宿舎のベランダで煙草を吸う喫煙者組(未履修な巻除く)のss。
ネタバレは特にありません。
@rikka_trpg801
只今混み合っております
人外の関わる事件というものは、大抵後味の悪い結果を孕んでいるものだ。
時空を超えて集った刑事たちが協力して何とか解決に導いた事件も、すでに出ていた被害をなかったことにはできないし、どんな理由があろうとも逮捕された犯人は裁かれることになる。できたのは、これ以上同様の被害者が増えないようにすることだけだ。
どこかしんみりとした雰囲気を払拭すべく、その日の夜は全員で食卓を囲むことになった。各々が請け負う任務の関係で食事の時間に一同が揃うことは珍しい。折角だからと帰代を筆頭とした料理のできる面々がテーブルを埋め尽くさんばかりの御馳走を作った。
賑やかと言うべきか、それとも騒がしいと表現するべきか迷う夕食の時間が終われば、以降は基本的に自由時間だ。風呂は一つしかないためある程度順番や使える時間を決めているが、あとは常識の範囲内でならいつ寝るかも含め各自に任されている。
刑事たちはリビングで雑談に興じたり、自室に引き上げてゲームをしたりと好きに過ごしていた。帰代は洗った食器類を片付け終え、リビングで菓子を摘まみながら話している面々に「ちゃんと歯を磨けよ」と一声かけてから二階へ上がる。
そのまま自室のドアへ向かおうとした足を止め、帰代は廊下の突き当りに視線を向けた。
ガラス張りのドアの向こうには夜が広がっている。胸ポケットに触れて目的の物があるのを確認し、自室ではなくガラス戸へと向かった。
鍵を開けてドアをスライドさせれば、秋風が頬を撫でる。肌寒さに顔を顰めつつ、帰代は足元のサンダルを履いてベランダに出た。後ろ手にドアを閉める。
胸ポケットから取り出したのは、未開封の煙草と百円ライターだった。封を切って一本取り出し、慣れた手つきで火を点ける。
深く息を吸い、煙と共に吐き出した。久し振りの煙草の臭いが鼻腔を刺激する。
夜風に流れていく煙を見送りながら、緩やかに目を閉じた。この一本を吸い終えたら、気持ちは切り替わる。儀式めいたそれは、帰代がこれまで密かに続けてきたことだった。
離れたところから車の行き交う音が聞こえてくるが、夜の宿舎周りは静かだ。先程までの食卓の喧騒とはかけ離れている。そんな感想を抱いていると、不意に背後でドアの開く音がした。
「あれ? 先客がいたのかぁ」
のんびりと言いながらベランダに出てきたのは広大だ。手には煙草が握られており、吸いに来たのだろうということは一目瞭然だった。
場所を譲ろうかと帰代が煙草を持つ手を下ろしかけるが、広大はひらひらと手を振ってそれを止める。
「俺は俺で勝手に吸ってるから、げろげろも気にしなくていいよ」
「……そうか」
帰代とは反対側のベランダの端で吸い始めた広大を横目で確認し、まだ半分以上残っている煙草を再び咥えた。
たなびく煙が二筋に増える。すると、またドアが開いて今度はアキラが顔を出した。
「なんだ、変と広大もいたのか。俺も仲間に入れてもらうな?」
アキラはベランダの手摺りに背を預けると、こちらも手慣れた様子で煙草に火を点ける。
吐き出された煙が風に散っていく。仄かに届いた嗅ぎなれない異国の銘柄に、帰代はそっと目を細めた。
お喋りな印象があったのだが、アキラは特に何かを言うこともなく煙を燻らせている。暗い中でもかけているサングラスの所為で、その表情は読めない。
何を考えているかは知らないが、静かな方が有難いのは確かだ。肺を満たした煙を細く吐き出せば、自身の煙草の馴染んだ臭いが異国の香りを打ち消す。
無言の時間が過ぎる中、視界の隅に映り込んでいたアキラが何かに気付いた様子で顔を上げた。
「よう、心も来たのか」
「うん……珍しく千客万来って感じだね?」
残っていた最後のサンダルを引っかけ、聖がベランダに出る。アキラが少し体をずらし、聖のためにスペースを空けた。「ありがと」と聖が手摺りに肘を置き、自身の煙草を取り出した。
四人分の煙草の煙が、ベランダから細く立ち上る。
普段は独りで過ごす切り替えの時間だが、同じ空間にいる三人は不思議と邪魔に感じなかった。声を発したのは顔を出した時の挨拶だけで、あとは無言で過ごしているからかもしれない。
ただ、人口密度が上がったからか、秋風に感じた肌寒さは少しだけ和らいだ気がした。
そろそろ短くなってきた煙草から視線を逸らし、帰代はたなびく四つの煙を追って夜空を見上げる。
交わることのない煙の筋だが、その先は同じ夜の空気へと融けていく――それを見送って、帰代は最後の一口を吸いきる。
吐き出した煙もまた、同じ夜へと融け消えた。
「モーニングにオムライス、リクエストしていいか?」
視線を寄越して声をかけてきたアキラに便乗するように、それまで黙っていた広大と聖も口を開く。
「お味噌汁は欲しいなぁ」
「え~ホットサンドとか良くない?」
好き勝手に飛んでくるリクエストは見事にバラバラで、帰代は眉を顰めて溜息を吐いた。
携帯灰皿に吸殻を片付けつつ申し付ける。
「和食か洋食か統一しろ。あと主食は一種類に決めるように」
三人の「「「え~」」」という不満げな声が上がり、煙と共に夜の秋風に攫われていった。
(あとがき)
最近夜寒くなって来たな~と思いつつ、煙草を吸う刑事たちが書きたくなったので突発ss。巻ちゃんは未履修なので不在。
年齢的にも上の方な四人が、言葉を必要としない時間を共有してるのって良くないですか? 大人って感じがして私は好きです。そしてこの面子だとおそらく最年少な🐸さんが密かに気遣われていればいいな~と。この後じゃんけんで朝食リクエストを決めるも、三人を置いて先に引き上げた🐸さんに🎃さんがフレンチトーストを強請ってそちらが採用というオチが付きますw