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【1月新刊サンプル】なないろぐらし

全体公開 1 3082文字
2024-12-08 18:36:45

1/12の超異譚レナトス2025冬で頒布予定の乱太本のサンプルです。ページ最後に部数アンケートがあります。
A6/表紙込60p/500円
ページ数と頒布額は仮のものです。

紆余曲折を経て平和に同棲しているn年後のお付き合い済み乱太の短編集です。518%のひだまりとお砂糖とその他なにか素敵なもので出来ています。


【禁】
当サークルの頒布物をメルカリやMIKEMIKEを含むフリマアプリやオークションへの出品することをを禁じます。ご不要の際は専門の古物取扱業者や同人誌対応のリサイク業者へお預け頂くか、中身が見えないようにしてお住まいの自治体の定める方法で処分してください。


短編12本のうち3本をサンプルにピックアップしています。
内容は編集中のものでです。多少の変更が入る可能性があります。





 冷蔵庫の甘いもののはなし
 
 
 この家の冷蔵庫を覗くと、必ず何かしらの甘いものが入っている。その中から【太宰】と書かれたチョコケーキを選ぶ。先日乱歩さんが、私が好きそうだからと買ってきてくれたものだ。なんと、最寄りのコンビニで買える新商品である。
 今日は乱歩さんは出勤で、対する私は休みで家に一人。つまり大変暇だった。本を読む気分でもないし、理由もなく出掛けるほどの行動力は持ち合わせていない。
 何をするでもなくぼんやり過ごすうちにおやつの時間になって、なんとなく冷蔵庫を確認したというわけである。
 探偵社にはおやつの時間が毎日あって、すっかりそのリズムが身体に馴染んでしまったのか、休日でも十五時になるとおやつでも食べようかなと気になってしまうのだ。お陰で入社してからちょっと太った。乱歩さんに言わせるとまだまだであるらしいけれど。
 もしかしてヘンゼルとグレーテルの魔女のように、私を頭から食べてしまうおつもりなのかも。なんて考えて、もう既に食べられているのだったと思い直す。ちょっと恥ずかしい。
 ともあれ、名前の書いてあるプラスティックの蓋を外して、これまたプラスティックのフォークをチョコケーキに差し込んだ。確か有名チョコブランドのパティシエ監修のスイーツだったと記憶している。
 ひとくち食べれば濃厚なチョコのコクとまろやかな甘さが口いっぱいに広がった。スポンジもしっとりしていて美味しい。機会があればまた食べたいなと思うくらいには気に入って、さすが乱歩さんが選んだものだなと感心する。紅茶も淹れたら良かったかな。でも今から淹れるのは面倒だな、なんて考えながら食べ進めれば、コンビニの小さなスイーツはあっという間になくなってしまった。
 問題提起。この家では、冷蔵庫の甘いものは食べたら各自で補充するのがルールだ。新しく甘いものを買いにコンビニへ行く必要が出てきた。これを疎かにするわけにはいかない。
 そうと決まれば私の行動は早かった。財布を持って玄関を出る。鍵はもちろんちゃんと締める。乱歩さんの住む家に、私の不注意で泥棒なんかが入ってはいけないからね。


 最近はあちらこちらにコンビニが出来るお陰で、奥まった住宅街であっても少し歩けばチェーン店の恩恵に預かることができる。程なく歩くとコンビニへ着いた。特有の入店音に出迎えられ自動ドアをくぐり、真っ直ぐ甘いものが並ぶ一角へ脚を運んだ。お気に入りのプリンを見つけて自分用にカゴへと入れる。
 順番に見ていると、以前乱歩さんが美味しいと言っていた白い鯛焼きが置いてあった。これにしようかな。ついでにぷらぷら店内をうろついて、目についたアイスを二つ追加でカゴに入れる。お会計の時にレジ前に置いてあった焼き菓子も買うことにした。コンビニってついつい余計なものまで買ってしまうのだよね。私も乱歩さんも甘いものを好むから、どんなにあっても困らないし。咎める人間はそもそも存在しないのである。


 家に帰ると早速、白い鯛焼きのパッケージにマジックで【乱歩さん】と書いた。一緒に買ったプリンと冷蔵庫へしまっておく。アイスと焼き菓子は食べたい人が食べる用なので名前は不要だ。
 コンビニへ行ってちょっとした買い物をしたことで、なんとなく何かを成し遂げた気になった。自分にこんな単純さがあったことが不思議で、でも悪い気分ではない。一人でふふっと笑う。乱歩さんが帰ってくるまで本を読むことにしよう。





 了






 特別なクリームソーダのはなし
 
 
「ドーゾ、召し上がれ」
 透き通ったみどりいろのクリームソーダを太宰の前に置いてやる。すると嬉しそうに表情をほころばせる。こどもみたいな無邪気な顔を目にすれば、胸の奥がぽかぽかとあたたかくなる。
 一緒に過ごすようになって随分改善したけど、太宰は本質的に食べることに興味がない。でも、誰かと一緒に食べるのは好きらしく僕や探偵社の誰かがいればそれなりに真面な食事をさせることが可能だ。
 そんな太宰が時々リクエストするのが、僕が作ったクリームソーダだった。かき氷のシロップを炭酸水で割っただけのシンプルなやつ。乗せるアイスは太宰が作った方がまんまるで綺麗なんだけど、太宰がよろこぶので僕がやる。だからちょっと不格好だ。
 リクエストするのに炭酸はあまり得意じゃなくて、今だってぱちぱちと弾ける炭酸をストローでちまちま飲んでいる。一度微炭酸で作ったら、なんとも言いにくそうな微妙な顔をしたので以後普通の炭酸水を使っている。
「乱歩さんのクリームソーダがいっとう好きです」
 アイスのシャリシャリした部分をすくって太宰がかわいくわらう。この子の好きなものに、僕が作ったものが含まれるのがすごく嬉しい。太宰の笑顔を前にすると、僕はいつだってぱちぱち弾けるような心地になるのだ。





 了






 電話のはなし
 
 
 固定電話が着信を告げて鳴る。すると、炬燵を囲んでいた太宰がもそもそと這い出て受話器を上げた。
「はい、江戸川です」
 他ならぬ太宰の声がそう紡ぐたび、僕の口許は耐えかねてにんまりにやにやしてしまう。もう何度も聞いているのにこれだから、たぶん一生にやつくと思う。
 探偵社からだったみたいで、太宰が幾つか指示を出し始めた。僕と太宰は探偵社のブレインだ。それが揃って休むのは、実のところあんまり良くない。理屈はわかる。でも、だからってコイビト同士が示し合わせて休めないなんて非道が許されるわけがないだろ。もし許されるって言うならそんな世界は滅びるべきである。
 携帯端末があるのだから固定電話っていらないかな、とも思ったんだけどあったらあったで使うのものだ。携帯端末に掛かってきたら気付かないこともあるしね。
 最初の頃は詐欺の電話なんかも掛かってきたんだけど、ある日暇を持て余した太宰が面白がって相手を追い詰め個人情報を特定した挙げ句詐欺の仕掛け人を泣かせてからはなくなった。平和でよろしい。
 そうこうしているうちに電話を終えて太宰がいそいそと炬燵へ潜り込んだ。
「やっぱりいいね」
「?」
「江戸川です、ってさ」
 指摘すると太宰がほわっと頬を染めた。対応しているときはなんでもない顔をしているのに、改めて言われると照れるらしい。かわいい奴め。
「家主は乱歩さんですし」
「それはそうだけど、考えてもみてよ。僕がお前の代わりに電話出て、『太宰です』って答えたらどう?」
「それは……、すごくイイですね」
「だろ?」
 試しに今度太宰の前でやってみようかな。どんな反応をするか楽しみである。



 了


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