月光モノドラマ

@tkaruno
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2015-11-04 02:54:49


#GR版深夜の真剣60分一本勝負/20151031お題『素晴らしきヒィッツカラルド』

大遅刻な上、内容がほとんどありません…が、どうしても書きたかった!
お題レッドの時の『赤夜蒼月』と同じような感じですが、仕様です。読み比べてもらえると嬉しいですw



 風一つない、静かな夜であった。
 そろそろ秋も終わりいよいよ本格的な冬がやって来ようとしている。そんな折、夜は一足先に寒さを増す日々が続いていたが、今夜は比較的穏やかだ。空に浮かぶ満月もどこか輪郭が丸みを帯びており、その穏やかさに見張りの兵士達も思わず欠伸をかみ殺す。
 咄嗟に顔を見合わせた二人が小さく苦笑いした。彼らは決して無能では無かったがまだ年若く経験も浅い。歩哨としての役目にも緊張感が足りなかった。もっとも、この施設は地理的にも外部の人間が入り込む事はまずありえなかったし、過去に侵入者を許した事もない。こんな穏やかな夜に少々気が緩んだとしても仕方がなかったのかもしれない。

 どこからともなく、歌が聞こえた。

 オールデイズの軽いダンスナンバーは歌詞こそ聞き取れなかったが、口ずさんでいる本人がかなり上機嫌なのはわかる。兵士達が振り向くと、建物沿いにこちらへ歩いてくる人影が見えた。だがちょうどそれは建物の影に重なってしまっており、明るい月光の下にあってもはっきりとした顔が見えない。
 それでも兵士達は困った様に肩を竦めて口の端を緩めた。交代の歩哨がやって来たものの、自分達と同じく、いや、自分たち以上にお気楽な奴がやって来たのだろう。その程度の認識だったのだ。
 その油断が彼等の命運を分けた。否、結果は決まっていた。その時間がほんの僅か、長くなったか短くなったかだけで。
「雑兵諸君、実にいい夜だね?」
 歌が止まり、呼びかける声と同時に悠々と近づいてきた影を建物の壁に遮られていた月が照らす。兵士達はその時初めてその上機嫌な男が自分達の“敵”である事を認識したが、時は既に遅かった。
 月の光と同じアイボリーのスーツに身を包んだヒィッツカラルドは、屈強な兵士達が即座に銃を構えても全く動じなかった。それどころか余裕の笑みを浮かべ、まるでギャルソンを呼ぶような仕草で軽く右手の指を弾いて見せたのだ。
 次の瞬間、兵士達の視界が真っ二つに割れた。
 一瞬で周囲に夜目にも赤黒い鮮血と生臭い鉄錆の臭いが立ち込めたが、風が無かったおかげでそれが広がる事はなく、兵士達から距離を置いていたヒィッツカラルドには靴の先にすらその飛沫が届く事はなかった。磨き上げられた上等な革靴が汚れなかった事に満足したらしいヒィッツカラルドはますます機嫌良さそうに口角を上げ、
「実にいい夜だ。風も無く穏やかで、月も美しい」
 そう呟き、先刻まで口ずさんでいた歌の続きを歌いながら歩き出す。
「楽しい仕事ができそうだな」



   風一つない、静かな夜であった。
   ただそれは一人の死神が踊る前の幕間に過ぎなかったが。





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