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揺り籠

全体公開 TF 93 2209文字
2024-11-17 19:06:51

手慰みに書いたスタメガ短文


──雪が降っている。

動けない機体に降り積もるそれを振り払う余力もない。
すっかり冷え切ってしまった機熱では積もってくる雪を溶かすこともできず、地面に投げ出した手が白く覆われていく様を見つめながらぼんやりと空を見上げる。
敵影は見えないが、代わりに味方の影一つ見えはしない。

護衛もつけず独りで外に出ていた時にクインテッサの偵察船を見つけ、気晴らしに撃ち墜とした。そのまま船内に侵入し生き残りを殺し尽くしていたのだが、最後に足掻かれ船ごと自爆されて、この様だ。
船外に吹き飛ばされ、近くの崖から真っ逆さま。
幸い降り積もった雪がクッションとなり大破は免れたが、爆破をまともに喰らったおかげで動くことが難しい。

循環パイプが損傷したのか、エネルギーの消費量が著しい。視界の端の雪があふれ出るエネルゴンに青く染まっているので、相当な量を失っているのだろう。
エネルギーを失いすぎたからか、それとも回路が逝かれているのか、はたまた寒さのせいか。手足の感覚がまるでない。指先一つ、動かすのにも相当な労力を要してしまう。
試しになんとか手を握ってみようと動かせば、パキパキと薄く張り付いた氷が割れていく音に、ギアが軋む音が重なる。
末端は既に凍り始めて、機能不全に陥りかけているらしい。
救難信号を送りたくても、爆破の衝撃か落下の衝撃か、通信機はノイズしか発さない。発声回路も寒さで凍り付いたのか、出せる音は掠れたノイズばかり。

降り積もる雪は量を増していき、機体が重くなってくる。
酷い雪だ。
風は無いのでまだマシだが、数メートル先も見えなくなってきた。このまま放置していれば、雪に埋もれてしまうのも時間の問題なのだろう。
そうなれば──どうなるのだろう。
軍は、恐らく参謀達がまとめるので暫くは持つだろうが。

オートボットとの抗争は?
メガトロンの不在を悟られたらどうなる?
敵は、オプティマス・プライムはどう動く?
未だ姿を見せるクインテッサの分隊はどうする?

────まあ、いいか。

一瞬沸き上がった怒りも、灯された嚇怒の火も、雪の冷たさを前に消えてしまった。
なんだか考えることにも疲れてきて、思考を放棄して冷たい揺り籠の中で微睡むことにした。
凍える程の寒さの中で、冷たい雪に埋もれているのに、何故だか温もりを感じてしまう。
冷たく突き放されながら、暖かく受け入れられる。
これは、棺なのか、揺り籠なのか。
このまま機能を停止して、雪が溶けるまで眠りにつくのも悪くない。
雪が溶けて、見つかればいいし、見つからなければそれはそれ。
見つからずに雪が溶けたら、その時は、雪と共に溶けて消えてしまえるのだろうか。なんて、くだらないことを考えて。

暖かな雪の中で、意識を落とす。



声が、聞こえた気がした。
積もっていた雪を退かされて、外気に触れた機体が寒さを思い出す。
なんだ、随分早い目覚めだな、と。漸く意識を戻した瞬間引き摺りだされた。

「なーにやってんですか、メガトロン様」
……すたー、すくりーむ」

アイセンサーを起動させ、見上げてみれば航空参謀が呆れた様子で見下ろしていた。
雪は、いつの間にか降りやんでいたらしい。
眠っていたのは、数時間程だろうか。随分と短い冬眠だった。

「だから一人で出歩くなっつってんのに。アンタ、機体白いから雪の中じゃ見つけにくいんですよ。つーかどんだけここで寝てたんだよ。普通雪降ってる中で寝るか? あーあー、機体冷え切って……うわ、燃料漏れてんじゃねぇか! 冷却水凍ったおかげで全部流れなかったのか。あ? ちょっとまて、アンタ不凍液入れてねぇのか!? あーっ! 言わんこっちゃねぇ、ラジエーターぶっ壊れてるしエンジンオーバーヒート寸前じゃねぇか! 雪降っててよかったな!! あーあーあーあー、何処もかしこも凍り付きやがって、これ中身換装しねぇと駄目だろ。良く生きてたな!?」
…………うるさい」

凍り付いたブレインに、スタースクリームの喚き声は響く。顔を顰めて抗議しても、壊れた発声回路は碌に音を出してはくれない。
乱暴な手付きで機体を検分されて、簡易的なリペアを受ける。どうやら思っていたよりも重症らしい。

「とにかく、帰りますよ。アイツらにリペアの準備させてますから」

細身の機体のどこにそんな力があるのか。大型機のメガトロンを抱き上げて、雪をかき分けて歩き出すスタースクリームのされるがまま揺られている。他者の機熱が随分と熱く感じる。
「重い」「冷たい」「歩くのだるい」なんて、ぶつぶつと文句を言いながらもメガトロンを抱く腕は優しい。

…………いつも、俺を見つけるのはお前だな」
「当たり前でしょ。アンタを最初に見つけたのは俺なんだから」

戦場だろうが何処だろうが、いつだってメガトロンを迎えに来るのはスタースクリームだ。今回のように発信機が壊れていても関係ない。
不思議に思って問いかけてみれば、スタースクリームはこちらを見もせずに答える。
代わりに、メガトロンを抱きかかえる腕に僅かに力が入り、決して離さないとでも言いたげに抱き寄せられた。

「何処に行ってようが、必ず俺が見つけてやりますよ。何度でもね」
「──そうか」

この感情をなんと呼ぶのだろうか。
冷え切った機体の中で、スパークだけが仄かに熱を灯した気がした。


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