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クーリングオフを待たずして

全体公開 双六陸受け 19 74 3037文字
2024-11-02 17:26:36

👼👿
シナリオネタバレあり(通過シナリオ含む)

 

 かくして環雅の起点により、この世から消えようとしていた天使と悪魔は『恋の悩みを解決するキューピット』という新しい怪異となった。
 自分と双六陸が互いを見つめ直して歩み寄るきっかけを寄越してくれた彼らには少なからず感謝しているし、雅としては今後彼らがふたりでひとつの存在として幸せでいてくれたら良いと思っていたのだ。

 ……けれどまさか、そんな彼らが初仕事として目をつけた人間が生みの親である自分自身であるだなんて、一体誰が予想できたと言うのだろうか。

 「で、実際のところどうなんだよ。脈あんのか?」

 誰もいないリビングのソファに突っ伏して沈む雅のそばを、元悪魔が楽しげにくるくると飛び回りながらそう尋ねる。

 「……あるように見えるか?」
 「はは!ぜーんぜん!」
 「脈というか……それ以前におそらく、彼にはそういった恋愛感情に関する知識が皆無なのでしょうね……

 けらけらと笑う悪魔の隣で真剣に考え込む天使だが、考えれば考えるほど目を疑いたくなるような現状を自覚して雅は思わず頭を抱えて吼えた。

 「おかしくね!?キスまでしたのに?!一緒に住もうとか、お前が全てだとか言ってんのに!?そこまでされてなんで友愛だと思うんだよ!!俺そんな聖人じゃねぇわ!!!」
 「まぁまぁまぁ」
 「どうどうどう」

 取り乱す雅を宥めた悪魔と天使は、思った以上に拗れ倒して複雑な知恵の輪と化しているらしい彼の恋路に同情して顔を見合わせる。

 「悪魔だったときとの感情の違いに悩んでいるとはいえ、更に大元を辿れば彼も雅さんも人間でしょうに」
 「そうじゃん。その頃からお前ら好きだったんだろ?」

 フォローを入れるようにそう陸の感情を推測する手掛かりを探す彼らだが、雅は頭を抱えたまま唸るとソファの背をぼすりと叩いて呻き声を上げた。

 「……いや、あの頃もぶっちゃけりっくんに恋愛感情があったか正直分からない」
 「ええと……誕生日に遊園地に行くような仲で、ですか?」
 「うん」
 「……自分を庇って死んだやつのこと、人間やめてまで生き返らせようとしたのにかよ?」
 「残念なことに、そう」

 部屋に沈黙が流れる。
 雅の恋路が拗れた原因は、おそらく彼の仄暗く想定の数倍重たい感情が全てではなく、陸の脅威の鈍感さも十二分にあるのだろう。
 しばらく顔を見合わせていた二人だったが、やがて元悪魔の男がぽきぽきと拳を鳴らしながらゆらりと立ち上がった。

 「あーもう!じれってぇな!!おい雅!俺に体貸せよ!!いますぐ陸との既成事実作って速攻で解決し、へぶっ?!?」
 「ばかっ!誰もがそれでどうにかなると思わないでください!!」

 ばしりと悪魔の頭を引っ叩いた天使が叱れば、頭を押さえて唸った悪魔が不満げに唇を尖らせる。

 「なんだよー、現にお前はそれで俺のこと意識しただろ?」
 「それはあくまで結果論ですし……そもそも!私はその前からあなたのことを意識してましたからね?!流されたみたいに言わないでください!!」
 「お、おぉ……

 天使の主張に悪魔が照れ臭そうに視線を逸らし、自身の発言を自覚した天使もぽっと顔を赤らめて俯いた。

 「あのー俺の恋路そっちのけで痴話喧嘩しないでもらえますー?」

 頭上でなんともいえない微妙な空気を展開する彼らを見上げた雅は、面倒くさそうに頭を掻きながら苦情の声を上げる。
 その声と同時に、かちゃりとリビングの扉が音を立てて開かれた。

 「……雅?何話してるんだ?」
 「あ、りっくんえっと、これは……その、独り言独り言!今スマホで動画見てたから!!」
 「ふーん……?」

 部屋に顔を出して首を傾げた陸は不思議そうに部屋の中を見回すが、室内には雅の言う通り彼しかいない。
 どうやらキューピットである天使と悪魔は手を貸している人間にしかその姿や声が分からないらしく、彼らは未だふよふよと雅の周りに浮いたまま陸の様子を伺っている。
 手の中のスマートフォンを見せてどうにか誤魔化した雅は、そんなことより、という言葉でこの話題を切り上げるとソファから立って陸へ歩み寄る。

 「どしたの?もう寝たと思ってた」
 「いや……ええとあの、」
 「ん?」

 おろおろと言葉を探して視線を彷徨わせる陸の前に腰を折って顔を覗き込めば、不安げに眉を寄せた陸は意を決した様子で雅の服の裾を掴んで口を開いた。

 「……おれたち、一ヶ月も一緒に寝てただろ?」
 「うん」
 「いざ部屋が別れて寝てみたら、その……ひとりで寝るのが急に落ち着かなくて」
 「うん?うん」
 「えっと要するに……雅がもしよければ、一緒に寝てほしいなと思って……ほんとによければだけど
 「…………、」

 室内に沈黙が訪れる。

 「抱けーーーーっ!!!!!」

 否、雅の視点では悪魔が大暴れをしていたため、沈黙なんてものは微塵もなかった。

 「え、ちょ、悪魔?!」
 「友情なんてちょっと上手く水あげれば愛情に変わるだろ!!!!このままキスしろ!!!押し倒せ!!!!そんで抱け!!!!!なぁ男見せろよ環雅ぃ!!!!!」

 「あー!!うるせぇ!!!」

 思わず騒ぐ悪魔に怒鳴ってしまった雅は、自分にしかこの声は聞こえないのだと我に返る。
 慌てて視線を下げれば、急に怒鳴られたことに驚いたのか目を丸くしていた陸がみるみる泣きそうに表情を歪ませていた。

 「ぁえっと、ごめん……おれ、その
 「ち、ちがうちがうちがう!!今のりっくんに言ったわけじゃないから!!!」
 「でも……やっぱめいわく、」
 「じゃないじゃない!!迷惑だとか微塵も思わないから!!俺もちょうどりっくんと一緒に寝たかったし!!!」

 目に涙を滲ませて扉を閉めようとした陸を引き止めた雅は、慌ててそんな彼を抱きしめて頭や背を撫でてやりながら言い聞かせる。

 「驚かせてごめんな、俺もちょっと疲れてんのかも。そろそろ寝よう」
 「……うん」

 雅の腕の中でしばらく鼻を啜っていた陸は、やがて納得してくれた様子でこくりと頷いた。
 どうにか誤魔化したことに安堵した雅は、陸の手を引いて歩き出す。
 入ってきたら殺す、と悪魔たちに目配せをした雅が寝室へ背を向ける姿を見送ると、ようやく天使は悪魔の口を塞いでいた両手を離した。

 「ぷはぁっ……難しいなー人間の恋って」
 「今あなたが更に難しくするところだったんですけど……?」

 恋の応援はしたいが、今は悪魔の失態もあるため雅の意思を優先して大人しくしておこう。
 そう考えた天使がふと顔を上げると、今まさに寝室の扉が閉まる直前だった。
 扉の隙間から手を引かれた陸の姿が一瞬見える。俯いて頬を赤らめるその姿に、天使がおやと小さく声を上げた。

 「……案外、そうでもないかもしれませんよ」
 「あ?なんで?」
 「私の都合の良い見間違いでなければ、初仕事は思ったより早く終わるかもしれないということです」

 そう笑った天使は、閉まる扉の先に思いを馳せて温かく見守っている。
 隣の悪魔は疑問こそ募ったものの、そんな彼の穏やかな横顔を眺めているうちに扉の向こうの彼らのことなどすっかり忘れてしまった。

 「お前この姿になっても顔良いよなぁ」
 「真面目に仕事してくれます?」




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