因果応報。
@azisaitsumuri
長身の男より遅く起きた朝、顔を洗ってもどうにも気持ちのほうはすっきりしない儘、食卓に向かった。
朝食を用意するのは自分なので、紳士がぴかぴかに磨いたであろう机の板があるだけだ。
そこに腰掛け俯けば、ぴかぴかとは真逆の憮然とした顔の、ぱっとしない男が映っている。起き抜けに空腹を訴えるような相手ではなかなかないので、こうしていても特に気にもされないのだ。
けれどそこに、紅い水面が差し込まれた。
思わず顔を上げる。
小首を傾げられる。その手には自分もティーカップを持っている。
机上に何もなくとも、紅茶の匂いには気付いていた。いつもの朝だ。
ティーセットはせせこましく台所にちょこんと大人しくしている。紳士はいつも、朝の紅茶は台所に並べる。
しかし、こちらにも飲ませてくれるとは限らない。
飲み物じゃ物足りず、朝食に飢えているのは、いつだってこちらのほうだからだ。なのにこの相手は台所をそれらで占拠している。
だから普段なら自分のほうが早く起きる。
「それ飲んだら、きっと、しゃっきりしますよ?」
お見通しかよ。
「どうせ夢見でも悪かったのでしょう?」
そこ迄分かるか。
「……気付いてたんなら起こしてくれ。」
「おまえが起きてから気付いたので無理です。」
「……?おれが起きて、妙な夢みたなって感じたことを、おまえも分かったってことか?」
「は?なにまだ寝惚けたこと言ってんですか?」
黙って紅茶を啜る。
「おまえステルスが得意だから、逆にこっちの感情とかも透視出来るのかと思って。」
「ええ?ふふ。パースペクティブですか?」
「……それ美術用語だろ?分かるぞ?」
「あら?お寝惚けはもうお終い?」
「寝惚けてねえって。」
そうですねえ、と自分はしゃっきりどころかのんびりした様子で話す紳士。
「起きたおまえがベッドから足を降ろした音が既にご機嫌斜めでしたかね?」
お茶を変な飲みかたするかと思った。
「いや……どうでしょう、起きてから、足を降ろす迄に空けた時間?とか?」
紅い水面の丸い目の自分と目が合う。
そりゃそうだろう、と自分のことなのに思うハメになる。
「まあ兎に角、テレパシズムじゃあないんですよ。」
紳士は笑い話としてそう締め括って言ったが、こっちはちっとも笑ってる場合じゃあない。だいたいそうだったらわたしのことをおまえも読めないとおかしいでしょうって、それどころでもないんだよ。笑い話にでもしてくれと思ったのはこっちのほうだったんだ。
偶然でもなんでも、良かった。
なのに、積み上げて来た、隣り合って居た時間を、理由にされた。
ちゃんとした原因を、理由にされた。
「随分と顔色が良くなりましたね。」
こちらを見て満足そうなおまえは、本当に紅茶が原因だと、そう思っているのか。