カルみと 微スケベ有
通過シナリオネタバレあり
@popo_trpg_ss
ある日の夜。縞斑の部屋を訪れた神無は、その童顔には不釣り合いのいかついデザインの酒瓶を手に、おずおずと口を開いた。
「先輩、その……一緒にお酒飲まない?」
その言葉を聞いた縞斑は目を細める。
その誘いは今夜が初めてのことではなく、明日は公休だから家に泊まりたいと昨晩ねだられた時点で予想していたことだった。
律儀にも縞斑の好みの酒を買ってきたらしい彼は、ちらりと不安げに上目遣いで縞斑を見上げる。
「……だめ?」
この美貌にそう頼まれて、理性を持って拒むことのできる人間はごく僅かだろう。
額に手を当ててため息を吐いた縞斑もその例外ではなく、彼は僅かに腰を折ると神無と視線を合わせて笑った。
「いいよ、飲もっか」
そう縞斑が頷いた途端、神無はぱっと嬉しそうに顔を綻ばせる。
その表情の中に潜む安堵を見逃さなかった縞斑が笑顔のまま見守れば、彼ははっと我に返ると素知らぬ顔で部屋の中にするりと足を踏み入れた。
「神無ちゃんの分のお酒は?」
「あ、んー…同じやつ飲んじゃおうかな」
「それは構わないけど…結構強いお酒だから、酔いが回らないように気をつけてね」
そう注意を促せば、神無は一瞬何かを企むように目を細める。取り繕うように俯いてこくりと頷く神無の演技はきっと、彼のことをよく見ている縞斑でなければ見破れないことだろう。
「それじゃあ、乾杯」
「乾杯!」
二人分のグラスに神無が酒を注いで、軽く合わせてから琥珀を舐める。好みの味に舌鼓を打つ縞斑の一方、神無は強いアルコールの匂いに眉を寄せて舌を出していた。
「先輩の飲むお酒いつも苦い…」
「ソーダ割りにしたら?」
「んー……そうする……」
ロックを飲むことに大人の憧れを抱いているらしい神無は、自分の子供舌を恨みながら渋々と持ち込んでいたソーダを注いで酒を薄める。
しゅわしゅわと弾ける炭酸によってようやく飲めるようになったそれに小さく息を吐いた彼は、ちらりとグラスの隙間から縞斑の様子を伺った。
視線に気がついた縞斑は笑うと、手の中のグラスを揺らして見せる。静かな室内にからんと氷の転がる音が響いた。
「美味しいよ、ありがとね神無ちゃん。調子に乗ってたくさん飲んじゃいそう」
「…!どういたしまして!先輩のために買ったんだからじゃんじゃん飲んで!!」
「あはは、あんまり飲んでべろべろになったところ見られるのはさすがに恥ずかしいな」
「えー?いいじゃん、俺しかいないんだからさぁ」
明るい声で酒を注ぐ神無の人懐こい笑顔に笑みを返した縞斑は、勧められるままに酒を傾ける。
隣の神無は用意周到におつまみ用のチョコレートを取り出して口に運んだ。彼にとってはそちらが本命なのだろうと考えながら、縞斑は受け取ったチョコレートによってより濃く鮮明になった酒の香りをしばし楽しむことにした。
※
夜も深まった頃、テンポよく交わしていた会話を徐々に途切れがちに変えていけば、神無は炭酸のすっかり抜けたグラスを置いて縞斑の顔を覗き込んだ。
「先輩、もう酔ってきた?」
腕を引く仕草が妙に艶っぽく、瞳が潤んで心なしか頬が上気している。
後者は酒が原因ではないかもしれないが、それを細かく言及するつもりのない縞斑は瞳に弧を描くと意図してゆったりと口を開いた。
「そうだねぇ、ちょっと飲みすぎたかな」
最も、酒にそれなりに強い縞斑はこの程度で酔うことなど決してない。
しかし神無はどうやら、以前二人で事件に巻き込まれたときに酒を一杯飲んで酔いが回ったという縞斑の発言を鵜呑みにしているらしい。
あの時の縞斑は、確かに久しぶりに酒を飲んだことも相まって多少足元が浮くような感覚を覚えていた。それでも意識ははっきりしていたし、そもそも羽目を外して意識を溶かすほど酒を飲む若さなど警察学校時代に置いてきてしまっている。
そんな縞斑の内情をつゆも知らず、今夜も彼の『酔った』という言葉を素直に受け入れた神無はぱっと嬉しそうに笑って腕に抱きついた。
「おれも…酔っちゃったかもー?」
はきはきとした声色でそう呟いた神無は、拳一個分空いていた縞斑との距離を詰めると肩にもたれ掛かる。
緊張に火照った体を酒のせいにする彼のずる賢さには気が付かないふりをして、縞斑は持ち上げた手のひらで彼の頭を撫でた。
「神無ちゃん俺の半分も飲んでないのに、ほんとにお酒弱いねぇ」
「こ…このお酒が強すぎるんだよ」
「いつもあまーいお酒しか飲まないもんね」
神無が自分の好みの酒を持ち込まないのは、自分が酒に夢中にならないためなのだろう。
苦手なウイスキーをソーダで割って、どうにか数口飲んだらしいグラスをテーブルの陰に隠した神無は舌足らずに笑って縞斑の袖を引く。
「……せんぱい、キスしよ」
「ん、いいよ」
ねだられるままに重ねた唇からは、アルコールの匂いは殆どしなかった。
何度も啄むように唇を触れ合わせれば、神無は満足げに赤い顔で笑って縞斑の胸に飛び込む。
耳まで赤く甘いその仕草はまるで、酒に酔って大胆になった恋人そのものだった。
「神無ちゃん酔ってるね」
「んー?ふふふ、うん」
神無は間違いなく、酒に酔っていない。
それでも頑なにその演技を貫くのはひとえに、神無が未だ気恥ずかしさが勝って素面では縞斑に素直に甘えることができないからだ。
恋人として付き合い始めて数ヶ月、縞斑に恋人としてのスキンシップを上手くねだれない神無が覚えた逃げ道が、酒に酔ったふりをすることだった。
翌朝縞斑が言及しても、彼は昨晩のことを覚えていないととぼけるのである。全てを酒のせいにすることで、神無は恋人に甘えたいという自分の欲求を満たしていた。
「ね、せんぱい。ぎゅってして」
「今日はいつもより甘えんぼじゃない?」
「しらない。ほら、はやく」
「はいはい」
両手を広げてこてりと首を傾げる神無は、演技とはいえ自分らしくない行動が恥ずかしいのか顔を真っ赤にしている。
そんな彼の様子を気にせず、縞斑は神無の一回り小さな体を腕の中に閉じ込めた。
嬉しそうにくすくすと笑った神無は、縞斑の胸に頬擦りをしてほっと息を吐く。恋人の体温に安堵する彼はおそらく、仕事が立て込んで相当疲れていたのだろう。
「へへ、せんぱいだ」
「いまさら?」
「んー…あったかい、」
初めから縞斑は神無の演技を見破っていた。
そんな回りくどいことをせずとも甘えれば良いのにと最初は疑問を抱いた縞斑だったが、恥ずかしがり屋の神無なりに考えた唯一の方法を指摘すれば、きっと彼は甘え方がわからず途方に暮れてしまうだろうと思い直したのだ。
「せんぱい、だいすき」
「俺も好きだよ」
「ふふ…もっかい、ちゅーしよ」
ねだって尖らせた可愛らしい唇に噛み付く。
嘘つきに仕置きをするように、呼吸を奪うような口付けを落とされた神無は最初こそ驚いて目を丸くしたものの、やがて嬉しそうに目を細めて両腕を縞斑の首に絡めた。
「ん…っ、ふぁ…ん、っぁ…」
二人きりの部屋に響くのは、神無の甘い声と唾液の跳ねる淫猥な水音だけだ。
その音にどうしようもなく煽られた縞斑は、それが神無の思惑だと分かった上で腰を支える手のひらにぐっと力を込める。
その仕草ひとつで縞斑の意図を汲み取った勘の良い彼は大きく肩をひとつ震わせると、ねだるように縞斑の膝の上でゆらゆらと腰を揺らした。
「ん……ッん、ぁ…ぁう…はぁ…っは、ふ」
「……神無ちゃん、腰揺れてるね」
「ぁ…ん、しらな…ッん…!」
「自覚ないの?こんな欲しそうにして」
唇を離して敢えて煽るような言葉を選んで囁けば、神無はその言葉と空気に流されるようにとろんとした瞳で縞斑を見つめる。
涙に潤んだアメジストの瞳には酔いの代わりに恋人への強い劣情が映し出されていて、縞斑はそんな彼の正直な瞳にどろどろとした独占欲が満たされたような気がした。
「は……っ、ん…せんぱ、い」
「なぁに?」
はふはふと息切れをしていた神無は、首を傾げる縞斑を前に躊躇うように視線を彷徨わせる。
酒に酔っていても言い出すことが難しい決定的なその言葉を、縞斑はいつも絶対に自分から口にすることはなかった。
自分が演技をしている手前、そんな縞斑の態度を指摘することができないらしい神無は、何度も口を開けては閉じてを繰り返した末にぎゅっと目を閉じて縞斑の胸に体を預ける。
「……したい」
ようやく絞り出した言葉に主語は無かったけれど、それを言及する意地悪を飲み込んだ縞斑は勇気を出した神無を褒めるように頭を撫でた。
「神無ちゃん、いつもより酔ってる?」
「ん……そうかも、」
顔を隠してぽそぽそと呟く神無を抱きしめた縞斑は彼の毛先を弄ぶと、赤く震える耳に直接吹き込むような囁く。
「いいよ、おいで」
記憶が無くなるほど酒を飲めば普通は勃たないのだが、性知識に疎い神無はその矛盾に気がついていないらしい。
ぴくりと身を震わせた神無の期待に染まる瞳に微笑むと、縞斑は彼の手を引いて奥の寝室へと歩き出した。
「今日こそ忘れないでよ?」
「わすれないもん」
「ほんとに?」
「おれは大天才だからな」
「あはは、そうだね」
酒を言い訳に使わなくても甘えられるようになるまで、もうしばらくは神無の嘘に付き合ってやることにしよう。
ふんと胸を張る神無の強がりを笑った縞斑は、彼をベッドに促してぱたんと部屋の扉を閉めるのだった。
終