ピクスク様の『クリスマス UNIVERSE 同人誌 オールジャンル』に参加の1作目です。
両片思い期のドラヒナ前提で、みっぴきがクリスマスケーキを食べるお話。
『サンタさんは、いつまで信じてた?』がテーマになります。
悪の権化、カズサ兄が目立ってますね。
他の本編ドラヒナ(両片思い期)のお話は、こちらから読めます→https://privatter.net/category/50955
@kw42431393
『おい、ヒナイチ。サンタさんに頼むもの、決めたか?』
『え~っとね、ケーキ!まるくて、おっきなケーキがいい!』
『ケーキだと?前日、家族で食べるだろ?』
『だから、もうひとつ!おきてから、たべるんだ。』
何歳の時だったかな…10歳頃だった気がする。
クリスマス前の、よくある子供の会話。
毎年、父も母も仕事で忙しかったから、兄がいつもプレゼントを用意してくれていたんだと思う。
『いちごがのってて、クリームもたっぷりのケーキがいい!』
『分かった。靴下に入れると弱ってしまうから、冷蔵庫に入れてくれる様に頼んでおこう。』
そう言って、兄は、ぐしゃぐしゃと私の頭をかき回してくれたっけ。
イブの夜は、ワクワクして布団に入ったんだ…朝起きて、一番に台所に飛び出したものだ。
『やった~、わたしだけのケーキだぞ!いただきます!』
「…子供の頃から、そうだったのかね。君らしい。」
「ヌンヌン。」
「まったく、一人でホールケーキ食うか?普通。」
呆れた顔で笑う、ドラルクの手元を見る。
そこには、彼が焼いてくれた、最高に美味しいホールケーキが見える。
ナイフで、ちゃんと3等分してくれて…
「これこれ。そんなに見つめなくても、ケーキは逃げないよ。それに…。」
そこで、彼はクスッと笑う。
「ちゃんと3等分してあげるから、安心して、待ってなさい。」
図星なので、つい横を向く。
分かっている。数字や物を数える事に執着する吸血鬼は、こういう事にはキッチリしている。
下手に定規や量りを使うよりも、正確な事も知っている。
でも、仕方ないだろう…弱肉強食のヒマラヤでは、僅かな違いが命取りなんだ。
「そこまで言うかよ。仮にも、兄貴だろ。」
「ヌー…。」
「分かってないな、ロナルドは。あの時だって…。」
『あ~!!にいさん、たいへんだ!ケーキが、半分しかない!』
開けたら、ホールケーキの半分は、なかったんだ。正確には、180度どころか190度分ぐらいなかった。
折角、サンタさんが、私にくれたケーキだったのに。
『ん?サンタさんが、めちゃくちゃ頑張っている、エリートのお兄ちゃんに半分あげよう、って言ってくれたんでな。だから、半分は俺が食った。美味かったぞ。』
『はんぶんじゃない!すくないじゃないか!うえ~ん!!』
楽しみで、1年間いい子にしていたんだ。鍛錬だって、手を抜かなかったし、お皿洗いや廊下の掃除だって…だから、辛かったな。
『そう泣くな、妹よ。お前も俺の様にエリートになって、大勢の市民を守ったら、大人になってもサンタさんからプレゼントが貰えるんだ。明日からも、鍛錬に励めよ。』
『本当か?本当だな!!』
『本当だとも。この兄が、嘘を言った事があるか?』
はっきり言って、これまでも嘘しか言ってなかった気がするが…純粋だった幼い私は、まるっと信じた。
その翌年も、一年間、私は鍛錬も家の手伝いも励んだ。
そして、クリスマス前のある晩に…
『なあ、兄さん。今年は、クッキーがいい。』
『クッキーがいいのか?分かった。伝えておく。』
11歳ともなれば、少しは知恵もつく。
クッキーなら、靴下に入れられる。だから、サンタさんに言うつもりだったんだ。
兄には、別にあげてくれ。これは、私のだ…って。
とはいえ、高学年ともなると、クラスでもサンタを信じない者が出始める。
あれは、両親が置いてくれるんだぞ…と、信じている者は、笑われる。
私か?まだ、信じてたぞ?その時までは…
『来たな!!クッキードロボー…もとい、兄さん!』
『おっと!!ハハハ!惜しかったな、ヒナイ…痛った!!』
サンタクロース…靴下にクッキーを入れに来た兄の脛を、思いっきり蹴飛ばしたのだ。
正直、サンタさんが入れてくれたケーキを、夜中に兄が盗み食いしたのだと思っていたのだ。
だから、その年はクッキーにした。
クッキーなら、常温でも問題ない。靴下に入れられる。
『ぬぉぉ…成長したな。兄を罠にかけるとは…。』
『ふん!天罰覿面。さてと…。』
靴下から、クッキーの袋を取り出して、中身を確認する。
どこかの有名店で買ったらしいクッキーは、もう既に、半分以上食べられていた。
「それから、サンタは信じてない。だから、食べられる前に、隠し場所を把握していたものだ。」
「いや、まぁ…お前の兄貴もどうかと思うけどよ。そこそこ?う~ん、まぁ、面倒見てくれたんじゃないか。」
「そこは、感謝してるぞ。でも、それとこれとは、別だ。」
「ヌー…。」
そういえば、ロナルドの所はどうだったのだろう。
彼は両親を早くに亡くし、学校に通いながら伝説的な退治人となった、兄に育てられたのだと聞く。おそらく、兄がプレゼントを置いてくれていたのだろう。
「何、言ってんだ?サンタは、ちゃんといるぜ。ガキの頃に会った事が…って、何だ、その顔は!冗談だよ、冗談。さすがに、もう兄貴だって知ってるよ。」
咳払いをしながら、そっぽを向く彼に苦笑する。
切り分けたケーキを渡そうとしたドラルクも、ケーキを食べようとしていたジョンも、一瞬、ポカンとした顔をしていた。私もそうだが彼ならば…と、一瞬思ったのだろう。
「高校までだよ。半田と、サンタはどんな顔か言い合いになってな。おれは、銀髪で青い目の、優しい若い男だと言ったら、向こうは、深淵から白い歯だけが不気味に光る中年の男だって言うんだ。『ここで、見た事は…決して、誰にも言ってはいけないよ』って、脅されたんだと。」
あぁ、それは言わなくても分かるな。半田の場合は、強面の親御さんだったのだろう。
「その場で、カメ谷に言われて、サンタの正体を知った訳だ。夢は壊れたけど、兄貴への憧憬はもっと深まっちまってさ。」
そう言って、ロナルドは、照れ臭そうに頬を掻く。
だからかもしれない…昼間、新横浜ハイボールで行われたクリスマスイベントで、子供達にもみくちゃにされながら、お菓子を配る彼の顔は、とても優しいものだった。
巨大化したりビームを打てるという、彼の兄がそうだったように…彼も、いつか誰かと結ばれて父親となったなら…優しいサンタになるのだろう。
兄にも、見習って欲しかったな…
「これこれ、吸い込まないの。ここは、ヒマラヤではないよ?」
トンッと、柔らかくおでこを突かれて、我に返る。
目の前に並べられたケーキは、もう半分なかった。本能的に、吸い込んでしまったらしい。
「あ、すまん。つい…。」
改めて、フォークに刺したケーキを口に運ぼうとすると、マニキュアに彩られた手が伸びて来た。
ボンヤリと、その手を目で追うと…
「そうだ、ヒナイチくん。今年から、またサンタを信じてもいいよ。お兄さんが言った様に、君は多くの市民を守っている、(元)エリート。だから、一生懸命頑張っている君は、大人になってからもプレゼントを貰っていいんだよ?」
そっと、口元のクリームを拭われる。
今ではすっかり見慣れた、気障な仕草で…そのまま、掬われた髪にキスが落ちる。
「ドラルク…?」
「フフ。今晩は床下の出入り口に、靴下を置いておくれ。来年もその来年も…ずっと、ずっとその先も、私が…。」
「ちん、ドラルク?それって…それって!!」
つまり、その言葉が意味する内容は…
「これから…クリスマスも、お前のクッキーが食べられるという事だな!?」
あの頃のワクワクした想いが、胸に湧いてくる。嬉しくて、髪を弄っている彼の手を握る。
手を取られた彼は、諦めた様にため息をついていた。
「本当だな?約束だぞ?」
「…うん、勿論だとも。お嬢さん。」
彼と指切りすると、私は改めて、目の前のケーキを口に運ぶ。
ゆっくりと味わって、ここの一員になれた幸せを噛みしめる。
『監視に励めよ』と、目を瞑ってくれた悪の権化に感謝しながら…今夜も、美味しいケーキと、この幸せを飲み込んだ。
オマケ
「美味しかった。ごちそうさま。」
『おいおい、ドラ公。何も、伝わってなくね?』
『ヌヌヌヌヌヌ…。』
『いいんだよ。今は、まだ。このままで。』
だから、気づかなかったんだ。彼が、何故そう言ってくれたのか。
その意味に、私が気づくまで…それからも、結構かかっていたと思う。
「どうしたんだ?私が、何か?」
「あ~、だからよ。」
「シャラップ!!いいの、いいの。さ、昼の子は寝る時間だよ。靴下を忘れないでね。」
その時のドラルクを見る、ロナルドとジョンの目が、妙に同情している様に見えた理由にも…。
ドラルクが、どこか寂しそうな顔をしている理由にも…
「ああ、楽しみにしてるぞ!!」
そう。その時の私は、何一つ気づかずに…床下で『二本角のサンタさん』が来るのを信じて…
「じゃあ、また今夜な!おやすみなさい!!」
…私は、その日も幸せな眠りについたんだ。