・告白したら「セフレならいいですけど……」と嫌そうに言われた挙句に「童貞の相手は嫌なので誰かで捨ててからもう一度きてください」と言われてショックを受けるが、それでも嫌いになれずに椒丘とセフレになる話。
・↑の通り椒丘が酷い男なのでそれが平気な人&モゼが商売女に手解きを受けるシーン(2話にしかないです)があるので許容できる人向け。
・過去や設定の捏造・曲解等が多分に含まれます。ご都合主義!
・この話は2.4より数年前くらい。
・2.5後で終わります。最後はちゃんとくっついてハッピーエンドなので気軽に読んでください。多分6〜7話。
@arikanagahisa
こんな夜になる予定じゃなかった。
モゼは返ってきた言葉を信じたくないあまり、椒丘が未知の言語で喋っているのだと思い込もうとした。
しかし彼の言葉は昔から聞き慣れた曜青の言葉で、玉兆を介して翻訳せずとも、すんなり頭に入ってきてしまった。
呆然としているモゼを見つめ返す椒丘の瞳は、今宵、まさに空にある月のように冷たく輝いていた。面倒くさそうに片眉を跳ね上げた表情のまま、「もう一度言いましょうか」と溜息混ざりに椒丘が口を開く。
「好きだと言われても困ります。僕は君のことをそう言う風に見たことがないし、さらに言うなら誰ともそうなるつもりはありません。でも、君が僕と
少し前に言われたのと全く同じ言葉を吐かれ、モゼはもう一度頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。椒丘の表情は珍しく苦々しげに歪んでいて、モゼの告白をはっきりと嫌悪し、失望しているように感じられた。
嫌いだとはっきり断られるよりも、椒丘のその表情になにより傷ついた。そんな顔を向けられる所を今まで想像したことがなかったし、断るにしたって彼ならもっと穏便に断るだろうと思っていた。正直に言えば、椒丘が甘い対応をしてくれることを期待していた。延命してくれるなら、その隙があるのであれば、それにつけ込んで長期戦にもつれ込む予定でいた。
ところが現実は予想だにしない方向に転がって、信じられない選択を強いられている。
恋を諦めるか、体の関係だけでもと許容するか。
「……………………」
モゼは椒丘を見下ろしたまま、何故こんな男を好きになってしまったのかと後悔し始めていた。
お互いに酒が入らないタイミングをわざわざ選んで告白したせいで、言葉の誤解の余地がない。
はっきりとモゼが顔を歪めたことに気づいているだろうに、椒丘はまるで見えていないかのように、「まだわかりませんか? もう一度言ってもいいですよ」と今度は、いつものように、一番見慣れた柔和そうな微笑みを浮かべて口にした。
モゼは無言で首を振り、唇を少噛んで拳を握り込む。椒丘を罵ってやりたい気持ちと、好きな男に酷い言葉を浴びせたくない気持ちでぐちゃぐちゃになっていた。侮辱されている、と瞬間的に怒りが込み上げても彼に手を上げなかったのは、椒丘には避けられないとわかっているからだった。やろうと思えばいつだって力で押さえつけられるし、反対に椒丘だって本気で抵抗するならモゼを燃やすしか無くなる。
そんな決別を望んでいるわけではなかった。
「…………わかった」
モゼは手を握りしめ長く重い溜息をついた。諦めた方がいいことなんて分かりきっているのに、彼に触れずにこのまま一生を終えることになることを思うと、傷ついてもいいから相手をして欲しいと考えてしまった。
そのまま踵を返して消えようとすると、「待ってください」と椒丘が声を上げる。振り向いたモゼの玉兆が、小さく振動した。
「君はきっと知らないでしょうから、比較的ちゃんとした店舗を送っておきました。行くならこの二店舗から選んでください。定期的に性病検査をしているので。ああそれから、相場より少し高いので、はまりすぎないようにしてください」
娼館の座標が送られてきた事実に端末を手から落としそうになりながら、モゼはじっと、何を考えているのかわからない椒丘の顔を見つめた。なんでお前が「ちゃんとしてる」とかそんなこと知ってるんだ、と疑問が頭に上ったが、もしかすると定期検査を担当している医士は椒丘自身なのかもしれない。
モゼは今度こそ無言で椒丘の前から消えると、今夜は、自宅に帰って眠ることにした。
元々今夜はうまくいってもいかなくても、何をする予定もなかったから。
*
梅の香りが微かにする、冬の終わりがけの日だった。
歩離人を狩り尽くして遠征地から曜青へ帰還すると、いつも兵や関係者を集めて簡素な祝賀会をすることになっている。遠征先で食事と医療スタッフの長をやっていた椒丘は祝賀会の料理長も兼ねている。朝から仕込みに奔走していた椒丘は宴席になっても空になった皿を回収して次の料理を出したりとあくせく働いている。
そう言うわけで、普段、夕食の席では酒を嗜むこともある椒丘だが、今夜は酒を一滴も入れていない。皿洗いや片付けは部下にやってもらうので飲んだって構いはしないのだが、酒癖の悪すぎる上司を止める必要があるかもしれないし、他にも飲みすぎてタガの外れた兵士たちを宥めたりする必要があるかもしれないからだ。
「あなたもちょっとは飲んだらいいのに」
「結構です。飛霄将軍はそろそろお酒を控えてください」
「これからが本番でしょ? 皆もそう思うわよね!」
おー! と楽しそうな雄叫びをあげる兵士たちを見回し、椒丘はやれやれと苦笑した。
杯を片手にだる絡みをしてきた上司から酒を取り上げようとしたが、その目論見は失敗した。手は空を切り、上司は酒瓶を片手に部下達と飲み比べに向かってしまう。
「全く、潰れた兵士を帰すのは誰だと思っているやら……」
小さく溜息をつきながら、椒丘は数時間後に大量に発生するであろう、酔い覚ましの茶を求める兵士のために茶を作りにいく。
厨房で湯を沸かし、七輪の上で切れ目をいれた金柑や棗を炙る。焼けた金柑の上に金木犀の花弁を溢し、香りが十分に出てきたら、他の茶葉類と一緒に茶器に移し、熱湯を注ぐ。
蒸らしたものを保温容器に移し替え、再び金柑を炙っていると、「どこに運べばいい?」とモゼが唐突に声をかけてきた。
「おや、君はもう食べないんですか」
先ほど飛霄に絡まれた際、隣で黙々と食事をしていたモゼに尋ねると、「運んだらもう少し食べる」と返ってくる。今回の作戦では、モゼは大した怪我もなく帰還することが多かったが、いつもより少し疲れた顔をしているように椒丘には見えた。それもそうだろう、とちらと窓の外に目を向けた。
曜青では今夜も穏やかに雪が降り続き、むしろ空気が暖かく感じるほどだったが、遠征地では連日のように吹雪いていた。
凍傷の備えも大変だったし、食事や茶、入浴に使う香辛料も予定より随分と使ってしまった。流石にそんなにはいらないのでは……、と難色を示した予算係を説き伏せて、大量の香辛料を持って行っておいてよかった、と心の底から思う。ほら僕の言った通りでしょう、と会計報告の書類を提出した際の、相手の苦い顔を思い出すと少し楽しくなってしまう。
「……………………」
ふふ、と茶を作りながら笑っていると、モゼが不思議そうに視線を送っていることに気がついた。誤魔化すために「味見をしておきますか」とモゼに茶を飲ませると、満足そうに頷いている。あたりにはかすかな甘い香りが漂っていた。
「隣の座敷に置いてきてもらえますか、後で案内をしておきます」
「わかった」
モゼが盆に茶の入った保温容器と杯を持って行く背を見送ると、最後の茶を入れて宴席へ戻る。飲み比べは異常な盛り上がりを見せており、室内は最早熱いくらいだった。椒丘は顔を赤くして寝こけている兵士一人ずつに声をかけ、まだ正気のある若い兵士たち、彼らを少し冷えた隣室で休ませるよう命じる。
黙々と食事に戻っていたモゼの隣でぼんやり飛霄の飲みっぷりを眺めながら、あと二システム時間以内には解散してくれるだろうか、と時計を見ながら考えた。せめて日付が変わった頃には帰って欲しい。
「明日が休みでよかったな」
火鍋に残っていた羊肉ときのこを掬いながら呟いたモゼに、「本当に」と椒丘は溜息をついた。飲みの席で楽しくやってもらうのは勿論構わないが、酒癖の悪すぎる上司がこの後暴れないとも限らない。
「飛霄将軍が暴れたら君が家まで連れ帰ってください」
「今夜は多分大丈夫だろ」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
「なんとなく」
「………………まあ、君も疲れているでしょうし、明日はゆっくりしてください。家に帰るまではお互い頑張りましょう。先に帰ってもいいですよと言いたいところですが」
「問題ない」
飛霄がもし暴れず帰路についたとしても、酔い潰れた兵士を宿舎に帰らせたり、誰かを迎えに来させたりするのは大抵椒丘の役目だった。モゼにはこの「片付け」をいつも手伝ってもらっている。だから、今夜は二人とも酒を飲む暇がなかった。
全て放り出しても誰も責めないような気がしなくもないが、幕僚としては責任感がなさすぎるように思うし、この雪夜に酔っ払った兵士を放置して風邪でも引かれては医士として情けない気もする。
「そろそろ解散になるといいんですけどねえ」
まだ終わりそうにない飲み比べを呆れながら眺めている椒丘の隣で、モゼは興味がなさそうに茶を啜っている。
*
あー飲んだ! おしまい! と上機嫌に宣言した飛霄が無事に帰還するところまで見送ってから、モゼは宴席へ再び戻ってきた。
酔い覚ましの茶を与えられた兵士がふらふらと帰っていったり、若い兵士が酔い潰れた先輩を引きずって行ったりするのを見送る椒丘の代わりに、モゼは廊下やトイレ、はたまた庭で倒れている酔っ払いがいないかどうか見回り、すやすやと気持ちよく眠っていた彼らを容赦なく起こすと、椒丘に引き渡して、茶を飲ませるなりなんなりして家へと帰らせる。
宴席で使われた皿や箸を洗い、室内を清掃するスタッフが仕事を終えるまで、椒丘とモゼは庭の見える窓際の椅子に腰を下ろして待機することにした。
雪の降る窓の向こうとは裏腹に、窓際でも室内は暖かい。庭には梅の木が植えられていて、枝に白く雪を積もらせながら、赤い蕾が見えている。今年は冬が長いと椒丘が嘆いていたことを思い出した。
ようやく一息をついたはずの椒丘は、椅子から立ったり座ったりしてため息をついている。それは落ち着かないからではなく、腰が痛いからだと知っていた。朝から忙しなく動いていたし、連日の寒さで随分と痛めたのだろう。
「横になったらいいんじゃないか」
「そうしたいのは山々ですが、起き上がれなくなりそうなんですよ」
「別にお前を抱えるくらいわけもない」
家まで運ぶ、とモゼが真面目に言うと、冗談を聞いたように椒丘が笑う。冗談じゃない、と思いつつも、楽しそうなのでいいか、とモゼは特に言葉を返さなかった。
「腰でなければお願いしたかもしれませんね」
あたた、と腰をさする椒丘を見ながら、モゼは「手伝ってくる」と椅子から腰を上げた。
「まあまあ、君の綺麗好きはわかっていますし手伝ったほうが早く終わると思いますが、彼らが萎縮してしまうので我慢してください」
そう言われ、確かに今日も宴席で何度かヒッ、と声を上げて逃げていった兵士がいたことを思い出した。俺が滅多に顔を見せないからってそんなに驚くことだろうか? と不思議に思ったが、椒丘の言う通り、怯えられてしまうのなら待っていた方がいいだろう。
ぼんやりしていると、椒丘が薬袋から丹薬を取り出して飲んでいるのが見えた。しばらくしてから椅子に大人しく座れるようになったところを見るに、痛み止めのようだった。
疲れたようにぐったりしている椒丘を見ながら、その顔も綺麗だな、と考えないようにしていたことをついに考えてしまった。室内の橙色の照明に照らされた白い頬も、薄い桃色の髪も綺麗だったし、疲れたように溜息をつく口許も綺麗だった。こめかみに指を置いて頭痛を堪えるように目を閉じている表情が悩ましく思えて、今夜の宴席では馬鹿な輩が沸かなくてよかった、といつぞやのことを思い出した。
『先生、結婚してください!』
『申し出はありがたいのですが、僕は飛霄将軍のお守りが忙しいので……』
『そうねえ、あたしより偉くなったら椒丘をあげてもいいわよ』
『あなたが偉くなくなっても、僕が主治医であることに変わりはありませんよ』
『それもそうね。じゃああたしを倒したらチャンスがあるかも!』
飲みの席で、時々そんな風に、酔った兵士や若い医士が椒丘にアプローチされているのを見ることがある。
酔っ払いの戯言だといつだって適当にあしらっているので焦りを感じることはないのだが、遭遇するたびに気にはなるし、大抵、不躾に椒丘の両手を掴でいたりするので不愉快だった。変人に惚れる物好きが出た、と酒の肴にされているのも色んな意味でモゼには不愉快だった。
勿論触ってくる輩は容赦なく火傷させているらしいが、どういうわけかそれでも接触を試みる輩はゼロにはならない。人前ではなく一人になった時にそんなことをしてくる輩はぴしゃりと冷たく拒絶しているし、椒丘が燃やすよりも素早く乱暴な手段に出られる輩もそうそういないので大事になってはいないが。
そんなことを考えていると、「モゼ」と椒丘が手招きする。
椅子から立ち上がってそばに行こうとすれば、「椅子ごと来てください」と言われるので、言われた通りに向かった。
座り直して言葉を待っていると、「手を出してください」と言いながら、椒丘が右手を持っていってしまう。
「……痛い」
「老廃物が溜まってるみたいですね」
ぎゅっぎゅ、と両手で手をマッサージしてくる椒丘の指の強さに文句をこぼすと、ふむふむ、と興味深そうに椒丘の手が今度は肘まで上がってくる。時々、こんな風にマッサージをしてくれる時があるが、待つのが暇すぎてやる気になったらしかった。
前腕をさすられたり、ぎゅっと握ったりするのを黙って見ているうちに、なんとなく腕が温かくなってきたような気がした。
「はい左手」
言われるままに反対の手を出し、同じように揉まれていると、「左の方が凝りが強いですね」と椒丘が呟く。モゼにはよくわからなかったが、椒丘が言うのならきっとそうなのだろう。暖かな手が触れているのが気持ちよかったし、楽しそうにマッサージをする椒丘の表情がやっぱり綺麗で少しドキドキした。椒丘の服から先ほど炙っていた金柑と金木犀の香りがし、モゼの鼻先をくすぐっている。
そんなにいい匂いを、無防備にさせないで欲しい。こんな風に椒丘が自分からマッサージをする相手を、モゼは飛霄と自分以外に知らない。その事実に気づくたびに、酒も飲んでいないのに顔が熱くなるような感覚がした。
「ま、こんなものでしょう。特に心配していませんが、しばらくお風呂にゆっくり浸かってくださいね」
椒丘の手が離れて行くのが嫌で、その手を掴んだ。
「モゼ?」
きょとん、と首を傾げた椒丘の顔を見て、いよいよ、帰り道、二人にきりになってから言おうとしていた言葉を、今どうしても言いたくなってしまった。
「好きだ」
びく、と震えた手が逃げ出そうとするのを逆に引き、モゼは椒丘の顔を見つめた。驚きに見開かれた金の瞳が月のように綺麗で、思わず見惚れてしまう。
「今すぐじゃなくていい。いつか俺と、」
続きを口にしようとしたが、言葉は放たれず、椒丘の羽扇で塞がれる。手を振り解いた椒丘の拒絶に驚いていると、はぁ、と嫌そうなため息が落ちた。
さっきまでの微笑みを消した椒丘が、心底疲れたように「やめてください」と一言もらした。あまりにくたびれた声で、モゼは普段はあまり感じない見目麗しいままのこの男との歳の差を急に感じて困惑した。
《あの、掃除が終わったので確認してもらってもいいでしょうか……》
戸の向こうから、控えめに声がかけられるのが聞こえた。椒丘は「今行きます」と答えながら、モゼに「余計なことを言わないでください」とでも言うように視線を送って部屋を出て行く。
その背を追い、清掃を確認して全員で会場を後にするまで、椒丘は何事もなかったかのように振る舞っていた。
流されてしまったのだろうか? とモゼは椒丘と二人で帰路に着きながら、ふと足を止める。雪が降り続く静かな夜道を、椒丘が片手に下げている灯りが照らしている。
足を止めたモゼに、椒丘も察したように足を止める。
「さっきの、」
「やめてください、と言いましたよね?」
椒丘の硬く冷たい声は、過去、自分には殆ど向けられたことのないものだった。それほど嫌だったか、と困惑するモゼに向き直った椒丘の表情はどこか落ち込んでいるように見えたが、なぜそんな顔をするのかがモゼにはわからなかった。
「君のそれは、ようは僕と寝たいってことですか?」
「な、」
唐突に、半分は侮蔑を含むような声で言われ、動揺した。違うと反射で言い返さなかったのは、そのつもりが全くないとはモゼには言えなかったからだ。
椒丘のことが好きだと自覚したのはもう随分と昔のことで、数年経っても想いが変わらなければいつか好きだと伝えたいと思っていた。子どもの相手はしてくれないだろうからと成人するまでは我慢したし、成人してから数年も椒丘にまだ子どもだと思われているような気がしたから、この歳まで言わずにいた。嫌われてはいないし、気安い関係になっているし、今なら相手として考えてくれるかもしれないと思えたのはつい最近のことだったけれど、そう思った瞬間からずっと、椒丘にいつか触りたいと意識ばかりしていたのは事実だった。
細い腰を抱き寄せてみたかったし、艶やかな髪を撫でてみたかった。笑ってばかりの可愛い目許に触れて、愛らしい耳にキスをしてみたかった。艶やかで毛並みの豊かな尻尾に触れるのは許してくれないかもしれないけれど、ブラッシングならきっと大丈夫だろう。今だって年に一回くらいはさせてくれてるのだから、断られる理由が思いつかない。香辛料の香りが微かにする肌に顔を埋めて直接熱を感じてみたかったし、白くて優しい手に意味もなく触れてみたかった。
モゼが視線を彷徨わせていると、あのですね、と椒丘が頭痛を耐えるようなら声を出した。
「好きだと言われても困ります。僕は君のことをそう言う風に見たことがないし、さらに言うなら誰ともそうなるつもりはありません。でも、君が僕と
何を言われたのか、よくわからなかった。
そもそも、勿論性欲を抱いていること自体は否定できないにしても、したかったから好きだと言ったわけではなかったのに、性欲解消で声をかけたのだと思われているらしいことにはっきりと傷ついた。
「別に、したかったから言ったわけじゃ……」
「今はそうかもしれませんが、そのうちしたくなるんじゃないですか? 君が潔癖で他人と触れ合えないと言うのならそうかもしれませんが、そうではないでしょう」
「……………………」
こんな夜になる予定じゃなかった、とモゼはヒリヒリと痛む胸を無意識に押さえながら、椒丘を見下ろしていた。
「一度経験しても目が醒めなかったら、その時は相手をしてあげてもいいですよ。大したことじゃないってわからない人とは面倒なので」
こんなことになるなら、こんな風にこの男を好きになりたくなかった。