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ワンナイト◯◯◯

全体公開 53 2730文字
2024-11-09 08:15:25

WEBイベント恋路の彼方に一波ありの展示です
krus夢現パロ

Posted by @sakanafall

色々あった五日間の仕事を終えた今日。金曜日、その響きだけで心が踊りだす。月曜日まではまだ長い、その事実だけで疲れを忘れてしまう。私はこの夜をいかに有意義に過ごすか、計画を立てたのだ。

店までの経路を表示していたマップの終了ボタンを押して、ほとんどスキップのような足取りで店の前まで移動した。
重い扉を開くと、鐘が軽やかな音を出した。カウンターに立っている男性と目を合わせ、カウンターに座った。
事前に調べていた通りの店内だ。ここはバーと呼ぶには照明がやや明るく家具が古い、レトロな喫茶店のような雰囲気の店だ。やや離れた場所に一人、テーブル席には二人組が二組。バーが初めての私でも気後れしない、丁度良い人数だと思った。
手元のメニューを見る。長々としたカタカナ、たまに知っている単語、説明は書いてあるが全く頭には入ってこない。マスターが飲み物を作り終えたのか、私の前に移動した。ああ、早く決めないと。なんか知ってる気がするからこれにしよう。

マスターはカウンターの端に座っている男性にプレートを渡すと、グラスに右から左から次々とドリンクを入れる。最後にグラスの縁にフルーツを刺すまで止まることのない動きだった。
手際よく作られたカクテルは私の前にそっと置かれた。名前だけ知っていたそれはさっぱりしたとても飲みやすい味だった。
後ろからは女性の声で彼氏の愚痴が聞こえてきて、その話をおつまみにお酒を飲むことにした。

その話がもう一人の女性の元彼の話に移り変わった時、突然影が差した。カウンターの奥に座っていたであろう男の人がプレートを持って立っていた。

「これ、一緒に食べませんか?」

何とも形容しがたい、普通の男の人。だけど目が合った瞬間に心が跳ね上がったのは、ただびっくりしただけだろうか。
男性が両手で持つ大きなプレートには明らかに一人分ではない、大量のおつまみが乗っていた。
私はその人の顔とプレートを交互に見つめる。男の人のピクリともしない表情はとてもナンパ目的には見えない。私は一か八か、警戒しつつゆっくりと頷いた。



私はミックスナッツの中の一番大きくて丸い粒を摘まみ、口に放り込んだ。乾いた大きな音が頭の中に響き渡る。私は隣に座ったきりうんともすんとも言わない男を横目に見る。ナンパ目的じゃないどころか、お喋り目的でもない?でも折角隣にいるのだから、何か話しかけてみたい気もする。
「えとお兄さんはこの店よく来るんですか?」
「いや、初めて来たんだ。まさかおつまみがこんなに多いとは
「たしかに、多いですねえー……
再びの、沈黙。男はただぼーっと遠くを見て、時々酒を口にしている。その横顔がかっこよくて思わず見惚れじゃなかった。次の話題を考えないと。

「お兄さん今日は仕事だったんですか?」
「ああ」
「お兄さんは何関係のお仕事してるんですか?」
そう尋ねた瞬間、男性が鋭い目つきでこちらを睨んだ。
「ヒッ! 答えたくなかったらいいです
「ああいや、答えたくない訳じゃなくそのお兄さんって言うの止めてくれないか」
「ええっと……….と、殿方?」
「ハハハ!!! そうじゃなくて。俺、キラウㇱって言うから」
「あはい、キラウㇱさん」
男の人、いや、キラウㇱさん、笑った顔はかわいいんだ。にやけた顔を悟られないように揚げたパスタに手を伸ばした。


それからは色々な話をした。お酒全般好きで、年齢はそんなに遠くなくて、独身。あとレーズンが嫌いなようでプレートにあるレーズンは私が全て引き受けることになった。
彼も打ち解けてきたのか、お酒が回ってきたのか、どんどん饒舌になっていった。
バーで出会って仲良くなるって、大人って感じがしてすごく良い。積極的になってしまうのは、金曜日だから?

キラウㇱさんにアドバイスしてもらって選んだ次のカクテルが来た。よくある逆三角形のグラスと白と紫のグラデーションの色がとても綺麗だ。「これ、バーに来たって感じ」と感動し一口飲んだ。味はかなり甘いはずなのに後味の爽やかさのお陰でくどく感じない。まさに私にぴったりのカクテルで自然と顔がにやける。
彼は笑顔で頬杖をついてこちらを見ていたようだ。そして一言溢すように喋った。

「ふふ、かわいい」
「え!?!?」
驚きのあまりバーにあるまじき大声を出してしまった。彼にも「シーッ!」と言われてしまい、ハッと我に返る。
やっぱり私にはバーで男の人と出会うなんて大人なイベント、向いてない。だって簡単に大声出してしまうぐらい幼稚なのだから。きっとキラウㇱさんだって幻滅したに違いない。………いや、今かわいいって言われたな。かわいい?私のこと?もしかしてこれは脈アリってやつ?
私が前を向いて自己嫌悪みたいなものに陥っていたその時、横から手が伸びてきて私の手に触れられた。決してロマンチックなものではなく掴まれたという表現が正しいかもしれない。ガシッ!と効果音が付きそうだ。
「えっ
「あっ
本人もちょっと違ったと思ったのだろう。今度はそっと重ねられた。
これを振り解く理由はない。温かくて大きな手に自然とドキドキしてしまう。
おつまみやお酒に手を付けてはまたお互いの手に触れ合う。気付けば言葉なんて無くなっていた。

いつしかおつまみもお酒も空になった。店を出ても離れない手と手。
「まだ、一緒にいたいんだけどいいか?」
その意味は分かっている。私はゆっくりと頷いた。






「おはよう」
「おはよー
見えたのは、彼の顔。シャワーに入っていたのか上半身裸である。私は未だ布団に包まっている。

「本当にこれでいいのか、誕生日。もっと食事とか物の方がいいんじゃないのか?」
「うん。満足した。恋って感じがして」
よく分からないが、まあいいか」

彼はバスタオルで髪をガシガシと拭いて椅子に座った。私はそれを目線だけで追う。
「それにしても、バーでキラウㇱ隣来たのに全然喋らないからびっくりしたよ」
「今更『初めましての振り』って言われても何も浮かばないって
「ふふしかもおつまみ多いって!」
大きすぎるおつまみを思い出して思わず笑う。
「笑いすぎだ。確かにあれは面白かったけど
キラウㇱも肩を振るわせだした。そしてベッドの縁に腰掛けた。
「ほら、朝は優雅なモーニング、行くぞ」
「寒い寒い! 行くから!」
布団を一気に剥ぎ取られた。ひんやりした空気が身体中に触れるも、やがて慣れてきた。
「うーーーん………よし、行く!」
キラウㇱが手に持っている新しいタオルを受け取り、シャワーへと向かった。


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