@azisaitsumuri
別になんでもない日だったように思う。例えば、本日はお日柄も良く、なんてどうでも良い口上を述べるにはぴったりと都合が良い程の。
「おまえ、葬儀の仕方って知ってるか?」
「死体の隠し方ではなく?」
「違う、それならおれが、いやだからそうじゃなくて。」
なんと前振りして良いかと思って、一応考えてはみたけれど、そもそもそんなものの必要性の無さを思い出したように、小男は言った。
「わたしだって自分が死んで自分の葬儀を取り行ったことはありませんけど。」
だから唐突な話題だった。
「ではなんでしょう?」
「おまえに頼みがあって。」
珍しいことだ。向かいの長身の男ならともかく。
「おれの葬儀の取り仕切りはおまえにしてほしくって。」
ちらと上目に向く緑色。
「それはやはり、処理の始末ではなく?」
「心中じゃなくて一応一般的かつ平和的な話をしているんだが。」
こいつわたしと心中するつもりもあるのか、とは言わないでおく。
「……今更ですがそういうの、お国で大きく違いますし、ご家庭にもよりますし」
「今更だな。」
俯いた緑の言う今更は、仮面が言ったそれとは、少し違う気もしたが。
「おまえがいいんだ。」
緑がまた見詰めて来た。
紳士的に、色々考えたつもりだ、今更なことも含めて。
「いいよ。」
緑が瞬いた。
「いいのか。」
「いいですとも。うれしい?」
「うれしい」
緑を芳醇な酒のようだと思った。紳士まで満足感が香る。
「うれしそう。おまえ、わたしがワインケーキを焼いた時にも、そんな顔しなかったくせに。」
「いや美味かったよ。うれしかったし。でもおれ、ワインとか分かるわけじゃないから。」
「なら、死ぬことならその真理をご存知だと?」
「そういうわけじゃないけど。」
小男のほうも、この会話が半分揶揄われているようなものであることを、分かってはいるのだろうが、ぐだぐだと付き合って会話を続けるのは、本人の喜びがその判断を鈍らせているのだろう。
「おまえにワインの良さを問うのが無駄だとは、わたしも分かっていますけど。」
「じゃあなんでケーキ作ってくれたんだよ」
まだ色褪せていない、生きた瞳を見詰める。
「そんなの、普通ワインは生きている間に飲むものだから、でしょ。」
死んだ後もワインが飲めるか知っているわけない。