ベッター100作記念で幸せなイアアキのお話。全年齢。
ネタバレは特にありません。
@rikka_trpg801
永遠のつくりかた
空はからりと晴れて、頭上には濃い水色が広がっていた。
自らの勘が今日は一日晴れだと告げている。傘を配る必要もなく、イアンはのんびりと昼休憩を過ごしていた。手元には空になったコーヒーのボトルとホットドッグの包み紙がある。
職場近くにある公園は緑が多く目に優しい。子供連れやペット連れが多く利用する癒しスポットだ。イアンたちのように会社の休憩時間を過ごす人間の姿も見られる。
公園のベンチに腰掛けていたイアンは、ランチを共にした相手の姿を探して視線を巡らせた。開けた公園は視界も良く、探し人はすぐに見つけることができる。
広場の隅にしゃがみ込んでいたその人は、小さな女の子と何やら話しているようだ。立ち上がって近づいてみれば、楽しそうな笑い声が耳に届く。
「アキラ」
声をかけると、イアンに気付いたアキラが振り返った。サングラスの向こうで左右色違いの目が細められる。
「よう、イアンちゃん。日向ぼっこはおしまいか?」
「ああ。これは、何をしているんだ?」
五歳ほどの女の子と向かい合ってしゃがみ込んだアキラの手には、公園の隅に生えていたクローバーの花があった。白く丸いその花は、女の子の手にも握られている。
「まあ、かっこいいおにいさんね! いま、こっちのおにいさんとゆびわをつくっているの」
イアンを見上げた女の子が少しだけ頬を染めてそう言った。ヘーゼルの目がキラキラと輝いている。
「指輪?」
小首を傾げてアキラを見れば、「簡単なクラフトだよ」と手にした花が軽く振られた。
「こちらのお嬢ちゃんが花冠に挑戦してたんだが、ちょっと難易度が高かったみたいでな? 俺もそっちの作り方は自信ないんで、代わりに一緒に指輪を作ろうってことになったんだ」
見れば、女の子の足元には輪になりきれなかった花の塊が落ちている。おそらくそれが花冠のなり損ないなのだろう。
「どうやって作るんだ?」
「本当に簡単だぜ? これをこうして……こうすれば……ほら、できた」
長めに残した茎に裂け目を入れ、そこに花を通して余分な茎を千切る。アキラの手元で、あっという間に白い花の指輪が出来上がった。
「わたしもできたわ!」
女の子が手のひらに指輪を乗せて歓声を上げる。指輪というには幾分輪が大きすぎる気もするが、アキラはそれを見て「おお、上手だな!」と大げさに褒めた。
イアンはしゃがみ込み、足元に生えていた花を一つ摘んだ。先程アキラが見せてくれた手順をなぞってみる。大きな手の中で、小さな花が指輪の形になった。
「確かに簡単だが、アキラのが一番綺麗にできているな」
シンプルな作り方の指輪でも技巧の差は現れるらしい。見比べると、教えていたアキラの物が最も指輪らしいサイズであり、茎の処理も巧かった。イアンの作ったものはやや大きめで、形も不格好だ。
「作った経験の差だろ。何度か作れば上手くなるさ」
「わたしももっとじょうずにつくれるようになる?」
「もちろん! お嬢ちゃんなら俺なんて目じゃないくらい上手になれる」
先生役のアキラに保証された女の子が、輝かんばかりの笑顔を見せた。そして何かを思いついた様子で、手のひらに自身の作った指輪を乗せてアキラへと差し出す。
「これ、あげる。おれいよ」
アキラが両手を広げて「いいのか?」と驚いて見せる。頷く女の子の手から指輪を受け取る前に、イアンはアキラの左手を掴まえた。
「ん? どうした、イアンちゃん?」
振り向くアキラの目の前で、イアンは先程作ったばかりの花の指輪をそっと指に通す。
大き目の輪は関節に引っかかることもなく、指の付け根で止まった。きょとんとしてその指輪を見つめるアキラを余所に、女の子が「きゃあ」と黄色い歓声を上げる。
「すまないが、この指はもう埋まっているんだ」
イアンが告げれば、女の子は頬を赤く染めて何度も頷いた。
「おにいさんはこのおにいさんのフィアンセだったのね!」
ませた言葉選びに少しばかり驚きつつ、イアンは「ああ、そうだ」と頷く。女の子は自分の指輪を引っ込めると、うっとりした目で「すてき」と二人を見つめた。
ようやく再起動したらしいアキラが、「悪いな、お嬢ちゃん」と笑う。
「この通り、俺の指は予約済みだ。その指輪は、そうだな……お嬢ちゃんのパパにプレゼントするのが良いと思うぞ?」
「パパ、よろこんでくれる?」
「絶対に喜ぶ」
「アイスクリームをかってくれるかしら?」
「お嬢ちゃんのお腹と相談だが、俺だったら買っちゃうな」
にっこり笑った女の子が、大事そうに指輪を抱えて立ち上がった。
「パパとママのところにいくわ! バイバイ、おにいさん」
走っていく女の子を手を振って見送る。「転ばないようにな~」とその背にアキラが声をかけた。
無事に両親らしき大人と合流したのを見届けて、アキラがイアンを見上げる。
「あんな小さなレディに嫉妬したのか? 俺の可愛い赤ちゃん」
揶揄い混じりに掲げられたその左手の薬指には、イアンの作った花の指輪がはまっている。
「嫌だったか?」
「いいや、嬉しいぜ。この指輪が長持ちしないのが残念なくらいだ」
今は白と緑も鮮やかな花で出来た指輪は、しかしすぐに萎れてしまうことだろう。楽しめるのはほんのわずかな間だけだ。
名残惜しそうに指輪を見つめるアキラの手に、イアンの指先がそっと触れた。
「なら、また作って贈ろう。何度でも」
「気持ちは嬉しいけど、そんなにしょっちゅう摘んでたら流石に花が無くなっちまうよ。それに、花もいつも咲いてるわけじゃないしな」
イアンを宥めるように笑うアキラに、手のひらだけでなく言葉を重ねる。
「この花でなくても、アキラにはデイジーやヒマワリも似合うだろう。花の季節以外は花屋で探すのも良さそうだ。その時に俺がアキラに贈りたいと思った花で指輪を作ろう」
アキラは一瞬言葉に詰まった後、「ヒマワリは流石に大きすぎるだろ? 俺の顔より大きな指輪になるって」と笑った。
その顔が、柔らかく綻ぶ。先程の少女のようにわかりやすくはないが、クリーム色の肌が仄かに赤く染まっていた。
「それじゃあ、俺の薬指はずっとイアンの指輪で埋まってるってわけだ」
「ああ、そうだ」
サングラスの向こうで酷く嬉しそうに目を細め、アキラがそっと指輪の白い花にキスをする。
「まったく、こんなに素敵なプロポーズどこで覚えてきたんだ?」
言われて、イアンははたと気付いた。左手の薬指の占有宣言は、確かにプロポーズと取られてもおかしくはない。
急に意識した所為で、イアンの白い肌が珍しく赤味を帯びた。
「今更恥ずかしくなっちゃったのか? マイダーリン?」
アキラが笑う。その指で白い花が揺れる。
形あるものはいずれ壊れる。花も、プラチナも、ダイヤモンドも。ただ、それまでの時間が短いか長いかだけの差だ。
だから、新しいものを贈り続ける。その時に抱いている気持ちを込めて。そうやって積み重ね、続いていけばいいのだろう。
それは、ささやかな永遠のつくりかた――――
(あとがき)
祝、べったー100本目✨
思えばこのジャンルで最初に書いたのもイアアキでした。そちらは事件物でしかもモブレからという、アキラさんがちょっとかわいそうな話でした。
ということで、今回はひたすらハッピーを詰め込んだイアアキです! 流石に毎日とはいかないでしょうが、きっとイアンなら気になる花を見つける度に指輪を贈ってくれることでしょう☺ 普通の指輪でも結局仕事柄常には着けておけないでしょうから、ある意味このくらいが二人には合っているんじゃないかと思います。可愛らしい指輪を見て、アキアカネ班のみんなも温かな気持ちになるのでは?