キスの日ネタとして書いた、反転ドラヒナのお話です。
時期的には、お嬢ルドくん合流前。拗れた両思い期になりますね。
ヒナイチくんのキャラソンで有名な『気障なキス』フレーズですが、反転だと、気障どころか濃厚なのをやってそうだなぁ…と書いたものです。あと、ジョンが実は人間に変身できる等、捏造設定にご注意下さい。
30年後、転化の為に眠りについたヒナイチくんの代わりに、子供達にささやかな願いを込めて、『おかえり』のキスをする、お父さんルクのシーンを追加しました。
30年後の設定は、こちらのお話を踏襲しています→https://privatter.net/p/10152534
2024/05/23 に上げました。
@kw42431393
「ドラルク、今夜も監視に…何だ、チェスをしているのか?」
「おや、おかえり。ヒナイチくん、降りておいで。クッキーを用意しよう。」
「『おかえり』は、やめろ!あくまで、監視にここにいるんだ!」
屋根裏から逆さまに姿を見せたリスに、苦笑する。彼女が監視に来る様になって、何度となく交わしたこの会話。
いや、基本的には『いらっしゃい』から始めるのだ。時々、不意打ちで『おかえり』を入れる様になったのは、いつからだったろう。
私の彼女への執着が、固着してから…いつかは、必ず夜の世界に連れて行くと決めてからだった…と思う。
彼女に考える時間をあげて欲しいヌ。最初にあんなに傷つけておいて、急かすなんて残酷だヌ。
ジョンがそう言って止めるから、我慢はしている。少しは、待つ事にした。
我慢しているつもりだった、待っているつもりだった…当時の私にとっては。
今になってみると、随分と独りよがりな、横柄な考えだったと思う。これでよく、『何を捨てても惜しくない、大事な女性』などと、言えたものだ。
じゃあせめて、彼女から『ただいま』という言葉を聞きたい…そう思って、そんなセリフを混ぜる様になっていた頃の事だった。
「チェスが、好きだな。一人で指しているのか…ジョンは?」
席に座った彼女が、キョロキョロと聡明なマジロを探している。
いつもなら、私がクッキーを取りに行っている間に、ジョンが膝に乗って、残業でここに来た彼女を労っているものだ。
180年生きてはいるが、見た目が愛らしく、彼女の相談に乗ってあげるジョンは、ロナルドくんが合流するまで、私達のバランサーを務めてくれていた。
だから、いないと落ち着かないのだろう。
テーブルにクッキーと紅茶を並べてやりながら、その不安そうな顔に笑いかける。昨夜、『無理をさせた』から、そのつもりはなかったが、少し揶揄ってやりたくなったのだ。
「少し、外に出ているよ。彼がいないと、不安かな?…お嬢さん。」
耳元でささやきながら、掬った髪に口づけを落とすと、彼女がフイッと横を向いた。
彼女から誇りを奪って間がない頃は、こうすると、怒鳴り返してきたものだ。怯えて、泣きそうな顔を隠す為に。
しかし、無理矢理から始まったとはいえ、ここまで、お互い慣れてしまうと、そこまで拒否反応はない。
「何を、今更…何とでも言え。」
染めた頬と耳に、口角が上がりそうになる。以前の、怯えながらも虚勢を張る姿も悪くないが、今から期待しているのを隠そうとする、その姿も可愛らしい。
我々吸血鬼は、執着心が強い。
元々、意地っ張りで情緒不安定な彼女に、庇護欲をそそられて始まった想いだった。しかし、どんなに姿や性格が変わろうが、『ヒナイチくん』であれば、どうでもよいのだ。
人間達には、分からないかもしれないが。
「それより、君が相手をしてくれるかな?一人もいいが、剣技と同じだ。やはり、相手がいる方が楽しい。」
「それは、分からなくもないが…チェスは、よく知らないのだ。」
「将棋と似た様なものだとも。将棋は、ご存じかね?」
「…将棋なら、まぁ。」
気が変わらない内に、将棋の盤を出して並べていく。すると、彼女は少しむくれた顔で、こちらを見上げていた。
「何だか乗せられた様で、癪だ。」
「クスクス。まだまだ、甘いねえ。」
基本的に、彼女の戦闘センスはピカイチで、その上…本人は自覚がないらしい。相手の気配を見て、次の行動を予測する能力が高い。こういうものにも、応用が効くはずだ。
そこは、認める所なのだが…
「うぅ…もう、一度だ。」
「いいよ。途中までは、いい感じだったのに…それとも、もっとハンデを付けようか?」
「うるさい!」
負けず嫌いで、すぐに顔に出るのだ。だから、次の手を予測していても、向こうにも読まれてしまう。まだ19だから、仕方がないとは思うが…それは、実戦で命取りになる。
「…だから、私は心配なのだよ。」
「か、監視対象に…そもそも、お前に言われる筋合いはない。どの口で!」
だから、守ってやりたくなる。
夜の世界に来てくれれば、ずっと守ってやれるのに…
プルルルル!
彼女の懐から鳴る、携帯の呼び出し音にため息をつく。
服越しでも、私には透視能力があるから分かってしまう。相手は、半田くんだ。
まったく…無粋な事だ。ヒナイチくんとの、折角満喫していた、穏やかな時間を…
「…そうか。分かった、私も行く。〇〇地区だな?」
そして、聴覚もいいから、半田くんが連絡をしてきた理由も丸聞こえだ。
これから、彼女は私の監視任務を中断して、現場に行ってしまう。〇〇地区で下等吸血鬼の異常発生があり、先に民間人の通報を受けた吸血鬼退治人達が、対応していたのだが…巨大な突然変異体を1匹、取り逃がしたのだという。
だから、吸対隊員達は、市民を避難させる為に駆り出される。その突然変異体を始末する為に、彼女が出動しなければならない。
市民を守る戦士として、今はまだ…この鳥駕籠から、送り出さねばならない。
「ドラルク。急遽、出動が入った。いいな?私がいないからといって…。」
「勿論だとも。君の勤務査定が悪くなるのは、私の望む所ではない。」
まぁ、問題なかろう。彼女が手を下す必要がない様に、『手は打って』ある。
その為に、ジョンをお使いにやっていたのだから…だから、日付が変わる前には、ここに…
「じゃあ…っ!!おいっ!?」
ここから出ていこうとする彼女の手を引いて、マントの中に閉じ込める。顎を捉えて、後頭部を押さえて…
「…あっ!ふっ…や、やだっ!また…んんっ!!」
今夜も、無事でいておくれ。
そして、戻っておいで…夜の世界へ。
戻っておいで…私の元へ。
油断をすると逃げそうな赤い雛鳥に、呪う様に心で願いながら、その甘美な咥内を貪った。
「…あぁ…うっうう!」
必死に『感じてない』と示そうとする仕草に、押さえきれない艶めいた声に、安心する。そのまま、肉付きがよくなってきた腰に手を滑らせて…
「ぅっ…あぁっ!し、しつこいぞ!いい加減に…ん?」
やれやれ、今夜はここまでか。
そう思って、苦笑していると…私を突き飛ばして離れた彼女の瞳が、不思議そうに揺れた。
はて?何かおかしな事でも、あっただろうか?
「…なあ、ドラルク。髪型、変えたか?」
「…。」
ああ、こんな時でも鋭い。
しかし、まだバラすのは、体裁が悪い。だから…
「おや、酷い事を言うね。昨夜、私の髪をむしったのは、君だろう?」
「う…あ、あれは、その。」
赤面して俯いた隙に、追撃する。この話題は、終わりにしよう。
「気をつけて、行っておいで。帰ってきたら、続きをしようじゃないか。」
「ふ、ふざけるな!昨夜、あんなに…」
「…将棋の話だが?」
バン!という、荒々しい音を立てて、秘蔵の雛鳥は、元いた世界に飛び出してしまった。
「思ったより、かかったらしいね。」
窓辺に腰かけて、小説を読み始めてから、半時間程経っただろうか。
視線の先に見えてきたのは、白いオオコウモリと…
ドラルク様、ただいまヌ。
「おかえり、ジョン。お使い、ご苦労様。」
窓を開けて、コウモリから手を離したジョンを抱き止める。
そのまま白いコウモリは、霧の如く消えて…
「やれやれ。髪の一部を分身にしていた事が、ヒナイチくんにバレそうになってね。焦ったよ。」
コソコソ隠すから、そうなるヌ。そろそろ、ちゃんと言った方がいいヌよ。
ため息をつく彼は、トントンと腰を叩いていた。
「数十年ぶりに、人間の姿になった感想はどうかね?それにしても…フフフ。最後に見た時より、さらに、筋肉質になっていたねえ。」
感謝の意味を込めて、ジョンの腰を撫でてやる。最近、筋トレをさらにハードにしたのだ。
丸まれなくなっただけに、大変だったかもしれない。
もう、ゴリゴリだヌ。二足歩行は慣れてないヌから、腰が痛いヌし。まさか逃がした突然変異型が、あんなに強いとは思わなかったヌからね。ドラルク様の分身の力を借りなかったら、倒すのは、ヌンだけだと大変だったヌよ。
そう。反人間派の同胞達が、下等吸血鬼共を大量に◯◯地区に放す、という情報があったのだ。
今夜は、ヒナイチくんをゆっくり休ませてやりたくて、人間に化けたジョンを一般人として、ギルドに通報して貰っていたのだが。
「もう少し遅い時間帯なら、彼女が眠っている間に、私が行けたのに。全く、無粋な奴らだ。」
「ヌンヌン。」
その時、屋根裏で『コトリ』と音がした。
一番厄介な者は、ジョンと私の分身が片付けた。だから、早く終わったのだろう。
あ、ヒナイチくんも終わったヌね。
今夜も、君が無事で帰ってきてくれた。
彼女を送り出す前に、口づけをする様になったのは、無事にこちらの世界に帰ってきて欲しい、というおまじないのつもりで始めたのだ。
今や、自分でも無意識で、いつの間にか、常習化しているが…
『お、お前は…どういうつもりで、やっているのだ?何だか、呪いでもかけられている様で…』
『クスクス。薄気味悪い、かね?呪いね…まあ…』
あれ?ドラルク様、どこに行くヌ?
「追加のクッキーを焼いてくるよ。今宵も無事で戻ってきてくれた、喜びの念を込めて…ね。」
そもそも、のろいとまじないとは、似て非なるもの。
しかし、私にとっては同じもの。
この願いが叶うなら、どちらでも構わない。
「もう、こんな時間か。子供達を迎えなければ…。」
「ヌン。」
凍える程に冷えた、部屋。
ガラス張りの棺桶に敷き詰められた、色とりどりの花。
その中で安らかな寝顔を見せているのは。
「また、後でね…ヒナイチくん。」
今、目の前にいる君…血色の悪い肌に、口元から微かに覗く牙は、我々と同じものだ。
あれから、30年の時が流れた。
その間に、ロナルドくんが帰国して、私と彼は、『両種族がお共生する時代を築く、そのお手伝いをする』という契約を結んだ。
そして、紆余屈折あって、私とヒナイチくんはお互いの本音を明かし合い、『両種族が共生する時代が来たら、私の血を受け入れて、永遠に共にいる』という契約を結んだ。
30年の間に、吸血鬼退治人・吸血鬼・吸血鬼対策課の連携は確固たるものとなり、反人間派の同胞の勢力は弱まっていった。高等吸血鬼による事件は、畏怖欲を満たすイタズラ以外、ほとんどなくなり…平和への兆しが見え始めた頃に、私達は正式に結ばれ、そして、1男1女に恵まれた。
両種族が共生する時代は、築かれた…そして、私達が結んだ契約を、遂行する時がやって来たのだ。
『必ず帰ってくる。子供達を頼むぞ。』
そう言い残して、君は転化への眠りに就いた。
昼の者から夜の者へ…転化にかかる時間は、個人差が大きい。200年近くかかって、目覚めた例もあるのだ。
それに、君は『必ず』と言った。君も、もう我々と同じ夜の者だ。
だから、心配は要らない。契約は、絶対なのだから。
「早く、帰っておいで。皆、首を長くして待っているとも。」
少しでも早い目覚めと、家族の時間を取り戻せる様にという願いを込めて、私は冷たい君に口づけをする。
そして…
「おかえり、竜輝。ミラーカ。」
「ヌヌヌリ。」
6時を回ったとはいえ、まだ太陽が気配を残している。
日光に当たらない様に気を付けながら、私は玄関を開けて、帰って来た大切な宝物達を迎え入れる。
「ただいま、お父様。」
「今日は、どうだったかね?さあ、お父様の所へおいで。」
ひねくれる事なく、素直に育った私を体現したかの様な、15歳になる息子を抱き寄せて…
「アハハ。くすぐったいですよ。」
背を屈めて、我が子の頬にキスをする。日本では馴染みがないが、祖国では一般的なチークキス。
そして、母親譲りのアンテナを嬉しそうに揺らしながら、彼も私の頬にキスを返す。
「あ~、ズルい。わたしも!わたしも!!」
「分かった、分かった。ちゃんと、順番を待ちなさい。」
もう片方の腕で、ヤンチャな愛娘を抱き寄せて…
「学校は、楽しかったかね?」
「うん!きょうね、うんどうかいのれんしゅうでね~。わたしは、リレーのアンカーで~。」
無邪気にはしゃぐ、二代目クッキーモンスターの頬にも、キスをする。
よかったヌね~。ミラーカ様。
「うん!!」
「勿論、ジョンにも。こちらにおいで。」
そして、忘れてはいけない。昔から、身勝手な私を支えてくれた半身にも。
「今夜も、明日も、これからも、楽しい事があるように…。」
「ヌン!」
かつての自分の柄ではない、ささやか過ぎる『おまじない』。
何を失っても惜しくない、大切な存在達へ…ささやかな口づけを。