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喧嘩の作法

全体公開 TF 77 5531文字
2024-11-10 01:21:43

戦闘と喧嘩の違いを教えてくれる先生スタと生徒メガ様のほのぼのスタメガ

いつもの戦闘訓練のために訓練場所として使っている基地の外れに向かっている途中、聞こえてきた喧騒にメガトロンが足を止めるのに合わせてスタースクリームも立ち止まる。
どうやら食堂の方でなにやら騒いでいるらしい。この音と声からすると、いつものくだらない喧嘩だろう。

「ああ、ただのバカ騒ぎですね。行きましょうか」
「止めなくていいのか」

先を促すスタースクリームにメガトロンは不思議そうに振り返る。労働者の間では喧嘩は珍しかったのだろう。聞く限り、喧嘩をしていられるような環境でもなかったようなのだし。喧嘩一つで命取りになりかねない環境下では、理解できなくとも仕方ない。

「アレはまだ放置でいい。ここじゃ娯楽が少ないんでね。ストレス発散に、ああいうガス抜きも必要なんですよ」
「そうか」
「ま、行き過ぎるようなら止めますが。下手に死者を出されたり、大怪我されても士気に関わりますから」
「止める線引きは?」

真面目なことだ。とはいえ荒くれ者を率いてもらうには必要な知識でもある。
歩き出しながらスタースクリームはメガトロンを追い抜かし、今は生徒となっている主に教授し始める。

「例えば飛び道具。こいつはアウト。あとは戦意を失くした相手への追撃。本気で相手を殺そうとした瞬間。つまり喧嘩の範疇を超えた時は止めなきゃやばい」
……戦闘行為と何がちがう?」

相手を負かし、屈服させる行為という意味では同じものだろう。
そう尋ねてくるメガトロンにスタースクリームは軽く肩を竦める。

「作法が違うんですよ。戦闘行為ってのは、言ってしまえば相手の命を奪うための行為だ。そして敵に俺達の強さを、怖さを、思い知らせる。だから姑息な真似なんかしちゃいけない。そういうのは、隙になる。相手に報復の大義名分を与えてしまったら、こっちの負けだ。徹底的に、真正面から、力で潰す。それが戦闘。
対して喧嘩は、勝てばいい。どんな卑怯な手を使おうが、多勢に無勢だろうが、勝って相手を屈服させればこっちの勝ち。だが、いくらルール無用とはいえ線引きはある」
「さっきのがそれか」
「そういうことです。喧嘩の域を超えたら、それは戦闘行為だ。そして戦闘行為に喧嘩のルールを持ち込めば──」
「報復の理由を与える」
「そう。喧嘩ならいいんですよ。やって、やられて、やり返して。遊びみたいなもんだ。いくらでも好きなだけ気が済むまで繰り返せばいい。だが戦闘は違う。そんな隙を見せりゃあっという間に敵が増え、簡単に潰される。卑怯者なら数で潰しても構わない、ルールを守らない奴は消さねばならない。『正義』ってのはつまり、弱い者いじめのための許可証 ライセンスだ。誰だって正義の側に着きたいのさ。『自分は正しい行いをしている』と思いたがる。そんなもん、相手に渡すわけにゃいかねぇでしょうよ」

基地の外に出て、訓練と言う名の憂さ晴らし用に作られた簡易の闘技場に足を踏み入れる。すり鉢状に作られた窪地はシーカーズも空を駆けまわれる程の広さを有していた。

「折角だ、今日はその辺のお勉強しましょうか」

そこの中心部にまで足を進めると、スタースクリームは振り返りニヒルに笑う。

「来いよクソガキ。喧嘩の作法を教えてやる」



右腕のカノンを収納し拳を握れば、スタースクリームの笑みが深まる。
まずは一発、そう思って一歩踏み出した途端に──。

「おっと、ストップ。気を付けな、右足んとこ、装甲緩んでる。身だしなみには気を使えって言ってんだろ。マナーだぜ? 待ってやるから、嵌め直せ」
「足?」

違和感はなかったが、気付かないうちに外れていたのだろうか。先日の訓練で損傷して、リペアしたばかりだったが。
確かめるように視線を落とした瞬間、視界に迫る青い足先。驚いて後ろに飛びずさるが、ジェット噴射の勢いで蹴り上げられた足を避けることができず、派手に顎をかち上げられてついでとばかりに脇腹に重い一撃を喰らって吹き飛ばされた。

「ぁぐっ!? ──貴様っ!!」
「ははっ! 言ったろルール無用だぜ? スタートの合図なんかあるわけねぇだろ!!」

回転しながら二度、三度と、地面にぶつかりながらも身体を起こせば、今度は空に飛び上がったスタースクリームの踵が三日月の弧を描いて堕ちてくる。まともに防げばジェットの熱で追撃するのだろう。かつての『喧嘩』を思い出し、泥に塗れるのも構わず転がり避けることで回避する。

「へぇ……

逃げるのは意外だったのか、スタースクリームの意識が僅かに緩んだ瞬間、足元に滑り込んで足を払った。

「ぅおあっ!?」
「チッ……

倒れ込んだ頭を踏み潰そうと足を上げるが、スタースクリームもすかさずジェットを使い離脱する。飛行型は装甲が薄い分、とかく逃げ足が速い。
意味もなく地面を割った足を退け、舌打ち交じりに距離を取った相手を睨む。

飛び道具が使えないというのは中々どうして、厄介なものだ。
元々、メガトロンのビークルは重戦車──分厚く頑丈な装甲と強大な砲撃こそが彼の武器。攻撃を避ける必要も、殺すために近づく必要もなければ速さを重視した造りにはなっていない。
対するスタースクリームは純然たる戦闘機。距離を取られては近づくのを待つしかなく、捉えるより先に離れられては打つ手がない。

不意に距離を詰められて、フェイント混じりの拳に視線をそらされた瞬間聞こえたジェットエンジン。
ジェットの加速を加えた蹴りがスタースクリームの得意技だった。普段の訓練でも何度その蹴りを喰らったことか。
二度も同じ手は喰らわない、と今度こそ蹴りを避けたはずなのに。

「──っ!?」

アイセンサーめがけて蹴り上げられた泥に視界が塞がれる。戦闘時に視界を塞がぬようにと教わった事が仇となった。レンズの汚れを拭おうとした途端に殴られよろけ、なんとか体勢を直そうとカバーを開閉させるが視界が回復しないまま一方的に殴り飛ばされる。

「卑怯だぞ!!」
「だーから喧嘩だっつってんだろうがよ!!」

霞む視界の中で向かってくるメガトロンに対し、スタースクリームは地面が割れてできた礫を拾い勢いよく投げつける。全く予期せぬ衝撃に、バランスを崩して派手に地面を転がるメガトロンに笑ってしまう。

「おい、飛び道具は無しじゃないのか!?」
「銃器はな! コイツは素手の範疇だ!!」

更に大きな瓦礫を手にして倒れ込んだメガトロンの頭で割ってやる。衝撃に瓦礫の割れる音がブレインで反響しバランス感覚は失ったにも等しい。
ぐらりと揺れる機体に覆いかぶさり容赦なく殴りつける。

普段のお上品な戦闘訓練よりも苦戦しているメガトロンにスタースクリームは鼻で笑う。
地力じゃどう見てもメガトロンの方が上なのに、一発も当てられぬまま追い詰められていくばかり。
根が純粋すぎるのだろう。面白いほど簡単に、騙され引っ掛かり隙を晒して、何度地面とのキスをプレゼントされたことか。

ほらどうした、いつまで殴られているつもりだと、嘲笑ってやれば汚れた白銀は一層闘志を燃え上がらせる。赤く燃えるオプティックはまるで欲求不満の溶鉱炉じみた苛烈さを見せ、次の瞬間力任せにスタースクリームを振り払う。
今度はメガトロンが倒れたスタースクリームに馬乗りに乗り上げ、握った拳を叩き込めばうめき声が返ってくる。構わず殴り続けていれば不意に胸部のコックピットが跳ねあがり弾き飛ばされた。

翼を翻して宙を舞った戦闘機はロボットモードに戻りながらメガトロンを蹴り上げ、宙に投げ出された機体を追って再び戦闘機に変形すると鋼の翼で打ち落とす。
ロボットからビークルへ、ビークルからロボットへ。流れるように変形する動きに淀みはなく、変形を覚えたばかりの雛にはその変化の速度についてはこれない。

空を駆ければ優美と暴威を具現するのがシーカーズ。重力から解き放たれ、流星の如き軌跡を描き縦横無尽に飛び回る空の支配者。かつてはプライムの親衛隊として、多くの伝説を残してきた実力は伊達じゃない。
その力と技能を遺憾なく発揮し喧嘩に使う。愚かと言われても構うものか。



『訓練』にしてはやり過ぎだと、後で口うるさい同僚達から苦言を貰うだろうが知ったことではない。
今はこれが最善策だと理解した。

奇襲に暗殺、騙し討ち。
今後、彼のスパークを狙う輩は後を絶たなくなるだろう。オートボット共との抗争が激化すれば、いずれ倫理も道理も無視した殺意の嵐に曝される。
その時に、今の状態ではあまりにも不安が募る。

だからこそ、ルール無用の喧嘩は良い教訓になるだろう。
どんな手を使ってでも勝ちを狙う奴もいる。そんな輩と相対した時、経験しているかしていないかでは対処の仕方が大きく変わってしまう。
その為の入門としても、喧嘩というのは都合が良い。

まずは喧嘩に慣れてもらって、次は戦闘への応用と対応。戦闘では使えないと説いたばかりだが、『場合による』というやつだ。いざという時はどんな手を使ってでも勝って生き延びてもらわねば困るのだし、同時にそれらを気にせずルール無用で命を狙ってくる相手もいるのだと知ってもらわねば。

どれだけ汚泥に塗れようとも、最後には必ず立っていてもらわねばならないのだ。
潔く死を受け入れるくらいなら、卑怯だろうが姑息だろうがなんでもいい。勝って我らを導いてくれ。
何処まで堕ちても付いて行く。共に堕ちると決めている。
その為に、教えられる技術は喧嘩だろうが戦闘だろうが全てを渡そう。



駄目押しとばかりに叩き落としたメガトロンの真上に並び、倒れ込んだ頭を鷲掴みにして地面に押し付ける。その状態のままスタースクリームが地面を飛行すれば挟まれたメガトロンはすり潰されることしかできない。

「ガッ、ぁ、この……っ!!」

がりがりと自らの装甲で地面を削りながら、なんとか目を開けスタースクリームに組み付くと彼にやられたように、変形の要領で腰を回転させ立場を入れ換え叩きつける。飛行の勢いを乗せられた状態で地面に落されたスタースクリームが起き上がるより速く、その翼を踏みつけ罅を入れれば標本の出来上がり。

「ぁぐうっ!? いっ──てぇなっ!!」

逃げられる前に蹴り上げ、無理やり引き摺り起こすとヘッドバッドを叩き込んで手を放す。
漸く解放されたスタースクリームはよろけながらも後ろに下がり、端正な造形のフェイスパーツを歪ませ鼻から流れ落ちる循環オイルを拭う。
メガトロンもまた、口の中に溢れた泥混じりのオイルを吐き捨てると挑発的に笑いながら中指を突き立て──次いで親指を叩き下ろした。

「どうした。喧嘩を教えてくれるんだろう? この程度でギブアップか、親衛隊の名も地に堕ちたな」
「──クソガキがっ!!」

ここまで挑発されては乗らないわけにはいかないだろう。今度はスタースクリームがメガトロンに殴り掛かる。まともに喰らうが、しかし微塵も揺るがない。お返しとばかりの拳は遥かに重く、咄嗟にガードをするが防いだ腕をぶち抜いて衝撃が襲い掛かる。

殴り合いに持ち込まれた時点でスタースクリームの負けだった。
何とか離脱を試みて、どうにか隙を突こうと足掻いてみたはいいものの、流石に随分学習された。
目潰しも騙し討ちも、尽く力でねじ伏せ無理やり拳を振り抜かれては堪らない。
避けるでも防ぐでもなく、小細工を打ち破ってくる姿にスパークが痺れてくる。
何処までも苛烈に無慈悲に、野獣の如き蹂躙を選び取る主に殴られているのに笑ってしまう。

──本当に、クソ真面目な破壊者だ。

戦闘だろうが喧嘩だろうが関係無い。
相手を壊して屈服させねば気が済まぬとばかりに、徹底的に敗北を叩き込む拳についにスタースクリームが地面に倒れる。

意識を失う寸前、見上げた白銀。
顔についた汚れを拭い、咥内に溢れたオイルを吐き捨てこちらを見下ろすその姿。
上がり切った機熱を冷ますように荒い排気を繰り返し、何者にも染まらぬ白銀を汚しながらも欠片も失われない輝きがオプティックを灼いてくる。
朦朧とする意識の中でブレインはエラーを鳴らし、視界も霞むがその姿だけはやけにはっきりと見えてしまう。

対する者を威圧しながらも見惚れさせる圧倒的な存在。
その姿は、センチネルタワーで見たあの姿と何も変わっていない。
焦熱地獄を映した程の、憎悪と憤怒に燃えるオプティックだけがあの日から更に色濃く輝きを増している。

(ああ、ちくしょう……かっこいいなぁ……

そう、その目だ。
その光がいい。
解放を待ち燃え滾るマグマのように、絶えず爆発し続ける恒星の核のように、鮮烈なまでの光を灯す赤いオプティック。
その目で見られるだけで、畏怖に憧憬、叛意に陶酔、思慕、情欲……狂ったパルスが総身を駆け抜ける。
脈打つスパークが弾けてしまいそうになる。機体がばらばらに砕けて飛び散ってしまいそうになる。
心が焦がれてたまらない、王の雄姿。

認めたくないが、認めざるを得ないだろう。
餓鬼を相手にこんな馬鹿げた感情を抱くなんて、思ってもみなかった。
かつて憧れ仕えた相手に抱いた感情と、同じどころかそれを上回る。
翼に焼き付けた印が疼いてしまう。

だから、だろうか。
負けたというのに笑ってしまう。
負けて良かったとすら、思ってしまう。
強制シャットダウンする直前まで、泥に塗れて尚、雄々しく輝く白銀にその鮮赤をブレインに強く、強く焼き付けた。


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