@7amaTama
唇をそっと指でなぞられて、凪はゲーム画面から視線を外した。株価のチェックは終わったのか、端正な顔が微笑みを浮かべて凪を見下ろしている。膝の上に乗った猫でも見るみたいな目だ。実際凪は玲王の太腿を枕代わりにしているのだけれど。
「口、開けて」
理由を説明することもなく、玲王はそれっきり言葉を重ねず凪の下唇をふにふに触った。説明しなくても言うことを聞いてもらえると思っている。傲慢だ。
まあべつにいいんだけど。
薄く口を開くと、すぐに玲王の指が侵入してきた。逃げる意思もない舌を捕まえられて、外に引っ張り出される。
「ベロ短くてかわいーな」
なにそれ。俺、バカにされてる?
玲王は長さを確かめるように凪の舌を軽く引っ張った後、口の中にそれを戻した。元の位置に収まった舌の表面が人差し指ですりすり撫でられる。
「ん、」
とろ、と背骨が溶け出すような感覚。
唾液を塗りつけるように広げられて、舌が愛玩されるための場所に変わっていく。ほんの少ししか開けていなかったはずの口は、いつの間にか玲王に触ってもらいやすいような大きさに開かれていた。
「結構奥の方触っても嘔吐かないんだな」
「んぅ、ん……っ」
舌の付け根近くをとん、とん、と叩かれる。日常生活で絶対に触られることのないところを触られて、身体が強張っていた。気持ちいいと気持ちよくないの間で宙ぶらりんになっている。生理的な涙がじんわりと滲んできて、視界の端がぼやけた。
「…ん、……ッんん゙、う、」
「ああごめんごめん、しんどかった?」
喉が引き攣ったのが分かったのか、指がようやく離れて浅いところへ戻ってくる。いや、しんどかったって程では。それが事実なので首をわずかに横に振ると、玲王は気分を良くしたらしい。口に入れている方とは別の手で頭を撫でてくる。奥を弄るのがやめられて、無意識に速くなりかけていた呼吸がゆっくりとしたものに戻っていった。
同時に舌の表面を再び指がなぞり始めた。今度は満遍なく触れるのとは違う、不規則で変な動き方をしている。
「凪、なんて書いたか分かる?」
口から指が抜かれてにこにこそんなことを訊かれた。凪はぽやぽやする頭で先程の感触を一生懸命思い出す。
「……すき、って」
「正解〜。さすが凪!」
ご褒美、と柔らかいキスを落とされる。凪は急いで目を閉じたのだが、その必要もなかったくらいすぐに唇は離れていった。拍子抜け。思わず「ぁ、……」と名残惜しそうな声が零れてしまう。舌を入れる長いキスをされると思っていた。
「凪」
唇に触れられて、また口を開くよう促される。
小さく口を開けると指が入り込んできた。指はとろんと力の入らなくなってしまった凪の舌をくすぐると、次はゆっくり口蓋を撫で始める。腰が甘く震えた。
「んっ…、ん、ン」
「だえき。飲み込んじゃダメ」
目だけで「なんで」と訴えると、そっちの方がかわいいから。と訳の分からないことを言われる。
飲み込まなかった唾液が口の端から肌に伝った。ソファーの布地を濡らす前に玲王が指先で掬いとって、ぺろりと舐めた。そういうことするならさ、キスでもいいんじゃないの。
「はは、顔とろとろだな。口の中弄られるの気持ちいい?」
「…………」
そのいかにも得意げな顔にちょっとムッとして、凪は玲王の指に軽く歯を立てた。跡も残らないような甘噛み。玲王は少し目を丸くしたが、すぐに「もっと噛んで」なんて言って指を押し込んでくる。おそらくじゃれついていると思われている。
仕方なく凪は口を開いて受け身の姿勢に戻った。
「なぎ」
熱を孕んだ声が名前を呼んで、唇が重ねられる。どーせ触れるだけの短いキスなんでしょと思っていたら、舌が入ってきた。
こいつほんとに分からないな。
凪は理解を諦めながらも、口内を蹂躙する舌に舌を絡めて目を閉じた。