空間デザインていう分野があるんですけど、まあそれは置いとくにしても、すきな空間にすきなものがあったら、もっと良いと思いません?
@azisaitsumuri
リッパーはよく傭兵を連れ出して様々な場所へ引き摺り回した。
こういう言い方をすると何かの拷問かのような無理矢理感があるが、向かう先は飲食店であったり、自然の豊かな山岳であったり、傭兵の大変に好む場所であった。
ただ、傭兵にはリッパーからそのような待遇を受ける謂れがない。勿論、食費や交通費は各自で支払うし、行き先が傭兵にも好むものである以上、誘われて金を落とすことになんの不満もない。強いて言うなら不安なだけだ。
なぜ、自分は誘われるのか……?
「お、おまえさあ、」
陽気の麗らかな午後、リッパーに連れられて、ゆったりと日差しを浴びることの出来る、小洒落てはいるものの食事もしっかりと摂れる店で、傭兵は三つ目のケーキを掬いながら、向かいで斜陽に照らされた仮面に、ようやっと恐る恐る声を掛けた。
「おれのこと誘って、おまえはなんか楽しめてんのか……?」
「おや、楽しんでいるように見えませんか?」
逆に聞くなよ……。
最初は傭兵も、リッパーは、傭兵よりは遥かに量が少ない飲食や、景観の良い場所を楽しんでいるのだと、そう思っていた頃もあった。
しかし、今リッパーが傭兵の問い掛けに即座の反応をしたことからも分かるように、リッパーはとっくに一つの小さなケーキを食べ終えていたし、景色を楽しんでいた様子も無い。
ただ、仮面を傭兵に向いていた。
「楽しいですよ。」
意地悪な返しをした割に、リッパーは完結に答えた。
傭兵が幾ら頭を捻っても答えに辿り着けないと判じたのかも知れない。全く以ってその通りである。じゃなきゃおずおずと問い掛けたりしない。まあ少しも悔しくないかと言われれば、それは嘘になるが。
「このお店、良いところだと思いません?」
「思う。」
「食事だけでなく、店内の雰囲気や、お外の景色も。良いな、と思いません?」
「思う。」
「他にお連れしたところも、そうだと思いません?」
「思う。」
思う。思うのだが。
しかし、やはりリッパーの仮面は傭兵を向いているだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。たった今、良い、と称したもの達に向けられているわけではない。
「そういうね、」
リッパーは、ケーキと一緒に頼んでまだ残っていたカップのお茶を一度飲んだ。傭兵はコーヒーを頼んでいたが、熱くてまだ飲んでいない。
「素敵なところに、おまえがいるところが、もっと、良いな、と思うわけですよ。」
傭兵はフォークが掬い上げていたケーキの欠片をケーキの本体の上に落とした。ケーキの欠片は本体の上から転がって皿の上に一時の居を構えた。
「おまえはそうは思いません?」
「……思う。」
リッパーが楽しんでいることが、傭兵にも漸く分かった。
「このお店、お茶も良いと思いますけど、コーヒーを飲み終わった後にでも、如何ですか?」
「ああ、良いな。」
傭兵自身も楽しんでいることを、傭兵は改めて自覚した。
「その時は、わたしももう一杯頂くとしましょう。」
そうすれば。
「素敵な時間が、もう少し続きますね。」
傭兵は頷いて、辿り着いた答えと良いものに満足して、皿の上に落としたケーキの欠片をもう一度掬い上げて、今度こそ口に入れた。
素敵な味だ。