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残り1%のメッセージ

全体公開 TF 74 2809文字
2024-11-07 01:48:16

スマホが残り9%になったので思いついたオプメガ
ベタにモールス信号使ってる

──しくじった。

気付いた時には遅かった。
敵性種族の領域に入り、運悪く敵の正規軍とぶつかった。オートボットとやり合った直後で補給も儘ならず、何とか振り切ったと思った瞬間近くの惑星の重力に引きずられて墜落した。

衝撃に意識を失って、つい先ほど再起動を果たしたばかり。その時点でエネルギー残量は10%を切っていた。
燃料ポンプを損傷したのか、腹に空いた穴から循環オイルがとめどなく溢れ出し地面の染みを拡げている。残量9%のエネルギーが零れて落ちる。
引き連れていた僅かな部下は全滅したらしく、墜落した小型のポッドは腰から下を潰して鎮座している。普段であればこの程度、右腕のカノン砲を使うまでもなく抜け出せるのに。エネルギー不足でカノンは使えないし、そもそも右腕も残骸の下敷き。感覚が無いのでまだ腕が繋がっているのかも分からない。

天候不良に加えて磁気嵐が酷く、送り続けている救援要請は送信エラーを返すばかり。背に腹は代えられないと一帯のオープンネットワークに繋いでみるも反応無し。せめて磁気か天候のどちらかが回復してくれれば少しはマシにならないか。そう思って空を見上げてみても、砂埃が酷すぎて空の色すら分からない。

なんて途方に暮れているうちに残り5%。
参謀達への個人回線に、ネメシスに、ディセプティコンの暗号通信をもう一度一通り試してみるが全てエラーを返された。
座標だけでもと送り続けるが即座に弾かれる。

今ので残り4%。
ブレインが鳴らす警告がうるさい。
視界にノイズが混じりだす。
指を動かすだけでも重くて仕方ない。

藻掻いているうちに残り3%。
さて、そろそろ無駄にできなくなってきた。
無駄にエネルギーを消費するのはやめて、少しでも嵐が止むのを大人しく待つべきなのだろう。

抜け落ちていくエネルギーを感じながら、残り2%。
動かなかったおかげでそれなりに時間を稼げたが、その間天気は回復するどころか悪化の一途を辿っている。
見上げる宇宙船の影も巻き上がる砂塵に隠されてしまった。

諦めて、残り1%。
メッセージを送るのなら、これが最後のチャンスだろう。
ダメ元で送るだけ送っておこうか。
もしかしたら、電波にさえ乗ってくれれば時間はかかってもいつか届くかもしれないのだし。

──どうせ届かないのなら、届かないメッセジを送ってもいいんじゃないか。

ふと、魔が差した。
そうとしか言いようのない思いつきだった。
告げるつもりの無かった言葉でもスパークの内に秘めたまま消えるのは、それはなんだかとても、とても──寂しい、と。思って、しまったから。
いいじゃないか。届かないのなら。一言くらい、残してやっても。

残り1%は変わらないまま。
それでも確実に0%に近づいているのが分かる。
自然と手は通信機に伸びていた。
あと少し、もう少しだけ、持ってくれないだろうか。

残り1%を絞り出し、発声回路を動かした。


「────ぱっくす?」


届くはずのないメッセージ。
嵐の中で送られたそれは、微弱な電波に乗せられて誰にも知られず宙に抜け出した。


・・ ・ー・・ ーーー ・・・ー ・ ー・ーー ーーー ・・ー


破壊大帝から、オートボット総司令官に向けての個人メッセージ。
暗号化もされずに送られたそれは当然ファイアーウォールに引っ掛かり、オプティマスに届く前に遮断される。
彼にそれが知らされる頃には既に作戦司令部は揃い踏みで、司令室にオプティマスが足を踏み入れると同時に矢継ぎ早に状況が報告されていく。

「メッセージが届いたのは3メガサイクル、座標は不明。電波を解析したところ、送られたのは少なくとも20デカサイクル前と推測されます」
「中身は?」

報告の全てを聞き流し、何故直接オプティマスに届ける前にここまで大事にしたのかと僅かに苛立ちが募ってしまう。
ここに居るメンバーは、皆コグが無いころからの仲間たちだ。
二人の関係は良く知っていただろう。
メガトロンから個人回線が使われるなんて、初めてのことだ。
彼の身に何かあったんじゃないのか。

「ウイルスの類は検知できませんでした。ハッキングの危険性も低いと」
「中身は」

再度促せば、彼らは顔を見合わせて肩を竦める。
オプティマスの苛立ちにも気付いているのか、ジャズの指がコンソールを叩く。

「雑音です。解析にまわしていますが、本当に、ただの磁気の乱れしか検知できないと」

再生された音声データは、言われた通り、ただのノイズだ。
随分と遠くから、微弱な電波で送られてきた。
送信中に途切れて壊れたのだろう、と。
ジャズの説明がどこか遠くに聞こえる。


──ぱっくす?


ノイズに紛れた小さな音を確かに拾う。
解析できない?
馬鹿を言うな。
彼は、こんなにもはっきりとオライオンを呼んでいるじゃないか。

オライオンの存在を確かめるように。
そこに居ることを、聞いていることを確かめるように。

──ぱっくす。

もう一度。
迷ったように、言い淀むように、不安そうな声音でオライオンの名前を呼んで、それっきり。

再びノイズだけを再生し始める。
その中に、確かにノイズではない音がある。

コツコツ コツン──と、通信機を叩いているのだろうか。

短い音と、間延びした音。
二つの音が繰り返される。

メッセージの意味を、彼がオプティマスにコンタクトを取った理由を、隠された何かを、必死に探し出そうとしている仲間たちには一生解読できないだろう。
いつか二人で作った、秘密の言葉。互いの機体を指先で叩いて、誰にも聞かれない会話をしていた。
プライベートなど存在しない労働階級の中で、二人にしか分からない言葉を使って遊んでいた。
会話の内容なんて大したものじゃない。
「終わったら飲みに行こう」だとか、「どこに行っていた?」だとか。
お喋りができない状況でも隠れて言葉を交わせるように。

喧嘩をして、どうしてもお互い謝罪の言葉が出てこないときにも、この音に助けられたこともある。
照れ隠しに使うのはD-16の方が多かった。
いつもオライオンがその言葉を告げるとD-16は顔を俯かせて、返してくれる音は決まってこれだ。

-- ・ - --- ---

そう、この音の、はずだった。
いつもそれを告げるのはオライオンで、返ってくる音は同じで。
それでよかったのに。
それだけで嬉しかったのに。

「────でぃー?」

なんで、どうして、今になって、送ってきたんだ。
今すぐ彼の元に行かないと。

未だに無意味な議論を続ける仲間を置いて、データをダウンロードすると止める声も聞かずに部屋を飛び出した。
その音は、その言葉は。
お前の声で聴かないと意味がないじゃないか。


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