第16回トワスト、テーマ「強さと弱さ」参加作品です。制作時間は約55分です。
@xxxyueyunxxx
その日は冷たい風の吹きすさぶ日であった。
「見てよ、ジェフ。今日はこの湖も凍りついているよ。珍しい光景だね」
ランフォードが静まり返った湖面を指差すと、隣に立つジェフが軽く笑う。
「確かに珍しいか。魔界の水が凍るのは、限られた場所だけだ」
「この世界は面白いよね。こういうところは、やはりとても好ましいよ」
「――そんなに面白いと感じるなら、この世界をものにするか、ラン?」
にやりと笑ってジェフがランフォードの方を向いた。口元は笑っているが、その鋭いシトリンの瞳は全然笑っていない。
「冗談じゃないよ、ジェフ。私が望むのはこの世界とともに繁栄すること――あくまで共存だよ」
堂々とランフォードはジェフの瞳を見返す。ふたりの視線が交差し――しばしするとふっとジェフの瞳が、細められた。
「その答えを聞いて安心した。お前は、あくまでお前だ」
「私は一度も考えを変えたことは無いよ。生まれてこの方、ここを我が物顔に支配したいと思ったことは、一度もないからね」
「そうか。……お前は、強いのだな……」
視線を逸らすと、ジェフは凍りついた湖の方に向き直った。丁度吹いてきた強い風にその見事な金髪が乱され、表情を隠す。
「俺様、最初から今の考えでは無かったからな……」
一歩ジェフは、湖の方へと足を進める。更に、もう一歩。ちらりと見えた横顔から見えたのは――絶望の色に染まった瞳。
もう一歩踏み出そうとしたところで、ランフォードはジェフの細い手首を掴んだ。ぐっと、力を込めて。
「――行かせないよ、ジェフ」
「……ラン……」
ジェフが振り返る。どこか痛そうな顔をしている友を、ランフォードは躊躇わず抱き寄せた。
「今の考えになったのが最近でも、いいんだよ。絶対中立で、誰かに頭を下げるのではなく、対等のまま、誰とも争わない。それは私には考えつかなかった、強い道だ。きっと他の長にも選べない、道だろう」
どうやらジェフがその考えになった背景に、何かあったようだが。――もしかしたら、何かあったのはこんな寒い季節だったのかも知れない。最近になって気付いたが、こういう季節に出会うジェフには、どこか不安定なところがあるから。
――強くて弱い、私の大切な友よ。君は君で、そのままで良いのだよ。君は悪いことをしたと思っているようだけれど、きっと本当は悪いことなんて、何もしていないのだろうから――。
ランフォードにされるがままになっていたジェフだったが、遠慮がちにランフォードの身体にその細い腕を回してきた。そしてランフォードの肩に、顔を軽く伏せる。――そうしていたいなら、いくらでもしたらいい。黒と金が混じり合うままに、強い風の中、ふたりはじっとそのまま黙って立ち尽くしていた。
風の音しか聞こえない。互いのぬくもりしか、感じない。――それはつかの間の、優しい休息。
「……悪かったな」
しばしすると、ジェフは顔を上げて身体をそっと離した。
「何がだね? 君は何も悪いことなんてしていないよ」
風に乱された艷やかな長い黒髪をなおしながら、ランフォードはジェフの方を見やる。その横顔には、さっき見えた絶望の色は、見えない。
「ねえ、ジェフ。少しこの氷を踏んでみないかね?」
「断る。お前だけ好きにしてくればいい。お前もいろいろ学んだなら、俺様の運動神経の情報は入ってきているだろう」
「それでもね。私は君といろいろ一緒にしてみたいのだよ」
小さなため息と、仕方ないなという声が聞こえる。
「――少しだけだぞ」
「勿論だよ。では、少し行ってみようかね」
ランフォードとジェフは手を取り合うと、氷に一歩足を踏み出す。見た目は鏡面のように澄みわったていた氷だったが、足を踏み出すとヒビが入ってきた。
「わわっ」
氷の下に確かにあった冷たい水に足がつくことは無かった。ランフォードが足をとられそうになった瞬間、ジェフが隠していた黒い翼を広げて、飛んだからだ。
「ありがとう、ジェフ」
「全く。足元にはもう少し気をつけるんだな」
だから俺様、こういうことはしたくなかったんだ――ぶつぶつというジェフに、ランフォードは無邪気に笑いかける。
返ってきた笑みは鮮やかで、その顔は普段通りの友のものであった。