@178yuuru
最近、ネロの欲求が激しい。やたらと、私のことを求めてくる。
私が限界なのをいくら訴えても、聞く耳持たず、己の欲望のままに動いて、果てる。
(一体、どうしたものかしら……)
私は一人、ソファーに腰掛けて温かい紅茶を飲みながら、昨夜のことを思い出していた。
ズキズキと痛む、太ももの付け根辺りに気を向けながら。
「はぁ……」
ここ最近、ずっとため息をついている。
ネロに抱かれるのは嫌ではないが、さすがに体力の限界というものがあった。
嫌なら断ればいいということはもちろん分かってはいるが、どこか寂しげで苦しそうな表情を浮かべたネロに求められてしまうと、どうも断れない。
ネロ自身に何かあったのだろうか。
一回だけ、ネロに聞いたことがあった。だけど、彼は何も言わずに唇を噛み締めて首を横に振るだけ。
そんな様子の彼を見て、何もない訳ないと思った。だけど、これ以上聞いても答えてくれないと分かっていた私は、その日以降何も聞こうとはしなかった。
ネロが求めて来たらそれに応えて、身を委ねる日々。正直、そんな日々が少し苦痛になっていた。
だけど、そんなことを思う自分を責めてしまい、ネロに申し訳なくなる。
ネロが誰よりも私のことを大切にしてくれているのは、分かっているはずなのに。
「……っぅぅ」
分からない。ネロが分からない。
心も身体もごちゃごちゃ。
さすがにもう、一人で抱え込むのは限界だった。
私は、溢れ出してきた涙を拭いながらソファーからゆっくり立ち上がると、電話が置いてある場所へと向かった。
(……いるかしら?)
電話番号が書いてあるメモ帳を見ながら、私は震える指先でダイヤルを回した。
rrrrr……
『“Devil May Cry”』
ワンコール目で、相手は受話器を取った。
そう。私が電話をかけた相手は、ダンテさんだった。
「あ、こんにちは……」
『ん?その声は……嬢ちゃんかい?ネロ坊や
の』
「あ、はい!あの、すみません突然……」
『いや、別に大丈夫さ。丁度暇してたんだ。ところで、坊やはどうした?』
「はい、あの……ネロは今日、依頼でいないんです。一泊、少し遠い街に泊まりがけで……」
『なるほどなぁ。一泊とはいえ、少し寂しいな』
「……そうですね」
寂しいどころか、今はネロがいないことに安心している私は、自分でも分かるくらい暗い声色でそう答えてしまった。
『?嬢ちゃん、どうしたんだ』
そんな私の様子を察したのか、ダンテさんはそう尋ねてきた。
「……」
『何かあったのか?』
「……」
『ネロとのことで何かあったから、俺に電話してきたんだろ?』
ダンテさんにそう言われ、私は感情を抑えきれなくなってしまい、次から次へと涙が溢れてきた。
「っぅ……すみません……」
『大丈夫かい?ゆっくりでいいから、話してくれるか?』
「……ぅぅっ、私……ネロが……」
『……』
「ネロが……分からなくて……!最近……っ、ネロがおかしくて……私……私……!ぅぅ……」
『……嬢ちゃん、今、家にいるよな?』
「……はい」
『今からそっち行くから、少し待っててくれ』
そう言ってダンテさんは、慌てた様子で電話を切った。
「ぇ……ダンテさん?」
ダンテさんが言ったことに唖然としながら私は受話器を元の場所に戻すと、再びリビングのソファーへと腰をかけにいった。
「今から来るって……」
あの方の行動力は計り知れないなと思いながら、私はダンテさんに差し出す紅茶とお茶菓子の用意をし始めた。
***
それから、一時間経った頃だった。呼び鈴の音が聞こえ、私は玄関へと向かった。
「あ、ダンテさん……」
玄関の扉を開けると、そこには先ほど電話で話した相手、ダンテさんがいた。
「ずいぶん、早いですね。ダンテさんの事務所ってフォルトゥナから近いんですか?」
「いや、そういうわけじゃないが、ちょっと空飛んでダッシュで向かえばあっという間さ」
ダンテさんの言うことに私は首を傾げつつ、彼を家の中に上がらせると、リビングへと案内をした。
「こちらにお掛けになって下さい。今、紅茶とお茶菓子用意しますね」
「ありがとう。突然押しかけたのに、気を遣ってもらってすまないな」
「いえ。元はと言えば、私が……」
私はそれ以上、言葉が出てこなかった。これ以上話したら、涙が溢れ出しそうになるからだった。
私は黙々と紅茶とお茶菓子の用意をし、ダンテさんが腰を掛けているソファーの前のテーブルへと並べた。
「お、美味そうなクッキーだな。嬢ちゃんが作ったのかい?」
「はい。明日ネロが帰ってくるので、疲れを癒すためにも食べてもらおうかなって……」
私はそう言いながら、ダンテさんの隣にゆっくりと腰を掛けた。その瞬間、頬を一筋の涙が伝った。
「……大丈夫かい?」
その涙を、ダンテさんが指先で拭ってくれた。
「……はい。すみません……」
「早速だが、ネロのこと、話してくれるか?」
「……」
「……」
私は軽く深呼吸をしたあと、重たくなった口を開いていった。
「ネロが……最近おかしいんです」
「……おかしい?」
「はい……。普段というか、日中はいつもと変わらないのですが、夜になると豹変するというか……。毎晩毎晩、強引に私を求めてくるというか……」
「……」
「ネロのことは誰よりも好きです。だけど……っ、身体が痛い……辛い……っ」
「……」
「ネロのことが……怖いって……ぅぅ、思ってしまって……そんなことを思う自分が嫌で……!」
「……」
「ネロこと、本当に大好きなんです……!だからこそ、ここ最近の彼との時間が苦痛になっているのが耐えられなくて……」
「……」
「私、どうすればいか分からなくて……!ネロのことも、自分自身のことも……!っぅぅ……」
そこまで言うと、私は顔を両手で覆って声を上げながら泣き出してしまった。
そんな私の様子とは逆に、ダンテさんは冷静な雰囲気を漂わせていた。
「……なるほどな。単に、年頃で盛ってるってわけじゃなさそうだな」
「っぅう……」
「話してくれてありがとう、嬢ちゃん。こんなデリケートな話、男の俺なんかに」
ダンテさんはそう言うと、私の肩を軽く叩いた。
「俺たちみたいに半分悪魔の血が流れているような人間は、精神が不安定になると悪魔の血が強く騒いでしまい、荒れ狂ったりしてしまうことがあるんだ。俺も、ネロくらいの時はそうなりそうなことがあった。アイツの中で何かに苦しみ、悪魔の血が暴れ出したってところだろう」
「悪魔の血が……」
「あぁ。それも、夜になると尚更酷くなるんだ。悪魔は、暗闇を好むからな」
「……」
確かに、そんな気がした。明るいうちは、普段と何も変わらないが、辺りが暗くなるにつれ、ネロの様子が徐々におかしくなっていた。
夕食の時間は一言も喋らず、黙々と食べるだけ。寝る時間になると虚ろな表情を浮かべ、光を失った瞳で私を見つめながら求めてくる。
「ネロは、悪魔になってしまうんでしょうか。心も、身体も……」
私は涙を拭いながら顔を上げると、ダンテさんに尋ねた。
自分でも分かるくらい、物凄く不安な表情をダンテさんに向けたが、そんな私の様子とは逆に、ダンテさんは優しい笑みを浮かべていた。
「大丈夫さ。アイツの心の闇を取り除いてあげれば、元のネロに戻る。必ずな」
そう言うと、ダンテさんは私の頭を優しく撫でた。温かい、大きな手で。
「ネロの心の闇を取り除く、その役目は俺が引き受けるよ。同じスパーダの血を引いた者の責任だからな」
「ダンテさん……」
「だから、あとは俺に任せてくれ。嬢ちゃんはネロの帰りを待つ、それだけでいい」
「……」
「ということで嬢ちゃん、ネロの依頼場所を教えてくれるか?」
ダンテさんにそう言われ、私はメモ用紙にネロの依頼場所を書くと、それを彼に手渡した。
「OK。ありがとう」
「ダンテさん、お願いします。ネロのこと……」
「あぁ、任してくれ」
そのあとは、テーブルに並んだお菓子と紅茶を二人で味わい、他愛もない話をしながら過ごした。
短い時間だったけど、心が軽くなった気がする。ダンテさん、彼はどうしてこんなにも、頼りになる存在なのだろうか。
ダンテさんを玄関まで見送ったあと、私は再びソファーへと腰を掛けて、紅茶を飲んでひと休みしていた。
(きっと、大丈夫……)
また二人一緒に、心から愛を感じ合えるようになる。
ネロのことを想いながら、ダンテさんのことを信じながら、泣き疲れてしまった私はソファーへと横になり、そのまま眠りに落ちていった。
to be continued……