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10月31日 0:00

全体公開 神無三十一受け 5 40 3017文字
2024-10-31 00:00:00

神無さん誕生日記念 前夜
カルみと シナリオネタバレあり

 

 「明日、デートしない?」

 スピーカー越しに聞こえた縞斑の声は、コンビニにでも行くようなありふれたものだった。
 思わずスマートフォンを持ったままその場に硬直した神無は、ぱちぱちと目を瞬いて彼の言葉の意味を時間を掛けて飲み込む。

 「……えっ、いいの?」
 「だって神無ちゃん、明日公休でしょ?」
 「いや……まぁそりゃそうなんだけど、」

 明日は10月31日、神無の誕生日だ。
 神無本人が特に希望を出したわけではないが、青木が気を遣ってくれたらしく当日は公休の予定になっていた。
 先週の時点で縞斑には公休の旨を伝えていたが、その時には会う予定を決めただけで何をするかまでは決めていなかったのだ。

 「いつも先輩、家でいいじゃんって言うから……てっきり明日もそうだと思ってた」
 「あーまぁその、誕生日くらいはね」

 職業柄かその性格かは定かではないが、人混みが苦手らしい縞斑は基本的に互いの家やスパローのアジトで会うことを好んでいる。
 神無も特にそんな縞斑に不満はなかったが、外で待ち合わせをして出掛けるという世間一般で言う王道デートへの憧れがないわけではない。
 どんな風の吹き回しだと意外さを隠さずに首を傾げれば、通話越しの縞斑は少しだけ気まずそうに言葉を濁らせながら話を続けた。

 「ほら、前に行きたいって言ってたカフェのアフタヌーンティー、明日まで栗とかぼちゃでしょ?あそこに行こうよ」
 「いいの?!?」

 縞斑の提案に食い気味に飛びついた神無は、随分前に縞斑に件のカフェに行きたいとぼやいたことを思い出す。
 雑誌を見ている中で見つけたそのカフェでは、季節ごとにアフタヌーンティーのメニューを変えて提供しているのだ。
 神無が目をつけていたのは栗とかぼちゃを使ったスイーツを扱うメニューだったが、仕事がばたついて行く時間をなかなか確保できず、今年は諦めようと考えていた矢先のことだった。

 「もちろん、誕生日だもんね」
 「ひぇ誕生日最強じゃん……今なら何頼んでもだらだら先輩聞いてくれそう」
 「あはは。内容にもよるけど、他に行きたいところがあれば連れてくよ」

 誕生日の特権に感動する神無を笑った縞斑は、その後の予定を決めるように首を傾げる。
 わざわざ外で会ったのに、アフタヌーンティーを飲んで解散ではあまりに寂しいのではないか。
 そう考えた神無だが、いざ好きな場所に行ってもいいと言われると咄嗟には思いつかない。縞斑の職業柄、人の集まる場所は極力避けなければならないとなれば尚のことだ。
 
 「……パッと思いつかないかも」
 「わかった、じゃあこっちで考えておく。次の日の仕事は平気?」
 「んー……非番だから呼ばれたら行かなきゃだけど…………

 非番の日は緊急の呼び出しがあれば出勤しなければならない。日勤の勤務時間中は連絡を受け取って動ける状態でいなければならないが、ひとり部屋で待機することが寂しいとは言い出せず神無は口ごもる。
 そんな彼の迷いを汲み取った縞斑は小さく笑うと、呆れることなく穏やかな声色で言葉を続けた。

 「そのあたりも考えとくよ。都内からは絶対に出ないからさ」
 「……ありがと」

 呼び出しさえなければ休日とほとんど変わらない非番の過ごし方に悩む神無の気持ちがよく分かる縞斑は、そう言って翌日の予定を確保すると何気なく部屋の時計を見上げる。
 彼の視線の先で、壁掛け時計の短針がかちりとてっぺんを差した。同時に神無の手の中のスマートフォンが通知を受け取って震え始める。
  
 「誕生日おめでとう、神無ちゃん」
 「うん!ありがとうだらだら先輩!」
 「本当は直接会って伝えたかったんだけどなー……

 言いながら縞斑は、机の上に広がる書類を睨みつけてため息を吐いた。
 現在縞斑は、明日の自由時間を確保するために前倒しで仕事をこなしている。
 不在の間臨時でリーダーを務めるアサギリの出した条件は、それまで溜め込んでいた仕事を全て終わらせることだったらしい。
 心底悔しそうに不貞腐れる縞斑の声を聞いて、神無はくすくすと笑いながら口を開く。

 「ううん、明日一日一緒にいてくれるだけでうれしいし幸せだよ」
 「……それならよかった」

 神無を静かな家にひとりにすることを心配していたらしい縞斑は、それを聞いて僅かに安堵した様子で息を吐いた。
 椅子に座り直した彼は改めて積み上げられた書類を見上げる。
 帰還後でも間に合う仕事はアサギリが弾いてくれたらしく、これから本気を出せば睡眠時間を確保できる程度の残量だ。
 手元のコーヒーを飲み干した縞斑は、一度凝り固まった体を伸ばすとスマートフォンに声を掛ける。

 「じゃあ、また明日ね。アサギリちゃんに呼び戻されないように俺も今から頑張るよ」
 「あはは!うん、頑張って!」
 「おやすみ神無ちゃん。寝坊しないでよ?」
 「大天才の俺がそんなことするわけないだろー?」

 ベッドに腰掛けた神無が胸を張れば、笑った縞斑は別れを告げて通話を終了させた。
 暗い画面をしばらく眺めていた神無は、やがて実感の湧いた様子でぷるぷると肩を震わせると顔を真っ赤に染める。

 「明日……デート?!外で、先輩と……えっ先輩と!?外でデート!?!?」
 
 自身の発言に耳を疑って聞き返す程度には、冒頭の通り縞斑とふたりで外に出掛ける機会はそうそうない。
 犯罪者という立場である以上縞斑が人混みを警戒することは当然だし、神無も予期せぬタイミングでアンドロイドに遭遇する可能性のある外出は気疲れするため不満はなかった。
 付き合い始めてもそれは変わらず、互いの家やスパローのアジトで会うことが定番となっていた神無は、あらためて恋人とふたりで外出する実感が湧いてじたばたとベッドに転がる。

 「はっ!まずい!先輩の部屋に置いてる部屋着じゃダメじゃん!!服決めなきゃ!!」

 そうしてそのまま寝落ちしてしまおうかと考えた神無だったが、はっと我に帰った彼はがばりと飛び起きてクローゼットへ駆け出した。

 「うわぁああぁあわかんねぇ……何着てけばいいんだよぉ……

 中を開いた神無は吊るされた服を掻き回すと、近くの姿見に交互に当てながら頭を悩ませる。
 仕事を終えて休む気でいた彼の天才的頭脳は、突然叩き起こされたことに驚いたのか随分回転が遅い。
 そんな神無の視界の端で、ちかちかと通信の受信を知らせる通知が光った。手慣れた様子でサングラス型コンピュータを操作した神無は、恋人との電話が終わるまで待っていてくれたらしい相棒と通話を繋ぐ。
 
 「もしもし!ディーノ?!うんっ!ありがとう!!」
 「そう!そうなんだよ!だらだら先輩にデートにってなんでディーノまで知ってんの!?」
 「聞いたっていつ……あぁもういいや!そっちもあとで詳しく聞かせてもらうからなっ!!」

 聞こえる相棒の声に返事をしながら、神無は思い切ってクローゼットの中身をベッドの上に広げた。

 「たすけて!服決めるの手伝って!!」

 カメラ機能を起動して通話越しのディーノに部屋の様子を映した神無は、なぜか縞斑とのデートの予定を知っている彼のことはひとまず置いておいて泣きつくことにしたのだ。




 


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