すると似合い過ぎてて、むしろ絵で見たい。手で押さえるけどそれだけじゃ隠し切れずに、溢れた血が滴る様ってめちゃくちゃいいですよね……


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