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寒いから、あたたかい

全体公開 了遊 5 1653文字
2024-11-30 22:53:03

こちらは12/1開催webオンリー【Lucky card! Final】無配DL小説と同内容のものです。
了遊(つきあってる)の掌編です。

Posted by @d9_bond

 寒い日だった。
 よく晴れていたが冬の弱々しい陽射しではちっとも空気は温まらず、その陽も早々に沈んでしまった。了見が遊作の部屋へ顔を出したのは夕方と呼べる時刻だったが辺りはすっかり暗くなっている。
 遊作の部屋に入った了見は少しだけ眉を寄せた。
 寒い。
「急に来るなんて珍しいな」
 部屋の隅に置いていたイスとテーブルを引っ張り出す遊作を手伝いながら、そういえばそうだと了見は思い返した。付き合うようになってから会うとなるとたいてい外で落ち合うか、了見が自宅へ呼ぶかだ。
「近くに用があったついでだ」
 促されるままイスへ腰を下ろし、室内を見回す。部屋の隅に古びたエアコンが張り付いてたが、運転ランプが点灯しているのを認めて更に眉が寄る。
「今日は出かけていたのか?」
「いや、学校が終わってからは家の中だ」
 外は寒かったし、などという。風がない分暖かいかもしれないが、正直室温としてはかなり低く感じる。
「それで急にうちに来るなんてどうしたんだ?」
……これを」
 紙袋を差し出す。中を覗いて遊作は、ぱっと顔を明るくした。
「お前が抱えている課題に役立ちそうな資料があった」
「この前の話を覚えていてくれたのか。今まさに苦戦していた所だ、ありがとう」
 目を細めて遊作はパソコンデスクにそっと本を置いた。
「それはそうと、あのエアコンは動いているのか?」
「建付けが悪いから温まりにくいんだ」
「それにしても寒いようだが」
「空調が古いから、あまり設定温度をあげると暑くなりすぎて頭がぼんやりする。このくらいがちょうどいい」
 遊作は了見の前に立った。
「寒いようならコーヒーでも淹れよう」
「いや──」
 顔を見たかっただけだからと行きかけた遊作の手を取った了見は、その冷たさに目を見開いた。
 思わず両手で握って引き戻す。
「どうした?」
……
 冷たいその白い手を握りなおし、そっとさする。遊作は寒さに強いようで今の室温で問題ないと考えているようだがどうなのか。当の遊作は急に手を握られて驚いてはいたが、「了見は案外体温高いんだな」などと述べている。お前が冷えているだけだ。
 どうしたものかと考えながら手のひらで指先を温める。
「了見?」
 首を傾げ、窺うように身をかがめる遊作をじっと見返す。
 近づいた頬を両手で包み込むようにして触れてみると、頬は手先ほど冷えてはいない。芯から冷えているということはなさそうだ。
 手を滑らせてそっと耳を包み、耳の形をなぞり、耳たぶをさする。
「ちょ──了見、何を」
 指先と同じく耳も冷えているが、単純に末端だからだろうか。耳たぶの柔らかさが指先に心地よく、考えながらふにふにと指先で弄ぶ。
 さすがに我慢できなくなったようで、遊作は了見の手首を軽くつかんで止めさせた。体を起こす。
「さっきから何の真似だ」
「冷えているのか確かめただけだが」
「大丈夫だ。おまえが寒がりなんだ」
 とんだ言いがかりである。了見は大げさに眉を寄せてみせてから、ふと思いついて立ち上がった。
 遊作の顎をつまんで持ち上げる。やはりされるがまま、疑問符を浮かべてこちらを見上げる遊作の無防備な首筋に触れる。
「──ひゃうっ⁈」
「なるほど、ここは温かいな」
 了見の指先は冷たくはなかっただろうが、首のやわらかな皮膚に不意打ちで滑らせた指先はインパクトがあったらしい。
 やめさせようとした手を顎から離した手で捕まえて、遠慮なくもう片方の手でくすぐってやる。
「こら、ひきょう──っふふ」
 くすぐったがって遊作が笑い出す。その隙を逃さず了見は遊作の身体を抱き寄せ、包み込むようにして抱きしめた。
 首元に顔を埋める。
……まあ、暖房がなくともお前で充分だな」
「調子に乗るな」
 遊作は笑いの残った声で言いながらも、そっとその背中に手を回す。
 ひやりとした空気の中、触れあう部分がじわじわと温かくなっていく。その幸福さに了見もまた小さな笑みをこぼした。

 


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